【インタビュー】ゆきみ、“女性というもの”の縛りから抜け出した「ミス・ファンタジア」

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現在ソロとして活動中のシンガーソングライター・ゆきみの2nd DEMO「ミス・ファンタジア」。作詞作曲は今回もゆきみ自身が手掛け、それぞれ別のクリエイターがアレンジをした4曲が収録されている。女性ならではの目線がベースになっているが、「女性だから、こう」というような固定概念には縛られない。一見すると矛盾しているようにも思えるテーマが掲げられたこの作品はどのような過程を経て完成したのか、制作にまつわるエピソードなどを交えながら語ってもらった。

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■女性だからこその目線と、重要だった“自由さ”

──前回ゆきみさんにご登場いただいたのが、昨年の夏。本格的にソロ活動をスタートさせ、「オーバーチュアと約束」をリリースされたタイミングでしたが、あの時と比べると髪色も変わってガラッとイメージチェンジされましたね。

ゆきみ:私はもともと金髪や明るい色の時が多かったので、あの時は逆に、痛みすぎていたから一時的なケア期間として黒にしていたんです(笑)。

──見た目の印象が変わると、気持ち的にも変わりますよね。

ゆきみ:そうなんですよね。見慣れているからかもしれないけど、前回の黒から明るい色に戻した時は「やっぱりこれだ!」みたいな感じはありました。

──日々のテンションは制作にも影響するんじゃないかなと思いますが、そのあたりはどうですか?

ゆきみ:影響します、します。家から一歩も出ない日もあるんですが、そういう日でもちゃんとお洋服やお化粧や髪をセットすると、気合いの入り方が違うんですよね。あとはやっぱりこのコロナ禍で家にいる時間が長くなった分、自分と向き合う時間もすごく増えたので、より考えが深まる瞬間というか、以前よりもより濃密な時間が増えました。そこも少なからず、音楽に反映されているのかなと思います。

──そんな中で完成した今回の2nd DEMO「ミス・ファンタジア」ですが、お聴きになった方からはどんな声が届いていますか?

ゆきみ:ありがたいことに、以前から応援してくださっている方たちからは「待ってたよ!」って声をリリースしてすぐにいただきましたし、作品が出来て、それを届けられる喜びを感じている私以上に喜んでくださっている声もたくさんいただいています。ラジオや有線などで聴いて、新しい出会いとしてコメントをくださる方とかもいらっしゃって、本当に感謝ですね。

▲ゆきみ/「ミス・ファンタジア」

──では今回の作品についてのお話を聞かせてください。まずタイトルについてですが、前作「オーバーチュアと約束」の「オーバーチュア」は「序章」。「ミス・ファンタジア」の「ファンタジア」は「幻想曲」。どちらもクラシック用語になっていますね。

ゆきみ:ソロになる=私という密度が高められる作品を作れる機会だと思うので、より私の色を反映させたいなということから、私のルーツになっているクラシックの言葉にしました。クラシックの曲はその形式によってソナタやノクターンといった名前がついていくんですが、幻想曲はあまりルールがないというか、縛られるものが少なくて比較的自由なものなんです。今回はその自由さみたいなものをタイトルにも込めたかったので、このファンタジアという言葉を選びました。

──そこに「ミス」とつくことで誰かを指しているようでもあり、ゆきみさん自身でもあるのかなと思ったのですが。

ゆきみ:そうかもしれないですね。今回は女性だからこその目線──ソロプロジェクトになったからということにも通じる部分ですが、女性だからこそ感じるものだったり、考えてみたものだったりを反映させたくて。とはいえ、今いろいろ問題になっていますが、ジェンダー的な問題──固定概念や偏見みたいなものは投影させたくなかったので、私の中ですごく重要だった“自由さ”を表すために「ミス・ファンタジア」というタイトルにしました。

──4羽の蝶が羽ばたいていくジャケットも印象的です。

ゆきみ:女性というものと、だけど女性というものに縛られない、枠にとらわれないという今回のテーマを、いつも写真を撮ってくださる写真家の安藤未優ちゃんにそのまま伝えました。結構矛盾したテーマなので、無理難題というか(表現するのが)難しかったと思うんですが、すごく考えてくれて。蝶々が、1曲1曲が、自由に羽ばたいていけるようにというイメージを乗せて形にしてくれました。

──1曲目に収録されているのは「アイスクリームのように」。MVの映像が、かなり衝撃的でした。


ゆきみ:アイスクリームという単語そのものがポップで可愛らしいイメージだと思いますし、トラックも結構キラキラしたサウンドになっていたので、MVでもそういう部分だけを全面に出してしまうと、歌詞の中にある影のような部分が見えなくなってしまう気がしたんです。ポップな映像をつけてさらに強調するのも間違いではないと思うんですが、私の中では、アイスクリームの可愛い部分じゃなく、溶けていく、どちらかというとマイナスなイメージの部分を多めに映像に取り込みたかったので、あの溶けていく感じ、液体が垂れていくようなイメージで作ってもらったんです。監督さんには、キラキラしてポップで可愛いというのはもう音楽の中に充分入っていますから、これを映像作品にするのであればぜひモノクロで作ってくださいというお願いをしました。

──撮影はかなり大変だったんじゃないですか?

ゆきみ:本当に大変でした(笑)。今回の衣装は1からデザインして作っていただいたものなんですが、1着しかないから汚してしまうともうやり直しが効かないんです。真っ白に戻すことはできないので、カメラが回っていないところでは絶対に動かない、動いてはいけないという辛さがありました(笑)。それと、液体を顔に垂らすシーンで目に入ってしまったことがあり、充血して一時的に撮影が中断してしまうというハプニングもあったりして。楽しかったけど、想像以上に過酷な現場ではありましたね(笑)。

──曲自体は最近作ったものですか?

ゆきみ:骨組みとなるものを作ったのは19歳くらいなので、8年ほど前ですね。今回作品として出すにあたって歌詞を追加したり、平仮名と漢字の表現を変えたりして、今の私というものも取り込んで形にしました。アレンジは、前作に収録されている「アーモンドとチョコレート」でもご一緒した加藤俊一さんです。彼だったらより新しく、いい意味で曲をぶち壊してくれるというか、過去を壊して今に作り直してくれるだろうなという信頼がありましたから、もう一度依頼をさせていただきました。

──色あせず、ブレないメッセージが込められているからこそ、8年経った今も響く曲として成立したんでしょうね。

ゆきみ:そうですね。この曲は人間のダメな部分を表現したものなんですが、そういう部分って、どんなに成長しても何処かに残っていたりしますよね。色あせる瞬間ももしかしたら来るのかもしれないですが、忘れちゃいけない部分というか、そういうのも含めて今の形になっています。

──2曲目の「ミス・ドレスコードの夢」には、《ジェンダーレス ショートカット》や《トムボーイ クローゼット》のように、女性というものに縛られない表現も出てきます。

ゆきみ:この曲が今回の作品のテーマに一番近いところにいる、顔になっているような楽曲かなと思います。自分はこういう風だからこういうものは似合わないと思い込んでいたり、チャレンジしたいのに、周りの目や過去に言われたことなんかを気にして自分を秘めてしまう。そうやって内に閉じ込めてしまっているものを、より自由に解放するようなイメージを込めたかったんです。今作で歌いたかったことが、かなりこの曲に詰まっているかなと思いますね。

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