マニック・ストリート・プリーチャーズ、『ジャーナル・フォー・プレイグ・ラヴァーズ』を語る[後編]
しかし、さまざまな面でリッチーが参加した最後のアルバム『The Holy Bible』(1994年)の続編ともみられるこのアルバムだが、フロントマンのジェームス・ディーン・ブラッドフィールドの見解は違う。
リッチーの詞に対する思いを語ってくれたジェームスが、インタビュー後半ではレコーディングの様子、作品全体について解き明かした。
◆前編より続き
──レコーディングはどこで行なわれたのでしょうか?

──プロデューサーにスティーヴ・アルビニを選んだ理由は?
ジェームス:リッチーがまだいるときに、スティーヴ・アルビニと組もうかって話をしてたんだ。リッチーはピクシーズのアルバムや、アルビニのバンドBig Blackが好きだったからね。ニルヴァーナの『In Utero』も好きだったし。だから、前にも話してたんだよ。彼もこの選択には賛成するだろうって思った。詞が先導するアルバムにしたかったんだ。誰かほかの人が作って欲しいと思うようなもの、ファンが望んでいるようなものを作らないってことだった。自分を喜ばせようなんてことも考えず、ただ言葉が先導する、言葉が音楽を誘導するようなものを作りたかったんだ。だから、音楽に干渉しないプロデューサーを選ぶことにしたんだ。スティーヴ・アルビニは、音楽的なアイディアを持たないことで有名だ。曲をリアレンジしようとしない。詞に手を加えようとしない。アルビニがするのは、テープに録音し、現実の瞬間をとらえるため何度も録音をさせないってことだ。彼は、部屋で鳴り響く音をそのままアルバムにしようとする。多くのプロデューサーが、手を加え、音を変えようとする。アルビニは、そのままの音にしておこうとする。だから、彼はこのプロジェクトにピッタリだったんだ。俺たち、自分たちのやりたいことは明確だったからね。リッチーの詞にインスパイアされたものを作り、それを変えることはしたくなかった。それに、本人は否定するかもしれないけど、彼は生きる伝説だよ。俺たちのようなインディー人間の間では。このアルバムはある意味、“デジタル以前”のものだからね。詞は古いタイプライターで書かれたし、リッチーはケータイ電話なんて持ってなかった。ダウンロードなんてものも知らなかったし。ある意味、このアルバムはタイム・カプセルだ。アルビニの作業は、トラディショナルで古いスタイルだからね。彼はテープに録音するし。多くの点で、これは“デジタル以前”の作品だ。だから彼を選んだんだ。
──アナログ・テープでのレコーディングというのはプロデューサーのアイディアですか?
ジェームス:アルビニはテープにしかレコーディングしないんだよ。彼の作った作品の多くに“Fuck digital”ってフレーズが見られるよ(笑)。それが十分物語っているだろ? 彼は拒否してるんだ。休憩時間、リビングルームでMTV2かなんか見てると、部屋に入ってきた彼が“ああ、デジタルの音め、ヒステリーだ”とか文句言って出て行くってことが何度かあったよ。彼はプロツールスやコンピューターを使うのを拒否し、テープだけを使ってるんだ。
──『Holy Bible』はよく『In Utero』と比較されていましたが、それもアルビニを選んだ理由のひとつでしょうか?
ジェームス:そうだよ。リッチーは『In Utero』が大好きだったんだ。俺たちみんなそうだ。俺は『In Utero』を買うまで、それほどニルヴァーナの大ファンってわけではなかった。みんな、好きだった。とくにリッチーは、あのアルバムを崇拝してた。
──このアルバムを制作するにあたり、1番大変だったことは?
ジェームス:うーん…1番大変だったのは…、答えるのが難しい質問だって言わなきゃならないな、素晴らしい経験で大変だとは思ってなかったから。アルバムをミックスするとき、スティーヴとの作業は終わったから、友達と自分たちでミックスしなきゃいけなかったんだけど、そこが多分、1番大変だったんじゃないかな。スティーヴの録音方法はトラディショナルで、コンプレッションがあんまりされてないことに気づいた。コンプレッションをあんまり使ってないから、間違えたところも聴こえることがあって、悩んだよ。スティーヴの仕事を無駄にしないように気をつけようってことになった。スティーヴがやったことの純度がわかったよ。それを台無しにしないようにするのが1番大変だった。正直言って、これまでで1番大変なのはアルバムについて語ることだよ。スタジオに入る間は、ただギターを弾いたり制作に没頭すればいいだけだ。何も考えなくていい。たいていは曲作りが大変で、プレイするのはただ音楽に没頭すればいい。でもアルバムについて話したり分析するのは、1番難しいよ。
──レコーディング中、なにか面白いエピソードはありましたか?
ジェームス:ないかな(笑)。ああ、ちょっとあるかな。ちょっと曖昧なんだけど…スタジオに入る前日、カーディフのマンションで、『Holy Bible』をレコーディングする前に聴いていたアルバムを聴こうとしてたんだ。同じことをしようって思ってね。俺は、ちょっとシンプル・マインズの初期の作品に取り付かれてるんだ。スタジアム・バンドになる前の実験的なバンドだったころの彼らにね。シンプル・マインズの2nd 、3rd、4thは実験的でヨーロッパの最高傑作だと思っている。『Real To Real Cacophony』『Sons And Fascination』『Empires And Dance』はね。それに、これらのアルバムって全部、Rock Fieldでレコーディングされてるんだ。スタジオに入ってスティーヴ・アルビニに会うことにナーバスになっててね。カーディフのマンションにいて、朝、スタジオへ行く準備をして、ゾーンに入るって言うのかな。そういう音楽聴きながらスタジオまで車を走らせて、スティーヴに会った。緊張してたけどエキサイティングだったよ。そして次の日、Rock Fieldのキッチンに行ったら、何度も行ってるからよく知ってる場所なんだけど、そこに入った途端、文字通り、シンプル・マインズのシンガーのジム・カーにぶつかりそうになったんだよ。幻想見てるのかと思ったよ。“なんだ、どうなってるんだ。シンプル・マインズのジム・カーがいる。俺には望む人を目の前に登場させる力があるのか!”ってね。で、挨拶したんだ。Rockfieldには2つスタジオがあって、彼はとなりにいたんだ。マジで一瞬、自分は神になったって思ったよ。望む人を呼び出せるんだって。落ち着くのに10分かかったよ。で、ジムに“「Real Cacophony」にはどうやって手拍子入れたの? ジョーンズ(?)との仕事はどうだった? スティーヴ・ヒレッジとの仕事はどうだった? Rockfieldは昔はどうだった? イギー・ポップの曲で歌ったよね?”って質問攻めにしたんだ。ジムはだんだん怖がってたよ。これまでに会ったことのないようなマニアに出くわしちまったってことに気づいたから。それが唯一面白いエピソードかな。まあ面白くはないけど、予期せぬ出来事だったよ。
──現在、マニックスはどのような章に突入したといえますか?
ジェームス:わからないな。自分の過去、歴史をちゃんと把握してるバンドもいる。でも、自分たちがどこにいるのか、わからない。でも、今いる場所は予期してなかった。2年前、またリッチーとアルバムを作るなんて考えてもいなかったよ。ひとつだけ言えるのは、このアルバムの後、次に作るアルバムはまったく違うものになるだろうってことだけだ。喜びを引き出そうとするんじゃないかな。これをやった後、べつに憂うつになったわけでもないし、困惑したわけでも傷ついたわけでもないけど、まったく反対のことをしたいって思っているんだ。強烈な経験だったからね。次のアルバムは自分にとってショッキングなものになるんじゃないかって思いたい。喜びがいっぱいつまったね。だから、いま将来の見通しを変えてるところなんじゃないかな。わからないけどね。
──シングルをリリースしない理由は?
ジェームス:詞を読んだとき、最初に決めたルールは詞に先導させるってことだった。28の詞を熟読したとき、ニックに最初に“リッチーは明らかにシングルのことなんか考えてなかったな”って言ったんだ。リッチーはヘッド・シングルのことも、シングルが何枚出るかなんてことも考えてなかっただろ、シングルのことなんか考えるのやめようぜ、純粋にリッチーの意志を継ごうぜって。半分ほどレコーディングしたとこで、俺ら、アルバム、そのアート形式に敬意を表するようになっていた。いまはアルバム買っても、1stトラック聴いて2曲目嫌いだったら、3、4番目にスキップするもんだろ。俺たち、出来るかぎりピュアなアルバムを作ろうって思ったんだ。シングルがないようなね。結局のところ、リッチーもそんなこと気にしてなかったんだから。彼はアルバムのことだけを気にかけてた。彼は家に帰って、紅茶入れてくつろいて、アルバムかけて、それを全部聴くっていうタイプだった。それをリスペクトしたかったんだ。
──7月にフェスティヴァルで来日しますが、それに関してメッセージをお願いします。
ジェームス:マニック・ストリート・プリーチャーズのジェームス・ディーン・ブラッドフィールドだ。天気のいいロンドンにいる。まだ4月だ。7月に<ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN FES.2009>で日本へ行くよ。楽しみにしてるよ。この前の東京のフェスティヴァルでのパフォーマンスは、いままでで最高のギグだったからね。楽しみにしている。日本から1stアルバムのトラックをやってくれってメールがいっぱい来てる。だからサプライズを予定してるよ。君たちがしばらく聴いていない1st『Generation Terrorists』のトラックをフェスティヴァルでプレイしようと思っている。この前よりいいギグにしたいね。
Ako Suzuki, London
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