3rdアルバム『FULL CONTACT』で掟破りの音をぶち当てる
待ちに待ったDRY&HEAVY のニューアルバムが1年7ヵ月ぶりにリリースされた。その名も『FULL CONTACT』!!レゲエの持つタフさ、背景にある痛みみたいなものを感じて欲しいという彼らのサウンドからは、ふわふわした浮遊感のあるダブとは異質の、異常なまでの生命力をともなう力強さを感じさせられる。今現実の中に存在するウソに違和感や疑問を持っている人は、ぜひこれを聴いて解き放たれて欲しい。
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『FULLL CONTACT』
| ●前のアルバム『ONE PUNCH』から1年7ヵ月ぶりのアルバム・リリースということになりますが、その間に6枚ものシングルを出されてますよね。それは珍しいリリースの仕方だなと思ったんですけど、どうしてだったんですか。 七尾茂大:DRY&HEAVYっていうのは、活動をまるっきり自分たちでやってるんですよ。だから年に1枚出すとか、そういう計画があって作ってるんではなくて。まったくお金もないのでスタジオにもメンバー以外誰もいない状態で、年に一回ぐらい暇を作って録ってるんです。 ●そうすると、レコーディングもそうとう短期間でやってる感じなんですか。 秋本武士:そうですね。だいたいリズムトラックは、アルバム1枚ぶんを2日くらいで録ります。それもその場でドラムとベースでセッションしながら、トラックを作っていくというやり方で。 ●その場でセッションということは、すべてアドリブで曲を作ってるということですか。 秋本:はい。今までのアルバムも全部、その場でセッションしていいグルーヴが出たらすぐにテープレコーダーを回し始めるっていう録り方をしてます。普段からそういう練習をしてきたので。 ●『ONE PUNCH』以降、数々のイベントに出演したり、海外でツアーをやられたりしてますけど、その経験によってサウンド面での変化はありましたか。 七尾:『ONE PUNCH』までは誰が聴いてるのかもわからないという気持ちで、とりあえず自分たちがやりたいからやってたという感じなんだけど、そのアルバムを出した後ぐらいから、それまではやってなかったのに急に毎月のようにライブをやるようになって。だから今回のアルバムは、聴いてくれる人たちっていうのをはっきり自分たちで自覚したっていうのが今までと一番違うところですね。 秋本:基本的に録り方は変わってないですけど、レコーディングの経験も増したので。限られた予算の中で、いつも使っているスタジオが空いた時にしか録れないんですよ。だからその時になにを出せるかっていう。もっとお金の余裕があって期間もある中でやっていくよりは、ほんとうに限られた中でなんとかベストを尽くすっていうスタンスで毎回やってきたんで、すごく鍛えられてますね。いつスタジオが決まってもその時にベストな演奏ができるという。 ●DRY&HEAVY という名前はBurnig Spearのアルバム・タイトルとドラマーとベーシストの兄弟Sly&Robbieになぞらえてつけられたそうですが、それだけルーツ・レゲエに傾倒しているのに、聴いた印象が外国からの受け売りみたいな感じがしなかったんですよ。それはやっぱり日本人なので育った環境とか社会背景がレゲエ発祥地のジャマイカとはまったく違うことも影響してるのかと思うんですが、日本で生まれ育った自分だからこそ出せる音みたいな部分にこだわっているのかなと思ったんですけど。
ほんとうにそれはおっかないことだけど、俺は腹をすえて。で俺らのバンドのメンツみんなも、そういう雰囲気になってきてるんで。日本人がなんでレゲエをやるんだと、俺らなんかさんざん言われてきたけど、やっぱどうしようもないくらいレゲエが好きで。ジャマイカ人がレゲエをやっていた必然というか、ああいう音になっていったのには、どんな過酷な状況でも唄ったり踊ったりして音楽をつくり出していくというタフな生き方が根本にあるから、そういう人の痛みを知ってる部分とかメッセージが、レゲエっていうのはなによりも聴こえてくる。 アメリカの黒人のルーツ・ミュージックとしてのレゲエっていうのを考えた場合に、日本人の俺らがレゲエをやるっていうのは最初っからすごく矛盾してるわけ。僕らの血にもともとない血を入れていくっていう作業を練習なくちゃいけないから。でも俺らは過信してるわけじゃないけど、レゲエをしょっているというぐらいのつもりでやってるから。エラそうに聞こえちゃうと嫌なんですけど、ボブ・マーリィは多分死んでからの方が世界ではレコードを売ったと思うんですよ。あの人のが昔インターナショナルにデビューする前の曲で、『レゲエブロードウェイ』っていうのがあって。それはレゲエはすごい熱い音楽だからアメリカの全米ビルボードのトップに押し上げてやる、もっとインターナショナルな音楽にしてやるみたいな歌なんだけど。俺らもそれぐらいの気持ちでやってます。すごくレゲエをやるってことに誇りを持ってるんで。 七尾:自分たちからすれば、バンドをやるんだったらもうレゲエが一番いいフォーマットっていうか。他にもいろいろ聴くんですけど、レゲエが一番好きな音楽だから。それで単にいいバンドをやるとなると、レゲエになって当たり前というか。そういうつもりでやってるから。 ●画用紙といえば白みたいな感じで、あまりにも自分の中で基本になり過ぎてて、バンドといえばレゲエみたいな感じですか。 七尾:そうですね。太いベースがあって当たり前っていう気持ちでいますから(笑)。 ●よくDRY&HEAVYの音はダブだって言われてますよね。確かにダブなんですけど、私のイメージするダブは浮遊感があってフワフワした感じなんですよ。でもDRY&HEAVYの場合は浮遊感はあるんですけど、すごい強い感じがするんです。 秋本:俺らにとってはレゲエとダブは切り離すっていう感覚ではなくって、ダブも完全にレゲエの一部で。レゲエっていうのは、ほんとうにタフな音楽なんです。レゲエとかダブって、その後の他のジャンルの音楽への影響力っていうのはものすごいあるわけですよね。ダンスミュージックとか。それがあんな日本の秋田県と同じぐらいの面積の小さな島から、あれだけのすごい影響力を持つぐらいのベースとドラムのグルーヴのすごさっていうか。それはどうしても音だけで捉えられがちなんですけど、俺なんかは音響的にダブはこうやって作るという方法論よりも、もっと精神的なものっていうか。レゲエの一番でっかいメッセージは、やっぱりフリーダム。人を解き放つ。ダブからもそういうものが聴こえてくるから。だから出したい音を出すぞ、誰にもビビることはないっていう。人にはいろんなモラルとかあるわけですけど、レゲエとかダブは掟破りの音楽っていうか。あんなむちゃなベースだして。だから、とにかく自由にやれってことですね。 七尾:ダブって言っちゃうとわりと音響的なことばっかりクローズアップされて。そういうものもありですけど、ひとくくりにダブ・ブームっていう中に自分たちがおかれた場合、やっぱりそういうレゲエあってのダブっていう気持ちがあるから。音響的なものだけに興味があるっていうのとは違う音になって当たり前だと思いますね。 ●その自分たちがダブ・ブームの中におかれているという状況は別にネガティブに捉えてるというわけではないんですか。 秋本:捉えてないよね。なんでも日本はそういう風に根付かずに流れていってしまうっていう風潮があるけど、それをグチっててもしょうがないし。まぁ今、昔から当たり前に俺らが好きでやってきたことが注目を集めてて、そういう中で期待が高まっているのをすごく感じて。ここで引くことは簡単なんだけど、俺らがほんとうにこうやっていけば、もしかしたら日本にも根付いていくかもしれないし。今はやれることをできるだけやって、なるべく知ってもらいたいです。今の若い世代の人たちにとって、レゲエとかダブを聴くきっかけが俺らであったりするかもしれないし。そのためにどれだけ俺らが、作品にしろライブにしろ、存在をしらしめられるかっていうことです。 ●ところで『FULL CONTACT』というタイトルはどういう意味があるんですか。 秋本:空手って普通はパンチとかキックとか当てないで、寸止めにするのがルールなんですよ。でもフルコンタクトっていうのは、禁じ手がないんです。禁じ手なしでぶち当てるっていう。それはダブの極意と同じですね。掟破りの音をぶち当てるっていう。
【DRY&HEAVY PROFILE】 文●平田順子 |