【インタビュー】GLIM SPANKY、『The Goldmine』に全11曲の挑戦「誰しもが自分の中に金脈を持っている」
■メロディアスな曲を作ってみよう
■って挑戦は今回かなりしました
──細かい解説、ありがとうございます。さあ、松尾さんは歌詞やメロディを作る上でどんな改革があったのでしょうか?
松尾:最初は、4曲目の「ラストシーン」を書いた時の恋愛バラエティ(『恋のLast Vacation 南の楽園プーケットで、働く君に恋をする。』)のタイアップがきっかけだったんです。外国のリゾートで若い男女がバイトしながら恋愛をするという番組で。
亀本:設定がヤバいよね(笑)。
松尾:最初は、“なんでGLIM SPANKYなの?”って。
亀本:だって、若い男女っていうのも、キャピキャピのね。
松尾:そう。“絶対にロックは好きじゃなさそうな子達の恋愛バラエティに、なんで?”と思ったら、監督がGLIM SPANKYの大ファンで、「どんな曲でもいいからお願いします!」って言ってくれたんですよ。「恋愛の曲じゃなくてもいいです」とまで言ってくれたので、だったら、“GLIM SPANKYが恋愛バラエティに書き下ろした意味があるような思い切った曲を書こう”と思って、「ラストシーン」を書き始めたんです。今までポップな恋愛ソングって、私は書いてこなかったので、そういうところに挑戦できたのは、番組と言うか、監督のお陰ってところが大きくて。
──なるほど。
松尾:“恋愛っぽいポップな曲を書くとしたら、自分はどういう曲が好きだったかな”と考えたとき、ぱっと思い浮かんで、自分の手札にできると思ったのはやっぱり'70年代のニューミュージックの人達だったんです。ユーミンさんをはじめ、当時の曲ってキュートで、真っ直ぐな恋愛ソングなんですよね。かわいいんだけど、でも、ちょっと陰もあってっていう。メロディも歌詞もそういうところをインスピレーションにしながら書きました。同じ'70年代の人達でも、浅川マキさんや加川良さんの影響は、たとえば「大人になったら」のような曲には反映させてきましたけど、ニューミュージック的なポップなものは、「ラストシーン」で初めて思いっ切りやったと思っています。シティ感みたいなものは好きだけど、やってこなかったことだと思うので、そういう部分は初めてやれたと思っていて。
──結果、往年の渋谷系も思わせるバラードになりましたね。
松尾:それと繋がるのが「Glitter Illusion」で。“何が愛かわからない”というテーマも含め、この曲はけっこう陰があると言うか、夜を連想させるあやしい曲なんです。
──はい。“歌謡R&B”なんて言ってみたい曲だと思います。
松尾:映画を撮るというか、小説を書くようなイメージで、深い心情を描くことと、説教臭くないキャッチーな歌詞を書くことを意識しながら書きました。“光るラメ”みたいな言葉を、これまでサビに入れることはなかったんですけど、いい意味で、軽い気持ちで書けたのは、自分の中で成長だったと思います。
──今回、メロディメイキングはいかがでしたか?
松尾:メロディアスな曲も好きなんですけど、ストレートなロックが好きだから、無骨なメロディを作ることが多かったんです。だけど、今回は“上がり下がりの激しいメロディアスな曲を作ってみよう”って挑戦はかなりしました。特に「ラストシーン」はそうですね。「Innocent Eyes」の、ここまではっきりと開けた感じもこれまではやらなかったものだと思います。
──「ラストシーン」の歌詞は作詞家然としているところが新鮮でした。歌詞の中に松尾さんの実体験や個人的な心情が反映されているのか、いないのかわからないですけど、聴きながら、そういうこととは関係なしに一人の作家として、この歌詞を書いたというイメージがあって。
松尾:ありがとうございます。そうかもしれないですね。この曲はさっき言ったようにニューミュージックからのインスピレーションってところもあって、ユーミンさんとか、松本隆さんとか、吉田美奈子さんとかの歌詞を読みながら。
亀本:あの人たちは完全にそうだからね。
松尾:聴いた人みんなが“自分のことかも”と思えるような歌詞を書いてみたいと思ったんですよ。
──そういう歌詞の挑戦がある一方で、「不幸アレ」の歌詞を書くとき、松尾さんはかなりノリノリだったんじゃないかと想像したのですが。
松尾:でも、これはドラマ(『サワコ~それは、果てなき復讐』)と(いしわたり)淳治さんの力がやっぱり大きくて。淳治さんってかなり思い切った言葉を提案してくれるんですよ。
亀本:ぶっ飛んだ言葉をね(笑)。
松尾:最初、ドラマから主題歌のお話をいただいたとき、この言葉を入れてくださいってリクエストがけっこう多かったんです。たとえば、“火”とか“嫉妬”とか、そういう言葉を使って、「人間のドロドロした部分を書いてほしい」と言われたので、淳治さんの力を借りようと思って、まず私が今、世間に対して思っていることや歌いたいことをばーっと書いためちゃめちゃ長い文章を送ったら、淳治さんがそれを基に歌詞を返してくれたんです。そこから、“自分だったらこういうふうに歌いたい”ということをやり取りして、出来上がった歌詞がこれなんですよ。
──そうでしたか。それにしても、「不幸アレ」ってタイトルとか、“不幸であれ”ってパンチラインは強烈ですよね。
松尾:どう歌おうかかなり悩みました。だって、みんなに“不幸であれ”なんて思ってないもんって(笑)。
亀本:そりゃそうだ。
松尾:でも、自分でそう思ってないと、歌って絶対に届かないと思うから、やっぱり自分がいかにドラマの主人公になるか、この歌詞の主人公になるかってところで悩んで、ここで“不幸であれ”って歌うんだったら、その前の歌詞は、こうしたほうが自分らしいというふうにまとめていったんです。
──僕はこういう気持ちがちょっとどこかにあるんで、“不幸であれ”と聴いて、溜飲が下がったところがあります(笑)。
亀本:ははは。
松尾:わかりますよ。わかりますけど、ライブで歌うとき考えちゃうんです。全員に“不幸であれ”ってどぎついよなって。
亀本:でも僕、映画をよく見るんですけど、別にハッピーエンドじゃなきゃイヤだってないんですよね。クソみたいなバッドエンドでも、映画としてはおもしろいってことがあるから。
松尾:わかるわかる。
亀本:それに近い感じで、みんながんばろうとか、幸せになろうとか、愛してるとか、感謝しているとかじゃない曲があったっていいんだよ。おまえら全員、不幸になっちまえって曲があってもおもしろいし、僕は普通にカッコいいと思います。
──はい。カッコいいと思います。
松尾:この歌詞が送られてきた時は、“マジか!?”ってちょっとビビったけど、確かに普段、生活しながら本当にこの世の中、“何なんだよ⁉”って思うこともあるしね(笑)。
亀本:松尾さんが歌ってるからOKな感じがする。声質がカラッと男前だから全然大丈夫。ジトジトしてたら怖いけど。
松尾:思い出した。この曲をレコーディングするとき、情念みたいなものは絶対入れたくないと思ったんですよ。女の情念みたいなのがめっちゃ嫌いで、そういうふうには歌いたくなかったので、できるだけ、ある意味コミカルに聴こえるようなストレートさと言うか、「怒りをくれよ」とか、「褒めろよ」とかもそうですけど、そういう感じで思いっきりストレートに男らしく歌うことを意識したんです。
──普段は言うことが憚られるような不謹慎なことをロックのライブで、みんなで叫ぶのも楽しいと思います。
松尾:確かにライブでかなり盛り上がる曲に成長しました(笑)。
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