【ライブレポート】Ken Yokoyama、<JURASSIC SOUNDS TOUR>完遂「フェスでやらないんだったらどこでやるんだ? ライブハウスでやるんだよ!」

8月21日の長崎公演を皮切りに全国9ヵ所を回る<JURASSIC SOUNDS TOUR>が、途中、横山健(G, Vo)が体調を崩しながらも、9月17日の東京・渋谷Spotify O-EASTで無事ツアーファイナルを迎えた。
1公演も飛ばさなかったことからハードなツアーになったことは想像に難くない。後述するように、その間、横山はいろいろ思うところがあったようだが、結果、ファイナル公演は体調の回復も含め、さまざまなことから解き放たれ、いつにも増して、まじりっけなしに音楽を楽しむ一方で、ステージに立てる歓びを改めて噛みしめながらの熱演となった。
全公演がツーマンライブだった今回のツアーを「対バンもさ、古い友達から初めて会う奴らまでいろいろいておもしろかった」と横山は振り返ったが、ファイナル公演の対バンは、まさにこの日、横山とは初対面となる39degreesだった。
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バンドウナオト(G, Vo)、クリハラコウキ(B, Vo)、コージ(Dr, Cho)からなる東京町田の3ピースメロディックバンドは、「いつもそんなことしてくれないのに! 今日はすげえ応援してくれてる!」と観客の熱烈な歓迎に若干面食らいながら、いきなり観客にモッシュさせた「The Climb」をはじめ、代表曲の数々を披露した。英語で歌う、まさに正調メロディックパンクはリードとハーモニーを曲ごとに入れ替えながら、巧みに掛け合うバンドウとクリハラのツインボーカルと、そこにコージが加えるコーラスも聴きどころだ。
また、2ビートだけにこだわらず、8ビートでエモいメロディーを聴かせる「Decide」のような曲をレパートリーに持っているところも彼らの魅力の一つだろう。8ビートが跳ねる「My Folks Anthem」は、3人でシンガロングしながら、3連のバラードになるエンディングのアレンジが心憎い。
「俺達、本当にKen Yokoyama世代だから出られてうれしい。想像できることはいつか叶うっていう言葉を支えにやってきたんですけど、時には想像しなかったことも叶うんだから、バンドってめちゃくちゃおもしろい。想像もしてなかったことだから、めっちゃうれしいです。これが俺達の“Punk Rock Dream”だ。食らってくれ!」──バンドウ
「15年、バンドって楽しいと思ってやってきたら、こんなことになりました!」──クリハラ
バンドウとクリハラがそれぞれに感激を言葉にしながら、最後はダメ押しするように2ビートの「Rise Again」で観客にモッシュダイブさせると、もう1曲、時間が巻いているからと、躊躇することなく「azalea」をたたみかけ、歴戦のライブバンドだからこそのガッツを見せつけるように30分の熱演を締めくくったのだった。
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そして、健さんコールと鳴りやまない手拍子──満員の観客の熱烈な歓迎の中、オンステージしたKen Yokoyamaの4人はバックライトにシルエットを浮かび上がらせながら無言のまま「Summer of ‘99」になだれこむと、「My Shoes」「Parasites」、NOFXの「Stickin’ In My Eyes」と一気にたたみかけ、その間、モッシュダイブはもちろん、シンガロングの声を上げつづける観客とともに、えっ、もうクライマックスと見まがうほど大きな熱狂を作り上げていった。
無事リカバリーした横山はもちろん、高速のクランチリフを刻む南英紀(G)、フレーズをグルービーにうねらせるJun Gray(B)、2ビートも8ビートも巧みに操る松本“EKKUN”英二(Dr)──すでに8ヵ所を回ってきたバンドの演奏もキレキレだ。しかし、ライブはまだ序盤も序盤。




「今回のツアーはレコ発じゃないから、古い曲とか、新しい曲とかごっちゃでやるからさ。昔から俺のことを追っかけてくれてる人も、最近知った人も、その真ん中の人もみんな楽しめるから。楽しんでってくれ!」──横山健
横山の言葉に客席がどよめいたことは言うまでもない。この日、Ken Yokoyamaが演奏した新旧の、メロディックパンクというたった一言で括るには意外に振り幅のある全21曲は記事の下にあるセットリストを参照していただきたいが、前述の「Stickin’ In My Eyes」をはじめ、各地、選曲を変えながら披露した『The Golden Age Of Punk Rock』からの曲が同アルバムのツアーを経て、Ken Yokoyamaのレパートリーとして、観客の反応も含め、すっかり馴染んでいたことはうれしい驚きだった。
「このツアーはけっこうみんなに助けられました。体調不良があって、声が出なかったとき、お客さんが歌ってくれて、こっぱずかしいんだけど、助けてもらった気がしてさ。もう治って、今日は調子いいんだけど、もうこれまでかと思って、落ち込んだこともあった。でも、ステージに戻って、みんなに歌ってもらえると、助けられてるんだなって思うよ」──横山健
横山がそんな話をしたからでもあるまいが、時代を行ったり来たりしながら、「最近あんまりやっていない曲を久しぶりにやるよ」と紹介した「Go With The Flow」をはじめ、いつの時代の曲を演奏しても、バンドの演奏と阿吽の呼吸でシンガロングできるんだから、観客ひとりひとりの体に、そして、彼ら彼女らの人生の深いところにまでKen Yokoyamaの曲が染みこんでいることがわかるではないか。

「さすが地元東京。すごいな」と、そんな観客の反応を目の当たりにして、横山もうれしそうだ。
観客のリクエストに応え、「代わりに次の曲は飛ばすよ(笑)」と言いながら演奏したのは、セットリストに入っていなかった「I Go Alone Again」。横山がコードをかき鳴らしながら歌い始めると、早速、観客がシンガロングする。なんだ、聴きたかったんじゃなくて、歌いたかったんじゃないか。横山が歌うのをやめ、観客のシンガロングだけを響かせたところにバンドインして、EKKUNが竜巻かせた2ビートともに、バンドの演奏は急加速。最後は横山とJunのジャンプでキメるそのカッコよさと言ったらない。
マイクをフロアに投げ入れ、観客のシンガロングとともにKen Yokoyamaのライブに欠かせない光景を作り出した「I Won’t Turn Off My Radio」や「Punk Rock Dream」ももちろん、この日のハイライトだったと思うが、この日の「I Go Alone Again」のように予定になかったところから見どころが生まれてしまうのがライブならではだろう。そういう場面が多ければ多いほど、そのライブは特別なものになる。Ken Yokoyamaが求めているのは、それなのかもしれない。ちなみに、その「I Go Alone Again」は次のツアーの切り札にしようと考えていたそうだが、この日、演奏してしまったため、「別のことを考えなきゃ」と横山は苦笑い。

「このツアーは古い曲や新しい曲や、いろいろな曲をとっかえひっかえやったセトリもそうなんだけど、対バンもさ、古い友達から初めて会う奴らまで、いろいろいておもしろかった。(体調不良で)途中でやめようと思ったけど、いや、やめたくはないよ。でも、ちょっとだけよぎったのも確かでさ。そんなことも初めてで。でも、最終日、ステージに立ててすげえうれしいです」──横山健
そんなふうにツアーを振り返った横山に客席から「ありがとう!」という声が飛ぶ。それに対して、「いや、ありがとうと言いたいのは俺達だよ」と返した横山が続けた語った言葉もある意味、この日の聴きどころだったと思う。
「でも、ありがとうと言ってもらえると、何よりも励みになるよ。若い時は、ありがとうなんて気持ちもなくてさ。まあ、今でもそういう気持ちはあるよ。俺達はイーブンだしさ、勝手に見に来てんだろくらいに思ってたけど、この歳になると、平日に1,400人も1,500人も来てくれるのかって不思議に思うんだよ。当たり前のことじゃないんだって、この歳になって気づかされた。本当にありがとう。いくらパンクだ何だって言ったってさ、生意気言ってりゃいいだけじゃないんだよな。若い時はそう思ってたし、実際、生意気だったけど(笑)、この現実を目の前にして、ありがとうが出ない奴はパンクでも何でもないと思う。俺達、みんなが来てくれなかったら、ただの変わったおじさんだもん(笑)。せいぜい輝けるのがここなんだよ。そんな場所を与えてくれてありがとうございます。今日は弱気なことを言ったけど、やれるところまでやるよ。だから、一緒に行こうとか気持ち悪いことは言わないけど、また、こういった景色の中で目を合わせられたらいいな!」──横山健

大きな拍手を送る観客に対して「もう1曲やったら帰るよ」と言った横山に、「もう帰るの?」と南が尋ねたのは、明らかにパスだったのだろう。
「いや、俺はいいんだけど、明日、EKKUNが(FACTのツアーで)大阪に行かないといけないから(笑)」と答えた横山に「おいっ!」とEKKUNが突っ込むという一連のやり取りで観客を笑わせてから、「明日、大阪に行く人がいたらEKKUNのことをよろしく頼むぜ」と横山が言ってから弾き始めたコードに観客が色めき立ち、横山と一緒に歌い始めた。“Before I knew it I couldn’t go back So far, so good……”。
まさか「Walk」を聴けるとは思わなかったが、そこで最高潮に達したと思えた観客の興奮をさらに煽ったのが……いや、せっかくだから「大事な曲をやり忘れてたよ」というあまりにも心憎い前フリの言葉から記しておこう。
「最近フェスなんかではやってない曲をやるよ。フェスで「Radio〜」とか「Punk Rock Dream」とか(代表曲と言える曲は)やってないんだぜ。ちょっと違ったことをやりたいと思ってさ。次の曲もフェスでは全然やらない。フェスでやらないんだったらどこでやるんだ? ライブハウスでやるんだよ!」──横山健

ある意味、核心を突いた横山の言葉に観客が快哉を叫ぶ。前掲の横山の発言中の「せいぜい輝けるのがここなんだよ」の「ここ」というのはステージのことなのだと思っていたが、もしかしたらステージも含めたライブハウスのことなのかもしれない。
「俺が1-2-3って言ったら、何て言うんだ!?」と横山が問いかけると、「I’m a beliver」と観客が大きな声で歌ってみせる。
「さすがだぜ、渋谷。仕上がってんな。これなら一発で入れるかもしれないぞ。声がでかかったら、南ちゃんがイントロを弾いてくれるから。でも、声が小さかったら、そこでライブはおしまいだ。行くぞ。1-2-3!」──横山健
いつもは盛り上げるためにダメ出ししながら何度か繰り返すのだが、この日は、観客のシンガロングによほど気迫が感じられたのだろう。間髪を入れずに南がイントロのリフを刻み、そのまま「Believer」になだれこんだ。その瞬間の何もかもがひとつになる感覚がそこにいる全員の体を貫いた。いや、少なくとも俺はそう思ったのだが、震えたね。ライブでもう何度も耳にしてきた曲を聴き、そんな感覚を味わえるなんて、これこそがライブの醍醐味なのだろう。

「もう1曲やろうか」──横山健
2時間に及ぶ熱演を締めくくったのは、「My One Wish」に負けないくらいハートウォーミングなメロディーに乗せ、“It’s gonna be OK”と語りかけるように歌う「These Magic Words」。冒頭から横山と一緒に観客がシンガロングする光景は、Ken Yokoyamaのライブではもうすっかりお馴染みだ。
「大丈夫だよ。きっと大丈夫だ。大丈夫にして、また東京で会おう!」──横山健
最後、横山がそんなふうに語りかけたあと、思わず胸がいっぱいになるようなちょっとしたサプライズがあったのだが、それも含め、見どころがありすぎるライブだった。
Ken Yokoyamaのライブはおもしろい。コロナ禍以降からずっと思っているその思いは、この日、さらに強いものになった。この日のライブ中、横山は年内にもう1本、ツアー(11月7日から仙台、新潟、東京を回る<Family Combo Tour>)を開催することを発表した。12月4日のツアーファイナルの会場は、またSpotify O-EASTだ。さあ、今度はどんなライブを見せてくれるのか。今から大いに期待している。
取材・文◎山口智男
■<Ken Yokoyama「JURASSIC SOUNDS TOUR」>2025年9月17日(水)@東京・渋谷Spotify O-EASTセットリスト
【39degrees】
01 The Climb
02 Simplesteps
03 Heartrending
04 at peep of the day
05 Fragments
06 It’s my fault for believing you
07 Clues is your beside
08 Decide
09 Daydream
10 Ery
11 My Folks Anthem
12 Rise Again
13 azalea
【Ken Yokoyama】
01 Summer Of ’99
02 My Shoes
03 Parasites
04 Stickin’ In My Eye
05 Empty Promises
06 Forever Yours
07 4Wheels 9Lives
08 I Can’t Smile At Everyone
09 That Girl
10 I Go Alone Again
11 RAIDEN GO
12 International You Day
13 MAY16
14 Go With The Flow
15 I Won’t Turn Off My Radio
16 My One Wish
17 Ten Years From Now
18 Punk Rock Dream
19 WALK
20 Believer
21 These Magic Words

■<Ken Yokoyama pre「Family Combo Tour」>
11月17日(月) 宮城・仙台Rensa
11月19日(水) 新潟・新潟LOTS
12月04日(木) 東京・渋谷Spotify O-EAST
関連リンク
◆Ken Yokoyama オフィシャルサイト
◆横山健 オフィシャルTwitter
◆横山健 オフィシャルInstagram
◆PIZZA OF DEATH オフィシャルサイト







