【インタビュー】音楽のためではなく、絵を描くためのギターとは?

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2024年11月13日、第5回目となるTC楽器名物「改造ギターコンテスト」の結果が発表となった。

今回もとんでもない作品が目白押しで、機知に富むもの・キチに飛ぶもの・奇智に尽くされた名作・珍品・異形なアイテムが登場していたけれど、BARKS賞に輝いた宮崎政史氏「ギター絵画」は、頭ひとつ飛び抜けて異彩を放っていた。応募時のコメントには「ギターを弾いて、低音域だと赤色、中音域だと黄色、高音域だと青色のスプレーが出る装置を制作しました。このギターで絵を描きます」と書かれている。

このギターを使って壁のような大きなパネルに絵を描くという謎の行動に出ている様子が、すでに10年以上も前にYouTube動画でも公開されている。


これはなんだ?真面目なのかふざけているのか、本気なのかお遊びなのか、私の知見では測りかねる…ということで、「これは取材をせねばなるまい」という謎の使命感がふつふつと湧き上がり、BARKS賞を強制的に授与させていただき、応募者の宮崎政史氏にインタビューを敢行した。

結論から申し上げれば、これはアートのための道具だった。アートのための改造を余儀なくされたギターというものであり、楽器としてのさらなる進化を求めての改変ではない。様々な職人が道具を自分で作りカスタマイズするように、その向こうにある目的を達成するために改造が施されたギターだったのだ。

改造のスタート地点も到達地点も全く別次元という点において、他作品とは一線を画しているこのギター、さて、なぜこのようなものが誕生したのか、宮崎政史氏の言葉に耳を傾けてみよう。



──このギター、実は10年以上前に作られたもののようですね。

宮崎政史:そうなんですけど、ちょっとずつ改造されていまして、最初はモーターがヘッドの方についていたんですけど、もう、重すぎて。で、色々試して、今のようにモーターをボディ側に付けてワイヤーで引っ張るようにしたのが2022年ぐらい、っていう感じです。

──宮崎さんは芸大を卒業されてますが、現代アート作品で個展も開かれていますよね。

宮崎政史:大学卒業後も友達とアトリエを借りて描いていたりして、ギターで描き出したのが2013~14年ぐらい。それを使ってちょくちょく趣味で絵を描いているような感じですね。

──何を思い、何を考え、何をしたくてこの着想に至ったんですか?

宮崎政史:絵を描くのは好きだったんですけど、私が色盲なのでそもそも色を使うのが得意じゃなかったんです。なので、色もそんなに使わずに、色以外の要素…なんて言うんですかね、見たまんまの具象を描くのではなくて、違う要素を混じえて…盛り上がったりしていたり、そういう筆致で描いていたんです。

──そうなんですね。

宮崎政史:でもやっぱり色を使いたいなって思った時に、ギターは好きだったんで、ギターに力を借りるっていうかギターと一緒なら色を使えるんじゃないかっていうことで、ちょっと作ってみたんです。色を使うためっていうか、色を使いたいので。

──なるほど。恣意的に色を選ぶことができないから、ギターの音程で色を選ぶ…つまり聴覚で色を指定しようということですね。

宮崎政史:そうです。最初はどこかに依頼して作ってもらおうと思って色々当たったけど、どこも話も聞いてくれなかったんです。「そんな、できん」って。

──世の中にはないモノですもんね。

宮崎政史:でも、筑波にある会社が「ちょっと話だけでも」って言ってくれて、岡山から筑波まで行って話をしたんですけど、そしたらその装置の主要部分だけで300万円かかるって言われて…。

──それは…なかなかなお値段ですね。

宮崎政史:もう結婚もしていたんで…。それでも嫁は「別に、それでも作ってもらおう」みたいに言っていたんですけど、私の先生が「ちょっと待て」と。とりあえず1回自分で形にしてみたらどうかとアドバイスをくださったんですね。作ってもらったものだとどういうものかよく分からないし、直したりする場合でもブラックボックスだとどうしようもないから、まずはちょっと自分で試した方がいいと。私もその時には、色々調べていて「こうしたら自分でもできるんじゃないか」っていうのが頭にあったので。



──それが今回応募されたこのギターなんですね。

宮崎政史:arduino(アルデュイーノ)というマイコンと、sparkfun(スパークファン)のスペクトラムシールドを使用していまして、それはグラフィックイコライザーを作るような電子工作のパーツで、それでギターの周波数を3つに分けているだけなんですけど、それでできてもうた、みたいな感じです。

──一番最初にこれで絵を描いてみた時のことは覚えていますか?

宮崎政史:その時に「やっぱ、身体の中に色っていうものが溜まっていたような感じや」って思いました。自分の周りも絵を描いている人らばっかりだけど、色っていう存在…色っていうものを語れないというか、「この色はああやね、こうやね」とか言えへん状態だから、溜まっていた色が身体からバーって出たような、そういう感触でした。

──初めて色を使いこなす喜び、なんでしょうか。

宮崎政史:…ていうかね、もうただただ、溜まっていたもんが出たっていう。

──溜まっていたものを出したかった、という感覚とも違うのか。

宮崎政史:そうですね。やってみたら出た、みたいな感じで、「やっぱ色を使いたかったんやな」みたいな。


──実際に個展も開いていましたが、周りからはどういう評判でしたか?

宮崎政史:どうかな。あんまり気にしていないので。でも、嫁が喜んでいたんでよかったかな。「これはいい作品やで」「色々発表した方がいいわ」みたいな感じで。

──ギターを弾いて絵を描くだなんて斬新すぎるし。

宮崎政史:僕はXのHIDEさんが好きなんですけど、テレビで観た時、ギターをめちゃくちゃ振り回してヘッドを動かしたりするのを見て、「なんか、絵を描いてるみたいやな」って思ったんですよね。そういうのもあって、今回のアイディアになったんかなとも思うんです。だから頭の中には、そういうものはずっとあったんですね。でも「作ったら高いやろな」と思ってて。「もしお金があれば、そういうのやってみたいな」って言ってたら、嫁が「いや、ほんなら今したらええやん」「別にそんな金はなんとかなるやろ」って言ってくれて、ほんで、じゃあやってみようかってなったんですよね。



──いい奥さんですねぇ。今後の展望は?

宮崎政史:やっぱりヘッド落ちするんです。どうしてもヘッドが重くて弾きにくいんですよ。バランスを取るためにもっとボディーを重くしようかなとも思ったけど、それだと重すぎるんで。座った時、ボディの太ももに当たる部分に装置が付いているから、座って弾けへんっていうのもあって、立ったままセッティングせなあかんという。

──座って描くわけじゃないから、座れなくても…。

宮崎政史:いやでも、チューニングしたりとか、機械を調整したり直したりする時も立ったまんまなんです。いい感じの台を見つけてやらなあかんし、スプレーが並んでいるから平らに置けなくて、もうちょっとコンパクトにまとまったらなというのはあります、





──「改造ギターコンテスト」に応募してくるのは、みなさんギタリストなわけですが、宮崎さんは画家の立場で応募したという点が、他作品と一線を画していますね。

宮崎政史:絵を描くためにやっているんで。HIDEさんのパフォーマンスが絵を描いているようにみえたし、指揮者の棒も絵が描けるんじゃないかなって思います。

──HIDEのパフォーマンスや指揮者のタクトを「絵を描いているようだ」と捉える感性が、今回の作品に直結しているわけだ。

宮崎政史:今考えると、そんな感じもしますね。

──弾いた音程をトリガーにして絵を描くのですから、アンプから音を出す必要はないのですけど、実際はエフェクターを使いサウンドも加工していますよね。サウンドも絵を描く時に欠かせない要素ですか?

宮崎政史:そうですね。この前は、結構リバーブやテープエコーをかけて、音が重なっていくようにしました。絵は色が乗って次々に重なっていくけど、音はその場で消えていってしまうから、音もなるべく残り続けるようなエフェクトにしたかったんです。

──なるほど。出てくるサウンドに刺激されて描かれる絵も変わるんですね。

宮崎政史:そうですね。考えて「これを描こう」と描くんじゃなくて、やりながら出来上がっていく感じだから。

──現在は、低音、中音、高音と3帯域で3色を使い分けているわけですが、仕様的には7つの帯域に分けられるんですよね?

宮崎政史:本当は7つに分けられるんですけど、ギターの生音は周波数で言うと3帯域ぐらいしかないんですよ。本当は63Hz、160Hz、400Hz、1kHz、2.5kHZ、6.25kHz、16kHzに分割できるんですけど、ギターはその中の3帯域くらいしかないんですよね。


──10年以上前に誕生していたのに、<改造ギターコンテスト>に応募したのが2024年だったのはどうしてですか?

宮崎政史:いや、<改造ギターコンテスト>は前から知っていたんですけど、いつも気付いたら応募期間が終わっていて(笑)。で去年エントリーしようと思っていたら<改造エフェクターコンテスト>だったので、そこから1年待った感じです。

──<改造ギターコンテスト>は10年の歴史がありますが、「音楽を奏でる」ためではなく「絵画を描く」ためのギターは比類なきものでした。そういう作品をBARKS賞に選出できたことが嬉しいです。これからの活躍も期待しております。

宮崎政史:こちらこそありがとうございました。


宮崎政史氏

取材・文◎烏丸哲也(BARKS)



<第5回 改造ギターコンテスト10th>

自由なアイディアでギターを楽しもうというコンセプトに基づき、ギター本体や関連パーツを中心とした楽器販売の活性化に繋がればと願っております。より多くの方にご参加頂きたく思いますので、テーマは自由です。改造技術よりも楽しさを重視し、面白い作品が評価されるコンテストにして行きたいと思います
●グランプリにはTC楽器で使える「三万円のお買い物券」
応募締め切り:2024年8月31日まで
一次審査:写真選考
二次審査:実物審査
11月13日 結果発表(入賞作品は11月13日発売のギターマガジン12月号で発表!BARKS及びTC楽器楽器ホームページにも掲載されます)

一次審査を通過された作品は二次審査にお進み頂きます。2022年9月20日までに作品をTC楽器までお持ち込み、もしくはお送り頂くことができ、結果発表までお預かりさせて頂けることが条件となります(入賞された場合はその後1ヶ月間TC楽器に展示させて頂きます)。

協賛
・ギターマガジン
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◆改造ギターコンテスト2024オフィシャルサイト
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