【インタビュー 前編】KAMIJO、アルバム『OSCAR』が一大巨編な理由「書き終えたときに考えさせられたのは人生」
■クラシック音楽特有のカッコよさは
■ギターリフに通じるところがある
──続く「Habsburg」は、「AGENDA」と一体となった曲のように思えます。
KAMIJO:一体ですね。もともとそういう想定の下で制作したもので、マスタリングするうえでマーカーをつけるために分けただけなんです。BPMを変化させるために、4分の5拍子にテンポチェンジして、その上で3連のフレーズを乗せたりとか。そういうかなり極端でありつつ、でも完全に計算されたテンポチェンジに最近すごくはまってまして。それがまさに「AGENDA」から「Habsburg」への繋がりになっている。そういったところも今回のアルバムの聴きどころですかね。
──「Habsburg」はシンフォニックなメロディックパワーメタル曲と言っていいものですね。
KAMIJO:自分では何と言えばいいかわからないですけども、まずは素直に、好きなクラシカルな雰囲気を思いっきり出そうと思って作ったところはありました。その上で、ヴィヴァルディの「四季」をモチーフにしながらも……時代的にヴィヴァルディはストーリーに直接は関係していないんですが、サウンド面ではそこら辺をちょっと意識して。あとは、クワイアとスピッカートのザクザクした感じが、この曲でのサウンドの肝にもなっている。ギターはこの曲だけYOSHIくん(元CROSS VEIN)にお願いしたんですが、時間をかけて丁寧に弾いてくれて、気持ちいい形になったなと思いますね。
──歌詞の物語は?
KAMIJO:塔の牢屋の中で死んでいたのはルイ17世ではないという、ルイ17世生存説というのが、本当に史実上あるんですね。そこでDNA鑑定を通じて、亡くなったのはルイ17世で間違いないと、事実として証明されているんですが、DNA鑑定に際して、保存されていたルイ17世の心臓の対となるものが、ハプスブルク家に代々伝わるロザリオの中にあった髪の毛だったんですよ。
──それも史実通りですね。
KAMIJO:そこから時代を遡って、今回は、言ってみればルイの祖先であるハプスブルク家の方々の願いに目を向けてみたんです。当時、ハプスブルク家といったら、ものすごい勢いがあって、ヨーロッパ中をどんどん侵攻していった。青い血などとも呼ばれる、まさに貴族の一族ですけど、そういった彼らにも信じるものがあったわけです。カトリックとプロテスタント。彼らもそのどちらかを信じていたわけですけれども、未来の自分の子孫たちの栄光を願った。歌詞においては、“ロザリオ(証)”と書いてありますが、まさにエピソード0のような立ち位置として、「Habsburg」という名前で曲を形にしようと思ったんですね。でも、ここまでアレンジ含めて、ばっちりハマるとは思ってなかったですね。ハプスブルク家の紋章って双頭の鷲なんですよ。「AGENDA」の冒頭の9小節目かな。先ほど、バンドが入る瞬間のストリングスのところで、鷲が飛んでいくイメージの話をしましたが、この「Habsburg」のシーンでもあるんですよね。
──緻密な作りになっていますよね。今の話を聞いていて、一つの謎も浮かんできました。
KAMIJO:なんでしょう?
──ハプスブルク家はカトリックだったはずなんです。つまり、ハプスブルク家の人たちが願った明るい未来は、後世の人たちの思うものとは必ずしも合致しないだろうなと。
KAMIJO:まぁ、そうでしょうね。
──現在の資本主義社会は、プロテスタンティズムが元で広がったものと考えれば、カトリック側から見れば、むしろ退化かもしれない。そう考えると、架空の話とはいえ、後に出てくる、人間の血液をエネルギーに変えるためのエミグレ制度は、プロテスタンティズムがもたらした、間違った歩みに対するものとも捉えられる。
KAMIJO:なるほど。宗教的なところに関して僕は、あえて深堀せずに見ています。ルイ自身は、基本的にはどちらでもないですし、中途半端な話になってしまっては失礼ですし。それこそ、そのテーマで書き始めたら、また別のアルバムが作れてしまうほどの題材ですからね。
──徹底してこだわっているからこその配慮ですよね。聴き手にとっても新たな探究を促されますよ。
KAMIJO:そうであるといいですね。それから、クワイアが思いっきりカッコよく決まってよかったですね。フォルテッシモが綺麗に。
──“静寂を切り裂く”のくだりでは、主旋律の後ろで低音の声がユニゾンで聞こえますよね。あそこも意味合いがあると思うんです。
KAMIJO:はい。双頭の鷲を意味するものですね。キー的な観点で、低すぎても高すぎても雰囲気に合わないんですね。そこでオクターヴで重ねてみたんです。音楽的視点からの判断ではあったんですが、双頭の鷲のイメージにもぴったりだなと思いましたね。
──この低音が強く出てこないところが深遠ですね。「SHADOW OF OSCAR」は数ヶ月前にYouTubeでMVが公開されましたよね。
KAMIJO:はい。アルバムを聴いていただく上で、冒頭の何曲かは登場人物紹介的な意味合いもあるんです。それもあって、「SHADOW OF OSCAR」に関しては、ルイとサンジェルマン伯爵の関係、人間とヴァンパイアの関係、そういった月と太陽のように対となるものを表現していますね。歌詞だけ見るとラヴソングのようにも聞こえるんですけれども、これはステージの僕とファンの方々とか、たとえば恋人のように、みなさんにとっての大切な人とか、いろんな人に当てはめてもらえればいいと思うんです。この作品の中では、ルイの代わりに表舞台に立っていたサンジェルマン伯爵と、その月に光を当てていた太陽、つまり、裏に隠れていたルイですね。そういった意味合いとして落とし込んでいます。この曲は、特にシンコペーションになりますが、僕の中に自然と流れているJ-ROCKの血といいますか、それをストレートに出したアレンジになってますね。
──この曲はサビ始まりであることも、すごく活きてますよね。1サビの後とエンディングに聞こえるチェンバロもまた印象的で。
KAMIJO:はい。さっきのヴィヴァルディもそうですけど、ここではバッハをモチーフとして使って。チェンバロが鳴ってそうなストーリーのシーンがあるかといったら、そういったことではないんですが、純粋にあの楽曲の中にサウンド要素として欲しかった。それで実際のクラシックの譜面を見ながら、あぁこういうことかと自分なりの解釈で入れていった感じでしたね。
──あの音が来ると、何となく気分が昂揚するんですよね(笑)。
KAMIJO:わかります(笑)。コード感のあまりない、クラシック音楽特有のカッコよさというのは、ギターリフに通じるところがあると思うんですよ。そこにベースをつけようとしたら、ずっとルートになってしまうんですけどね。僕は、基本、フレーズもスケールで作らないんですよ。すべてメロディーとコードに対してのハモリにするなどの付け方をするんですね。だから、ギターをフィーチャーした曲を作ってく以上は、今後、自分でももう少し学んでいかなきゃいけないところだなと思っていて。
──逆にそれをしないからこそ、KAMIJO色が出るという考え方もできますけどね。
KAMIJO:ははは。でも僕、疑問に思ったことは知りたいですし、その中から適切なものを選んで使いたいですからね。
──実際に使うかどうかは別として、学ぶべきものであろうと。
KAMIJO:そうですね。スケールって聞いたときに、“それってイコール、世界観ってことですか?”って思っちゃってたんですよ、ずっと。アラビアンスケールとかハーモニックマイナーとか、いろんなものがありますが、それを用いることで世界観が決まってしまうのはどうなんだろうと。ただ、クラシックと様々なギターフレーズと照らし合わせて考えていくときに、少しそういう知識も必要だなと思うんです。たとえば、“なぜここでこの音がハモってるんだろう? 絶対に音がぶつかるよね”と思った場合でも、“なるほど、スケール的にはOKなんだ”と解釈できる。そのように“えっ!?”と感じるところが、今回の制作を通して多かったんです。
──今まではそう感じることはなかったんですか?
KAMIJO:そうですね……むしろ、スケールなんてどうでもいいやと思ってたんですよ。僕が間違ってると思ったら間違ってる、と。だから、クラシックの譜面を見ながら、“これでいいの?”と疑問に思うんですけど、クラシックだからきっと正解なわけですよ。つまり、スケールに沿って考えると正解で、コードに対して考えると不正解なんです。そういうことが何個かあったんですよ。でも、いいですよね。まだ学びたいものが生まれるっていうのは、幸せなことだと思いますので。
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