「M-SPOT」Vol.053「洋楽っぽさ、日本っぽさ…ってどういうもの?」

音楽を語る説明や比喩に「洋楽っぽい」という表現があるが、そもそもその洋楽っぽさという言葉がもつ意味も、時代や個人個人の振れ幅が大きいようだ。
そもそも日本の音楽は、海外のリスナーからは面白い反応を受けることもある。そこには時代性やネット文化から寄せられてきた価値観の変異もあるのではないか。そんな話の題材となったのは、GeTOの「充Den中」という作品だ。コメンテーターはTuneCore Japanの堀巧馬と野邊拓実、そして進行役は烏丸哲也(BARKS)である。
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──今回紹介したい楽曲は、GeTOというアーティストの「充Den中」です。プロフィールによると「洋楽的な美学を軸に、日本語ならではの響きやリズム感覚を融合」とのこと。まずは聴いていただけますか?
──とてもかっこいいですけど、このカッコよさって洋楽のエッセンスではなく極めて現代的なJ-POP~J-ROCKの系譜に思えるんですが、どういう印象を持ちました?もしジャスティン・ビーバーが日本人として生まれたらこんな感じかな?って気もしましたが。
野邊拓実(TuneCore Japan):正直、かなり日本っぽいなって思いました。そもそも「洋楽っぽさ」ってマジで曖昧な言葉なので、洋楽の影響を示したいのであれば、プロフィールや紹介文にピンポイントで示したほうがいいんじゃないかって思うんですよね。だって「洋楽」って言ってもめちゃくちゃ広いじゃないですか。
──そうですね。ありとあらゆる音楽のルーツがありますから。
野邊拓実(TuneCore Japan):言い方は悪いんですけど「洋楽っぽい」って言われても意味がない。例えば「UKガレージっぽい」みたいな言い方であれば「多分○○のオマージュかな」みたいなところまでなんとなくわかったりもして、そういう「洋楽的な美意識」みたいなものはプロフィールで語ってもらったほうが説得力や理解が進むと思うんです。もうちょっと具体的に言ってくれた方が、わかりやすいんでいいんじゃないかな。
──本人の美意識がどこにあるのかを知ることで、作品への理解度も進みますからね。

野邊拓実(TuneCore Japan):「充Den中」という曲からは、日本でガラパゴスしていったような純日本的な音楽ではない、海外に影響を受けて音を作っている人たちの文脈にある音作りを感じます。そもそもリフがありながらも、自然な流れで終止感を持つような和声の解を見せる機能和声をみると「結構邦楽っぽいな」って感じることも多いので。
──どういうことですか?
野邊拓実(TuneCore Japan):和声を(ドミナントに)解決をさせてしまうと、なんかすごくJ-POP的になるなと感じるんです。特に歌から作って歌メロに合わせて和声をつけようと思うと、結構最後に解決するようなコードに落ち着きがちになる。逆にリフだったり和声から作ってそこにメロディを乗せるような作り方になると、調性ではなく最後解決しないような作り方…トーナリティーに対するモダリティーなんて言われますけど、モードを中心に作ることで、そのJ-POP感みたいなものが薄れる感じがするなって思うんです。
──ええ。
野邊拓実(TuneCore Japan):そういう意味では、「充Den中」はあんまり調声感を感じさせないような作りになっていると思うので、そういう意味では確かにちょっと洋楽っぽいというか「言いたいことはそういうところかな」ってなんとなく思ったんですけど。
──例えば「洋楽っぽい」という印象を「持つ」「持たない」も、洋楽に対する知識量しだいなところがありますよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。そういう意味でも、やっぱり洋楽って広すぎるなって思っちゃう。洋楽って言われて、それこそジャスティン・ビーバーとか思い浮かべる人もいれば、世代によってはレッド・ツッペリンとか最近のEDMとかフューチャー・ベースみたいなところを思い浮かべる人もいるので。
──説明文ひとつで聴かれ方が変わるかもしれない。
野邊拓実(TuneCore Japan):ただ「洋楽的な美学」という6文字だけに僕らが反応しすぎってだけかも(笑)。本人は別にそこまで考えてなくて、洋楽好きですってだけな気もする。
──ですね。逆に、欧米の人に「J-POPらしさとは何か」と問うと、なんと答えるんでしょう。
野邊拓実(TuneCore Japan):僕らが「日本っぽいじゃん」って思った要素にも直結する話だと思うんですけど、ひとつは「メロディーの音数の多さ」かなと思います。日本語って、メロディーに対して音の数が多いなって思うんですよね。特にボカロ以降はそれが顕著で、当時のボーカロイドってロングトーンが苦手なツールだったので、メロディーを動かすことが特徴のひとつになっていった。そういった文化に影響を受けた世代のミュージシャン達による「メロディーをすごく動かしてメロディアスにする」みたいなメロディー感って、すごく日本っぽさのひとつだなって思ます。それがkawaii系の文脈と合致したりアニメ的なポップスやナードコア的なポップスの文脈とも合致したりして、個性が際立っていったと思います。東京モード学園のCMとかで使われているタイプの楽曲の感じ、みたいな。そういうのは日本っぽさだなって感じます。
──米津玄師の作品にも、そういうDNAを感じますね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。米津玄師もかなりバランスいいですけどね。洋楽っぽい部分と日本っぽい部分のメロディー感の使い分けを感じます。
堀巧馬(TuneCore Japan):日本の音楽に対する海外のリアクターの動画を見ると、刺さる場所が全然違うんですよ。彼らに共通しているのは、メロの多さ、音数の多さに対する反応なんですね。日本語の音楽って1音に1音節の言葉を乗せるので、ひとつの言葉に対してメロディがめっちゃ変わるんです。例えば「アイ・ラブ・ユー」は日本語なら6音節ありますけど、英語の「I love you」は1音節扱い。それくらい日本の楽曲って音節が多くて「ローラーコースターみたい」って言われる。
野邊拓実(TuneCore Japan):ハイパーポップの流れにもつながりますね。どんどん音数が増えて、同時に鳴る音の種類も増えていったりすると、1秒間になるメロディーの数が増える。そういう傾向は2000年代後半ぐらいから流行ってきているもので、Y2Kの流れと同じタイミングぐらいかなって思います。2000年代に描かれた未来感みたいなものをベースに、ハイパーポップとかナードコアあたりとの愛称の良さからすごいガシャガシャした情報過多みたいな感覚があります。逆にこれからはもうちょっとオーガニック寄りだったりミニマル寄りなところに帰っていくようにも感じているんだけど。
──確かに「充Den中」の紹介文を見ると、「ボカロ」「エレクトロ」「ハウスのグルーヴ」「バンドサウンドの熱量」「ジャンルを横断したポップス」「瞬発力」「中毒性のあるフレーズ」「ネットカルチャー由来の速度感」「言葉の密度」といったキーワードがそのまま出てきますね。これらのキーワードって、それっぽい曲を作るプロンプト集になっちゃってる(笑)。
野邊拓実(TuneCore Japan):確かに(笑)。もうひとつの文脈としてTikTokの影響があると思います。飽きさせない工夫とか、楽曲のどこを切り取ってもサビとして聴こえるような、1曲の動画から6個ぐらいのショート動画が作れるみたいなTikTokアルゴリズムへの最適化っていうのも、コロナ禍ぐらいから激化しましたよね。こっちのけんと「はいよろこんで」とか、どこを切り取ってもショート動画で使えるような曲の作り方をされていて、あれはめちゃくちゃ技術だなって思っていますね。
野邊拓実(TuneCore Japan):コロナ禍ってみんなが家にこもっていて、インターネットもめちゃくちゃ見てた時期で、かつすごい閉塞感・停滞感があって、刺激がすごい足りてなかった。緊急事態宣言中の時期とそのアルゴリズム最適化との刺激の多さが全部合わさって、今のこの今っぽさみたいなものはできていると思っているので、ここは本当に現代だなって思います。
堀巧馬(TuneCore Japan):生きてきた地域とその時代の雰囲気に音楽性って影響されるので、今の時代は、それこそイソイソしているじゃないですか。ゆったりした楽曲って生まれづらい世の中だと思うんですよ。それは日本とか洋楽とか関係なくイソイソしてる。
──イソイソ(笑)。
堀巧馬(TuneCore Japan):とりあえずBPMがどんどん速くなっていく、みたいな。「どこを切り取ってもサビっぽい」「印象の残るフレーズがある」…そういうのをどれだけぶち込めるかみたいな音楽の構成になっているから、インターネットを介して洋楽も日本語も世の中的にどんどん寄っていっている感じはするんです。
──ショート動画による拡散が最大の宣伝力であるならば、いかに自分たちの魅力を数秒の中に詰め込むかという戦略を取る。であれば、自ずとそういう音楽に寄っていくのも必然なのか。
堀巧馬(TuneCore Japan):時代を意識した音楽を作って、ネットの中でどうすれば埋もれないかという戦略を持つ場合もあると思うんですけど、でも生き残るためのプロモーション戦略ではない気もする。どちらかというと「情報をどれだけ入れられるか」という行為自体が生活に根付いている気がするんですよ。だから、もう無意識にもそういう曲が出来上がってくんじゃないかなって。だから、狙ってなくてもショート動画が当たり前のように出てくる。1日の中で情報をどれだけ詰め込むかっていうのが、生活の中で体系化しすぎていて、音楽を作る上でもなんか物足りなさを感じちゃうですよね。
──確かに、Instagramに画像をあげるにしても、1枚に色んな情報が詰め込まれているかも。もはや無意識レベルで。
野邊拓実(TuneCore Japan):アーティストはかっこいいと思う感性で音楽を作っていますけど、結局その感性がどこから来てるかを考えると、時代性というのはありますね。逆にそこが意識できていないとアルゴリズムにも乗れない。もちろん時代のアルゴリズムに乗ってない事…今の時代にブルース一本で生きるみたいな姿勢も超かっこいいですけどね。
──時代性を考えると、情報量過多のイソイソした今の音楽が古臭く感じる時も来るのかもしれない。
堀巧馬(TuneCore Japan):ありそうですね。
──フィジカル時代は、時代が音楽トレンドを牽引していたので、世代によって音楽の趣向がセグメントされがちでしたけど、サブスクになって全音楽が等しくアーカイブされる状態になったので、音楽トレンドの起こり方も潮流の動き方も全く変わりそうですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):SNSやショート動画のように、外部要因によって時代性や音楽性が規定されていることもあるので、情報の流れ方やその型に注目することで、これからの音楽ってどうなるのかみたいなところが考えやすくなるのかもしれないですね。
GeTO
GeTO(ゲト)は、近年のSNS発カルチャーの潮流を汲み取りながら、独自の哲学的視点をポップミュージックへ差し込むアーティストである。洋楽的な美学を軸に、日本語ならではの響きやリズム感覚を融合させ、現代的でありながら、どこか日本的な近代性を帯びたサウンドを描く。 ボカロやエレクトロの質感を入口に、ハウスのグルーヴやバンドサウンドの熱量を重ねることで、ジャンルを横断したポップスを形作っている。 耳を掴む瞬発力と中毒性のあるフレーズ設計を武器に、ネットカルチャー由来の速度感と、言葉の密度を併せ持つ表現を提示する。
https://www.tunecore.co.jp/artists/ologetoolo
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.







