『Love And Theft』 Sony Records International SRCS-2535 2001年9月12日発売 2,520(tax in) 1 Tweedle Dee & Tweedle Dum 2 Mississippi 3 Summer Days 4 Bye And Bye 5 Lonesome Day Blues 6 Floater 7 High Water(for Charlie Patton) 8 Moonlight 9 Honest With Me 10 Po'Boy 11 Cry A While 12 Sugar Baby | | '60年代は「プロテスト・シンガー」と呼ばれるアーティストが世に出たが、その多くはあの時代に永久に閉じ込められてしまうことになった。Phil Ochsが葬り去られ、Peter, Paul&Maryが再結成コンサートばかりやるはめになったのも、この「プロテスト・シンガー」というレッテルのおかげである。彼らの音楽は良くも悪くも、ベトナム戦争と公民権運動に揺れた激動の時代と切っても切れないものとなってしまったからだ。しかし、Bob Dylanは一線を画している。彼の人間への洞察は単なるソングライティングの領域を超え、人間の本質をえぐり出して見せる。アメリカが前代未聞の危機に見舞われている今、Dylanの音楽もまったく新しい響きを帯びてくる。近年は表立った政治的スタンスから遠ざかっていた彼だが、今回のツアーではアメリカが直面している事態について、シンガーソングライターの才能を発揮し、深遠な意見を表明した。 ニューアルバムである佳作『Love And Theft』を引っさげてのツアーは、シカゴのUnited Centerなど、以前より大規模な会場で行なわれている。シカゴのオープニングは、久々にカントリー・ゴスペルの名曲“Wait For The Light To Shine”。続くセットリストは、あからさまではないが的を射たものだった。 急を告げる“The Times They Are A-Changing”では、「外では戦いが始まり、激しさを増している」と歌い、政治家に警告を投げかける。続いて、戦争が引き起こす悲惨さをテーマにしたAcuff-Rose(音楽出版社)の名曲“Searching For A Soldier's Grave”という具合にコンサートは進み、 “Masters Of War”も熱が入っていた。寓話的な歌詞の“Cat's In The Well”でも用心を呼びかけ、「おやすみ、神のお慈悲が皆にありますように!」というフレーズで歌い終わる。 こう書いてくると、Dylanが2時間半も声を大にして自説を訴えたかのように思うかもしれないが、そうではない。実のところ観客に話し掛けたのはたったの1度で、素晴らしいミュージシャン達を「アメリカ一のバンドです」と紹介した時だけなのだ。曲は他にも、めったに歌わない名曲“Visions Of Johanna”や“Tell Me It Isn't True”のニューヴァージョンがあった。“Tell Me It Isn't True”では、Larry Taylorの舞い上がるようなペダルスティールが圧巻。新曲からも軽やかな“Summer Days”や、けだるいバラードの“Sugar Babe”を歌う。Dylan自身、楽しんでいる様子で、ダックウォーク・シャッフルを見せたり、ギタリストのCharlie SextonやベーシストのTony Garnierとプレイのかけ合いをする。セットはアコースティックとエレクトリックが半々で、バンドは大きな会場にもかかわらず打ち解けた雰囲気をかもしだしていた。 アンコールは2度もあり、批判に満ちた“Blowin' In The Wind”や“Knockin' On Heaven's Door”は、今回の軍事力の行使に大きな疑問を投げかけた。とはいえ説教じみたエンディングは避け、軽い“Rainy Day Women #12 & 35”で観客を沸かせ、最後は片膝をついて観客の大歓声に応えた。やはりDylanは楽しませるだけでなく、聴き手に考えさせる稀有なアーティストである。 By Tim Sheridan/LAUNCH.com | |