<第2回改造エフェクターコンテスト>BARKS賞は、温度管理でサウンド激変の奇怪マシーン
2021年に開催され大好評となったTC楽器主催<第1回改造エフェクターコンテスト>から2年、2023年も<第2回改造エフェクターコンテスト>が開催され、すべての受賞作品が発表された。
第1次審査を突破した全23作品のなかから、めでたくBARKS賞を受賞したのは、エントリーナンバー11の「Cool Face」と名付けられた可燃ごみ箱さんの作品だ。
「Fuzz Face FFM1のシリコントランジスタをゲルマニウムトランジスタに交換し、さらにトランジスタの温度をデジタル制御できるようにしました。トランジスタを温めるだけでなく冷やすこともできるのが特徴で、温度変化によるサウンドの違いを自由に楽しむことができます」──可燃ごみ箱
真空管はもちろん、様々な素子や電子部品が温度によって特性が変わり、結果サウンドに影響を与えるのは皆の知るところだが、温度が変わらぬように工夫し安定性を図るのではなく、積極的に環境温度を変え、それによって変わってしまう音を、前向きなサウンドコントロールとして取り扱うわけだ。どんな音になるか分からないし、使い物になるかどうかも別として、とにかくゲルマニウムトランジスタをピンポイントに攻めまくるというこじらせ具合MAXのマニア魂は、BARKSスタッフのような素人をどん底に叩き落す奇天烈さに輝いていた。
真面目なのかブッ飛んでいるのか…温度管理をするエフェクターという奇怪な作品に敬意を評し、BARKS賞を授けつつ、話を聞いた。
可燃ごみ箱氏作「Cool Face」
──<第2回改造エフェクターコンテスト>に参戦するにあたり、最初からこのコンセプトで行こうと決めていたんですか?
可燃ごみ箱:ちょうどファズをいじっていたときだったので、必然的にファズで考えることにしました。ただ普通のパーツをいじっても普通すぎると思ったので、温度管理ができるようなものはメーカーからも出ていないなと思って、その方向に決めました。うまくいかなかったら、ちょっとまた別のものを考えようかなみたいな感じで。
──冷やしたり温めたり、技術的な不安はありませんでしたか?
可燃ごみ箱:温めたり冷やしたりするためにペルチェ素子という電子部品があるんですけど、もともと「いつか使おう」と思って持っていたんです。実はそれを使いたかったってのがあるんですけど(笑)。
──そこだ。そもそも普通に「ペルチェ素子を持っていた」というところがおかしい(笑)。
可燃ごみ箱:ネット通販で送料を無料にするために、追加で余計に買ったりするじゃないですか(笑)。面白そうなパーツは、そこでポチッと。それが今回役に立ったのかな。
──そうか、そういう余計な買い物も、ちゃんと役に立つんですね。
可燃ごみ箱:ギター関連じゃなくても電子工作的なものが好きなので、そういうパーツが溜まっちゃうんですよね(笑)。
トランジスタをペルチェ素子に接着するところ
温度をコントロールするための温度センサとしてサーミスタも装着
──実際着手してみて、意外と楽だった/意外と大変だった…みたいな点はいかがですか?
可燃ごみ箱:温めたりするのってパワー…電力が必要なので、それで結構ノイズが入ったりするんですよね。そういう点が未知数というか、実際に組んでみないとわからないところなんです。そこからノイズの原因と思えるところを改造していったり。そういう部分が一番苦労した点かもしれないです。
──どでーんと放熱板が設置されている点もインパクト抜群ですが、この形状も試行錯誤の結果ですか?
可燃ごみ箱:そもそもは温度が数値で見れたら楽しいので、温度を表示する画面を付けるために本体とは別枠でケースを付けたいと思って、ああいう形になりました。
──温度を表示することは、技術的には簡単なことなんですか?
可燃ごみ箱:うーん、どうなんでしょう。いわゆるデジタル関係のお話になるんですけど、ギター関連で言ったら、スイッチャーとかでの制御で、どこのスイッチでどのLEDが点灯するかとか、あれの延長にはなるんです。もうちょっとプログラムを組んで、温度情報を取得してその温度をディスプレイに表示させるんです。
──で、温めたり冷やすための電力ってどのくらい大きいんですか?
可燃ごみ箱:そうなんですよね…結構大きいんです。なのでACアダプターは1Aのものを使ってくださいという注意書きにしています。普通のファズなら数mAで済むんですけど(笑)。1Aあると急速に温めたり冷やしたりできるんです。
──筐体にそびえ立つ放熱板は、どれくらい役に立っているのでしょう。
可燃ごみ箱:見た目のインパクトもありますけど、実は冷やすときに役立っています。ペルチェ素子って平べったい形をしているんですけど、温めているときは反対側が冷えて、冷やすときは反対側が熱くなってしまうんです。で、熱くなる反対側を冷やしてあげないと、冷やす機能がきちんと働かないんですね。そういう事情で、ペルチェ素子の反対側を放熱させるために、放熱板を付けました。なので、トランジスタを冷やしてる時は放熱板が暖かくなっていると感じるかもしれないです。逆に温めているときは放熱板は冷えるはずなんですけどね。
──実際、出てきた音は?
可燃ごみ箱:サウンド的には、冷やしてみると「ちょっと元気なくなるけどいい感じだな」とか、逆に熱くしすぎると「ブチブチ言っちゃってダメなんだ」とか、そういう発見があったしすごい勉強になりました。それはもう、いろんなサウンドが出せるっていうのもあるし、自分もそこまで実感したことがなかったので。
──大成功じゃないですか。
可燃ごみ箱:結局は、自分の好きな位置で温度も固定することにはなるので、つまみを動かしながら使うっていうわけではなくて、まあそこは微妙ではあるんですけど(笑)。
──サウンドの振れ幅が想像以上に大きいので、振り切れた変態ギタリストに使いこなしてほしいなあ。今回の「Cool Face」の完成度の自己評価は?
可燃ごみ箱:完成度的には99点ですね。
──それは素晴らしい。残りの1点は…?
可燃ごみ箱:もうちょっと細かい素子というか、トランジスタを選別したりとか、そういうことをしてもいいかな、くらいですね。
──今回ターゲットにしたゲルマニウムのトランジスター以外にも、温度で影響を受けるようなパーツや部位というのは他にも色々あるのでしょうか。
可燃ごみ箱:実はギターのピックアップとか、そもそも温度で抵抗値が結構変わっていたりするらしくて、当然、特性も変わってくると思います。普段は誰も気にしていませんけど(笑)。そもそも単純に抵抗とかコンデンサといったパーツも温度によって微妙に抵抗値が変わるっていうのはあります。もちろんごくわずかですけど。
──そうか、是非ピックアップを冷え冷えにしてみてください(笑)。
可燃ごみ箱:ははは(笑)、でも音は結構変わるような気がします。
──誰も追求したことのないことというのは、まだまだ残されていそうですね。
可燃ごみ箱:みなさんがまだ気付いてないことはあるとは思うんですけど、なかなか…(笑)。
──次回<第3回改造エフェクターコンテスト>の投稿を楽しみにしております。
可燃ごみ箱:第3回、ありますかね。
──TC楽器に限って、ないはずがない(笑)。
可燃ごみ箱:また今のうちからネタを考えないと。また適当に部品を買っておいて、これは使えそうだなというものを手にしておきます。今回の「Cool Face」が一般投票であれほど票を頂くとも思っていなかったので、良いコメントとか面白いという意見も頂いていたりしたので、ほんとありがたいと思っています。
──自作も楽しみにしております。改造エフェクターに興味のある方にアドバイスをいただけませんか?
可燃ごみ箱:いや、それは難しいですけど、僕は作ったものとかもブログとかで色々発信しているので、よかったら見ていただけると嬉しいです。これから作っていくものもおそらく発信していくと思いますので。
──貴重なお話をありがとうございました。
取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)
TC楽器
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