今が旬の男達
Matchbox TwentyのRob Thomasは、まだ駆け出しの自分たちに突如降ってわいた名声について、非常に簡潔な考えを持っている。 「2000万枚もCDが売れてしまったら、次の作品を出す時も、出る話題といえば“どうすれば2000万枚も売れるのか”ってことばかりさ。まるでバカのひとつ覚えみたいにね。まったく手におえないよ」とこのシンガーはやや自嘲ぎみに言う。 今やその最新作によって、Thomasをはじめ、ギタリストのKyle CookやAdam Gaynor、ベーシストのBrian Yale、そしてドラマーのPaul Douchetteもまた、好むと好まざるとにかかわらず、眩しいスポットライトの下に押し出されることとなったのだ。 ギタリストのCookと共にこのインタヴューに出席したThomasは、彼の言わんとすることを強調するようにジェスチャーを交えながら陽気な調子で語る。 「“ナーヴァスになりませんか?”だってさ。 ああ、今はナーヴァスだよ。おかげさまでね」 「1stアルバムがあんな風にバカ売れして、かえって色んなことがちゃんと見られるようになったのさ。あれは単なる偶然だった。そう思ったらプレッシャーもなくなったよ」 「このコマーシャルな世界では、時として物事が飽和状態を超えてしまうことがあると思うんだ」と彼は言う。 「そして、その状態が長く続けば続くほど、人は何か大切なものを失ってしまう。もちろんこうなったのは俺たちの音楽や曲のクオリティが評価されたからなんだけど、でもそのせいで俺たちは全員、次に続くものを作らなきゃいけないというプレッシャーを少なからず感じてしまったのさ」 Thomasは感慨深げに言う。 「毎朝起きたらまず、その日1日を何とか無事に過ごすことを考えるんだ。日常生活の中には、人の運命を変えてしまうような出来事が驚くほど沢山潜んでるわけだからね。確かに、基本的には俺たちはいいアルバムを作ったと思ってるけど」 彼はこう指摘する 「だけど、それだけじゃ1000万枚も売れないさ。だって、いい作品を作ってるバンドなら何処にだっているだろ」 そして、次に人々が強く関心を抱いているのは、“彼らの最新作『Mad Season』は、デビューアルバムと比べて音楽的にどうなのか?”ということだろう。それについてのCookの見解は非常に冷静である。 「バンドの成長の跡が見られる作品さ。月並みに聞こえるかもしれないけど、俺たちが目指したのはまさにそこだったんだ。俺たちはあの頃より大人になった。俺たちの音楽も大人になった。歌詞のアイディアなんかは1stアルバムと似てる部分も多いけどね。でも、全体的に見て凄く成長したと思う」 「一番大きな違いは、1stアルバムをレコーディングした時には、“Matchbox Twentyの音楽ってどんなのだろう? もしこのバンドがアルバムを作ったら、一体どんなサウンドになるんだろう?”と思ってたってところかな。もちろん、(1stアルバムも)できる限りいい作品に仕上げたつもりだけど、それでもあの時は自分たちがどんなバンドなのかって部分で、ほとんど手探り状態だった。その後ツアーに出て、同じ部屋で寝泊まりして、お互いを守り合って、喧嘩もして、笑い合って、おまけに毎日一緒にプレイして…今度のアルバムのサウンドはこういった経験を反映したものになってるんだ。5人の声が同時に1つのノイズを作り出している。レコーディングが終わった時、これがMatchbox Twentyのサウンドだって思ったよ。全員が持っている力を十分に出せたからね」 「ただ単純に俺たちのロックは最高って思ってた時期もあったんだよね」と彼は明かす。 「あの頃、自分たちのショウを毎回録音しててさ。それを今聴いてみると、“うわっ!何だこれ”って感じ。俺たちよくここまで来れたよなあ、ってね。いい音楽を作りたくて始めて、結果的にローカルバンドにしてはなかなか上出来だってところまで辿り着いたわけだからさ」 かの有名なSantanaとの仕事について、Thomasは当初その申し出を辞退しようとしたことを率直に打ち明けている。 「自分の持ち味を活かしてああいうプロジェクトに参加するってことに少し不安を感じたし、怖かったんだ。特に俺の持ち味ってのは…」 ここで話を止めて少し考え込む。 「あの仕事が舞い込んで来たとき、俺たちはまだバンドとしての持ち味を作り上げている最中だった。だから、俺自身、もの凄く音楽的に脆い状態だったのさ。けど、幸運にもメチャクチャかっこよく仕上がった。結局、俺個人が他のミュージシャンと音楽を作る、ただそれだけのことだったんだよ。最初からそれが分かっていれば良かったんだけど」 「俺たちがやったのは付け合わせの野菜みたいなもんだよ。メインの肉の部分はあくまでもSantanaと彼のバンドさ」と彼は言う。 「俺たちは玄関。玄関をそこそこ奇麗にしておけば、他人が家の中に入った時に“うわぁ、見ろよ! すげえ部屋だぜ!”ってことになるだろ?」 「何かあったとしても、せいぜい前以上に奴をからかうくらいさ」とこのギタリストは肩をすくめる。 「もちろん、奴のことはもの凄く誇りに思ってるよ。『Mad Season』のセールスにだって当然影響するだろ? 奴が今まで以上にメディアに露出するようになったってことがさ。だから、俺たちにとっては何の問題もないよ。むしろ大歓迎だし、皆でジョークにしてるくらいさ」 「もし世の中がMatchbox Twentyについて分かっていない点があるとすれば、それは“深さ”だ」とCookは主張する。 「評論家たちは皆、俺らのことが気に入らないみたいだけど、まあ、それがポップバンド成功の法則なんじゃないの、多分。いわゆる“キャッチー”としか評価されない曲で成功しても、本物のイノヴェーターに与えられるような名声を得ることは絶対できないんだよ。メディアに叩かれることはしょっちゅうあるけど、俺たちには何でだか理解できないね」 「世の中がMatchbox Twentyについて分かってない点があるとすれば、それは俺たちが意外とナイスガイだってことかな」と彼は力説する。 「もし俺たちのことを全然知らなくて、見たこともない人が、俺たちの成功の話を聴いたら、多分こいつらバカだと思うんだろうね。“お前ら自分のことをすげえ奴だと思ってんだろ。世界は俺のもんだって勘違いしてるんだろ”ってね」 「俺は毎日、朝から晩まで自分の言動について謝罪しまくっているんだ。ビデオを見たりラジオ聴いたりしただけでも、多分そういう気分になるだろうね」 「バンドとしては、俺たちは自分たちの音楽をプレイすることに夢中なんだ。俺たちに直接会ったり、ライヴを見たりすればそれは分かってもらえると思うよ。俺たちにこの仕事をさせているのは、音楽をやりたいって気持ちだけさ。それ以外のことはすべて、俺たちをステージに上げるための必要悪だ」。少しの間を置いて彼はこう付け加えた。「自我が強くなければ、この仕事はできないね」 by Wendy Hermanson |