【インタビュー】お風呂でピーナッツ、ジャズ・R&Bをベースにメランコリックなメロディとボーカルが輝く逸品
■面白いですよ、可弥子のレコーディングは
■すっごい幅があります、1日の中で
――そんな凄腕たちの演奏の中で、主役をつとめる可弥子さんの歌はどうですか。
若林:「モノトーン」は、可弥子の声の良いところを使えたかなと思っています。最近聴かれる曲の風潮として、テンポが速かったり、言葉を詰めるような曲が多いと思うんですけど、これはそこまで詰めていなくて、言葉と音のリンクをきれいに作れたかなと思っています。言葉をちゃんと話すように歌ってくれる曲ですね。ただ、「後夜」と同時期に録っているんですけど、こっちのほうが歌は大変だったかもしれない。
――曲のタイプは違いますよね。「後夜」はもう少しリズミックでファンキーなグルーヴで。
若林:「モノトーン」は、もろに「声」じゃないですか。コーラスも入れていないので、声の質感の良いところをどう拾っていくか。可弥子の声って、レコーディング中にどんどん変わっていくんです。すごく歌い込んでるシンガーではないので、気持ちの揺れ幅がもろに声に出るタイプなんですよ。すごく歌い込んでるラッパーとかシンガーの子と一緒にやると、その人の声がもう確立されていると感じるんですけど、可弥子はそうじゃないから。感情とかいろいろ整った時の、良いところをどう拾うか?というレコーディングを毎回しているんですけど、「モノトーン」は、それがわりとシビアだった曲かなと思います。面白いですよ、可弥子のレコーディングは。すっごい幅があります、1日の中で。
――その、歌も演奏も含めて、エンジニアを務めてくれたYu Sasaki(佐々木優)。昔からの知り合いだと聞いています。
若林:佐々木さんは、自分がレコーディングスタジオでアルバイトをしていた時にすごくお世話になった方で、今はフリーランスでやってらっしゃるんですけど、一緒に働いていた時期があって。自分の仕事はスタジオの中ではなくて、事務的なアルバイトだったんですけど、佐々木さんは自分がミュージシャンをやっていることを知ってくれて、現場を見せてもらったり、仕事が終わったあとに一緒にご飯に行って、いろいろ相談させてもらったり。それで今回オファーさせてもらったら、引き受けてくれて、ちょっと緊張しましたけど、すごく良いものができました。
――それも嬉しい出来事。恩返しというか。
若林:めっちゃ嬉しかったです。佐々木さんは、自分の憧れのミュージシャンと一緒にやっている方でもあるので。
――millennium parade、大橋トリオ、 BREIMEN 、Friday Night Plansとかですよね。
若林:そうです。むちゃくちゃ聴いていた音源を手掛けた方なので、それも含めてすごく嬉しくて。プロの音に仕上げてくれた、と言うと変ですけど、素朴なレコーディングだったからこそ、どうアプローチするか?が難しかったと思うんですけど、リヴァーブで空間を広げつつ、まとまりのある音に仕上げてくれました。フルート・セクションも4、5本鳴ってるものが全部クリアに聴こえるけど、ちゃんとまとまりがある、あの塩梅はさすがだなと思いました。
――あそこは聴きどころですね。あの広がりと立体感。
若林:自分は真ん中にドンと置く、一つのラインとして思い描いていたんですけど、佐々木さんはミックスの中で、5本のフルートを広いスペースの中に置いてくれて、「そうなるんだ!」ってめちゃくちゃ感動しました。全部ちゃんと聴こえるし、ゴチャゴチャしないし、あれは本当にさすがだなと思いました。
――そして、「モノトーン」のもう一つの大事なポイントは、若林さんの書いた歌詞だと思います。歌詞を書くのは、2021年のEP『スーパー銭湯』以来ですか。
若林:そうですね。「モノトーン」は、可弥子に「すごい若林っぽい曲だね」って言われたんですけど、歌詞を自分で書いたのは久しぶりだったので、それもあるかもしれない。
――この歌詞はどんなイメージで書いたんですか。
若林:最初に“冷たい嘘”というキーワードがあって、…日常の繰り返しの中の退屈さみたいなものを、強く感じていた時期だったんですよ。自分個人としても、大学を卒業するタイミングだったり、いろいろなものが大きく変わってきて。大学生の時はウキウキ、ワクワクな感じが強かったと思うんですけど、いろいろなことが冷たく感じ始めた時に書いた曲です。「モノトーン」というキーワードもその中で出て来て、日常を繰り返して、冷たいものになっていく感覚はすごく怖いなというところを、なんとなく書き始めたんですけど。
――はい。なるほど。
若林:でもそんなに暗いものにはしたくなくて、「そういうものだよね」みたいな感じ。「それは嫌だ」とか「もっと動いて行こうぜ」ということを書きたかったわけではなくて、そういうものだけど、その中でもちゃんと日常を続けていけたらいいよね、きれいなものを拾って行けたらいいよね、ということを書きたくて、こんな感じの歌詞になりました。
――人生の中で、季節が少しずつ変わっていくというか、夏が終わって秋が来るみたいな、もの悲しさはあるけど、その中でちゃんと生きていこうというような。
若林:そういうタイミングだったんで、こういう歌詞が出てきたんだと思います。
――卒業ソングとかではないけれど、新しい季節の訪れを、寂しさと希望でくるみこむような。聴き手にそっと寄り添う感じの歌詞だと思います。
若林:今回、「歌詞良いね」って言ってくれる人がけっこういて、嬉しいです。自分は音楽メインに聴いちゃうんで、曲を書く時も、歌詞でメッセージを強く打ち出そうということはそんなにないんですけど、そう言ってもらえるのはすごく嬉しいです。
――良いメロディと良い歌詞。良いミュージシャンと、良いエンジニアと、いいスタッフ。全部が揃ったいい曲になったんじゃないですか。「モノトーン」は。
若林:この曲は、自分があれこれやったというよりは、良い人たちが集まってくれたことがもろに出た曲だと思います。僕がやったのは、ギターを添えただけなんで。
――いやいや。集めたのはあなたですから。
若林:まあまあ(照笑)。
――今後への期待がさらに高まりますけど。最近のツイッターで、「新曲のアレンジが固まってきた」と言って、ちらっと聴かせたりしていて。ということは、もう次の制作に取り掛かっている?
若林:今、絶賛苦戦中です(笑)。でも作り方的に、今までは、自分たちの中にあるものをまず出して、いろいろなリファレンスの上で磨いていくことが多かったんですけど、次は「こういう感じの曲を作ろうぜ」という、新しいアプローチも試しているので。面白いです。
――いろいろなアイディアがどんどん湧いてきている状態ですか。頼もしい。
若林:いろいろやりたい気持ちが、今はすごくありますね。まだ、型を決めたくないので。「まだ」なのか、これからずっと決めたくないのかはわからないですけど、今はいろいろやりたいものがあって、それを一つ一つやっていきたいです。
――楽しみです。可弥子さんは、次はいつ頃日本に帰って来ますかね。
若林:春先に帰ってこれたら最高だなって感じですけど、たぶん確実に帰って来るのは夏ですね。
――じゃあ、それまでにたくさんアイディアを溜め込んで。
若林:そうです。そこに照準を合わせて、曲を書き溜めて、次は何曲録れるかな?という感じで。
――つくづく面白いグループですよね。遠距離の難しさを、クリエイティブパワーで補うというか、より面白いものに仕上げてみせるという。
若林:面白がっていただければ嬉しいです。やっぱり、活動している感じがあんまり出せないので、年に数回のライブと、出している曲で興味を持っていただけるのは、むちゃくちゃありがたいですね。可弥子がファッションウィークで、世界中を歩き回っている中で、良い曲を書き溜めておこうと思います。
取材・文:宮本英夫
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