【インタビュー】お風呂でピーナッツ、ジャズ・R&Bをベースにメランコリックなメロディとボーカルが輝く逸品
ディオール、バーバリー、KENZOなどビッグブランドのファッションモデルとして世界中を飛び回るボーカリスト樋口可弥子と、ギタリストとして多くのバンドと関わりながら、プロデューサー、コンポーザーとしての稀有なセンスを全方向で発揮している若林純。二つの異色の才能がぶつかり合い、溶け合って唯一無二のポップスを生み出す、それが「お風呂でピーナッツ」。最新曲「モノトーン」は、ジャズやR&Bをベースに、優れたミュージシャン同士の即興、メランコリックで美しいメロディ、樋口可弥子の素晴らしいボーカルが輝く逸品に仕上がった。遠距離ユニットのハンデをものともせず、旺盛なクリエイティビティを発揮して熱心なリスナーを増やしつつある「お風呂でピーナッツ」の現在位置について、若林純に話を訊こう。
■自分のスタイルのど真ん中にあるような曲
■出てきたものをそのまま音にした感じです
――2023年の「お風呂でピーナッツ」の活動は、久々のライブ活動、1月6日の<スーパー銭湯ライブvol.2>からスタートしました。
若林純(以下、若林):可弥子が(日本に)帰って来るタイミングに合わせて、今のところ我々が年一回やっているライブが、今年はもう終わってしまったんですけど(笑)。あれはほぼ自分の企画で、ブッキングも自分がやって、4バンドとも関わりのあるミュージシャンを呼んで、そのうち3バンドに自分も参加したので。お風呂でピーナッツ以外にも、1日で18,9曲ぐらい弾きました。
――すごかったですね。もはや若林フェス。
若林:実際、終わったあとにインスタを見ていたら、「若林祭りだった」とか書かれていて(笑)。なんかすみませんって感じ(笑)。でも本当に、自分が今まで関わらせてもらっているミュージシャン仲間が集まったお祭りみたいな感じで、客席にもクリエイター仲間、フォトグラファーさんとかが来てくれて、去年1年間の成長がわかる瞬間でもあったし、これからリリースされる曲もちらっとやったりして、「今年も楽しみだな」という瞬間でもあったと思います。お客さんも増えたし、すごく嬉しい時間でした。
――良い年の始まりでした。そのあと、1月にTikTokでカバー動画を立て続けに投稿していましたね。中森明菜、MISIA、椎名林檎のカバーを。
若林:あれは、可弥子が帰国していた時に、制作中に「カバー動画撮ろうか」という話になって、その場で曲を決めてやったんですけど。今年はみんなに楽しんでもらえるコンテンツを、もっと増やしていきたいと思っているんです。最近、ポッドキャストも始めたんですよ。
――チェックしていますよ、もちろん。ええと、ぽかぽか…。
若林:「湯船ぽかぽかラジオ」(笑)。ライブ活動ができないぶん、ほかのところで楽しんでもらいたい気持ちがすごくあって、ああいうものをどんどんやっていきたいんですよね。それと、自分たちは高校の同級生がスタートなので、ミュージシャン同士の会話だけじゃないものがあって、(ポッドキャストを)聞いてくれた人の声を聞くと、それをけっこう楽しんでもらえてるのかな?と思うので。それも含めて自分たちというものを出していきたい気持ちはすごくあります。
――あと、これは若林さんがツイッターでつぶやいていたことなんですけどね。1月の終わりくらいに、「今年はめちゃくちゃギターうまくなる!」って、練習している風景をアップしていましたね。パーラメントの曲を弾きながら。「おお、やる気満々だな」って思ったんですけど。
若林:そうなんです(笑)。
――あれも今年の目標の一つですか。ギターがもっとうまくなりたいというのは。
若林:そうです。去年は(サポートの)ライブも徐々に増えて来て、いろいろなステージに立たせてもらう中で、自分の技術不足を痛感した年だったので、今年は練習をちゃんとやりたい気持ちがすごくあるんです。今まではその場が楽しければいいというスタンスだったものが、大きいステージがだんだん増えてきて、お客さんとの距離が遠くなる感覚もあって、パッケージとしてきれいに整うものというか、ライブ感だけじゃないものも伝えたい感覚が今はあって。そうなってくると、感覚だけじゃない技術力が求められるなということをすごく感じていて、それでああいう投稿をしたんです。
――しかもほぼ同時期に、可弥子さんも「今年はギター弾き語りを頑張る!」という投稿をしているんですよ。これは二人で示し合わせたのかな?と。
若林:これから先を目指す上で、僕は技術力を上げたいということだったんですけど、可弥子はミュージシャン的なキャリアが浅いことがコンプレックスみたいで、「音楽的な技術をつけたい」と。それで「弾き語りする」「リズム感も身に付くし、めっちゃいいじゃん」という話になったんですね。今、忙しくて止まっているらしいですけど。
――いいですよね。二人揃って、貪欲に前向きモード。
若林:もっと大きいステージに立ちたいということが、自分たちの中で大きくなってきてるんです。そうなると、足りないところがどんどん見えてくるので、やらなきゃいけないことが増えてくる。そんな感じの、決意の1月でした。
――その決意を受けて、2月22日にニューシングル「モノトーン」が出ました。ミュージックビデオ、シンプルなワンカメラの長回しで、センスが良いなと思ったんですけど、あれって若林さんの部屋ですか。
若林純:そうです。住んではいるんですけど、ほぼスタジオとして使用していて、居住空間の半分以上が機材で埋まっています(笑)。この曲には日常というテーマがあって、MVをどういうふうに撮ろうか?となった時に、日常の生活風景を映せばいいんじゃない?ということになって、一点撮りにしました。
――モノクロの質感と、穏やかな空気感と、二人の親密さが曲にも合っているし。特に何も起きないけれど、4分間にドラマがある。記憶に残るMVだと思います。
若林:嬉しいです。出すまでは不安というか、リアルなそのままを出したので、素人っぽく思われるかな?と思ったんですけど、加工したくはなかったので。そういうふうに言っていただけると嬉しいです。
――「モノトーン」はいつ頃、どんなふうに作っていた曲ですか。
若林:「後夜」(2022年11月リリース)と同じタイミングでレコーディングしていた曲で、制作時期は同時期です。ただ、だいぶ昔にあったデモをブラッシュアップさせたものなので、本当の原型は3,4年前かもしれない。「これは磨いたら光るかも」ということで、磨いていくうちに「モノトーン」というタイトルが生まれて…という感じです。
――その「磨いたら光るかも」と思ったポイントは?
若林:メロディラインがすごくきれいだなと感じていたので、それを生かしながらアレンジをし直していきました。最初にあったのはピアノのコード感だったと思います。ピアノの和音で気持ち良い浮遊感が作れたので、落ち着いたテイストに持って行こうと思ったんです。本番のレコーディングは、中西司というジャズプレイヤーに弾いてもらっていますが、彼にコード感を伝えて、あとはみんなでセッションしながら作っていきました。そこに自分があとからアコギを乗せて、フルートのセクションは元から用意していたので、それもあとから、尾崎(勇太)くんとやりとりしながら乗っけた感じです。
――なんて言えばいいんですかね、ジャズのしなやかさ、オルタナティブR&Bの刺激、メロウできれいなメロディが乗った、聴けば聴くほど沁みるタイプの曲。音のイメージとか、リファレンス(参考曲)はあったんですか。
若林:いや、特にないです。歌詞を含めて、自分のスタイルのど真ん中にあるような曲だなと思っていて、原点というか、出てきたものをそのまま音にした感じです。それを今っぽく変えていこうとか、そういうこともしなくて、頭の中で鳴っていたものをそのまま落とした感じなので、リファレンスはないんですよね。でも自分のルーツとして、ジャズ的な要素は強く出たのかなとは思っています。
――ジャズっぽい伸びやかなセッション感がありますよね。
若林:3人で何テイクもやってもらって、「もうちょっと頑張って」「もうちょいこんな感じで」って、けっこう言わせてもらって、あのテイクになりました。かなりセッション的な作り方をしたと思います。
――その感じは音にすごく出てますね。気心知れたメンバーであることも、もちろんあるんでしょうけど。
若林:前作からずっと同じメンバーですからね。
――ピアノが中西司、ベースが武田直之、ドラムがコニシセイア。今回初参加のフルートの尾崎勇太さんは、以前から知り合いですか。
若林:尾崎くんは、自分がサポートで入っている碧海祐人(おうみまさと)くんのバンドで、一緒にサポートに入っているキーボードとドラムが、尾崎くんと同じKhami Leon(カメレオン)というバンドのメンバーなんですね。その繋がりで何回か会っていて、「なんかすごい人いるな。いつか一緒にやりたいな」と思っていたので。なので、1年ぐらい面識はあったんですけど、一緒にやったのは初めてです。
――フルートを間奏にフィーチャーしようというのは、歌ものポップスとして、かなり意表を突いたアレンジですよねという気もしますけど、音色が頭の中に浮かんでいたわけですか。
若林:あそこのセクションを丸ごとフルートにしようというイメージは、最初からありました。フレーズまでは描けてなかったんですけど、曲に絶対にハマるという確信はあって、アウトロに入れるとか、ボーカルの上に重ねるとか、いろいろ考えたんですけど、最終的にワンセクションをフルートで行こうということになりました。
――しかも、何回も重ねている。
若林:重ねています。あれは完全に、尾崎くんをイメージして作ったセクションになりましたね。彼のYouTubeチャンネルでも、本当にきれいな多重録音を作っていて、その要素は絶対使いたいと思っていたので。そういうイメージでデモを作って、細かい譜面のやりとりをオンラインでやって詰めていきました。最初はもっと複雑なラインを持ってきてくれたんですけど、それを少し整理して、ポップスの中に納まる範囲で、というところだけディレクションさせてもらいました。最終的には、いろいろな音が鳴っているけど、あくまでもポップスの中で聴き馴染みのあるものになったかなと思います。
――尾崎さんは東京藝大出身で、ばりばりアカデミックなバックグラウンドですよね。
若林:Khami Leonはみんなアカデミックで、かなりヤバいことをやる人たちです(笑)。絶対普通のことはやらないぞという精神があって、そこがすごく面白い。
――みんな若くてテクニシャンで優れたセンスの持ち主ばかり。すごいメンバー集めちゃいましたね。
若林:実はみんな、カタマリとしてはそんなにやってなくて、自分だけが全員共通の知り合いみたいな感じなので。自分が出会った、それぞれの場所でのうまい人に集まってもらった感じで、みんな本当に素晴らしいプレイヤーです。ピアニストのルーツはジャズで、ドラマーはフュージョンと言ったらいいのかな、村石雅行さんの村石道場にいて、ベーシストは堀井(慶一)さんという、R&Bやポップスの分野で活躍している方のレッスンを受けていて。それぞれのルーツは全然違うけど、混ざったらこうなるという、「モノトーン」は本当にプレイヤー冥利に尽きる曲だと思います。それぞれのプレイヤーが好きに泳いでくれたなという感覚があって、サビのセクションのドラムとか、すごい変な…とか言ったら悪いけど(笑)。面白いアプローチで、歌が広がるのに対して、刻んでいく感じとか、すごい考えてくれたんだなと感じています。
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