【ライブレポート】坂口有望の成長とこれから「みんなの顔を見て、私は無敵になれると思いました」

ポスト


3月19日、東京キネマ倶楽部で坂口有望<耳をすましてよtour>を観た。

昨年のメジャーデビュー5周年記念<XL Tour>は東名阪のみバンド編成、ほかは弾き語りだったが、今年は9カ所すべてがバンドだ。直近のミニアルバム「XL」とシングル「サイレント」で聴かせた、グッと大人っぽく深みを帯びた音と言葉を、迫力あるバンドサウンドで体感したい。こちらの思いも、フロアを埋めた熱心なファンと同じだ。

「元気やった? 坂口有望です。よろしくお願いします!」

4人編成でバンドをバックに、エレクトリックギターをジャカジャン!とかき鳴らした瞬間、ため込んだエナジーが一気に爆発する。1曲目は「LION」。「行けますか東京!」と叫び、手振りをうながし、クラップを煽る。2曲目は「musician」。明るく元気に爽やかに、従来の坂口有望らしさ満開のアッパーな曲を、ニコニコ笑顔のバンドが支える。



ハンドマイクに持ち替えて、クラップとダンスで盛り上げる「あっけない」。アコースティックギターで、言葉をしっかり聴かせる「おはなし」。明るい開放感からより親密な空間へ、オーディエンスをゆっくりと引き込みながらライブは進む。歌詞の展開に合わせて明滅する、赤いライトと白いライト。歌の世界を最大限に伝える、シンプルだがとても効果的な演出。

「今回のツアーは、1曲1曲、一人一人に、一輪の花を渡す気持ちで、最後には花束になったらいいなという気持ちで歌っています」

まだ咲いてもいない花が、春風に希望を乗せて、いつかみんなの未来に大きく咲くように──。そんな言葉を添えて歌った「綿毛」の、切なさと不安と励ましをはらんだ歌声の力強さ。ストロボライトが激しく点滅する「セントラル」の、激情を思い切り叩きつけるパフォーマンスの熱さ。容赦なく煽り立てるリズム隊と、ギタリストのクレイジーなソロがかっこいい。バンドサウンドだからこそ味わえる、音と言葉と光のダイナミズムがある。



絶対の信頼を寄せるプレイヤーたち、名付けて「大優勝バンド」。ここからはメンバーをフィーチャーしたONE ON ONEのセッションで、まずは井上順乃介のパーカッションと共に「紺色の主張」を。「これ、THE FIRST TAKEっぽくない?」と自分たちにツッコミつつ、アコースティックギターで奏でるサウンドから、制作当時中学生のみずみずしい感受性がほとばしる。続いてはギタリスト・ひぐちけいとのギターデュオで「絆創膏」を。饒舌な2本のギターが、大人びた恋の切なさと痛みを鮮やかに描き出す。そして岡部晴彦のベースをバックに「東京」を。生粋の大阪人・坂口有望の、切なさと強がりと淋しさと希望とが入り混じったパーソナルな歌詞でありつつ、同じ思いを抱く人への励ましのフォークバラード。こういう世界を歌う時、坂口有望はひときわ輝いて見える。



「ちっちゃい時からめちゃめちゃ負けず嫌いで、高校生の時に、悔しさのかたまりみたいな曲を書きました。ずっと恥ずかしくて出せなかったけど、この年になって、そんな自分を隠す必要もないなと思ったので、その曲をリリースしました!」

「これからは、腹の底で思っている気持ちを、かっこ悪いかもしれないけど、さらけ出していきたいと思います──」。3月3日(金)に配信リリースされたばかりの「下克上」は、生バンドとトラックによる分厚いサウンドに乗せ、ハンドマイクで「今に見てろ」と吠える歌。敵はもちろん、相手ではなく自分だ。客席の熱気がグッと上がる。続くストレートなギターロック「XL」が、全員の手拍子を借りてさらに加速する。ライブはそろそろ後半だ。

「生きるって何だろう、死ぬって何だろうと、よく考えている子供でした。自分の心臓が鳴るのは、自分が今ここにいることを、もう会えない誰かに知らせ続けているサインじゃないかと思って書いた、大切な曲です」

「サイレント」は、ドラマ『科捜研の女2022』のために書き下ろした曲だが、それだけではない深い意味を持つ曲だ。自らキーボードを弾いて歌う、感情の高まりが違う。「私は幸せ」という言葉から感じる重みが違う。それはたぶん音源だけでは伝わり切れない、同じ空間だからこそ感じ取れるもの。ライブで聴けて良かった。



さあ、ここからはラストスパート。世の中のすべての腹立ちと理不尽に明るくNOを突き付ける「ばかやろう」は、どんなライブでもきっと盛り上がる定番曲だ。「今日初めて鶯谷に来た人!」「トマト食べれない人!」「ファンクラブに入ってる人!」などなど、掛け声と手拍子でコール&レスポンスするアドリブが楽しい。「ばかやろう~!」の大合唱は、声出し解禁になった今だからこそ味わえる喜びだ。そしてデビュー曲「好-じょし-」の、何年経ってもみずみずしいままの青春の輝き。大人びた曲を書くようになった今も、坂口有望の原点は変わっていない。本編ラスト、エレクトリックギターをガシガシ弾きながら歌う「radio」から、もっと歌い続けるんだという意志が溢れ出す。

「弱気になっちゃうことも多くて、それでも負けず嫌いで。叶えたい夢も、幸せにしたい人も多すぎるから、自分とを励ます歌を歌って、これからも前に進んでいきたいと思っていたんですが、今日みんなの顔を見て、私は無敵になれると思いました。ほんまにほんまにありがとう!!」



熱烈な拍手に呼び戻されてのアンコール。感慨深い表情と言葉で歌う新曲「kanpai(仮)」は、力強いアコースティックギターのストローク、三連符のリズムに乗せたミドルバラードだ。今日を生きる喜びをまっすぐに伝える歌詞がいい。そしてこの日の本当のラストチューンは、「大優勝バンド」と共に奏でる「お別れをする時は」。出会いと別れが交錯する3月に歌う、切なさの向こうに希望が見える卒業ソング。「この春、卒業する人?」と客席に問いかける。歌い終え、手にした花束を観客に渡す。ライブのフィナーレにふさわしい、美しいシーン。

「<耳をすましてよtour>、5本目、東京公演、大優勝でした!」



満面の笑みで手を振る姿と、惜しみない拍手と歓声。新旧の代表曲をずらりと揃え、デビューから5年の成長と進化、バンドサウンドのダイナミズムを堪能した約2時間。ちっちゃくて、可愛くて、パワフル。負けず嫌いで、繊細で、感情豊か。まだまだ発展途中の多面体アーティスト、坂口有望の魅力はライブでよくわかる。見てほしい。

文:宮本英夫

  ◆  ◆  ◆

坂口有望 47都道府県ツアー<全国声波-ゼンコクセイハ->

2023年
7月26日(水) 大阪 三国ヶ丘FUZZ
7月29日(土) 京都 somenokyoto
7月30日(日) 兵庫 神戸VARIT.
8月5日 (土) 山形 山形ミュージック昭和 Session
8月6日 (日) 秋田 秋田 Club SWINDLE
8月11日(金・祝) 宮城 仙台MACANA
8月12日(土) 岩手 盛岡CLUB CHANGE WAVE
8月17日(木) 埼玉 西川口Hearts
8月19日(土) 青森 青森Quarter
8月20日(日) 福島 Live Space C-moon
8月26日(土) 三重 四日市CLUB ROOTS
8月27日(日) 滋賀 U☆STONE
9月2日 (土) 広島 Yise
9月3日 (日) 島根 出雲APOLLO
9月7日 (木) 渋谷 7thfloor
9月9日 (土) 岡山 城下公会堂
9月10日(日) 鳥取 米子laughs
9月16日(土) 北海道札幌PLANT
9月17日(日) 北海道 函館あうん堂
9月23日(土) 山口 周南LIVE rise
9月24日(日) 長崎 長崎Studio DO!
9月28日(木) 千葉 柏ThumbUp
9月30日(土) 奈良 Billy-THE-LIVE

全公演:¥4,000(税込)※別途ドリンク代必要
※山形公演のみドリンク代不要
Cheer Ami Club先行(SMAチケット) 
URL:https://sma-ticket.tstar.jp/lots/events/42105/entry/39501
期間:4/2(日)19:00~4/9(日)23:59
オフィシャル先行(SMAチケット) 
URL:https://www.sma-ticket.jp/artist/sakaguchiami
期間:4/15(土)10:00~4/23(日)23:59

坂口有望「下克上」

配信中:https://erj.lnk.to/6CMnAf

この記事をポスト

この記事の関連情報