【連載コラム】a flood of circle『THE WILD BUNNY DIARIES』13本目=佐々木亮介、「ζ」

<Tour WILD BUNNY BLUES> 13本目
202年3月8日(土) 鹿児島 SR HALL
書き手:佐々木亮介 (Vo, G)
◆ ◆ ◆
3月7日
昨晩神戸で演奏を終えた後、すぐさま西へ移動し、岡山まで行って止宿。
朝のうちに発って鹿児島へ向かう。
8時間か9時間かの道程。
と言っても自分は積載物の一つとして小さくなっているだけ。
車中では概ね惰眠を貪るしかない。
まあ寝てりゃ良いんだから楽と言えば楽ではある。
弊社の社用車トヨタ・ハイエースワゴン・グランドキャビンは、たった今Googleで検索したところ“上質な空間と十分な荷室のスペースを確保し”ているとのことで、これは体感でその通り、最高じゃん、ありがとう、と言える。
でもそれは人間と適量の荷物だけを運ぶ場合の話であって、我々のように楽器だの機材だのを満載するとなると一人一人の占有域に限りが生じる。
それでも楽と言えるか。
いや俺は言えない。
贅沢を言っているのだろうか。
それは人による。
だから自分は少しでも上半身を横たえるために限界まで膝を曲げ、ギリシア文字で言えばゼータの小文字(ζ)を横倒しにしたような体勢を取るのが常になっている。
これが2時間くらいの移動なら“ζ”でも構わない。
景色など観て、山だなとか海だねとか言って、朗らかにやり過ごせる。
しかし8時間越えの“ζ”となるといよいよ虚無感が芽生えて来るし、無理してでも売れてーよクソとか騙してでも金が欲しいんじゃボケとかいう欲も湧いてくる。
“ζ”の窪みの底らへんからじゅわじゅわと染み出してくる。
ただし“ζ”の姿勢で焦りを抱えていると、落ちるところはあくまで不快感と抱き合わせの惰眠であって快眠とは行かない。
そうすると、じゃあちょっと何か、もう寝ないでいいや、狭い空間だとしてもいい、いわゆる生産性ってやつですか、一丁ぶち上げてやろうじゃんよお、無駄な日なんてありえないってよおピロウズだって歌ってんだからよお、ナメんじゃねえよ一重瞼を、というような気持ちもまた湧いてくるのである。
それで“ζ”の窪みの上にノート型パーソナルコンピュータを置いて、Logicというアプリケーションで曲を作ることも多い。
思いつきでゼロから作ることもあるし、それまでに録音してあった素材を用いてデモを仕上げることもある。
そんなんでよく車酔いしないねと言われることがあるけれど、こちとら20年近く“ζ”を保っている身なんで、三半規管がすっかりしっかり鍛えられて滅多に車酔いなどしない。
子供の頃は車、全然駄目だったのに。
むっ、ということは自分の場合、売れてるやつら、それ即ち、新幹線か飛行機での移動が常態のやつら、という認識なのだな。
それが売れたいの正体だとしたら、なんか野望が小さいよねとは言える。
さて俺はこんな車内で“ζ”になってさえ曲を作っている、うん、生真面目な頑張り屋さんだよね、ちょっと貧乏臭いけど偉いやっちゃな。
というように自尊心がそれなりに満たされてくると、実際大したものが生まれていないにも関わらず、もうやーめぴとなる。
で今度は他人が作った音楽を聴いたりする。
この日はスパルタローカルズの「ばかやろう」という曲を何度も聴いた。
何故聴きたくなったのだろう。
あ、さっき車内で作り込んでいたポストパンク風のリフを軸にした曲が、なんだかスパルタローカルズのパクリみたいな曲だなあ、と思ったからだ。
スパルタローカルズと言えば自分が18歳の頃を思い出す。
大学に入った4月、軽音楽部ってどんなものかと見学に行って、その場に居た先輩に「今スパルタローカルズを聴いてないやつはモグリだ。君は?」的なことを言われたのだ。
自分は「っすよね〜、はいはい、わかりますわかります」的な言葉を返し、でもまあ当然モグリだった訳で、慌ててスパルタローカルズのアルバムを買って辻褄を合わせた、どころか辻褄云々を越えて衝撃を受けたのだった。
スパルタローカルズは格好良い。
トンガっているのにチャーミングで。
結局自分は軽音学部に入ることなくa flood of circleをやり始めたから、その名も知らない先輩がホンモノだったのかどうか知る術もない。
おいおい、ホンモノってなんだよ。
モグリな自分を必死に取り繕ってることって今でもよくあるな。
え、モグリってなに?
ブラック・ジャック?
じゃあ取り繕わなくてもカッコいいじゃん。
というような訳で、自分にとって思い出が濃いスパルタローカルズのアルバムは2004年の『SUN SUN SUN』と翌年の『DREAMER』。
「夢ステーション」は今聴いてもその時住んでいた新所沢という町の景色や匂いまで一緒に脳内再生される。
夜中に航空公園でギターを弾いて歌ってた頃。
だって誰にも怒られないから。
そして特に突き刺さった曲が2006年の「ばかやろう」である。
正に突き刺してくるようなトンガりまくった演奏が録音されている。
自分も歌詞の通り“夕方3時に目覚める”ことがよくあったし、また歌詞の通り“ビッシビシ”を求めていたんだと思う。
サビの左チャンネルに入ってる謎の音は何なんだろう、獣の声のような、鈍器で何か殴ってる音のような物騒な音。
馬鹿野郎!という怒声は、聴き手を挑発しているようで、自分を叱っているようで、そして“馬鹿やろう”と誘っているようでもある。
まあ今ではバイトもせずにバンドなどやって生き延びてるし、要らない変な服を買ったりしてるし、気づいたらお年玉あげてるし、アルコールを頼りにしていれば着々とビール腹になっていく訳で、“ζ”のくせに言うのもアレなんですけど、バンド始めた頃の自分からしたら今の自分ってこの歌詞に出てくる“切り捨て御免 / 情けは無用だと / 太りまくってる リッチが笑う”側を目指しちゃってる気がしてきた、つーかどんどん寄ってっちゃってんじゃん、という感じもする。
まだ売れる気でやってるってことは、まっしぐらじゃん。
俺は欲張りなんだ。
自分のやり方でのさばろうとしてるんだ。
納得してない。
馬鹿やろう。
今日もビッシビシくる曲を求めよう。
それがすごく遠くにあっても近づきたい。
色んなことがダメになる前にそれをもっと近くで見たい。
触りたいんです、奪いたいんです、すべてあげます、というようなことかも知れない。
そんなことやメシのことやエロいことなども考えて、鹿児島に着くまで、また着いてからも時間を忘れて断続的に曲を作ったりサボったりまた作ったりした。
別にいつもこのように頑張ってる訳じゃないですよ、そう言う日もあるということでね。
なんかもう無理という日もありますしね。
遊んでるだけの日もありますしね。
さて気づけば外は明るい。
何時か分からない。
ホテルにはベッドがある。
ベッドではθでもξでもψでも良い訳で、疲れ果てた頃に寝落ちした。
久しぶりの快眠だった。
3月8日
夕方3時に激しくホテルの戸を叩く音。
「佐々木くん、夕方5時からライブだよ」と声。
そういう事情でサウンドチェックせずに演奏した鹿児島でのライブは、きっとツアーの最後に辿り着いて振り返っても自分にとって一番楽しかったライブの一つだと言える内容だった。
みなさんのおかげです。
ありがとうございます。
トヨタも先輩もありがとうございます。
みなさんどうかお元気で。
まじで。
鹿児島が一番楽しかったとなるかは分からない。
まだツアーが終わってないから。
終わってないって残酷だよね〜未来の無限さってやつはよ〜人の諦めを悪くさせるよね〜
まあ君、一生懸命行けるところまで行って後から考えたまえ。
行き着く先は大体一緒なんて分かった顔しても、時々現れるキラキラを追いかけちゃうだけなんだから。
──佐々木亮介

◆ ◆ ◆
■<a flood of circle Tour 2024-2025>
▼2024年
11月28日(木) 千葉LOOK
11月29日(金) 千葉LOOK
12月06日(金) 堺FANDANGO
12月07日(土) 堺FANDANGO
w/ THE CHINA WIFE MOTORS
▼2025年
01月23日(木) 名古屋CLUB UPSET
02月09日(日) 京都磔磔
02月11日(火祝) 広島SECOND CRUTCH
02月13日(木) 松山Double-u Studio
02月15日(土) 高知X-pt.
02月16日(日) 高松DIME
02月18日(火) 静岡UMBER
03月06日(木) 神戸太陽と虎
03月08日(土) 鹿児島SR HALL
03月09日(日) 大分club SPOT
03月11日(火) 岐阜ants
03月16日(日) 横浜F.A.D
03月20日(木祝) 新潟CLUB RIVERST
03月22日(土) 郡山HIPSHOT JAPAN
03月23日(日) 盛岡CLUB CHANGE WAVE
04月05日(土) 長野J
04月06日(日) 金沢vanvanV4
04月10日(木) 奈良NEVER LAND
04月12日(土) 出雲APOLLO
04月13日(日) 福山Cable
05月09日(金) 仙台MACANA
05月10日(土) 水戸LIGHT HOUSE
05月15日(木) 八戸ROXX
05月16日(金) 八戸ROXX
05月18日(日) 山形ミュージック昭和SESSION
05月23日(金) 岡山PEPPERLAND
05月25日(日) 福岡CB
05月30日(金) 札幌cube garden
05月31日(土) 旭川CASINO DRIVE
06月05日(木) 名古屋CLUB QUATTRO
06月06日(金) 梅田CLUB QUATTRO
06月13日(金) Zepp DiverCity TOKYO
06月21日(土) 沖縄output

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