【インタビュー】BREAKERZのAKIHIDE、9thアルバムに“いつかの未来”と音楽的新機軸「シティポップを僕らしく」

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BREAKERZのギタリストAKIHIDEが通算9枚目のソロアルバム『UNDER CITY POP MUSIC』をリリースした。そこに描かれたのは、いつかの未来の話。地下都市(=アンダーシティ)という陽の光が射さない場所で暮らしていた人々が、再び“光”を手にするまでの希望と愛の物語だ。地下都市の構想はSF映画『ブレードランナー』からのインスパイアもあったというが、時空を超越するような楽曲の数々はポップでありアート。自ら手がけたというミュージックビデオと共に新しいAKIHIDEの世界を楽しむことができる。

◆AKIHIDE [BREAKERZ] 動画 / 画像

アルバムタイトルに冠されているように、サウンド的な新機軸は“シティポップ”エッセンスの導入だ。メロディライン、アレンジ、サウンド処理はこれまでのAKIHIDE作品にない領域。サンプル音源を起点として枝葉を編み上げるような制作スタイルも今回が初で、自身にとって刺激的なアプローチだったという。一方で、作詞作曲、演奏や歌唱、アート制作はこれまで同様、全てAKIHIDE自身によるもの。インストや歌唱曲を含めた全8曲+ボーナストラック1曲で表現されたAKIHIDE純度100%によるコンセプト作品の完成だ。

なお、初回限定盤には計60分のヒーリングミュージックを収録した特典CD『UNDER CITY MIDNIGHT STREAM -432Hz-』が付属する。432Hzは癒やし効果を持つと言われる周波数だ。ギターやアナログシンセ、サンプラーなどを駆使した全9曲約1時間の即興演奏『432Hz Journey to sleep -眠りへの旅路-』がサブスクにてリリースされているが、今回はアルバムコンセプトに沿った仕上がり。AKIHIDE曰く「アンダーシティという閉鎖された空間で、真夜中24時になると流れる癒やしの432Hz。ミッドナイトストリームでは、DJ&ギタリストの“A(エース)”が毎夜安らぎの旋律を響かせている」とのこと。こちらもミックスまで自身が手掛けた。

これまでのソロ活動で吸収してきた様々な制作手法と多彩な⾳楽性で作り上げられた『UNDER CITY POP MUSIC』というストーリーについて、AKIHIDEに訊いたロングインタビューをお届けしたい。

   ◆   ◆   ◆

■サンプル音源制作者とのセッション感覚
■今の世の中だからこそ生まれたアルバム

──9thアルバム『UNDER CITY POP MUSIC』は洗練されていてポップで、AKIHIDEさんのボーカルスタイルも含めて、とても新鮮でした。シティポップを取り入れた楽曲が収録されていますが、どんなところから構想が生まれたのですか?

AKIHIDE:シティポップが世の中を席巻していた'70年後半から'80年代、僕はリアルタイム世代ではなかったので、ここ最近の世界的リバイバルを多くの人たちと同じように新鮮に感じていたんですね。ザ・ウィークエンドが「Out Of Time」で亜蘭知子さんの楽曲「Midnight Pretenders」(1983年発表)をサンプリングしたじゃないですか。僕はザ・ウィークエンドを聴いていたこともあって、’80年代前半のアナログシンセの感じを取り入れてみたくなったんです。それに、シンプルでキャッチーな楽曲を作りたいとも思っていた。アルバムタイトルには“CITY POP”というワードを“UNDER”と“MUSIC”の間に挟んでいるんですが、僕自身、ちょっと切なかったり、アンダーな感じの曲が得意なので、シティポップを僕らしくアレンジしてみようというのが、今回のコンセプトの始まりでしたね。


──シティポップを自身のフィルターを通してやってみたら、どうなるんだろうと?

AKIHIDE:コロナ禍になって、ミュージシャンと一緒にスタジオに入ることさえできなくなってしまって。そういう状況だったからループペダルを駆使してひとりで作ったのが前作『LOOP WORLD』だったんですが、それ以降、サンプル音源を使って曲を作ったり、アレンジすることにハマっていたんです。今はサンプル音源のサブスクリプションサービスが多くあって、そこで、いろいろな世代のミュージシャンやトラックメーカーが作った音源を見つけることができるんですね。その中から自分が思うシティポップ感や当時の雰囲気を出している音を抜き取って、“ここに自分だったらどんなメロディやギターを乗せるだろう?”というやり方で曲を作っていったんです。

──そういう作曲方法は今までもしていたんですか?

AKIHIDE:今作が初めてかもしれないですね。サンプル音源だけではコード進行も基本的に繰り返しというか。ドラマティックには変わらないので、メロディやアレンジで変化をつけていったんですが、それ自体が刺激的でした。1人で作っているのに顔も名前も知らないサンプル音源を作った人たちとセッションしているような不思議な感覚があって。今の世の中だからこそ生まれたアルバムだと思います。

──ボーカルとギターに今まで以上に熱量とか有機的なものを感じたのは、バックトラックありきで作っていったからでしょうか?

AKIHIDE:最初はギターに対して無機質なトラックが後ろにいる感じがして、うまく融合できなかったんですよ。おっしゃるようにサンプリングは基本、ループになってしまうので、熱量があったとしてもそうは聞こえない。僕自身がシェイカーやタンバリンをけっこう練習して、パーカッション類のほとんどを自分で演奏して録音したんです。それが冷静なトラックと自分の生の歌やギターを接着剤みたいに繋げてくれる役目を果たしてくれて、音像にも奥行きが出たんです。不思議な体験でしたね。

──なるほど。本当に新しいアプローチだったんですね。

AKIHIDE:だから、プライベートスタジオでひとりで作業していても、純粋に楽しかったですね。

──ひとりで制作したアルバムとはとても思えないです。物語は“UNDER CITY=地下都市”を舞台に繰り広げられていきますよね。

AKIHIDE:“UNDER CITY”のイメージは漠然と自分の中にあったんです。コロナ禍の閉塞感が徐々に薄れていく一方で、今度はロシアとウクライナの戦争が起きて。ショックだったし、対岸の火事には思えなかったんですね。SNSで繋がれる世界で、渦中にいるのは僕らと変わらずに普通に恋をしたり、勉強したり、音楽をやっていたりする人たちなのに、突然、そういう事態にのみ込まれていく。紙一重の世界に生きていると思った時に、アルバムの物語が膨らんでコンセプトが固まっていきました。

──空想世界と現実世界がクロスしていったんですね。

AKIHIDE:まさにそうですね。衝撃を受けたのはマリウポリの製鉄所の地下壕にたてこもっていた恋人同士が明日どうなるかわからない状況で、結婚したというニュースだったんです。旦那さんはその3日後に戦死してしまったんですが、そうなる可能性を知りながら地下で結婚式を挙げた話を知った時に遠い世界の出来事じゃないんだなって。じゃあ、自分に何ができるのか考えたら、身近にいる人を大切にすること。そのために曲を作って、作品を出すしかないと強く思ったんです。暗いアルバムにしたかったわけではなく、光を求めて前向きに生きている人たち、恋をしたり笑ったり悲しんだりしながら生きている人たちがいることを表現してエネルギーに換えられる音楽を作りたいと思っていました。


──アルバムを聴いた時に、今作の主人公はAKIHIDEさん自身でもあるのかなと歌詞から感じたんですよね。

AKIHIDE:タイトル曲「UNDER CITY POP MUSIC」はまさにそうですよね。サビでは“I sing for you=君のために歌い続ける”と書いていますが、それはどういう状況になってもファンのみなさんに対してそういう想いで音楽をやっていきたいという意志の現れです。応援してくれる人たちが自分を少し強くしてくれると思っているので、ある意味、このアルバムの全てを表しているのかなって。だから、僕自身でもありますね。

──「UNDER CITY POP MUSIC」は、まさにシティポップを取り入れた楽曲で、歌い方や声の出し方が今までと違うという印象を受けました。艶があって柔らかいというか。

AKIHIDE:今作ぐらいから、キーの設定や歌い方のコツを少しずつ学んでいったというか。“俺の声はこれでいいんだな”と思い始めたんですよね。以前よりだいぶキーを下げて、余裕を持って甘い声で歌える場所を探していったというか、前より頑張らなくなったのがよかったのかもしれない。ソロではギタリストとして、声も歌詞も送り出している意識があるんですけど、うまく歌おうとするんじゃなく、歌を歌おうと思ってました。確かにその変化が顕著に出ているのかもしれないですね。

──タイトル曲には“描いた未来はすでに行き止まり”という歌詞が出てきますが、地上にはもう住めなくなった世界を思わせますよね。

AKIHIDE:そうですね。“帰るべき場所は 瓦礫の下”と歌っているので。戦争に限らず、生きていると何かを乗り越えたからそこで終わりではなく、次から次へとやってくるんだなって。人生、一筋縄ではいかないんだなとか、思いますよね。帰る場所がないと思ったら、やっぱり大切な人と手を繋いで想いのままに強くなっていくしかないという曲です。

──そのミュージックビデオのアートワークが凝っていて美しいですが、全てAKIHIDEさんの手で制作されたとか。

AKIHIDE:はい。切り絵というか、ペーパーを切って色を塗って。配置して動かすのは僕ひとりでは無理なので、スタッフにも手伝っていただいたんですが、ミュージックビデオも自分にできることは何だろうなというところから始まっているんです。配信ライブを経験して、よりカメラや映像に興味が湧いたという話は以前のBARKSインタビューでもお話ししましたが、今の時代、伝えるという意味で映像の果たす役割は大きくなっていて。けれど、現実的に予算も時間もかかるじゃないですか。だったら、自分でやったら複数作れると思って、今作では3曲のミュージックビデオを制作したんです。

──監督もAKIHIDEさん自身だとか?

AKIHIDE:監督といっても素材を集めているだけなので、たいしたことをやっているわけではないんですが。僕のアイデアは自分自身がいちばん把握していることを考えたら理に適っているのかなって。「電脳少女」もアイデアが頭に浮かんだら、あとは撮影するだけでしたね。

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