【インタビュー】<改造ギターコンテスト>BARKS賞は戦車のような鋼のV…その名も「IRON V」

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2022年もまた、全国からとてつもない改造ギター作品の数々が寄せられ、ストイックな正攻法から出オチもの、飛び道具的なキテレツギターから、何を考えているのかわからない珍品までが勢ぞろいとなった。TC楽器主催<改造ギターコンテスト2022>に応募された100を超えるエントリー作品群である。

全応募作品からセレクトされた上位24作品を対象に協賛各賞が選出されたが、BARKS賞に輝いたのは、関西から「IRON V」と名付けられたとんでもないギターを送りつけてきた「いきすぎたDIY」さんだ。

「いきすぎたDIY」さんは、独自ドメインをはじめ、ブログやツイッター、YouTubeなどでも活躍を見せるヴィンテージのギターが大好きというお方。ペダルやアンプにも造詣が深く、そして何より「いきすぎたDIY」と名が体を表しているように、ご覧のようなソファーもDIYで手作りしちゃうというスキルフルな男性で、ヴィンテージ・ホワイトマーシャルも所有…かと思いきや、なんとこちらは本棚。ヘッドの中にはプリンターが収納されている。もちろんDIY。





そんな「いきすぎたDIY」さんは、1952年のフェンダー・エクスワイアも所有する無類のヴィンテージギター・ファンであり、古き良きビザール系にも食指を動かすギターマニアなのだが、そんな彼が何故に鉄でギターを作ったのか。無慈悲にも6Kgもの重量があり、持っているだけで体力を消耗する。いくらLEDでパーティ感を出そうとも、筋トレ感は否めない。何を求め、どこに行こうとしてこんなギターを作ったのか。話を聞いた。



──「IRON V」は、製作に1年もの年月がかかったとのことですね。<改造ギターコンテスト>エントリーとは関係なく製作を始めたということですか?

いきすぎたDIY:はい。コンテストとは関係なく、自分で作りたいなあと思って作りました(笑)。2~3ヵ月でできると思っていたんですけど…何ひとつうまくいかなかったんですよね(笑)。

──そもそも、なんでこんなギターを作ろうと?

いきすぎたDIY:もともと僕は、ヴィンテージギターが大好きなんです。なので、自分でギターを作っても、そもそも「絶対に納得いかないなあ」って思ったんですよね。お金と手間をかけてゴミができるってやつ。であれば、それとは真逆のことをしてみようって思ったんです。

──真逆?

いきすぎたDIY:「ボディ」とか「木」とか、ギターに必要なものを全て省いてみようと思って、ピックアップもわざわざ安いの付けたりとか(笑)。もちろん、真逆のことをしたらいい音がするわけはないんですけれど、それを確かめてみたいなと思ったんです。

──DIYがイキすぎてる(笑)。

いきすぎたDIY:そうしたら、意外と優しい音がしたんですよね。

──その発想を基に、どんなコンセプトを立てたんですか?

いきすぎたDIY:以前、TC楽器さんに賞をもらった、まな板にヴィンテージのギターのネックを付けたギターがあるんですけど…。

──<第3回改造ギターコンテスト2020>のネクストトーンギタートレーディング賞「ピックアップが動くギター」ですね。

いきすぎたDIY:そうです。ピックアップが動くのはコンテスト用にやっただけで、あれの本来のコンセプトは「ネックだけでどれだけいい音がするか」だったんです。それでも意外といい音がしたので、今度はいっそネックを木じゃないもので作ってみようと思って、で「IRON V」を作りました(笑)。

──溶接のスキルは元々お持ちだったんですか?

いきすぎたDIY:そうですね。DIYがすごい好きなんで、ここにあるソファも溶接して作りました。

──それはすごい。とはいえ、「IRON V」製作は何ひとつうまくいかなかったとか。

いきすぎたDIY:まずネックなんですが、丸い金属を用意するのが無理だったので、真四角の鉄パイプのネックになったんですけど、そのために、まず真四角形状の木のネックを一回オーダーしてみたんです(笑)。

──え、木のネックをオーダー?

いきすぎたDIY:断面が羊羹みたいな丸くないネックを、プロに頼んで木で作ってもらったんです。弾けるのかどうかを確かめるために(笑)。

──実証用にわざわざ?

いきすぎたDIY:はい(笑)。デジマートの地下実験室でもやっていたので、どんなんかなあ?って思って3万円ぐらいかけて作ってもらいました(笑)。で、その形状でも弾けることが確認できたので、これなら鉄でもいけるなと。それでネックはできたんですけど、今度は鉄の指板を貼ったり削ったりするのが大変で。



──指板にはちゃんとラジアスもついていますよね。

いきすぎたDIY:はい。でもフレットを打ちこむのが大変で、こっちを打つとあっちが飛び出て、そっちを打つとこっちが飛び出る。永遠に終わらないので、最後はもうボンドで付けました。

──なんか分かる気がする(笑)。

いきすぎたDIY:ネックをどうしようか…を考えるのに半年ぐらいはかかってます。

──事前に木のネックでシミュレーションするなんて、ちゃんとした工程を踏んでいるんですね。

いきすぎたDIY:そう、そうなんですよ(笑)。友達とかみんなから「ふざけてる」と言われるんですけど、意外とお金と時間と労力をものすごいかけているんですよね(笑)。

──ちなみに、木製の四角いネックはどんなサウンドでしたか?

いきすぎたDIY:すごい退屈な音でした(笑)。ローもミドルもハイも全部凄く出るんです。それがものすごく退屈な音で、すぐ外しました(笑)。

──ほー、当たり前だけど普通のネックってよくできているんですね。

いきすぎたDIY:よくできてますよね。あれは削ることでローとかミドルとかがきっちり出るようになっているということが勉強になりました。

──そして、鉄製のボディですが、そこにはどんな試行錯誤が?

いきすぎたDIY:VにしたのはフライングVを持っていないということと、そもそもVだと溶接して作りやすいからですね。曲げるのは自宅ではどうしてもキツいので。あれは全部庭で作っているんです。

──炎天下の庭で作ったとのことですね。

いきすぎたDIY:あれのために空冷服買いました。

──ギター以外のところでもすごいお金がかかってるじゃないですか。

いきすぎたDIY:そう、すごいお金かかっちゃって(笑)。



──途中でくじけそうになったことは?

いきすぎたDIY:何回もあります。くじけすぎてイヤになって3ヶ月くらい中断していた期間もあります(笑)。

──そこから再起したきっかけは?

いきすぎたDIY:家の中に置いていて、それを見ながら「あー…今週やろう」と思いながらやらないを繰り返していたんですけど、3ヶ月も経ってもう邪魔なんで完成させようと(笑)。

──一番大変だったのは何ですか?

いきすぎたDIY:まあフレットが打ち込めなかったのもですけど、ネックとボディを組み合わすのもすごい大変でした。あと、ネジ穴を切るのを何回も失敗して。タップっていうネジを切る道具があるんですけど、あれ、折れやすいんですよね。

──タップのほうが折れちゃう?

いきすぎたDIY:はい。あれが折れるたびに心が折れました。あれ折れたら、もう鉄の中でどうしても取り出せないんですよ。それでもう…。溶接して完成するまでも大変やったんですけど、その後の細かい作業も結構心折れましたね。

──それを猛暑の中でやっていたわけですね(笑)。

いきすぎたDIY:そうです(笑)。暑すぎて、夜耳鳴りしてました。

──そうやって無事完成したわけですが、LEDはどの時点で付けようと?







いきすぎたDIY:本当はトップとバックも鉄を貼ってピカピカにしようと思ってたんですけど、枠だけで5kgになっちゃったので、貼るのをやめたんです。ただあの隙間をいかす方法はないかなあと思って、LEDのテープを貼りました。

──ネックの中にも入っていますよね。

いきすぎたDIY:それもだいぶ苦労しました。うまいこと入らんくて、結局板にLEDを貼って板ごと入れました。LEDを光らせるとキーンキーンってノイズが出るんですけど、メトロノームになります(笑)。合わせて弾けば全然わからないし(笑)。

──あと、6Kgという重量なので別途ストラップも作ったとか。専用のストラップが必要なギターなんて、聞いたことがない(笑)。

いきすぎたDIY:あんまりないですよね(笑)。机の上に敷く厚めのビニールを買ってきて、分厚いのを作りました(笑)。もう、肩がちぎれそうになるんです。

──今回の製作を通して、次があるとしたら改善したいところなどはありますか?

いきすぎたDIY:技術的には何ひとつうまくいかなかったんですけど(笑)、音的には意外とハイが出なくて、ミドルとローだけの上品なフルアコみたいになったということが、一番の勉強になりました。なんかもう、キンキンしたしょーもないゴミのような音になると思ってたんですけど、ハイが綺麗になくなりました。ちょっとこれは意外でした。

──世の中にはヴェレノとかトラビスビーン、タルボのようなアルミ素材を使ったギターはありますが、鉄はないですよね。これは重たいからなのかな。

いきすぎたDIY:あと、アルミは鋳造ができるので、型さえ作ったら大量生産できますよね。

──なるほど。

いきすぎたDIY:鉄の場合、マンホールとかは鋳造で作っていますけど、ものすごいロットが必要みたいで。

──じゃなければ、鍛冶屋のようにとんてんかんてんするしかないのか。ここで学んだ知識/ノウハウは、次どこで活かしましょうか。

いきすぎたDIY:薄い鉄で作ってみたらどうかなと思いますね(笑)。重量の問題と、薄い鉄ならハイが出るのかな?と興味があります。

──オーダーした木製ネックに、鉄の指板を付けたらどうなるかな。

いきすぎたDIY:ウッドのネックに鉄の指板ですか?…多分ですけど、ハイがなくなると思います。あそこで振動が全部吸収されるような気がします。木だと振動して音が広がるんですけど、その振動が鉄の指板に吸収されちゃって、で、ミドルとローだけが残っちゃう感じ。

──なるほど。逆にミドルとローを出したければ、今回の経験が活かせそう(笑)。そもそもブリッジやテールピースは金属だったりするわけですしね。

いきすぎたDIY:以前、1952年製のレスポールを持っていたことがあるんですけど、ブリッジが丸太みたいな棒なんですよね。あれもハイがなくなってミドルとローだけになるんです。なるべく軽いのを付けたんですけど、そこまでハイは出なかったですね。

──テールピースもアルミとダイキャストではサウンドが変わりますからね。これからも楽しみだなあ。

いきすぎたDIY:もしやるとしたら、チタンとかやってみたいですけどね。

──加工が大変そう。

いきすぎたDIY:そうなんです(笑)。でも一応、鉄工所の知り合いはいるんで、予約はしてるんです。「行くときはお願いします」って(笑)。チタンは高額なんで、しばらくは円安ですし安く見つかったら考えます。

──いろんなDIYを趣味にされているようですが、他にはどんなギターを?

いきすぎたDIY:ギターを初めて作ったのが、この「IRON V」なんです。

──初めての手作りギターで、鉄製はやばい(笑)。



いきすぎたDIY:これまでも、オーダーメイドとか結構したんですけど音が良くなくて。自分が作ったとしても絶対良くないって思っていたんで。

──現在お持ちのテレキャスも1952年製ですし、良いギターをよく知る人間によるチャレンジが「IRON V」だったんですね。

いきすぎたDIY:みんなからは「ふざけてる」と思われてますけどね。ギターを作る人にもふざけてるって思われて、ヴィンテージギター好きな人にもふざけてるって思われて、誰一人真剣にやってるとは思ってくれてないです(笑)。

──よく考えれば、1年かけてふざけ続けるなんてないのに。

いきすぎたDIY:夏は塩を舐めてシャツも塩を吹いて、みたいな(笑)。楽しいことをしたいですよね。なるべく人のやってないおもろいことをしたいなあって思ってます。「IRON V」も僕みたいな個人の人しか作らないものでしょうし(笑)。

──2023年も楽しみにしていていいですか?

いきすぎたDIY:ひとつ考えてるのはありますけどね。それはもっとふざけてます(笑)。

──「IRON V」は真面目な作品でしたから(笑)。

いきすぎたDIY:そうですね。でもみんなふざけてるとしか思わない。でも来年は、もっとふざけてるのを考えてます(笑)。楽しいことをして、みんなと仲良くしたら楽しいですね。


   ◆   ◆   ◆

インタビュー終了後日、いきすぎたDIY氏からBARKSへ一通の封書が。そこには、取材のお礼の言葉とともに「3Dプリンタで遊びでBARKSさんの、エフェクターのスイッチハットとピックを作ったのでお送りさせて頂きました。ピックは握ると親指に「B」が出ます。何かのネタに使ってください」とのメッセージ。



スイッチハットにはばっちりBARKSのロゴが乗っていて、パインあめのような食べたくなる衝動を誘う完成度。そしてピックには強烈な滑り止めにもなる反転Bのロゴ。おおよそイントロからBメロあたりまで(自分調べ)弾けば親指にロゴが浮かび出すという、おバカ仕様の特製ピックが梱包されていた。ステキすぎる。「いきすぎたDIY」の名に違わぬ、いきすぎた行動力と心遣いに脱毛しました。いきすぎたDIYさん、最高や。

取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)


いきすぎたDIY氏と愛機のダンエレクトロ・シルバートーン

◆いきすぎたDIYブログ【ヴィンテージギターとDIY】

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