【インタビュー】ハナフサマユ、2ndアルバムに描いた等身大の物語「ひとりの人生と結晶の輝きを」
■今の時代は言葉のリズムや響きも重視される
■それでも私は歌に込めたメッセージを伝えたい
──「スイマー」の話に戻りますが、リズムを押し出したアレンジと切ないメロディー、“うまく泳げなくていいよ 浮かんでいるだけでもいい 幸せになるために産まれてきた”という歌詞がひとつになって、独特の魅力が生まれています。
ハナフサ:私が曲を作るときは、伝えたいメッセージ、キーワード、主人公を決めてから書き始めるんです。だけど、「スイマー」はそういうことを考えずに作ったといいますか。自分がそのときに感じていたことが、そのまま表れていますね。便利な世の中になっていくのはもちろんいいことですけど、その反面、SNSというものに私もどこかで縛られて生きている。その息苦しさみたいなものがこのアルバムに入ることで解けていくというか、“人生の中には息苦しさもあるよね”というふうに表せたらいいなと思ったんです。なので、直感的に書いた曲ではあるけど、アルバムには絶対に必要なピースでした。
──「伝えたいメッセージ、キーワード、主人公を決めてから書き始める」という曲作りは昔から?
ハナフサ:シンガーソングライターを仕事として生きていくという覚悟が決まった後、20歳を過ぎてからですね。それまではただただ自分の思いを吐き出して、自分のために歌っていたんです。だけど、誰かに向けて歌いたいと思ったときに、自分の思いだけでは伝えきれることが少ないんですよね。主人公にバリエーションを持たせることで、そこに自分を重ね合わせられる人が増えたんです。そういうことに気づくきっかけがあって、以降はいろんな視点で書きたいと思うようになりました。そうすると、主人公によって声色を変えて歌いたいと思うようになりましたし、多種多様な曲が作れるようになったんです。
──メッセージ、キーワード、主人公からイメージを膨らませて、ギターでコードを鳴らしながら鼻歌で曲を作るという流れですか?
ハナフサ:そうです。以前のBARKSインタビューでもお話しましたけど、私は歌詞が先なんです。最初に歌詞を書いて、メロディーは後から考える。音楽を通して私が一番伝えたいのは、言葉に乗せたメッセージだから。アーティストさんによっては言葉のリズムや響きを重視される方もいて、特に今の時代はそういう方が多いですよね。そうやって生み出される楽曲の素晴らしさも知っているんです。それでも私は歌に込めたメッセージを伝えたい。歌詞そのものだったり、メロディーに乗ったときの言葉の聴こえ方をすごく大事にしています。その一方で、今回のアルバムには鼻歌から作った曲もあって、作り方を変えてみたりもしました。
──メロディーに乗せる言葉と、言葉に沿わせるメロディー、そこには違いもありますか?
ハナフサ:昔からわりと、歌詞を書き上げた時点で、こういう感じかなというメロディーが浮かんでくるんです。そういう意味では歌詞もメロディーも同時に作っているのかもしれませんね。でも、それではダメなんじゃないかと思い始めたのが、前作『Blue×Yellow』のときで。歌詞とはこんなに向き合っているけど、メロディーに対しては直感型だなと思ったんですね。音楽理論を勉強して、それを踏まえた上でメロディーを考えたほうがいいんじゃないかと。
──旋律に対しても、いろいろな視点を欲したということでしょうか。
ハナフサ:そうかもしれません。ただ、そんなときにチームの方から「ハナフサのメロディーはすごくいいから、メロディーよりももう少し踏み込んだ歌詞を考えたほうがいいんじゃないかな」と言われたんです。「たとえば歌詞に文学的な匂いを入れてもいいし、情景を入れてもいい。そういうものを採り入れてみたら」って。意外な言葉をチームの方々からいただいたことで、自分が抱いていたメロディーに対する不安は、あまり気にしなくていいんだなって気づかされました。
──シンフォニックで壮大な楽曲も収録されていますが、結婚式を見守るという親しみやすい視点を活かした「Happy Wedding」の程良いスケール感や、「メリーゴーランド」のリズミックなサウンドも歌詞にマッチしてます。
ハナフサ:「Happy Wedding」は、私の兄の結婚式のときにお祝いとして歌うことをきっかけに書いた曲でして。結婚式を挙げる2人の姿をイメージして、ただただ幸せを願ったからこそ生まれた歌詞なんです。音はその世界観に必要なものだけが入っています。もっと豪華にもできましたけど、それ以上に“おめでとう”ということを伝えたいという気持ちが一番にあったので、シンプルな思いを届けるためにベストなスケール感だったんです。
──ウェディングソングといえばシンフォニック、という固定観念に捉われていないところがフックになっていると思います。一方の「メリーゴーランド」は暗さと華やかさを併せ持った独特の世界観が魅力的で、“振り出しに戻りたい”とか“揺られ揺れてく”とか“こんな私の生まれた意味を 誰か証明してよ”といった歌詞に共感しました。
ハナフサ:一番最後に今回のアルバムに収録することが決まった曲が、「メリーゴーランド」で。アルバム全体を見渡して、「今ある収録予定曲のほかに、どういう曲がアルバムに必要か」という話をしていたとき、私には「アクセントになる曲を入れたい」という気持ちがまずあったんです。そういう中で、「メリーゴーランド」というタイトルだしサウンドだけ聴くとわりと明るいんですけど、歌詞は闇落ちする瞬間を歌っているという。そういうギャップみたいな曲を全11曲の10曲目に入れることで、人生というテーマがよりリアルさを増すんじゃないかなと思ったんです。
──おっしゃるとおり、メリーゴーランドの煌びやかさや華やかさではないですね。
ハナフサ:はい。“うまくいったりいかなかったりもしたけど、結婚しました”で終わるアルバムじゃない。落ちるところまで落ちるみたいな瞬間があってもいいんじゃないかなと。そういう気持ちで書いた曲なので、歌詞には光がない。それを、いかに重くなりすぎないようなアレンジで、アルバム『結晶』を通して聴いてくれる方から飛ばされない曲にするかという。
──人生をテーマにした物語に欠かせない楽曲になりましたね。では、ボーカリストとしてはどんなアルバムにしたいと?
ハナフサ:制作する上で、自分の得意な音域を意識したところがあります。ボーカリストとしては、音域が広いほうがいいとか、高い音が出たほうがいいとか考えがちだと思うし、もちろんそれは大事なことで。でも、私が得意なレンジは中音域なんです。自分でも低音域から中音域の響きが好きですし、今回のアルバム制作は、そこをいかに曲の中に混ぜ込むかということを意識したり。レコーディングでも、そういう部分を自分で作りながら歌いました。
──「スイマー」や「メリーゴーランド」などで聴けるローボイスは魅力的ですし、声を張らずにファルセットを多用するハイトーンが楽曲に温かさを生んでいると感じます。
ハナフサ:ありがたいことにチームの皆さんからは「ファルセットがいい」とか「ファルセットから地声に帰る瞬間がいい」とか言っていただけていて。改めて私の強みは、ムリに地声で高い声を出すことではないとわかったんです。それが見えてきたからこその今回のアルバムという気はしています。
──たとえば、切なさや痛みを歌った楽曲も、声に柔らかさがあるので鬱々としただけの歌にはならないですね。
ハナフサ:自分の声の特性は変えられないと思うんですね。自分の声を受け入れたことで、そこへいけたのかもしれません。聴いてくださった方やチームの方から「こういうところがいい」と言っていただけることが、自信につながったり、確かな強さになっていったりしているんだと思います。
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