流行にはまったく無縁なものだってことは分かっている。でも、それこそがDream Theaterの個性なんだ
流行にはまったく無縁なものだってことは分かっている
でも、それこそがDream Theaterの個性なんだ
時は'99年。“ディーヴァ”を自称するおぞましい連中が陳腐なバラードでチャート上位に立ち、甘ったるいだけの退屈な少年少女バンドが全国のティーンのハートをつかむ。ラジオのヘヴィローテーションは今日も、単調でお手軽なロックソングだ。ラップやラップメタルが若者の怒りを代弁しているとされる、そんな時代。では、Dream Theaterのようなプログレッシヴメタルバンドは、さて、一体どうしたらいいのだろうか?
7か月を費やして、25分の長大な曲を計77分のコンセプトアルバムに展開。そのアルバムには、多種多様なキャラクターや時代、過剰なまでにさまざまなスタイルが詰め込まれている。現代に生きる男(Nicholas)が、自分は実は、2人の兄弟とともに詐欺事件に巻き込まれ、無惨にも若くして殺された'20年代の少女(Victoria Page)の生まれ変わりであったことを知る…という、おどろおどろしいスリラー映画風のストーリーを作り上げた。そしてそのアルバムに『MetropolisPt. 2: Scenes From A Memory』なる重厚なタイトルを冠し、大衆に向けて放ってしまうことになったのだ。
果たして、その結果は素晴らしいものとなった。10年間のキャリアによって得た堂々たるテクニックもさることながら、『Scenes From A Memory』には彼らの情熱が余すところなく注ぎ込まれている。“Metropolis Pt. 2”('92年のゴールドディスク『Images & Words』に収録されている長さ9分の曲“Metropolis Pt. 1: The Miracle And The Sleeper”の続編として作られている)という曲を土台に構築されたこの新作。大音響のロックリフからアラブ風メロディ、さらに(コンセプトにふさわしく)'20年代の有名なダンス曲“The Charleston”まで、ありとあらゆる要素を取り入れている。そしてこのアルバムは、Kenneth Branaghの監督映画「愛と死の間で(DeadAgain)」をベースにし、“過去と現在の衝突”というテーマを中心に据えた、野心的なプロジェクトでもある。人当たりのいいドラマーMike Portnoyは、このアルバムを「パルプ・フィクション(Pulp Fiction)」や黒澤明の名作「羅生門」になぞらえる。さまざまなキャラクターの視点からストーリーが語られ、時代を行ったり来たりするからだ。
15年前の結成以来、Portnoyとバンドメンバーはコンセプトアルバムに取り組みたいとずっと思っていたが、この怪物に挑戦するのは容易なことではない。「大変だったよ」と彼は振り返る。「なぜって、僕らの好きなコンセプトアルバムは、歌詞はほとんど1人の手によって書かれてるんだよ。例えば(Pete)Townshendは『Tommy』と『Quadrophenia』をほとんど1人で書いたよね。Fishも『Misplaced Childhood』をほとんど1人で書いたし、RogerWatersもほとんど1人で『The Wall』を書いてる。でも僕らのバンドには作詞家が複数いるんだ。それぞれ別々の視点がある中で、うまくコンセプトの焦点を保つことができるか心配だった。だからコンセプトがずれないように常に気を配ったし、たっぷり時間をかけて構想を細かく練っていったんだ」。PortnoyとギタリストのJohn Petrucciの2人がほとんどの歌詞を手がけたが、ヴォーカリストのJamesLaBrieとベーシストのJohn Myungも1曲ずつ歌詞を提供している。
ハードコアなDream Theaterファン(実に多くのファンが存在するのだ)は、バンドがなぜ今コンセプトアルバムを作ることにしたのか、不思議に思っているようだ。「僕らは、特に僕は、コンセプトアルバムをやりたいってずっと思ってたんだよ」とPortnoyは言う。「僕の好きなアルバムって、みんなコンセプトアルバムばかりなんだ。でも、過去にこれをやっても絶対うまくいかなかったと思う。アルバムを作り始めようとすると決まって、コンセプトを完璧でなくしてしまうような曲がいくつか出てきたからね」。キーボーディストJordan Rudessの加入によってそんな時代も去り、彼らの音楽性はより完璧になった。しかし'96年に書かれた“Metropolis Pt. 2”はまだ完璧とは言えなかった。というわけで、この曲の発表を熱望する無数のファンの期待に応え、さらにバンド自身の望みもかなえるために、彼らはこの曲を発展させ、フルアルバムにしたのだ。
確かにDream Theaterのファンは、こういった余り物すら欲しがるようだ。インターネットのニュースグループでは、ファンたちがありとあらゆることを議論している。「Awakeのヴォーカルは(IronMaidenのBruce)Dickinsonの影響か?」「VictoriaになったNicholasについて分からないこと」というもの、また中には「John Petrucciはまだロングヘアなのか?」なんていうものもある。「クレイジーな連中を見てみたいんなら、mikeportnoy.comに行ってメッセージボードを見てみるといいよ」とPortnoyは言う。「新作は今週出たばっかりなんだけど、他のサイトではちょっとお目にかかれない、信じられないようなアルバム分析が載ってるよ。ファンはみんなこのアルバムの歌詞とストーリーに相当入れ込んでてね、まるでOrson Wellesの新作映画でもあるかのように徹底的に分析してるんだ。ホントすごいことになってるよ」
「とてつもなく凄い究極のレコードを作る、
最高に見栄っ張りで、大袈裟で、豪華で、
過激なミュージシャンになりたい」
これはほとんど脅迫的にすら思える。が、ドラマーはこう明言する。「望みどおりのことさ。だって、ファンが議論している1つ1つの面に、僕らは時間とエネルギーを注ぎ込んできたんだよ。僕らは、ただプラグを突っ込んで「ロックしようぜ、野郎ども!」なんてバンドとは違う。曲、メロディ、歌詞、サウンドエフェクト、構想、どれをとっても気の遠くなるような時間をかけて、1つ1つのディテールを突き詰めていったんだ。だからこそ、それを徹底的に分析する人たちもいるわけで。僕らの目的は達成されたと思ってるよ。ファンにも満足してもらえたと思う。特にこのアルバムは、ただの曲の寄せ集めではないんだ。ちょっとずつつまみ食いして聴くようなものじゃない。2時間の映画を座って見たり、1冊の小説を読んだりするのと同じようなもので、聴くのにとても労力のいる作品なんだ。このアルバムを完全に味わいたいなら、始めから終わりまで通して聴くことだね。座って歌詞カードを見ながら、それぞれのくだりでどのキャラクターが話しているのか、過去にいるのか現在にいるのかを心に思い描いて、一音たりとも聴き逃さないようにヘッドホンで聴くんだ」
新作アルバムを別にしても、'99年はDream Theaterにとって驚くほど実り多き年だった。'98年のオフの期間中、バンドメンバーはさまざまなサイドプロジェクトに挑戦している。PortnoyとPetrucciは、RudessとベーシストのTony LevinとともにLiquid Tension Experimentに参加して、2枚のアルバムを制作。Myungと元キーボーディストのDerek Sherinianは、King's XのギタリストTyTabor、DixieDregsのドラマーRod MorgensteinとともにPlatypusに参加して1枚のアルバムを制作し、さらにもう1枚も近々発売される予定だ。そしてLaBrieは、Mullmuzzlerというサイドプロジェクトに参加した。さらにこれでも気が済まないのか、PortnoyはSpock's BeardのフロントマンNealMorse、MarillionのベーシストPete Trewavas、Flower KingsのギタリストRoine Stoltとともに、『ScenesFrom A Memory』のレコーディングの合間にアルバムを1枚レコーディングしている(DreamTheaterのオフィシャルWebサイトwww.dreamtheater.netによると、そのアルバムには計5曲75分が収録されており、その中には15分に及ぶProcol Harumのカヴァーも含まれているという。Metal Blade Recordsから近日発売予定、乞うご期待)。
このような怒濤の活動状況にもかかわらず、休息はまだまだ期待できそうにない。彼らはすでにツアーに出ており、'99年12月中はヨーロッパで全作品からの曲をフィーチャーしたウォーミングアップ的なセットをこなし、その後1月に米国で“Metropolis 2000”ツアーをスタートする。このツアーで彼らはアルバムの全曲を演奏し、それに合わせたステージショーも披露するということだ。「『TheWall』や『Operation:Mindcrime』みたいな、大がかりな演出にするつもりなんだ」とPortnoyは語り、さらに2000~3000席の会場で演奏したいとも付け加えた。
コンセプトアルバムという発想自体に人々が引いてしまうような時代にそれをやってのけ、その上きわめて壮大なコンサートの野望を抱いているDream Theater。彼らは、見栄っ張りアーティストというレッテルを貼られることを恐れてはいないのだろうか?そんな質問に対してPortnoyは、「僕らは、とてつもなく凄い究極のレコードを作る、最高に見栄っ張りで、大袈裟で、豪華で、過激なミュージシャンになりたかったんだ」ときっぱり断言してくれた。「それがこのバンドの目標だし、僕らがたくさんのファンをつかんだ理由でもあると思う。何かそれ以外のことをしたら、ファンを完全にがっかりさせることになるよ。そして今回僕らが出したこのアルバムは、まさしくファンが求めていた作品そのものだと思う。アルバムを作るときに考えるのは、あの仰々しさを求めてくれているファンのことだけだよ。LimpBizkitのファンにインターネットでボロクソにけなされるだろう、なんてことは考えないよ。そんなのはどっちみち避けられないことだしね。僕らのやっていることが、'99年にはそぐわない、流行にはまったく無縁なものだってことは分かっている。でも、それこそがDream Theaterの個性なんだ」
Bryan_Reesman
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