【前編】からの続き ――ヒップホップのいろんなスタイルの間に、大きく基本的な違いはあるのでしょうか? DJ KRUST: 僕は何でも「音楽」って考えるタイプだからねえ。テンポによって種類が違うという面もあるけど、僕がチェックするのは曲のヴァイブであり、自分がどんな気分になるかということだよ。僕は多くの音楽に耳を傾けるけど、聴いているんじゃなくて、感じているのさ。だから曲の速さとかは気にしなくて、自分がどう感じるのかを大事にしている。僕らは「音楽は聴くな、感じろ」をモットーにしているんだ。目を閉じて身をまかせていれば、感じられるはずさ。多くの人がものごとをカテゴライズする必要があるのは、そのほうがわかりやすいからだ。とても長い間に培われてきたシステムなのさ。メディアも音楽にレッテルを貼るのが好きだしね。シーンにいる人たちはそんなことはしないよ。「ドラムンベース」だってまた変わることになるだろうから、今度会うときには別の呼び方をしているかもしれない。 ――ビートのミックスはどのように発展してきたのですか? DJ KRUST: ドラムンベースの発展はいろんな場所を起源にしていると思うよ。10人のアーティストを部屋に座らせてバックグラウンドは何かと尋ねれば、10通りの答えが返ってくるだろう。それが音楽の素晴らしいところであり、さまざまな影響の上に成立してるんだ。このシーンにはハウスのシーンからスタートした人もいれば、ヒップホップやジャズ、クラシックから始めた人もいる。カントリー&ウエスタンだってかまわないのさ。そんなふうにいろんなバックグラウンドを持つ人々が、さまざまな形で貢献をした結果、現在の音楽が出来上がっているのさ。自分たちが受けた影響や自分たちのバックグラウンドから引き出した要素を元に、いろんなスタイルを音楽に取り入れてるんだ。 でも時には音楽を作るときに、そんなことは全然意識してなくて、直感的に出来上がってっしまうこともあるよ。それで後から「君の音楽は何とかに似ているね」なんて言われても、こっちにはわからないこともあるのさ。でも「わかった、これはこれだよね」って言われることもあるけどね。最初に流行ったときにハウスにハマってたからベースラインがこんなふうになるとか、レゲエを聴いてたからとか、ヒップホップに凝っていたからみたいなことはわかるだろう。そこが音楽の美しきカオスというあたりだよ、わかるかい? ――操作に時間がかかるサンプラーやその手のものを、今でも使っているのはどうしてですか? DJ KRUST: 現在のテクノロジーは、サウンドの操作や編集について多くのオプションを提供してくれる。コンピュータ時代に突入して、Pro ToolsやMac G4なんかが登場したけど、僕らはゆっくりとそれらに親しんでいる段階なのさ。僕らにしてみれば、サンプラーが使われはじめた時代にスタートしているから、その頃の機材に魅せられてしまってるんだ。まるで新しいオモチャみたいなものだったからね。それにハマってしまって、「年寄りの犬に新しい芸を仕込むのは難しい」みたいな気分になることもあるよ。でも使いながら一緒に育ってきた機材だから、それを使うほうがずっと気楽なんだ。コンピュータなんかにも少しずつ親しんではいるけどね。僕らにとっては新しい世界だけど、だんだんとはまるようになったし、慣れるように努力しているのさ。 Pro Toolsは使ってみて、非常に進んだレコーディングシステムだと感じたよ。スタジオがなくても、トラックを組み立てたり、ヴォーカルを入れたり、サウンドを操作したりできる素晴らしいツールだ。他にもいくつかのクレイジーなキーボードとかクレイジーなサウンドを作るのに役立つちょっとした小道具なんかも含めて、慣れはじめてるところだね。今じゃインターネットから情報やサウンド、音楽の一部を取り込んで、それを音楽に加えることもできる。 僕らはスローペースではあるものの、最終的にはそうした技術にも取り組んでいくつもりだけど、今のところはサンプラーのほうを好んで使っている。それに飽きたら、もっとコンピュータ的なものに集中していくだろう。でも僕らの学習速度は遅いだろうね。 ――「Who Told You」という曲について話してください。あの曲が大好きなんです。リズムはどうやって作ったのですか? RONI SIZE: 前にも言ったように、僕らは『New Forms』とこの前のツアーで学んだことを今回の検討課題として持ち込んだ。それで取り入れたもののひとつが、Dynamiteが観客に与えたインパクトと、聴衆を手のひらで踊らせる彼の手法だったんだ。スタジオに入って僕がいくつかのボタンを押したけど、Dynamiteはブースに入ることもせず、ヘッドホンを付けているだけだった。彼にはテンポもわからなかったのに、気がついたらフリースタイルでやっていて、それにはヴァイブがあった。僕らはレコードを作っているんじゃなくて、ヴァイブを捉えていたんだ。それは偶然に起こったことで、座り込んでいて書けるようなトラックではなかった。起こるべくして起こったことで、それが良かったんだよ。それで僕はドラムスに座って、一緒に曲を完成させた。誰かがやってきてその人の役割を果たし、僕が自分のパートをやったというのじゃなくて、コミュニケーションそのものをみんなに聴いてもらっているんだ。 Method Manとも僕らは理解しあう関係を築くことができたよ。僕は彼にやりたいことをやってもらって、僕は自分のパートをやったんだ。彼にメガホンを渡すとにっこり笑って、メガホンから言葉を吐き出していったのさ。Zach De La Rochaにしても同じことだよ。僕らはスタジオに入って10時間ほど一緒に過ごしたけど、マイクを使ったのは30分だけだった。つまり、関係が確立されればものごとはうまく運ぶんだ。僕に何が言えるって? だってアメリカにやってきて、ZachやMethod Man、Redman、Erick Sermonなんかとスタジオに入れるだけでも素晴らしいことなのに。いつの日にかLauryn Hillのような人と仕事をしてみたいし、Quicy Jonesのような人たちと会って企業秘密を教えてもらいたいよ。お願いだよ、知りたいんだ。僕は駆けだしのプロデューサーだから、仕事がしたいのさ。 DJ KRUST: アルバムの一部の曲が作られたとき僕はそこにいなかったから、実際に何が起こっていたのかをすべて説明することはできないよ。でも僕らが達成したかったのは新しいスタイルの音楽なんだ。現在ドラムンベースで起こっていることは、もっとエキサイティングでもっとエネルギーに溢れた、次の形態へ進化するものの始まりなのさ。 「Who Told You」はその典型的な例で、本当のドラムンベースやヒップホップではなく、いろんな何かの本物ではないけど、あらゆる音楽スタイルの隣に確実に存在しているんだ。それでも同様のエネルギーとエキサイトメントを持っていて、非常にパワフルなヴォーカルととても強力なフックを備えているのさ。聴いた人はいつも「Who Told You」は頭にこびり付いて離れない類の曲だと言ってくれるよ。それこそが今の僕たちがやろうとしているものだと思う。とてもエネルギッシュだけど、あまり様式化されてなくて、それでもキャッチーなタイプの音楽を作ろうとしているのさ。 僕はRoniとシアトルに行ってスタジオでMethod Manと仕事をしたよ。それはとても自発的なシチュエーションだったね。僕らはサンプルとドラムマシン、それに何枚かのディスクを用意して、座ってトラックを作り上げたんだ。僕らがスタジオのヴァイブを捉えたところで、午後にMethod Manがやってきて、僕らが作った曲を聴いて取り組み始めたのさ。全員の気持ちはまるでヘッドノック状態だったね。つまり、スタジオにいて誰かがやってきて、仕事に取り組むときに頭をコツコツ叩くってことだよ。正しい方向へ向かっているとわかったら、Methは座り込んで自分の役割を果たしたのさ。それはまるで一緒にパズルか何かを解こうとするような感じのときもあったね。みんなが同じ部屋にいると同じヴァイブを感じて、エネルギーを蓄積できるんだ。双方が音楽の一部だと思えて、みんながますますエキサイトしていくのさ。そして彼がブースに入るときには、自分がヴォーカルで表現したいこと、歌に込めたい気持ちを正確につかんでいた。僕らも自分たちが何をどういうふうにやりたいかを理解していたし、うまくできあがって良かったよ。これはかなり優れたやり方だし、ヴァイブがどんな感じかも捉えられるんだ。 ――あなたがたの音楽は当初ジャングルと呼ばれ、それからドラムンベースになりました。音楽的な変化があったのか、それともメディアのジャンル分けが変わったのでしょうか? RONI SIZE: まさにそのとおりだと思うよ。'90年代にはまず「ジャングル」と呼ばれ、'93、4年頃には「ドラムンベース」になったんだ。ジャングルとは何かと聞かれれば、時代だと答えるね。ドラムンベースも時代さ。その時代のテクノに影響を受けてきたんだ。時代で分ける必要があるんだよ。最初はラップで、次はB-ボーイズム、そしてヒップホップになったんだ。次の時代が来れば新しい名称で呼ばれるのさ。ジャングルとはまさしくサンプルと空間全体を揺るがすようなダーティで鋭い重低音、それがジャングルのすべてなんだよ。僕らの一派は違ったブレイクを使い始め、あまりに複雑なビートを用いる代わりに、808(ローランドのドラムマシン)の重低音を加えるようになったのさ。少し2拍子的な感じを出したり、本物のジャズからの影響を取り入れ始めたのも僕らなんだ。 ――CDを聴いていると多くの音楽がダークで内省的なのに、ライヴは非常に高揚するものですね。そのあたりについて話してください。 DJ KRUST: 僕らがステージでやっていることはとってもユニークだよ。僕らのようなバックグラウンドで、僕らがライヴでやっているようなことをやる人は極めて少ないし、彼らが僕らのライヴを見たとしても、そんなにチェックしないだろう。ステージであんなにエネルギッシュなドラムンベースのバンドは多くないだろうし、同時代のバンド全体にもそんなにいないんじゃないかな。僕らには素晴らしいフロントマンとフロントウーマンがいて、2人はとってもエネルギッシュだし、パワフルな声を持ってるからね。それにとってもアクティヴなドラマーと非常にクリエイティヴなベーシストもいて、真ん中の4人がサウンドを作ってストリングスや音の骨格を支えているのさ。非常にユニークだし、そこでのサウンドを聴けば、極めてエネルギッシュで現在聴かれる音楽の多くとはまったく違っていることがわかるだろう。 巷に溢れている昔のサウンドに関しても、僕らはまったく違ったアングルからアプローチしてるしね。みんなはドラムンベースが何なのかわかっていないし、僕らがステージでやっていることも理解していないけど、バンドのシナリオというのはわかってくれている。だからライヴを見れば、それを引きつけて考えることができるんだ。それこそがエネルギーというもので、8人がステージで音楽を演奏することの意味なのさ。アップテンポでとってもエネルギッシュなので、ただそこにいて立ち上がって聴いていればいい、というわけにはいかなくなるんだ。必ず参加したくなるし、音楽の一部になりたくなる、それがエネルギーのヴァイブというものなんだよ。 ――マーキュリー賞を獲得して注目を集めるようになってから、オーディエンスに変化はあったでしょうか? DJ KRUST: オーディエンスはそれぞれの形で音楽を発見していくんだと思うな。最初から僕らの音楽を知っていて、ドラムンベースのファンでありサポーターである人たちもいる。それからライヴバンドに熱中していて、Reprazentを聴きに来るようになったオーディエンスがいる。彼らは本当は何に期待していいかわかっていないけれども、そういう形で僕らの音楽にハマるようになったのさ。そしてCDを聴くオーディエンスは、そういう形で僕らの音楽を発見しているんだ。人それぞれではあるんだけど、結局は好きになるか、ならないかなんだよね。 ――Reprazentのメッセージは何でしょうか? DJ KRUST: 音楽とは最終的に言語の壁を越えて人々を結集させるもので、僕らが達成しようとしているのはよりオープンな音楽と、さらなる音楽的体験だと考えているんだ。音楽そのものには「楽しんでくれ。もっと多くの客を一緒に連れてきてくれよ」ということ以外に、それほど多くのメッセージは込められていないよ。どっちにしても音楽はそれを実現してくれるからね。文化的な壁や言語の壁を打ち破って、ひとつの基本的な体験へと人々を導くのさ。みんながひとつの目的のために同じ場所にいる。どこから来ようと、どんな背景を持っていようと、楽しむためにやって来るんだ。そして結局のところは、楽しむのことが重要で、音楽を楽しんで家へ帰っても聴くことが大切なんだよ。それからはどんなふうにジャンル分けしようと、分析しようと自由なのさ。 Zach De La Rochaはアルバムで非常にパワフルなパフォーマンスを展開していて、大きな論争を巻き起こしている。彼は確かに論争を呼ぶようなことをたくさん言っているけど、それはパーティで集中して聴くようなものじゃないと思うんだ。家へ持って帰ったり、車の中に座って聴いたりして、できるだけ意味を聞き取るべきものなのさ。僕らはいろんなレベルで作業をしているから、リスナーがそこから必要な意味を引き出すのは個人の手に委ねられているんだ。僕らがやっていることの良いところは、リスナーがやってきて彼らがどんなふうに解釈したとか、彼らにとってどんな意味があるのかを知らせてくれることだね。それこそ音楽とは何かということだと思うよ。誰もが個人的な問題や自分のテーマを抱えているけど、それでも僕らは音楽への基本的な愛情を保っているのさ。 |