【インタビュー】音楽と楽器に人生を注ぐ、<YOKOHAMA MUSIC STYLE Vol.3>

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ギターをはじめとした楽器の展示販売と、そうそうたるアーティストが登場するライブステージが存分に楽しめる<YOKOHAMA MUSIC STYLE Vol.3>が、2023年7月1日(土)~2日(日)に横浜みなとみらいの大さん橋ホールで開催となる。楽器メーカーや全国のギターショップ/コレクター/ギタービルダー/中古レコードが集結し、ミュージシャンシップあふれるアーティストによるライブやトークショーもたっぷり開催という、これまでにもありそうでなかったマーケット型のイベント・フェスだ。

ヴィンテージを扱うギターショップをはじめ、リサイクルショップ、個人ビルダー・ルシアー、個人ギターコレクターといった人たちにとって、宝島のような大規模ギタートレードショーとして大きな注目を集めている<YOKOHAMA MUSIC STYLE Vol.3>だが、実のところ2019年に開催されたVol.1では「新人発掘×海上音楽フェス」として産声を上げており、コロナ禍を経て3年越しに開催された2022年のVol.2では、「ギター・トレードショー」として再スタートを切っている。



開催されるたびにイベント内容やエンタメ要素は大きな変革を見せているが、根底に流れるコンセプトと、このイベントに掛ける思いは何も変わっていない。なぜなら<YOKOHAMA MUSIC STYLE>のおもしろさは、ひとえに主催者である橋本勝男氏の人柄と生き様によるものだからだ。

業務用音響機器を取り扱う音響商会を取り回しながら、ライブハウスF.A.D YOKOHAMAで長きにわたりバンドマンをサポートしつづけ、KAMINARI GUITARSではオリジナルのギターも生み出してしまうという、音楽と楽器に人生を注ぐ男は、今何を見て、どこに行こうとしているのか。橋本勝男氏を直撃、話を聞いた。


音響商会 橋本勝男氏

──<YOKOHAMA MUSIC STYLE>は今回で3回目の開催となりますが、<海上音楽フェス×新人発掘オーディション>からスタートしながら<ギター・トレードショー>に変わってきたところが興味深いのですが、そもそもどういう経緯でスタートさせたイベントなのですか?

橋本:僕はF.A.D YOKOHAMAというライブハウスをやっていまして、今年で28年目になるんですけど、ここ最近は、新人バンドがすごく減ってきているんです。これまで、F.A.Dでもアマチュアの人たちや神奈川県の大学サークル、高校の軽音部の子たちが春休みや夏休みにやってきたり、イベントを自分たちで開催したりしていたんですけど、それがすごく減っている。大学のサークルも減っていて、そもそも子供の人口が減っているし、世界的規模でヒップホップ/ラップが席巻していることもあって、バンド人口が少なくなってきているんです。

──それを肌で感じるんですね。

橋本:そうです。これではまずいから、まず若者たちにとって新人発掘の場を作りたいと思って、各メジャーレコード会社さんやオフィスオーガスタさんやヒップランドさんといった大手マネージメントの方にも集まっていただいて、アマチュアの子たちの音源を聴く新人発掘オーディション場を作り、それとあわせて楽器の出展や、秦基博などのライブを兼ねたイベントを横浜大さん橋ホールで行なったんです。

──それが第一回目の<YOKOHAMA MUSIC STYLE Vol.1>だったんですね。確かに「海上音楽フェス×新人発掘オーディション in 横浜大さん橋ホール」というタイトルでした。

橋本:このままではバンドシーンやライブハウスの文化が縮小してしまう。うちは楽器の小さなブランドとライブハウスを通して、音楽業界の一番底辺で支えているつもりなんです。音楽を目指す子たちが一番最初に現れる場所だからこそ、そういう空気を肌で感じるんですね。今から20年ぐらい前、団塊の世代ジュニアがいたときは、人口も多くてバンドもすごく多くて、横浜でもラウド系やギターロック、メロコア、レゲエ、ラップなどいっぱいいました。そんな高校生の子たちが「お金がない」といってうちのスタッフやバンドメンバーと仲良くなって、タダで入れてくれというような事もよくあってね、うちもそういう奴には「バンドやったらF.A.Dに出ろよ」と言って(笑)、お店に入れてあげたりしていましたよね。

──そういうの大事。バンドマンの出世術ですね。

橋本:その頃は、毎日出演したいっていうバンドもいたけど、だんだん減ってきて、楽器メーカーやギターブランドも、代理店がなくなったりブランドが消えたりするのを見て、そこも肌で感じていたんです。一方で、リターンミュージシャンに注目してみると、横浜だとクレイジーケンバンドが40歳後半くらいから再デビューしてみたり、竹原ピストルのような年齢を重ねてからソロデビューしたりする人たちがいますし、ライブハウスでもキャリアを積んだバンド…Theピーズやローザ・ルクセンブルクといったバンドはF.A.Dでも動員があるんですよね。ザ・クロマニヨンズとかのお客さんを見ても40代くらいの人たちが若者のように楽しんでいる。今は50代~60代の人でも演歌を聴かずにサザンオールスターズとかB'zを聴いてるわけで、そのシーンがリターンミュージシャンとなれば、子供たちも音楽に興味を持つんじゃないかなと思ったんです。

──なるほど。

橋本:コロナの影響でしばらくできなかったんですけど、第2回目はマスク着用で入り口で消毒して、換気も全部整えた上で、2022年の6月25日・26日にギリギリ開催しました。中古楽器の販売のトレードショーもレコードの販売もやることで、専門学校の学生さんたちにも協力いただいたりしてね。第一回目に行なった新人発掘に関しては、今ではレコード会社やイベンターもプロダクション化して、新人発掘はそれぞれ必死にやっている状況になったので、<YOKOHAMA MUSIC STYLE>では楽器業界をちゃんと盛り上げるほうがいいかなと思って、第2回目はギター・トレードショーにしたんです。

──なるほど、そういうことだったんですね。

橋本:それで第3回目もその方向で進めています。1回目も2回目も趣旨は音楽振興…音楽業界/楽器業界を盛り上げるためなんです。それも、うちのような小さい会社がやることによって、各地方で真似してくれないかなとも思うんです。「小さな会社でもできるんだから、自分たちでもできるかも」…みたいな刺激を与えられればいいなと期待して。<楽器フェア>もあるのかないのか分からないし、そもそも楽器の展示だけでは楽器をやる人しか来ないですよね。だけど僕はギターミュージシャンも掘り起こしたいし、楽器には興味がないけどライブは観に行くという子たちに「アコースティックギターを買おうか」とか「バンドをやってみたい」って思うきっかけが作りたいんです。そういう若者から60~70歳代の年齢の方までが集まるイベントにしたいんです。



──橋本さんのその思いや熱量はどこからくるものですか?イベント開催って、労ばかりかかってビジネスとしての旨味なんかほとんど無いですよね?

橋本:ええ(笑)。ですけど、僕も結構いい歳になっちゃったんで、音楽でずっとご飯を食べさせてもらってきたことの恩返しなんだと思います。このまま子供が減っていくのを横で見ながらも、のんびりしている人も多いですよね。だけど、韓国なんかは確実に世界に目を向けていますよ。自社のケーブルのプロモーションで中国、香港、台湾、タイあたりを回って分かったんですけど、アジアにおける日本の注目度ってすごく高いんです。ヨーロッパやアメリカでも、メイド・イン・ジャパンに対する信頼度はとても高い。アニメソングをロックバンドがやったり、アニソンに日本のJ-POPが入り込んで、少しずつロックバンドがメジャーなアニメに参加して、世界にも知れ渡ったりしていますよね。せっかくのそういう状況ですから、僕ができることは恩返しをしたいんです。

──音楽・楽器業界への感謝ですね。

橋本:それこそ「タトゥーが入っているからどこも雇ってくれない」と困っていたMAH(SiM)が、うちのライブハウスで頑張ってくれたりしてきたなかで、ここから育って出てくれたミュージシャンが、大きくなった今でもF.A.Dに出てくれたりとか、それこそコロナ禍でもミュージシャン達がうちをいっぱい助けてくれて、だからこそ僕も助けないとダメだなって余計思うようになったんです。

──かけがえのない信頼関係ですね。

橋本:そこはもう、純粋な気持ち。なので、<YOKOHAMA MUSIC STYLE>は赤字になってもいいからやろうって思ってます。実際、1回目はやり方もわかんないし相当赤字だったんですけどね(笑)。2回目も赤字。今回は一応赤字じゃない目途を立てながら運営していますけど(笑)。

──そして、そういう思いに共感・共鳴して、イベントステージに出演してくれるアーティストが集うわけだ。





橋本:そうです。ただね、あそこ(横浜大さん橋ホール)はロックバンドが入れられないんですよ。

──音量制限ですか?

橋本:揺れちゃうんです。大さん橋ホールって海の上で揺れるように作られているんですよ。クレイジーケンバンドが7~8年くらい前に2000人ぐらいのお客さんを入れてやったら、壊れるんじゃないかってくらいすごい揺れちゃって。

──文字通りグルーブするのか(笑)。

橋本:だから<YOKOHAMA MUSIC STYLE>のイベントも、ドラムレスで行なっているんです。佐藤タイジ & KenKenのComplianSもドラムはナシなんですよ。

──それでもあのふたりなら揺らしちゃいそうだけど(笑)。

橋本:ComplianS、すごいイイですよね。去年に続いて2023年も出てもらうんですけど、前回もすごいよかった。タイジさんがカバーしたプリンスの「パープル・レイン」をラジオで聴いてすごくいいなって思って、タイジさんに「これ、ComplianSでやってください」って言ったら演ってくれたんですよ。お客さんもすごく喜んでました。

──佐藤タイジの「パープル・レイン」、最高ですよね。私は<中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2022>でTHEATRE BROOKバージョンを聴きました。

橋本:すごくイイですよね。次代に伝えることをできる人にはしていってもらいたい。SiMとかも、もっともっと海外に行って活躍してほしいなって思います。行けばいいのにって思うバンドって結構いますよね。東京事変ももっと積極的にいけばいいのにな。向こうのミュージシャンが驚くんじゃないかな。

──そしてそういうアーティストたちが、橋本さんの信念に共感して<YOKOHAMA MUSIC STYLE>を彩ってくれているわけですね。

橋本:ビジネスにはなっていませんけど、でも僕のKAMINARI GUITARSの宣伝にもなるし、F.A.Dに出たいってなったりしてくれればそれで十分。勝ち組負け組みたいになっちゃうよりも、全体的に手を取り合ってがんばったほうが音楽をもっと発展させられると思うんですよね。日本でもいいバンドはいっぱいいるし、鍵盤の方やクラシック畑の人やジャズの世界でも、もっともっと世界に出ていけばいいのになって思います。韓国のことを褒めるわけではないんですけど、BLACKPINKやBTSはレベルが高いですよね。K-POPもいろんな問題を含んでいて、精神的に病んでしまったりする話も聞きますが、アメリカやイギリスもでかいロックバンドはOasisとレッチリで終わってるみたいなところあるでしょう?彼らも50歳代ですもんね。最近は20歳前後のすごいバンドがイギリスから出てこない。ブリティッシュロックはもっと出てこないとね。アメリカはラッパーだし。

──HIPHOPとR&Bで埋まっていますよね。

橋本:そうそう、ソロ歌手みたいな感じ。そうすると結局「楽器いらないじゃん」ってなるじゃないですか。これはまずい。だから2回目にはギタートレードショーをやったんです。ラップが席巻することが悪いわけではないし、歌モノも健全だと思うんですけど…ね。ラウド系のライブハウスの経営者が「健全」とか言うのもあれですが(笑)。

──ライブハウスシーンに根底にあるのは、いつの時代もカウンターカルチャー精神ですから、その衝動と湧き出るエネルギーは極めて健全なものと思います。

橋本:60歳、70歳になってもコンサート会場に行ってスタンディングでダンスを踊ったりして歌に感動するのって、相当いいことだと思うんです。小さいときに音楽を聴いて癒されたとか、死ぬのを止めたとか、自殺しようと思ってた子が勇気づけられたとか、音楽ってすごい大切なものですから。

──わかります。いい大人が泣いちゃったりするんですから。大人を泣かすって相当難しいことですよね。

橋本:息子も音楽関係の仕事をやってるんですけど、そもそも金儲けのためだったら音楽なんてやらないですよ(笑)。

──そもそもミュージシャンがそうだから(笑)。

橋本:うちのスタッフも本当に音楽が好きな連中で、ミュージシャンを目指していて音楽関係の仕事をやっている人がほとんどなので、こういうイベントを開催するのは大変ですけど、おもしろいとも思ってくれてるんじゃないかな。世界に進出しているアニメとかでも、音楽がなければ全然感動することもないと思うんですよね。

──映画もそうですね。

橋本:だからそのために、今年が3回目ですけど最低10回はやりたいなと思っているんです。まず10回はノルマのごとく、自分が旗を振ってやりたい。これ以上出展者が増えると、場所ややり方も変わっていくかも知れませんけど。

──シンパシーを感じて<YOKOHAMA MUSIC STYLE>に参加したいという人たちが、まだまだいっぱいいるということですね。

橋本:そうですね。ミュージシャンの方たちも増えてきています。今回もビッグネームの出演予定があったんですけど、人が入りすぎて機能しなくなる危険性があるということでキャンセルしたんですけど。

──2023年は7月1日(土)、2日(日)ですが、どんなイベントになりそうですか?

橋本:真夏ですから、人が入りすぎると暑くてもたないかも。いろんなブランドさんや企業さん、出展者さんたちが大変なんじゃないかなと思いますが、そうなるとおもしろいなと思ってます。人が入りすぎてって苦情が来るぐらいになるとおもしろい。

──主催者側が「苦情が来るとおもしろい」って言うの、初めて聞きました(笑)。いやホント、楽しみです。



<YOKOHAMA MUSIC STYLE Vol.3 -Guitar Trade Show->

ギターなど楽器の展示販売およびライブステージ
2023年7月1日(土)、2日(日)
各日11:00~
@横浜大さん橋ホール 〒231-0002 神奈川県横浜市中区海岸通1-1-4
アクセス:みなとみらい線「日本大通り駅」下車徒歩約7分
前売料金:一般 ¥2,500 / 高校生以上の学生 ¥1,100 / 中学生以下 無料
当日料金:一般 ¥3,000 / 高校生以上の学生 ¥1,500 / 中学生以下 無料
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7月1日(土)出演アーティスト
MARTY FRIEDMAN × ROLLY "Special Talk Session"/ピーター・バラカン & 藤本国彦 "THE BEATLES Records Live"/井草聖二/堀井慶一 "Talk & Demo Live"/よしださくら/武良匠/Gyoshi (Klang Ruler) "Talk & Demo Live"/宇雪/泉そおい
7月2日(日)出演アーティスト
萩原健太 & 佐橋佳幸 "Records Live"/七尾旅人/ComplianS (佐藤タイジ & KenKen)/片平里菜/沖聡次郎 (Novelbright) /きものやん
7月1日(土)MC:SAKURAI/植松哲平
7月2日(日)MC:植松哲平

◆<YOKOHAMA MUSIC STYLE Vol.3>オフィシャルサイト
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