長き眠りの後、AC/DCという名のけものが、剛球一直線のロックンロールの王座を奪還すべく、再びこの世に登場した。オーストラリア出身のこの5人組のニューアルバム『Stiff Upper Lip』は、既にラジオで怪物級のヒットを記録している。ヘヴィでブルースからの影響を色濃く見せるタイトル曲をはじめ、すべての曲が盛んにエアプレイされているのだ。AC/DCが前作をリリースしたのは'95年のことだが、ファンは決して彼らのことを忘れてはいなかった。 '95年以降も色々なことがあった。まず『Back In Black』アルバムが1000万枚を越える売り上げを記録したとして表彰され、'80年2月20日に過度の飲酒によって起きた事故で亡くなった前ヴォーカリスト、Bon Scottの残した珍しいスタジオ録音やライヴ録音などを収録したCD5枚組ボックスセット『Bonfire』もリリースされたのだから。 『Stiff Uppeer Lip』の収録メンバーは、Bon Scottが亡くなった直後と変わらない黄金の顔ぶれだ。ヴォーカリストはBrian Johnson、リードギタリストはAngus Young、リズムギタリストにはAngusの兄のMalcolm Young、ベーシストにはCliff Williams、そしてドラマーはPhil Rudd。 そこにはドラムループも、サンプリングも、シンセサイザーも使われていない。こうして生まれたアルバムは、'76年の『High Voltage』や'77年の『Let There Be Rock』などの初期の作品に近い、ブルージーな曲が収められた、メタル色の薄いものとなった。 今回、Nordoff Robbins Music Therapy Foundationを援助すべく、入念に練られたキャンペーンの一環として(もちろんニューアルバムの宣伝の意味も少しはあっただろうが)、Angus Youngからギターのレッスンを受けられる権利がインターネットでオークションにかけられて、2万8000ドルという高額で競り落とされ、結成から30年近く経つ今でもAC/DCの人気が非常に高いことを証明した。 先頃、AngusとBrianがLAUNCHのインタビューに応え、『Stiff Upper Lip』に関してや、26年間もバンドのスタイルが変わらないその理由、そして彼らがこれまでの歴史を総括するボックスセットの発表をなぜ拒否しているのかを語った。
LAUNCH: 『Stiff Upper Lip』のリリースまでに随分時間がかかったのはなぜですか?
ANGUS: '96年に『Ballbreaker』のツアーを終えた後、俺達は1ヶ月くらい休みを取ったんだ。それから新しい曲作りに入ったんだけど、それ以外にもボックスセットの制作をしなくちゃならなくてね。これが、またちょっと発表が遅れたんだ。探したり、調べたりという作業があったから。で、それが終わった後、また曲作りに戻った訳だろ。俺達は忙しくしてたんだよ。
LAUNCH: 確かに、あの『Bonfire』は素晴らしいコレクションでした。
ANGUS: あれは、最初に考えていたよりずっと時間がかかったよ。時には、すぐにこれというのが見つかることもあったんだけど、あると思っていたものが、「そのテープは見つかりませんでした」って言われたり、録音状態がひどかったりしてね。
LAUNCH: AC/DCの作品なら、どういう作品を手にすることが出来るのかはっきりとわかりますが、他のバンドの中には大きな変化があったり、実験を重ねたりする人達もいますよね。その点、あなた達は一貫性があるし、1つのブランドと言えますね。
ANGUS: そりゃ、肉屋に行って「ビールをくれ」と言うことはないから(笑)。
BRIAN: 「ラムチョップの切り方を変えてくれ、味も変わるかもしれないから」ってか。何を言ってもラムチョップはラムチョップなんだよ。自分の得意なものを貫いていけば…人っていうのは自分達の慣れ親しんだものが好きだろ。いつでもなんでも変わってばっかり、というのは望まないんだ。
ANGUS: 前に誰かがこんなことを言ってたっけ。「人は自分が何を好きなのか知っている、そして人は自分の知っているものを好む」とね。初期の頃に自分達自身のスタイルを確立するために必死になってきたバンドなら…俺達の場合はずっとそれがハードなロックンロールな訳だけど、誰が聴いてもすぐに「あ、これはAC/DCだ」とわかるような作品を出したいと思うんだ。今までずっとこういうことをやってきたのに、急に違うものになることを望まれても変な感じだし。だから、「あなたたちはいつも同じだし、流行に乗って実験したりもしないんですね」と言われると、いつもおかしな気分になるんだよ。
LAUNCH: ツアーでは、以前の曲と今回のアルバムの曲と、どのような形でセットに組み込んでいくつもりでいますか?
ANGUS: 凄い数の曲があるしね。でも、AC/DCの場合は、作品を作る時と同じ感覚だよ。みんなが期待している曲をプレイしたいって思うから。自分が子供の頃、誰かのコンサートを見に行く時には、やっぱり自分の好きな曲を聴きたいって思ったし、それは俺達のファンだって同じだと思うんだ。Rolling Stonesを見に行くなら、「Jumpin' Jack Flash」のようなヒットを聴きたいと思うし、The Beatlesだってそうだったと思う。俺はいつもそういう風に考えているのさ。俺が子供の頃は、特にヒッピーが全盛だった頃は、バンドがステージに出てきて“俺達は前の曲をやるのにもう飽きたから、新しいアルバムの曲だけをやる”なんていうこともあったんだけど、俺は“それなら帰る”という方のファンだったからね。(笑)
BRIAN: 「おっと、もうそんな時間?」って。
LAUNCH: ラップロッカーのKid Rockが「Back In Black」をカヴァーしていますが、彼については何か?
BRIAN: うーん、俺は聴いてないなあ。Kid Rockの曲って何か聴いたことある?
ANGUS: 俺も聴いたことない。
BRIAN: 俺達はまだ聴いてないんだよ。ここのところずっと忙しかったから。悪いね、Kid。すぐ聴くからね、絶対。
ANGUS: 俺はいつもはずれてるんだ。音楽に関することは、14歳の時で止まってるんだよ。集めたりとかいうことも。当時はChuck BerryやLittle Richardのような古い曲を聴いたり、ブルーズをよく聴いていたんだけど、今でも現在進行形のものよりは、過去のものを聴くことが多いから。
LAUNCH: 「For Those About To Rock」は、コンサートを締めくくる究極のロックンロールソングですね。
ANGUS: 確かに。あの曲を作った時は、みんなで一緒に歌えるアンセムっぽいタイプの曲を考えていたんだ。アイディアを得たのは古代ローマからで、あの頃は拳闘士が競技場に登場して闘いを始める前に、いつも皇帝がこう言ったんだよ。「死すべき者達に、我らは敬意を表す」(For those about to die, we salute you)って。俺達は、凄く伝わるものがあるな、と思ったんだ。俺達だって、時々自分達が戦場にいるような気分になったりするだろ?
BRIAN: そうさ、Angusが言うように、俺達もあの頃のように熱気を帯びて汗まみれになって、ロックンロールの競技場にいるんだよ。あの曲は、ファンに対する究極の敬意だと俺達は思ってる。「おやすみ、みんなが大好きだよ」と言う代わりに、俺達はこれをやるのさ。
ANGUS: それに、大砲が炸裂すればみんな目を覚ますだろうからね。さっさと会場を出ていくこともないだろうし(笑)。「車に乗って出てくる客をやっつけてやれ」なんてことは絶対に言わないのさ。
LAUNCH: ニューアルバムに入っていた「House Of Jazz」はどういう話なのですか?
ANGUS: あの曲は俺とMalcolmでほとんど書いたものなんだけど、ある時、俺達はカリフォルニアでリハーサルをしたんだ。そのために場所を借りたんだけど、そこへ行ったらまるで昔の『Batman』のテレビシリーズのセットみたいだったんだよ。奇妙に歪んだ窓とか、何もかもが不思議な形で、装飾もピカソが夢の中で思いついたものみたいだった。そこへ入ったMalcolmは部屋を見回して、「これどう思う?」って言ったんだ。俺が「おもしろいね」と言ったら、彼が「お前ならなんて呼ぶ?」というんで、「知るわけないよ」と応えたんだよ。そうしたら、彼が「まるでhouse of jazzって感じじゃないか?」と言ったのさ。俺はもう笑いが止まらなかった。全くそのとおりだったんだもの。俺達はこれまでもずっとそんな風に変わった場所を経験してきたんだ。色々な環境や色々なレコーディングスタジオをね。
LAUNCH: Angus、あなたとMalcolmとの間の関係というのは昔から変わりありませんか?
ANGUS: 俺はMalcolmの弟だから、兄弟や姉妹のいる家族ならどこでも同じことなんじゃないかな。いつも弟に自分の周りをうろうろしてほしくはないだろ。だけど、AC/DCを始めた時から、俺達は前以上にうまくいくようになったんだ。子供同士としてもね。子供の頃はいつもぶつかりあったし、興味の対象も違ったけど、バンドを結成したら…なんというか、俺達2人だけの間の連帯感というか…音楽という要素が加わったからなんだろうけど。音楽に関しては、自分達が何を求めているのかはっきりとわかっていたみたいだし。2人ともロックンロールの大ファンだったからさ。でも、未だにケンカするけどね。(笑)
LAUNCH: バンドの歴史を総括するようなボックスセットをリリースすることを、考えたことはありますか?
ANGUS: え? 聖書みたいに?
BRIAN: そういうものを今、出すようなことをしたら、かえってバンドを安っぽくするようなものだと思う。だからこそAC/DCの曲は、テレビでやっているような(とアメリカ風のアクセントで)“'80年代のロック総集編。こちらにお電話して下さい。今ならナイフのセット付き! 素晴らしいアイディア、素晴らしい商売!”なんていうコンピレーションアルバムに入ってないんだよ。安売りをしないことが一番いいんだ。オリジナルのアルバムのままでおいた方がいいんだよ。
ANGUS: バンドとしてこの先どうなるかはわからないけど、もしかしたらファンからそういうものが欲しいという要望が寄せられることもあるかもしれない。出す理由があるとしたらそれだけさ。そういうものをファンが求めているなら、その期待は大事にしなくちゃいけないだろ? 凄くいいパーティ向きアルバムを作ることが出来るとは思うけどね。隣近所をカンカンにさせるようなやつをさ。(笑)
BRIAN: ロックンロールを聴いたこともないような人でも買うよ、きっと!(笑) |