【インタビュー】fuzzy knot、始動から2年半の来歴と最新曲に込めたメッセージを語る「作品は時間を超えていく」

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シドのShinji (G)、RayflowerやWaiveの田澤孝介(Vo)が2021年に立ち上げたロックユニットがfuzzy knotだ。ルーツである1990年代の日本の音楽をエッセンスとして卓越したメロディーセンスとアレンジ力を発揮するShinjiと、超人的な歌唱力を誇り多彩な声色を持つ田澤とのタッグは、これまでフルアルバム1枚、ミニアルバム1枚、配信限定含む3枚のシングルのリリースを続け、fuzzy knot固有のジャンル横断的な名曲群を生み出してきた。

◆fuzzy knot 画像 / 動画

9月20日にリリースされたデジタルシングル「時の旅人」表題曲は、田澤がかねてから抱いていたケルト音楽への憧憬をShinjiが音に具現化し、荘厳なミディアムナンバーに昇華した新機軸だ。神秘性をまといながらも、太い幹を持つ大樹のような不朽の生命力を感じさせる力強い楽曲でもある。一方の「ブルースカイ」は明るく爽快なロックナンバーとして無条件な楽しさをもたらすが、繊細な心象風景が歌詞には描き込まれており、コロナ禍を経た今こそ噛み締めたい言葉がひしめく。ユニット始動から2年半、現在までの来歴を振り返る質問も織り込んだシングル「時の旅人」ロングインタビューをお届けする。


▲デジタルシングル「時の旅人」

   ◆   ◆   ◆

■楽曲が湾曲して伝わってしまっても
■形にすることをやめないということ


──「時の旅人」は、ケルト音楽のエッセンスを感じる美しい曲で、新境地を感じました。

Shinji:元々は“田澤からの要望に応えたいな”というところからつくり始めた曲なんです。今までも何回か要望は聞いていたんですけど、僕は台本がないほうがつくりやすいタイプなので、「ごめん、今回も要望を叶えられなかった」みたいなことが多くて(笑)。fuzzy knotってライブ経験は少ないんですけど、実は結構ギターがガンガンくる曲が多くて“(ステージ上で)忙しいな”と思っていたんですよ。ここらへんで、ギターがさり気なく後ろで支えるような曲があってもいいかなとも思ったので、他の音をふんだんに入れ込んで。fuzzy knotではちょっと珍しい曲かなと思います。

──田澤さんは前々からの要望が、ようやく叶ったわけですね?

田澤:いつもそんなに強くお願いしていたわけではないですけどね(笑)。「俺、ケルティック好きなんよね」とか、会話の中で言っていたのをShinjiが受け取ってくれたんだと思います。

──Shinjiさんの曲づくりは、まず何からスタートさせていくんですか?

Shinji:毎回違ってて。いちばんいいパターンは、曲づくりの途中で「一回作曲やーめた」ってお風呂に入っている時とかにふと…カッコよく言うと、曲が降ってくる時があるんです。まぁ滅多にないんですけど。そういう時はそのメロディからワーッと繋げるようにつくっていって、 30分ぐらいでできてしまうこともあります。でも、だいたいがデスクに向かってつくりますね。今回は“ケルトっぽい雰囲気を出したいな”と思っていたので、叩き台となるアレンジでまずはそこをつくって、 鼻歌を乗せて完成させていった感じです。

──ケルト感を出すには、具体的にはたとえばティンパニとか笛とか、楽器選びからスタートするものなんでしょうか?

Shinji:楽器選びもありますけど、僕はギタリストだから鍵盤は1拍ずつしか弾けないので、シンセで音色を選ぶ時もそんな感じで。だから、最初はまずケルト感のあるスケールでギターフレーズをつくっておいて、その後で“このギターを笛に差し替えていこう”みたいな感じですね。


▲Shinji (G)

──田澤さんは作詞にあたって、どんなふうにアプローチされたのですか?

田澤:最初にデモを聴いた時、“何をどう言うのかがすごく難しいな”と思いまして。当然、自分の好きな類いの音楽なので心地よかったんですが、楽曲のスケール感が大きいだけに、あまりに身近過ぎる言葉を乗せたら楽曲の印象と合わないし。かと言って、スケールのデカいことを歌っても自分の言いたいこととは離れてしまう。まずはどこに落とし込んでいこうかなって考えました。そのうち、“あ、そうやって悩んでいる姿を書こう”となったんですよ。

──表現者としての生みの苦しみ、みたいなことでしょうか?

田澤:そう。放たれた作品がどういう扱いを受けるのか、とかですね。制作側の愛着とは裏腹に、作品って受け取った人のものになっていくから、その喜びとか、それによって生じるジレンマとか…曲がって伝わってしまって辛い想いをすることも正直あったりするので。でも、それでもやっぱり“綴っていけよ、歌っていけよ”ということ。“放つことをやめない、形にすることをやめない”ということ。時間を超えていく作品というものを“時の旅人”と名付けてみたら結構いいんじゃない?って。

──“その身晒せば 誰も無口ね”のくだりは、匿名同士の言い合いが起きがちなSNSのことを歌っているようにも読み取れます。

田澤:自分もここ2年ぐらい、Twitter (現X)をやるようになって、自分ではなくても、誰かが何かを言われているシーンを目にするんです。名前も素性も明かしていないから好き勝手言えることが、常々問題になっていたりしますよね。僕たちはどちらかと言うと、その“好き勝手”を受ける側の人間なので、“同じ立場にいたら、今と同じように好き勝手言えるんかな?”という憤りも感じたし。

──発信することへの責任ですよね。

田澤:そう。立場というのは職業とかではなく、自分が誰なのかを明かした上で、発した言葉に対する責任がある状態でも同じことが言えるのかなということでね。そういう意味で、たとえばネジでも何でもいいんですけど、自分の手で何かを生み出している側の人に響く歌なのかなと。そういう人へのシンパシーというか応援歌……というほどでもないけど、結果的にそうなればいいなと。紆余曲折してではありますけど、いいところに辿り着いた歌詞だと思います。


▲田澤孝介 (Vo)

──Shinjiさんは歌詞に関して、“こういう方向性がいい”とか要望は伝えられるのですか?

Shinji:今回は言ってないよね? 

田澤:うん。いつもわりと自由にやらせてくれます。最初のアルバム『fuzzy knot』(2021年6月発表)の時だけは、“あまりにもかけ離れたことを書いちゃうと嫌かな?”という、ユニット始めたてならではの距離感で(笑)、「遠慮なく要望とかちょうだいね」って一応僕から言って。ただ、10曲とも「こういうふうに書いてほしいな」という要望が来つつも、最後に「とはいえ、これはあくまでも自分の意見で、田澤さんが書きたいように書いてくれるのがいちばんいいから」って必ず添えてくれたし。歌詞の内容に対する意見って特には言われないですね。

Shinji:自分個人としては、歌は語呂ってすごく大事だなと思ってて。fuzzy knotを始める時に僕がコンセプトとして掲げていた1990年代の音楽は、結構そういう曲が多かったんじゃないかなと。だから、最初に歌詞をもらった時にはそこを気にして見ています。「時の旅人」の歌詞は、「いい」としか言ってないよね? 

田澤:そう。喜び半分、「ほんまに気遣ってへん?」とは思います(笑)。

Shinji:直球の歌詞ではないじゃないですか。たとえば“ハンバーガーを食った”とかではなく、聴き手がどうにでも捉えられるのってすごいなと思いますね。僕は直球の、日記みたいなことしか書けないので。

──歌詞に描かれている表現者の苦悩について、Shinjiさんは共感なさいましたか?

Shinji:いやぁ、共感しますよ。天才の人とか“切れば出てくる”みたいにカッコよく言う人がいますけど、切っても出てこないですよね(笑)。

──でも、「お風呂に入っているときにふと曲が降ってくる」のは天才タイプなんじゃありませんか?

Shinji:毎回降ってきたらカッコいいですけどね。でもやっぱり曲づくりって、デスクに向かえば向かうほど出てこなくて。だから、申し訳ないんですよ…たとえば1ヵ月曲づくり期間をもらったとしたら、僕が3週間ぐらい使っちゃうんですよ(笑)。だから、田澤の時間がもうこんなちょっとしかないみたいな。今はそれでもやってくださっていますけど、これを5年とか10年続けたら、「おいおい、もうちょっと時間を」ってなるはず。

田澤:いや、でも現状はそんなふうには感じていないんですよ。僕はどちらかというとギリギリのほうが燃えるので。Shinjiが曲を書いてる間、僕は常々、“引き出し”をとにかく増やす作業をしておいて、曲が出来たら“よし来た! これを使おう”みたいな感じで歌詞を書くほうがきっといい。もし1ヵ月の作詞期間があっても書かないというか書けない。だから、大丈夫やで(笑)。

Shinji:ははは。

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