【インタビュー】Ken Yokoyama、怒濤の2023年は実験と冒険の先へ「ベストを尽くせないんだったら、やらなくたっていい」

ポスト
no_ad_aritcle

■Kenメロってこういうやつなんだよなって
■だから俺なんか、安心感を抱いたよ


──第一弾「Better Left Unsaid」は、痛みや切ない感情をポップなメロディ感の中で鳴らして、ライブで見せるKen Yokoyamaの姿からは意外な側面を見せつける感触でした。

Ken:意外でした?

──すでにライブも精力的に始めていたから、ライブを連想させるような感じで攻めるのかな、と勝手に想像していましたので。でもメロディと歌詞、言葉の向こうにある想いも大切に描いていて、瞬間風速で終わらない楽曲なんですよね。

Ken:なるほどね。曲がミッドテンポってのも、そう感じる要因になっていると思うんですよ。これは全く別軸の話なんですけど、前アルバム『4Wheels 9Lives』はけっこうBPMの速い作品だったと思うんですね。それをコロナ禍に出してしまった(笑)。シンガロングできて、ライブで暴れたくなるようなサウンドのものを。

──EKKUNが正式加入して一発目のアルバムでもあったから、これを待ってました!という作品像でしたよ。

Ken:EKKUNも入った新体制になって、速い曲の信任を得たと思えたんですね、あのアルバムで。ライブを観に来てくれるお客さん、それぞれの生活に曲が入り込んでいったのも分かったし。であれば、“すごく速いのは、いい曲が書ける。じゃあ次は、ミッドテンポの曲とマイナー調の曲で攻めてみよう”って。全く別軸で、シングルとかなんも関係なく、『4Wheels 9Lives』を出してしばらくしてからそんな話をメンバーにしていて。で、最初にできたのが「Better Left Unsaid」だったんです。

──事前にそういう話があったから、メンバーとしてはこの曲に意外性などは…?

Jun:驚きは全然なかった。だってKenが言ってたからね(笑)。「マイナーやミッドなやつをやりたい」って。それで「Better Left Unsaid」はできた。その後もマイナーやミッドな曲を作っていったものの、結局はKenの思い通りにはならなくて。Kenの得意分野っぽいところの曲が増えていったという。だからミッドテンポの曲ばっかりできていったわけでもなかったし、マイナー調の曲が増えていったわけでもなかったから(笑)。

Ken:そうなんです(笑)。でも今の話は、シングル三部作が全部出て、アルバムまで出たときに、やっと“ああ、なるほどね”って思ってもらえる話。


▲南英紀 (G)

──でも分かりやすくなりました。次にやるなら別方向のものってことで「Better Left Unsaid」を書いて、それとはまた別方向の曲や得意分野っぽい曲がいろいろ生まれて、それがアルバムに結びついていくような流れでしょうね。

Ken:そうです。マイナー調の曲をいっぱい作ったけど、なんかピンとこないんですよ、自分で(笑)。“ああ、俺ってマイナー調の曲を作るセンスはないんだな”って終わっていきました(笑)。いくつかは残って、例えば今回のシングルにも入っている2曲目の「Time Waits For No One」。これは自分の中ではしっかりマイナー調の、バカっ速くもないロックンロールを感じられる曲なんですけど、マイナーは“センスないない”っすね。

──いやいや、「Time Waits For No One」は大好きです。カッコいい。

Ken:もちろんカッコいいから出すんですけど、その“カッコいい”に辿り着く前に、あれこれ試行錯誤があって。なんかね〜、やっぱこうじゃねえなって思っちゃうんですよ。

──自分らしくない、みたいに?

Ken:うん、らしくないってところに。

Jun:「こういうのはどう?」って言われながら手を付け出したマイナー調の曲は何曲かあって。そのときはこっちもまだ慣れてなかったからね。このまま仕上げていけばいいのかなと思って進めるんだけど、突然、Kenが「もういいや、これ」って(笑)。「この曲はもうやんないの?」ってこっちが言っちゃう。そういう曲もあったから。Kenの中の判断で、途中で引っ込めちゃったり、ボツにしちゃったり。そういうデモが、たまに俺のレコーダーに残ってる。そういや、こんな曲もあったなというのが。

EKKUN:Kenさんは、「こうじゃねえなって思った」とか言ってましたけど、違和感とか変な意外性とかは僕にはなかったんですよ。持ってきてくれる曲は、だいたい“カッケー!”と思って僕は入っていくから。マイナー調のコードの響きも、ソングライターであるKenさんの魅力のひとつでもあるし。

──確かに。Kenさんによる一人での弾き語り、ジンワリきちゃいますもんね。

Ken:マイナーってそのはずなんですよ。でも、なんか違うと思っちゃうんですよ、自分で。やっぱメジャーコードの人なんだなって、自分で思いましたね。

Minami:「次はマイナーで攻めたい」って言ってきたとき、僕は正直、ちょっと不安感がありましたね。

Ken:ヒッヒッヒ(笑)。

Minami:いや、Kenさんがマイナー苦手ってことじゃなくて、“バンド=Ken Yokoyama”の持ち味はそこじゃないっていうか。マイナー調でもカッコいい曲はいっぱいあるけど、やっぱりメジャーコードの響きだったりは、Ken Yokoyamaとして大切にしたいなって。お客さん目線の部分もあるし。「マイナー調で攻めたい」とKenさんは言ってるけど、結局はどこかで絶対にこうなるのかなってのもあって(笑)。

──あっ、自分らしさへ戻っていくのを、Minamiさんは最初から読んでいた(笑)?

Minami:そうそう。「マイナーで揃えたい」って言われたときは、大丈夫なのかなって気持ちでしたけど。それがいい意味で、大丈夫じゃなかった(笑)。

Ken:勝手に俺が折れてくれたってことなんだ(笑)?


▲Jun Gray (B)

──でも、別方向の曲もいろいろ作ってみてから自分らしさに戻っていったことで、本来の自分たちの良さを再認識しながら、音や形として出せるようになったと?

Ken:簡単に言うと、今回は吹っ切れたんですよ。自分はこれなんだな、これでいいんだなって。

Jun:結局、“あんまりマイナー調じゃないんだな”って本人が思ってから、持ってくる曲が“やっぱり、こういうのがいいんだよね”ってものになって。俺なんかはKenに「Kenっぽいメロディのを作れ」ってよく言うんだけどさ。「My One Wish」を持ってきたとき、「あっ、これが“Kenメロ”でしょ」って言ったんだよね。「Kenメロってこういうやつなんだよな」って。結局、そういう曲も溜まっていったんだよ、まだ世にリリースされていない曲も含めて。まあ、だから俺なんか、安心感を抱いたよ。

──お店に例えると、老舗が老舗の味をちゃんと作ってくれる感じですか?

Jun:そうそう。

Ken:でも老舗として、定番商品はもうあるわけですよ。だから新商品で、“ちょっとこんなのも”って冒険してみた感じですね。でも作ってる本人も“う〜ん、これじゃねえな”と思った、という話です(笑)。

──Jun Grayさんが“Kenメロ”と称した「My One Wish」が、第二弾シングルになるのは正しい流れですよね。

Ken:そうですね(笑)。「Better Than Unsaid」はミッドテンポだし、カップリングの「Whatcha Gonna Do」もレゲエ調だし。あれを聴いてちょっと不安に思った人も、今回の「My One Wish」を聴いたら安心してくれると思いますね(笑)。“これこれ!”って。

Minami:でも、それまでの流れからしても「Better Than Unsaid」も、僕はそんなに変化球だと感じなかったんですよ。メロディもKenさん節だし。ただ速くないってだけで。“速い=Ken Yokoyama”みたいなのは、ステレオタイプのイメージでしかないから、今までのKen Yokoyamaを追ってる人からしてみたら、そんなに変化球とは感じないはずなんですよ。すごくいい曲。僕らも、一発目は変化球ってつもりでもなかったし。数ある曲の中で、“これはいい曲だよね”ってだけであって。

──いわゆる染みる曲ですからね。

Minami:そうそう。


──人生観が滲み出た歌だったから、余計に染み込んでくるんです。

Ken:「Better Than Unsaid」を5月にリリースしたとき、取材してくれる方みんなが、「歌詞の内容が曲調から予想したものと違ってギョッとした」ってよく言ってたんです。僕は分からなかったんですよね、最初に言われたとき。言われ過ぎて、「まあ、そうですよね〜」と答えちゃってましたけど(笑)。

──ははは。

Ken:でも、あの曲調に、敢えてああいう歌詞を乗っけてやろうみたいな、そういった狙いも特になかったんですよ。

──「Better Than Unsaid」のミュージックビデオを観て、痛みも切なさもある歌詞だけど、そういうものを軽やかに乗り越えていくような力強さを感じたんです。

Ken:うん、それは俺から滲み出てしまう人生観かもしれない(笑)。いや、歳取ったんですよ、やっぱり。若いときとは歌詞の視点も当然違うし。

──シングル「My One Wish」は、表題曲では運命のコントロールであったり、2曲目では人生のこと、ミュージカル『アニー』のカバー「Tomorrow」では明日はいいことあるさと歌う。作品全体にストーリーが流れていて、人生ドラマを描き出していると思いました。

Ken:それはカエラさんに救われましたね。「「Tomorrow」をやりたい」と言ったのはカエラさんなんです。もし「Tomorrow」がなければ、シングル「My One Wish」はズドーンってしたままストーリーは終わっているんで、彼女の明るさに救われたんじゃないですかね。

◆インタビュー【3】へ
◆インタビュー【1】へ戻る
この記事をポスト

この記事の関連情報