【インタビュー】GLIM SPANKY、アルバム『Into The Time Hole』完成「もっと音楽的に豊かな響きを」
■ギターが出てくるところでは
■“ロックです!こんにちは!”みたいな
──「Sugar/Plum/Fairy」もブルージーかつラテンの要素も入っている曲調と、Take It Easyな歌詞の組み合わせが新鮮でした。
松尾:これは一番最後に作った曲で、“明日、レコーディングだから”ってメロディと歌詞、それぞれ数時間で作ったんです(笑)。というのは、もともとこの曲はなかったんですけど、そうなると1曲1曲が重いなと思ったんですよ。
亀本:1曲1曲、しっかりと作ったからね。
松尾:そうそうそう。それで「It’s A Sunny Day」と「Sugar/Plum/Fairy」を最後に。「Sugar/Plum/Fairy」は私が弾き語りで作ったんですけど。
亀本:打ち込みを使わずにバンドだけで仕上げる、みたいな。
松尾:バンドだけでやっている感じって今まで大事にしてきたことだから、今回のアルバムにもちゃんと入れたいと思って作ったんです。これまで自分のボキャブラリーを増やすために海外へ行くことが多かったんですけど、ちょうどコロナ禍になる前に最後に行ったのがヨーロッパと北欧で。「It’s A Sunny Day」の“芝生”と“羊の群れ”は、イギリスに一週間ぐらい滞在した時の風景です。「Sugar/Plum/Fairy」はアイルランドとイギリスに行った時に体験したカフェ文化が元になっています。早朝からカフェが開いていて、“早起きは三文の徳”みたいなことが、どの店の看板にも書いてあったんですよ。それっていいなと思って、そういうヨーロッパの早朝の風景をストーリーとして書きました。
亀本:この曲、最初はもっとメロディアスでキャッチーな展開があって、そこに12弦ギターのアルペジオを入れてたんです。だけど、めっちゃ(奥田)民生さんみたいになって、そこから変えたんですよ。
松尾:さらに遡れば、本当はサイケな曲を作りたかったんです。トゥモロウっていう'60年代のイギリスのサイケバンドのレアなアルバム(1968年発表『Tomorrow』)の1曲目に「My White Bicycle」という曲があって、それが朝にぴったりなんですよ。
亀本:いや、あれは怖いよ。朝にぴったりってテンションじゃないよ。
松尾:そう?
亀本:確実に何かキメてる方がやってらっしゃる音楽だから(笑)。
松尾:それはそうだね(笑)。そういうレアなサイケアルバムに入っている1曲っていうイメージから引っ張ってこようと思ったんですけど、“日本語で伝わるものにしよう”ってことで、キャッチーなものにしていって。そうしたら民生さんみたいになって。そういう曲は民生さんがもうやってるしね。それで方向を変えてちょっとブルージーにしたんです。
亀本:松尾さんが作ってた時はサイケな曲だったと思うんですけど、僕が作ったオケやリフとかと合わさって、結果的にこういう曲になっていったんですよね。
松尾:だから、“こうしたい”と思って作ったわけではなくて、“化学反応が起きた”みたいな感じでした。
▲『Into The Time Hole』通常盤
──今回、アルバム全体でモダンなサウンドメイキングをしているし、さまざまなサウンドトリートメントを加えています。だからこそ、ギターは歪みをきつめに効かせて、もちろん歪みだけにとどまらず、いろいろな音色を使っているんですけど、よりロック然と鳴らしているという印象でした。
亀本:そこはすごく意識しました。ギターはロック過ぎないアプローチをしてしまうと、ギター的なおいしさが減っていってしまうから、そこはやっぱりギターらしく鳴らしたい。そのための演出をどうするか、そこは意識しました。その上でギターのコード伴奏はほぼほぼしない。単音とかリフとかソロを鳴らしたほうが、“ギターを弾いているお兄ちゃんがいる”ってちゃんと見えるじゃないですか。でも、伴奏しちゃうとただのジャーンだから、音としては映えない。
松尾:それは曲によってじゃない? 「It’s A Sunny Day」だったら、ジャーンって鳴らしたギターの音が効果的なわけでしょ。
亀本:それはそういう特殊なアレンジだからね。自分の基本理念としてあるんですよ。ギターの音で埋めないように意識しないと、今の音像にならない。ちゃんと歌を前に出した上で、リズムを含めた低域がちゃんとあるって音像にするには、あんまりギターを出さないようにしないといけないんです。そこを考えた上で、ギターが出てくるところでは“ロックです!こんにちは!”みたいなことを突き詰めていこうっていうのは近年、意識していますね。
──コードを弾く時もちゃんとリフになっていますよね?
亀本:ただコードを入れようってことは、まずしないですね。
──ギターソロもけっこう弾いています。わざわざ語るほどのことではないですけど、最近、“ギターソロをスキップする”みたいな話があるじゃないですか?
松尾:話題になってますね。
亀本:それは最近始まったことではなくて、昔から飛ばしてたと思いますよ。ギターを弾かない人からしたら、ギターソロのすごさってわからないと僕は思っているんでよ。だから、よほど展開があるとか、次のメロディに繋ぐためのドラマチックな何かがあるとか。特に日本人の場合、ドラマチックなものやエモーショナルなものがみんな好きだから、そういうものがあるソロならみんな聴くと思うんですよ。でも、それも8小節ですよね。
──長さ的に。
亀本:16小節あると、飛ばすと思うんですよ。それはなんでかと言ったら、みんながギターを弾いているわけじゃないから。逆に、なんで歌はずっと歌っててもいいのかって言うと、歌は当事者としてみんなが聴けるんですよ。だから、歌をひけらかすってポップスではあまり罪にならない。でも、ギターをひけらかすと、ギターを弾かない人には邪魔なだけ。それは罪じゃないですか。それだけの理屈で、それはどの楽器にも言えることだと思うんです。ただ、たまたまギターはボーカルに次いでポピュラーなものだからソロが成り立つけど、それ以外の楽器のソロなんてもっと飛ばされる可能性がある。ギターは唯一、ソロをやっても許されるポジションにあるから、是非が問われているということだと思います。
松尾:自分の記憶を遡ると、カラオケに行ったとき、間奏は飛ばしてましたからね(笑)。
亀本:それも同じ話で、日本のポップスカルチャーってカラオケが密接に関わっているんですよね。
松尾:ロックが好きで音楽をやっている立場からすると、ギターソロって、ただギターを聴いてほしいわけでも、ギターをひけらかしたいわけでもなくて。歌では表現できない部分とか、ギターだからこそ表現できる世界観を作れるから存在すると思っているんです。曲を作っている立場からすると、ギターソロを含めて間奏はすごく大切で。歌だけでは表現できないものを表現していると思うから、そういうふうに感じながら聴いてもらえたら、もうちょっと楽しんでもらえるのかなって思います。
亀本:僕らのリスナーは音楽を、そういうふうに聴いている人達がほとんどだから、もちろん入れても大丈夫だから入れてますけどね(笑)。飛ばすって言ってるのは、僕らのリスナーとは関係ない人達の話ですよね。
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