『泥棒』 SPEEDSTAR RECORDS 2002年9月19日発売 VICL-60974 3,045(tax in) 1 記憶喪失 2 閃光(Album Ver.) 3 泥棒 4 瞬間 5 世界 6 ブエノスアイレス 7 ドア 8 彼方 | | 予報は曇りのち雨。 9月7日、8日に行なわれた野外イヴェント<True People's Celebration>は初日から雨。UAの出演した2日目も朝から灰色の雲に覆われていて空を見上げると傘を持って出かけないわけにはいかなかった。しかし、現地に近づくにつれ夏の最後を惜しむような日差しがジリジリと照りつける。“UAは雨女”なんていう有名な話を思い出した頃に、バックバンドを従えて白い肌を覆うピンクの衣装で輝きを放ったUAが登場した。 オープニングは野外ステージを包む空気をゆっくりと押し出すように重低音のウッドベースが鳴り響いて、(他の夏フェスなどの情報はわからないが)まだそこにいたほとんどの人が聴いたことのない新作『泥棒』から「記憶喪失」を披露。シーンと静まりかえったそのステージを凝視する観客は、今までのUAの印象とは明らかに違うその感触をしっかりと受けとめ、その声と存在感に圧倒されるまでに吸い込まれていくのを感じた。そしてその日は先行シングル「閃光」から「瞬間」「世界」など、まだ発表されていないニュー・アルバムの収録曲を堂々と披露したのだった。 『turbo』から約3年の間にAJICOとしての活動を通してロックンロールの熱を放出し、その後もソロとしてのライヴを重ねてきたUAが、2002年秋の風と共に遂に新作『泥棒』をリリースする。 タイトルとジャケット写真が交差するインプレッションが、シンガーとしてだけでなく、アーティストとしての個性を強烈に放っている。そこに難しさはなく、真っ直ぐで素直な勢いだ。新鮮というよりは、ゾクゾク感を覚えるカッコよさ、想像を超えてしまったその表現がアーティストとしての深みと輝きを増している。 今作でのUAの歌声はさらにバリアで覆うように研ぎ澄まされ、歌が一歩前にくる存在感を主張しながらもサウンドとの絶妙なバランスを保っている。全体的に破壊的で何かを失なったような物悲しい印象を受ける言葉と、今までもよく使われてきた空、雲、花などの自然な言葉のキーワードが入り組むUAでしか綴れない詞。今までよりも単純には理解できないその奥深い詞の世界が広がっている。 そして今回のサウンドは、タブラ音とリズムの繊細な音を手掛けたASA-CHANG、ギターとは思えないその音の響きが印象的な鈴木正人(little creatures)、そしてUA初期のUAから楽曲を提供してきた朝本浩文(ram jam world)ら、気鋭の個性溢れるアーティスト達とのバンドを軸に制作された。オープニングのみならず全曲でその曲のイメージや雰囲気を伝える重たい低音ベース、不意に現われる無音…、予想のつかないリズムや展開が、よくある歌とは一線を画し、自由に満ち溢れている。 今作『泥棒』は、まさにUAというアーティストが剥き出しにした魂の表われであり、静寂な中にある噛みつきそうな鋭さと自由奔放な開放感の共存が我々聴き手の心を奪う。演じること、ヴィジュアル、全てに一貫した世界観を持ち、自身を表現しているアーティスト、UA。やはりこの作品からまた新しい階段を新たに登り始めたに違いない。 | |