【対談】GLIM SPANKY × 花譜、コラボ楽曲「ひみつを君に feat. 花譜」に秘密の数々「音楽活動のターニングポイントに」
■秘密というのは隠すことじゃない
■言う相手がいないこと
──さて、「ひみつを君に」はどんなところからどんなふうに作っていったのでしょうか?
松尾:亀本の中で、“花譜ちゃんと松尾さんが歌うんだったらこういう曲がいい”っていうイメージがかなりはっきりと浮かんでいたらしくて。私も作ったんですよ、1曲。“こういう感じかな”ってワンコーラスを。そうしたら、亀本が「もう全部イメージが浮かんでいるから」みたいな感じで、歌のメロディまで作ってきたんですよ。だから今回は、亀本の作ったメロディをかなり採用しつつ、私もアイデアを出しながら作っていったんですけど、亀本が明確なイメージを持っていたこともあって、メロディとかコードのイメージとか、曲が持つ空気の匂いとかがはっきりしていたので、私も歌詞を書くのがすごく楽しくて、すっと書くことができました。
亀本:GLIM SPANKYは以前まで松尾さんがメロディを書いていたんですけど、最近少しずつ自分でもメロディを作って、松尾さんに提案するようになっていたんです。今回もメロディを作っていったら、全部できちゃったので、それを松尾さんに聴いてもらって。そこからは一緒に進めていきつつも、メロディを作る時って僕はやっぱり歌ってる人をかなり想像しながら考えるので。普段はもちろん松尾さんが歌うことを想像しながら作ってますけど、今回は花譜さんが歌っているところを想像ながら作ったら、こういう曲になったっていう感じですね。
──亀本さんの中では、どんなイメージが浮かんでいたんですか?
亀本:歌詞にも描かれているように、“夏の夜”というのがイメージにありました。
松尾:最初、亀本から曲が上がってきた時に、「どういうイメージ?」って訊いたら、「GLIM SPANKYがインディで出したミニアルバム『MUSIC FREAK』に入っていた「夜風の街」みたいな曲」と言っていて。その曲は、私がまだ大学生だった時に作った曲で、下北沢のライブハウスにライブをしに行く時の夏の夕方の空気を、まだ小田急線の駅が地上にあった頃の下北沢の街の風景とともに描いていたんですけど、「なんか、ああいうイメージの曲がいい」と。「夏の夕方の、たとえばお祭りに行く前のワクワク感だったりとか、誰もが絶対に経験したことがある夏の楽しさとか寂しさとかが入り混じるエモーショナルさとか、そういう歌詞を作ってほしい」って言われて、想像を膨らませながら作ったという感じだよね?
亀本:「夜風の街」は、松尾さんから「GLIM SPANKYの、どの曲に近い?」と訊かれたから挙げただけだけど。でも、そういう感じでした。
──花譜さんはこの曲を聴いたとき、どんなふうに感じましたか?
花譜:まさしく夏の終わり頃の夕方を想像しました。一人で道を歩いている情景が広がって、“これから誰かに会いに行くところなんだ”と思いました。歌詞のイメージから思い出したことがあって。私の好きな映画のセリフで、「秘密というのは隠すことじゃない 言う相手がいないこと」みたいなのがあるんですけど、この曲を聴いたとき、それが頭の中に浮かんできて。その人にそれを伝えるかどうかを迷っていたりとか、“伝えなくてもいいや”って思いながらも“やっぱり伝えようかな”って気持ちが出てきたりとか。そんなふうに気持ちが揺らぐ中で、二人の距離が近づいたり、離れたりしているところがすごくキュンってくるって思いました。
──ちなみに何という映画のセリフなんですか?
花譜:『秘密の森の、その向こう』(2022発表/セリーヌ・シアマ監督)という作品です。
松尾:気になる。
──「ひみつを君に」の“ひみつ”とは、相手のことを好きだという気持ちだと思うのですが、夏の夜というモチーフから、花譜さんがおっしゃったように離れたり近づいたりする二人の距離を含め、恋愛を思わせるストーリーを作り上げていったのは、どんなきっかけ、あるいはどんな発想からだったんですか?
松尾:一聴すると、確かに恋愛っぽいと思えるかもしれないんですけど、私的には、もしかしたら同性の友情かもしれないとか、家族かもしれないとか、いろいろな捉え方ができる言葉を使いたいと思ったんです。
──なるほど。
松尾:より多くの人に共感してもらいたいので、恋愛の物語のようにも思える景色を書いたんです。夏祭り前のワクワクとか、“どこかで花火が上がった。どこだろう? みんなで行ってみよう”みたいなものって、もう最強にエモーショナルなひと時だと思うんですよ。それって何歳になっても変わらないような気がするから。そういう日常の中のときめきを切り取って、歌詞にするっていうことが、今回やりたかったことのひとつでした。ただ、それを自分ひとりで歌ってしまうと、超パーソナルな、自分だけの表現になってしまうというか、“届く人には届くかもしれないけど”みたいなものになることもあると思うんです。だけど、そこに花譜ちゃんの歌が加わることによって、いろいろな景色が見られるんじゃないかと思ったんです。花譜ちゃんと私は同性だから、二人の歌を聴いたら友達同士に思えるかもしれないし、私の声は花譜ちゃんの声に比べてボーイッシュだから、そういう意味では、男女のようにも聴こえるかもしれないし。
亀本:そうだね。
松尾:そういう情景をいろいろな角度から捉えられるような曲にしたいなとは思ってました。
──花譜さんは「ひみつを君に」をレコーディングするにあたっては、どんなふうに取り組んだのでしょうか?
花譜:一回仮歌を録って、お二人にお渡しして、「ここをちょっと直して」と言っていただいてから、本番レコーディングしたんです。私が歌う時に一番気をつけているのが、後から自分で聴いた時に、“歌いながら思い浮かべてたものを思い浮かべられるか”、“頭の中にあったものをちゃんと全部出力できたか”ということなんです。その意味では、特に二番の始まりの情景を歌うところは、景色とか温度とかを想起できるような歌を歌いたいと思いながらレコーディングしました。
──花譜さんがこの歌を自分のものにするのに、どれくらい時間が掛かりましたか?
花譜:そんなに掛からなかったと思います。お二人もおっしゃってましたけど、この曲を聴いた時に誰もが思い浮かべる、普遍的だけど特別な瞬間があるというか。聴く人それぞれが違う背景を持っているけど、その一点に集まるイメージがあるというか。私の中にもそこに重なる景色があったから、全然迷わなかったです。
──花譜さんの仮歌を聴いて、お二人はどんなふうにディレクションしたんですか?
亀本:特にはなかったよね?
松尾:うん。なかったけど、歌う場所を変えました。
亀本:ああ、それが一番難しかったんですよ。
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