【インタビュー】町あかり、4年ぶりのアルバム『総天然色痛快音楽』完成「音楽にアンテナを張ってない人に届くのが理想です」
昭和歌謡をこよなく愛し、豊富な知識と才能をもってオリジナリティ溢れる楽曲を発信している町あかり。大衆性とマニアックさを軽やかにブレンドした存在感は唯一無二で、電気グルーヴとの交流やドラァグクイーン、アイドルなど幅広いジャンルのアーティストへの楽曲提供など、着々とキャリアを積んできたシンガーソングライターだ。主演映画も公開され、昭和歌謡曲や映画『男はつらいよ』の作品ガイド執筆、紙芝居の制作、衣装やイラストを手掛けるなど様々なフィールドで活躍している。
そんな町あかりが、前作『収穫祭!』から4年ぶりとなるオリジナル・アルバム『総天然色痛快音楽』を完成させた。パンクから浪曲まで、ジャンルレスでカラフルな世界観にどっぷり浸れる今作。音楽を入り口に「町あかり」という世界観が体感できる作品だ。
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■自分の気持ちを届けたい、ではなくて
■いろんな人を書いてみたい
──「町あかり」というお名前からすでに、漂ってくる絶妙なムードがありますね。
町あかり:(笑)。名前は覚えていただきやすいものがいいなと思い、自分で考えました。小学生でも習う漢字で、なおかつ明るいイメージ。あかりを灯すとか、ちょっとほっこりしてる、みたいな感じですね。
──シンガーソングライター、書籍の執筆、イラストレーターなどいろんな肩書きをお持ちですが、町さんご自身は普段どんな風に自己紹介されるんですか?
町あかり:そこはやっぱり「シンガーソングライターです」と。曲を作って歌ってますというのが最初です。<ものを作る>っていうことが私の中では大切で楽しいことなんですけど、たしかに何かいい言い方があるといいんですけどね(笑)。
──現在は、女優として主演された映画『タヌキ社長』も公開中ですね。
町あかり:女優でもなんでもないですし、お芝居をしたっていう感じも全然ないんですが(笑)。一生懸命セリフを覚えて間違えずに言うぞ!みたいな、それくらいの感じでやらせてもらいました。『タヌキ社長』は河崎実監督というすごく面白い映画を作ってこられた方の作品で、一度ちょい役で出させていただいたことがきっかけなんです。私はもともと映画が好きで、今年4月に「町あかり『男はつらいよ』全作品ガイド」という本も出したんですが、映画好きとしては嬉しい体験をさせていただきました。ちょっと素人っぽい感想ですけど(笑)。
──映画から受ける刺激や感情も、自分の曲作りに反映してるところがあると思いますか?
町あかり:(『男はつらいよ』の)寅さんは、すごくあると思います。無意識だったんですが、本を書いたりする中で影響受けてるなって思うことがありました。例えば人を慰めたりする時に「君が会社に行かなくても会社は潰れないんだから休みなよ」って平気で言っちゃうところとか、自殺未遂しちゃった登場人物に対して「それはまた今度でもいいじゃないか。とりあえず今日は飲みに行こう」とか、ちょっと変わった慰め方だけど正しいみたいな部分は、歌にしたいなっていうポイントだったりするので、結構メモをしたりしています。
──町さんの作る楽曲を聴いていると、人間観察というか、すごく人に興味を持っていらっしゃるんだろうなという気がしていたのですがその点はどうですか?
町あかり:それはあるかもしれないです。私は<自分の気持ち>を届けたいとかではなくて、いろんな人を書いてみたいという想いがあるんです。もともと歌謡曲や昭和の時代の曲が好きなんですが、いろんなテーマの曲があるじゃないですか。大人の歌もあれば、子供向けもあって、テーマがさまざま。だけどみんな知ってて、歌える。そういうところが面白いし憧れているところなんですね。自分もいろんな立場のいろんな人物をテーマに書いてみたいなっていうのがあるから、自然とそうしているのかもしれないです。あと、自分が歌う前提で作るのも面白いけど、他の方に歌詞を提供する時なんかもすごく楽しかったりするんですよ。自分が歌うと思って書いている時には絶対ありえないようなテーマになったりするから。
──個人的には、失礼ながら町さんの作品だと認識せずに聴いていたギャランティーク和恵さん(星屑スキャットのメンバーとしても活躍中)に提供された曲が大好きで。
町あかり:「夜に起きるパトロン」ですね。あれは自分でもすごくお気に入りです。私、高校生の時から和恵さんのファンで。偶然テレビで見て「こんな歌手の人がいるんだ!」と思ってファンになったので、曲を提供出来たのは夢のようでした。ファンレターを書いて送ったりしてたんですよ。「私は、和恵さんのことが好きな高校1年生です」って(笑)。その時にデモテープも一緒に送ったんですが、和恵さんはそれを覚えてくださっていたんです。ラジオか何かで私の歌を聴いた時に、声で気づいたって。
──すごいエピソードですね。町さんは、昭和歌謡のどんなところに魅力を感じているんですか?
町あかり:どんな曲であっても、ヒットしたら子供から大人まで聴いてましたよね。その現象に憧れがあるんです。すごく大衆的。作っている側もそうだと思うんですよ。この曲がヒットすればみんなが聴くんだっていう意識で、そういうことをイメージしながら作ってるんじゃないかなって。(殿様キングスの)「なみだの操」みたいな曲でも、子供が面白がって歌うじゃないですか(笑)。
──意味もわからず(笑)。
町あかり:そうそう(笑)。そういう現象って面白いし、何とも言えない痛快さがありますよね。
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