【インタビュー】ゆきみ、言葉の奥にある体温や感触までもが伝わってきそうな新曲「真夏の行方」

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今年は年明けから「アイム ア ジーニアス」「羽ばたき」「ふたり」と3ヶ月連続でデジタルシングルをリリースし、ソロアーティストとしての決意や覚悟を、改めてそして軽やかに表明したゆきみ。春をテーマとしたその3部作を経てリリースされた今回の新曲「真夏の行方」は、夏の情景に込めたある思いがベースとなっているという。シンプルな構成ながら、言葉の奥にある体温や感触までもが伝わってきそうな今作の歌詞についてじっくりと話を聞いた。

■私がイメージする“夏の絶景”を曲の中に留めておきたい
■そういう感じで情景や景色を重ねながら書いていきました


──新曲「真夏の行方」がリリースされました。やはりリリースのタイミングもこの季節を狙ってという感じだったんですか?

ゆきみ:狙ってというより、どちらかというと思いつきというか。「あ、今だ!」と思い立って行動を起こしたみたいな感じですね。

──そういえば春の3部作の時も「今、この曲を届けたい」というスピード感を大事にされたとおっしゃっていましたね。

ゆきみ:はい。前回もスピード感を大事にしていたんですが、あの時は3曲連続ということもあり、実際は秋口から準備をしていたんです。でも今回に関しては、思いついたのが6月くらいで。もう夏が始まるんじゃないかっていう頃だったので、関わってくださる方々に結構無理を言って(笑)、なんとかこの真夏にリリースさせてもらうことができました。

──「今だ」と思った瞬間はどういう状態だったんですか?

ゆきみ:この楽曲の骨組みは、実は2年ちょっと前くらいにはあったんです。コロナ禍になる前だったから、今みんなが過ごしている夏とはまた別の夏の景色をイメージしていたんですが、少しずついつもの生活が戻ってきている中で「あぁ、あの曲を願いというか祈りとして今出すべきだ」って、ふと思った瞬間があったんです。ちゃんとあの曲を完成させて、あの景色を今出そうって。それで、大急ぎで準備を始めたんです。

──確かに、夏の景色って変わりましたよね。

ゆきみ:はい。この骨組みを作った当時の夏って、私の中ではお祭りだったり、前に進むのも大変なくらいの人混みだったりして。あれくらい人と人との距離が近くて、これぞ真夏、夏の祭りっていうものがまた戻って来たらいいなっていう願いみたいなものも込めて「今だ」って思ったんです。歌詞は「こういうことを伝えたい!」というメッセージというより、私がイメージするこの“夏の絶景”をこの曲の中にちゃんと留めておきたいみたいな感じで、情景や景色を重ねながら書いていきました。


──冒頭の駅の改札って、ゆきみさん的にはどれくらいの規模感をイメージしていたんですか?

ゆきみ:もちろん曲を聴いた方に自由にイメージしていただきたいんですが、私の中のイメージとしては結構田舎の駅でした。過去に夏祭りとか花火大会で行ったことのある山の方の田舎の駅で、改札も3つくらいしかなくて。でもその日は人がすごかったから、みんななんとかそこを通り抜けているみたいな感じをイメージしながら書いていました。

──その改札から溢れ出してくるのが男性や女性、大人や子供ではなく、「人の形をした心」という表現になっているのがゆきみさんならではだなと思いました。

ゆきみ:あぁ、嬉しいです。私の中では考え抜いて出した言葉というより、見たままを歌詞にしたらこうなったくらい自然なことだったので、今「そういえば、確かにな」って思いましたけど(笑)。それこそ夏祭りや花火大会みたいなものを目的に集まっている人たちって、そこで何を楽しみにしているかも別々だし、誰と一緒に過ごそうと思っているかも別々。1人で来ている人もいるかもしれないし、本当にそれぞれ目的があるんですよね。全部違うものが溢れ出しているなって、そう見えた私のイメージをそのまま歌詞にしたんです。

──その景色を見ている「僕」は、ちょっと傍観者のような感じですね。

ゆきみ:みんなには目的があるけど、自分にはない。みんなの心はここに行きたいとか、これを食べてみたいとかいうものがあるんだけど、自分はなんのために今ここにいるのか、どこに向かっていくのかがあまり見えていない状態というか。最初はそうやって傍観しているっていう感じなんですが、この冒頭の部分と同じ歌詞とメロディーが出てくる最後の部分では「別になんだっていいんだ、目的は」というところにたどり着くんです。

──歌詞のほとんどが情景描写だけど、むせ返るような夏の空気や、ちょっと汗ばんだ手のひらの感触などが、主人公の感情を浮き彫りにしているような気がしました。

ゆきみ:なんとなく聴いていると「あぁ、夏ってそういうものか」で過ぎてしまうような曲じゃないかなって思うんです。それくらい、私は出てきたものを自然と並べただけだったから。でも、私がそこまで意図していなかったのにそういうふうに感じていただけたのって、ものすごくこの情景をイメージしてくださったからなんだろうなって今思いました。駅もそうだし、夏にまつわるいろいろな情景がこの曲の中には出てきますけど、自分が見たことあるものだったり、こんなものを見たいっていう想像だったりを、ちゃんと鮮明に思い描ける方がたどり着ける感想かなって(笑)。だから、そんなふうに想像してもらえるのは嬉しいです。この曲から思い描くものもそれぞれ違うと思うし、見い出す何かみたいなものも全然違うのかなと思うから、皆さんがこの夏、この曲をどういう場所に置いてくれるのかがすごく楽しみになりました。



──「手を繋いで はぐれないように」とありますが、それこそコロナ禍になって、夏祭りなんかで人と手を繋ぐあの感覚を経験したことのない若い子も多そうですよね。逆に、かつての夏はこうだったよなって懐かしく思ってしまう人もいるのかなと思います。

ゆきみ:そうなんですよね。私、この曲を作るときに唯一意図したことがあるとしたら、懐かしいもの、懐かしいセピア色の曲にはしたくないなと思ったんです。これが過去のものであり、終わったものですみたいなものにはしたくなかったので、曲の質感としては、ザラついたものというより、ちょっとつるんとした方向に持っていきたいという気持ちがありました。もちろん曲を聴いて「懐かしいな」と思うのは人それぞれだから全然いいと思うんですが、曲そのものの質感は、あまり色褪せたものにはしたくないなって。だからいつも一緒に音楽を作らせてもらっているトラックメイカーの加藤俊一さんにも、その新しさというか、ちゃんと今っぽさみたいなものを含ませたものにしたいということを伝えました。

──加藤さんが作られるサウンドって独特の温度がある気がするんですが、この“夏感”もすごく加藤さんっぽいなと思いました。勝手なイメージですけど(笑)。

ゆきみ:わかります(笑)。たぶん聴いてくださっている方の中にも、私の曲のトラックメイカーといえばという感じの方がいらっしゃると思うし、同じように「加藤さんらしいな」とか「加藤さんの温度がここにあるな」って思ってくれてる方もいると思いますよ。ちなみに加藤さんがTwitterで、これまで自分の中の「夏といえば!」な曲はフジファブリックさんの「若者のすべて」だったけど、今年からはこの曲になったかもしれないって書いてくれていて。それくらい自分も気に入ってこの曲を作ったって言ってくれていたのがすごく嬉しかったんですよ。「若者のすべて」って、(高校の音楽の)教科書に載るくらいの曲ですからね。

──なるほど、時代はもうそんな感じになっているんですね(笑)。

ゆきみ:私の時は、サスケさんの「青いベンチ」でした。歌ったのか、ギターでやってみようだったのかはちょっと忘れちゃいましたが、私の中では普通に教材として扱うということになんの疑問も持たなかったので、きっとこれからも、みんな学校の生活の中でこうやって音楽に触れ合っていくんでしょうね。

──そういう意味でいうと、この「真夏の行方」は音楽ではなく国語の授業で、歌詞についてディスカッションとかしてもらいたいなと思ってしまいます。

ゆきみ:それ、めちゃくちゃ嬉しい(笑)!自分だったらどんな景色をイメージするかとか、授業でみんなで話すのって面白いですよね。詩としても、感じてもらえるものがあると嬉しいですし。

──詩としても深く掘り下げられる歌詞と、理論に基づいて作られているメロディー。ゆきみさんの音楽は二つのメインディッシュが共存しているような感覚なんです。そこに、加藤さんのアレンジやアイデアというスパイスが加わって、上質なお料理の一皿を作っているような感じというか。

ゆきみ:ありがとうございます。もちろんファストフードのような音楽が欲しい時もあるけど、確かに私の中では、詩/詞は絶対なんですよね。ここをライトなものにすることが今後もしかしたらあるかもしれないけど、どちらかといえば、ちゃんとお料理している感覚かなと私も思います。

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