いわゆる“伝説”のアーチストが勢ぞろいとなった28日の中でも、究極のガチンコ対決となったのがニール・ヤングとこのニュー・オーダーである。'80年代がまだ遠い昔と思えない(思いたくない)身にしてみれば、ニュー・オーダーを伝説というには少し違和感があるものの、確かに今に至る音楽シーンを振り返れば、彼らがカリスマ視されるのは分からなくもない。ロックとダンス・ミュージックの垣根が崩れていった'80年代末からの音楽シーンは、彼らが先陣をきって道筋をつけていたからこそといっても過言ではないし、ここ日本にも、そんな彼らの画期性を直感した人達がいて、その中に電気グルーヴがいたというのは周知のとおり。 ところが、そんなニュー・オーダーの蒔いた種が花開く'90年代に当の本人達はほとんど活動してこなかったわけで、このたびの新作リリースは8年ぶり、来日にいたっては16年ぶりというから、ファンの待望度からいってもニール・ヤングとタメをはるだろう。おまけにビリー・コーガンというビッグなプレゼントもあり、事前の予想どおりWHITE STAGEは入場制限がかけられるほどの大盛況。ニールの超人的なライヴを振り切って早めに向かったのに、フィールドの最後方に陣取るのが精一杯である。 ▲New Order かつての万年青年の面影は今いずこ。ピーターと並ぶ体格になっていたバーナード。 でも、メロディは相変わらず切なさ全開。「ラヴ・ヴィジランティス」のピアニカにはおもわず涙…… | この日のセットリストはニュー・アルバムの新曲5曲と、過去のアルバム/シングルからまんべんなく選ばれており、今にいたるバンドの歴史が一望できる内容だ。なによりファンを喜ばせたのは、もう決してライヴで聴くことはないと思われていたジョイ・ディヴィジョン時代の曲だろう。なにしろオープニングから「アトモスフィア」である。名曲にはこと欠かないバンドだけに、あれもこれもと言い出せばキリがないが「ビザール・ラヴ・トライアングル」「トゥルー・フェイス」「テンプテーション」あたりは納得の定番曲。とくに「ビザール~」はシンセの音がアルバムで聴くよりも俄然“立って”いてゾクゾクさせられた。 新曲では、すでにシングルで発売されていた「クリスタル」と、ビリーが参加する「ターン・マイ・ウェイ」が当然のようにウケがよかったが、ちょっと首をひねってしまったのがギター・サウンド。前者では3本の音が混じり合って濁ってしまい、後者ではギターに加えてビリーのヴォーカルもよく聞こえなかった。後半には改善されていったものの、新曲はギターがキモなだけに少々残念。 そんなわけで、せっかくの見せ場も精彩を欠いてしまったビリーだったが、この日の主役はやはりフロントのオッサン達だ。とりわけベースのピーター・フック。インタビューなどでは豪快かつトホホなオヤジキャラなのに、ステージでは呆れるくらいメロディアスな旋律を途切れなく弾き倒す。MCは「あれ、なんか怒ってる?」と客をビビらせるほど荒っぽく、そうかと思えばラストでは感極まってビリーに飛びつきぶら下がる。とにかく、鬼のような容姿とナイーヴな音にギャップがありすぎだ。 そしてバーナード。ギターをやや上に構えた演奏は評判どおりぎこちなかったが、この人の作る曲はどうしてこんなに瑞々しく切ないのだろう。同じステージを見たライター氏が「まるで学芸会みたいだった」と言っていたが、これはとても的を得た言葉に思える。彼は、むしろ上手くならないことで、子供が楽器で遊んでいるうちに出てくるような、無垢なメロディを維持してきた。いくらダンス・ビートやシンセの音で飾ろうが、このメロディが常に流れているからこそ、その音楽はいつまでも色褪せないのだ。それに、初心者がすぐにも弾けそうな曲を上手く演奏されたところで、僕はかえって興ざめするだろう。子供の学芸会がつたないからこそ、楽しいように。 アンコール最後の「ブルー・マンデー」でそれぞれの担当楽器から開放されたフロントの2人。バーナードはゆっくりと駈けっこをしているようなダンスを踊り、ピーターはシンセ・ドラムを嬉々として叩いていた。ニュー・オーダーがヘタと言われ続けながら愛されているのは、こんなところに理由があったのだ。 文●佐伯幸雄 |