【インタビュー】ゆきみ、厳しい冬を乗り越えたからこそという意味を込めた<春>がテーマの3ヶ月連続リリース

ポスト

2020年にバンド“あいくれ”の活動休止を発表し、その後はソロのシンガーソングライターとして活動しているゆきみ。今年は年明けから「アイム ア ジーニアス」「羽ばたき」「ふたり」と3ヶ月連続でデジタルシングルをリリースし、4月23日には自主企画のライブを開催するなど精力的な活動が続いている。ただ麗かなだけではなく、厳しい冬を乗り越えたからこそという意味を込めた<春>がテーマの3曲について、またファンとの愛と信頼があってこそ完成した最新MVなど、制作にまつわるエピソードを聞いた。

■今の私の気持ちを新鮮な状態で聴いてもらいたい
■だから速度感を大事にリリースをすることにしたんです


──まずは今回、3ヶ月連続でのリリースに至った経緯から聞かせてください。

ゆきみ:今回の3曲はほぼ同時に出来たんですが、その曲たちのかけらが出来た時に、今までの私よりもかなりメッセージ性が強いものになっている気がしたんです。今までの作品はどちらかというと「受け取っても受け取らなくてもいい、そこは自由ですよ、お任せします」というニュアンスだったんですが、今回は「届けたい」という気持ちも強くて。「今の私の気持ちはこれです」っていうものを新鮮な状態で聴いてもらいたいと思い、速度感を大事にリリースをすることにしたんです。

──ゆきみさんは現在個人で活動されていますから、その動きやすさもスピード感に繋がったんでしょうね。

ゆきみ:はい。バンドメンバーや事務所などに所属して一緒にお仕事をするパートナーがいたりすると、そういう人たちの意見も踏まえながらどういうタイミングでどう聴いてもらうかっていうのが重要になってくると思うんです。でも1人でやっているからこそ「今聴いて!」って、言ってしまえば勝手なんですが、その勝手が出来たっていう(笑)。

──(笑)。今回のリリースに際して「新章突入」という表現も使われていましたね。

ゆきみ:私の中では「覚悟を決めた」みたいなニュアンスに近くて。というのも、ずっとバンドで活動してきてその歩みを一度止め、バンドは絶対に帰ってきます、絶対にまたステージに戻ってきますという約束をみんなにも自分自身にもしていたんですね。でも実際に時間が経ってみると、実現させるにあたってはまだまだ自分の中で足りないものがたくさんあるということを痛感したんです。まだまだ時間のかかること、だからこのソロプロジェクトをもっともっと、本格的に私が欲しいと思っているもの──具体的にいうとバンドで活動していくこともそうですが、そこに向けて1人の活動を頑張っていくぞっていう覚悟に繋がったんです。

──「新章」もそうですが、何かを新たに始める、踏み出すみたいな感覚も「春」という今回のテーマに結びついているのかなと思いました。

ゆきみ:本当にその通りで、どの季節も変わり目は新しくなる瞬間だと思うんですが、その中でも意味合いは春が一番強いのかなと思っていて。寒い冬を越えて春を迎えるっていう、この変わり目が重要なんでしょうね。出来上がったこの3曲も、ただ暖かいとか優しいとか麗かではなく、冬を乗り越えたっていう意味合いを持っていたからテーマは<春>。ずっと暗くて見えなかったけど、この3曲が自分の中で生まれた時に、差し込む光を感じられたような感覚だったんです。

──ということはそれまで、光が見えない状態にあったということでしょうか。

ゆきみ:はい。さっきの話に繋がるんですが、この状態でバンドを再開して、果たして私は納得のいく音楽ができるんだろうかっていう気持ちがしばらくありました。「あぁ、まだなんだ。私にはまだまだやりたいことがあるんだ」っていう。

──ではその状態から、ゆきみさんの中の光であり、新章という覚悟に繋がった今回の3曲について聞かせてください。まず1月の「アイム ア ジーニアス」。私は天才だって言い切って胸を張っている曲かなと思いきや、歌詞を読んでいくとそういうことじゃないことに気がつきました。そう言い聞かせることにしているっていうニュアンスというか。

ゆきみ:そうなんです。曲名だけ聞いたら、どれだけポジティブな人間なんだって感じですよね(笑)。


──ゆきみさんの中の、拭えない“根っこ”感みたいなものがチャーミングに出ているなと思いました。

ゆきみ:(笑)。これは、どちらかというとおまじないとして呟いている言葉なんです。前向きだからこの言葉が言えるのではなく、この言葉があって前向きになれるみたいな順番。私がこの言葉に気づいた時、それこそ今までだったらこれを共有したいとまでは思わなかった気がするんですが、今は「こんな素敵なおまじないの言葉を見つけたんだよ、私は!」みたいな。これを見つけたことも、たぶんジーニアスなんですよね。「私は天才」って歌っているけど、この曲が生まれた時は私自身に対しても思いました(笑)。

──<素敵なものを素敵だと知っている/たったそれだけで肯定していいんだ>という歌詞がありますが、その思考の回路も素敵だし、それが素敵だと思えた自分もちょっと誇らしく思いました。

ゆきみ:自己肯定感なんて言葉が最近はネットでも飛び交っていますが、私の周りでも、すごく素敵な人なのになんとなく自分に自信が持てないのかなって、見ていて思う瞬間があったりして。大丈夫だよっていう言葉が私も欲しかったし、たぶんそれを欲している人もたくさんいるんだろうなって、そういう気持ちが曲になっていきました。

──Bメロの部分は、ゆきみさん自信が好きなものが並んでいるんですか?

ゆきみ:はい。私の好きなもの、オンパレード(笑)。みんなそれぞれ好きなものがあると思うけど、こうやって並べて思い出してみると、この世界も捨てたもんじゃないなと思える気がするんです。しんどい時こそ、思い出して並べられたらいいなって。

──文字にすると、私ってこうなんだというのが見えたりもしますよね。

ゆきみ:そうですね。私に音楽で出来ることがあるとすれば、<なんとなく感覚としては持っているんだけど言語化できない>っていう部分を言葉にして、作品にすることかなと思っていて。それが、具体的に私の中で提示できた曲にもなったのかなって思っているんですよね。

──言語化された時の、あのスッとする感じはなんとも言えないです。

ゆきみ:例えば友人と「最近こういうことがあったんだ」とか他愛もない話をしている時に「それってこうだよね」ってなんとなく言われて「それだ!私が探していた言葉は」みたいな。言語化された瞬間の感動が私にもすごくあるので、もし誰かが探していた言葉の代弁みたいなことが曲の中で出来ていたら嬉しいなと思うんです。

──タイトルをカタカナにしているところも、何か意味を持たせているんですか?

ゆきみ:私、英語がとてつもなく苦手で(笑)。発音にも自信がないし、おまじないとして唱えているっていうニュアンスを表すためにも、カタカナがいいなと思ったんです。

──「ビビデバビデブー」も、英語で書かれるとなんか違うなって気になりますよね(笑)。

ゆきみ:それに近いです(笑)。英語で書いてしまうと、曲の中でもちゃんと発音しなきゃいけない気がするんですよね。でもこれはそうじゃなくて、見つけた素敵な言葉のひとつとしてなので。

──2月の「羽ばたき」は、サウンドの雰囲気もガラッと違って驚きました。

ゆきみ:歌詞も私にしては珍しく、比喩などではなくストレートに言いたいことを言っている部分が多いんです。言葉をストレートに伝えるというところに重きを置いた曲になっています。


──<痛みはいつか羽になる 今は涙が止まらなくても>という歌詞がとても印象に残ったのですが、ストレートに書いたということは、何かそういうことがあったのかなと深読みしたくなります。

ゆきみ:これもさっきの話に繋がるんですが、光が差さない、きっと何処かにはあるんだろうけど光が見えない状態というのがあったんですね。そういう時って何かにすがりたくて、期待していたくて──でも勝手に期待してしまっているから、裏切りと感じてしまうこともあって。

──というと?

ゆきみ:自分が裏切りだと感じるものって、実は全部自分が勝手に期待していたことなんですよね。相手が「裏切ってやろう」と思ってのことではなく、自分が勝手に「こうなったらいいな」という理想を掲げたがため。私自身、誰かとか環境とか未来に勝手に期待をして、思うようにいかないことを裏切りって捉えてしまう瞬間が過去に何度もあったんです。でも、そうじゃないなって思ったんですよ。自分次第で、全部変えていくことが出来る。光が見えない瞬間に裏切りを感じてしまうこともあったけど、自分の手で光を取りにいくことは出来る! もしかしたら暗く聞こえるかもしれないけど、私の中ではそれが見つかったからこそこの曲が生まれたんですよね。だから、暗くはない。そういう瞬間もありましたが、この曲が出来た時にはもうすでにその光が、手の中ではなかったかもしれないけど、掴めそうなイメージがもう湧いていたと思います。

──光が見えない時って、この世の終わりというか、出口なんて一生見えないみたいな気になりますよね。

ゆきみ:なんかもういろいろなくなっちゃえばいいのにとか、消えちゃいたいとか、どんどん内に内に篭ってしまう。でもこの曲がきっかけで、そういう人の心の窓だったり、部屋のカーテンだったりを少しでも開ける勇気が出たなら嬉しいなと思うんですよね。

──そういう瞬間って、意外とふとした瞬間に訪れたりもしますよね。それこそ音楽を聴いた時とか。

ゆきみ:そうなんですよね。私は、音楽そのものに力があるわけじゃないとずっと思っているんです。聴いている人の、これを受け取ろうとか、何か変わりたいっていうその変化の中で音楽が“作用”している。音楽そのものの力じゃなくて、聴いている人の力だなって思うんです。この曲もきっとそういう風に、何か新しく頑張っていきたいとか、少しでも変わりたいとか、現状を打破したいって思っている人に届く曲だと思うんです。そういう大事なタイミングでこの曲に出会って、聴いてもらえたら嬉しい。実際、そういう反応も届いていて本当に嬉しいなと思いました。

◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報