【インタビュー】TETSUYA (L'Arc-en-Ciel)、ソロ20周年と『STEALTH』を語る「途中で諦めていたら、このアルバムはなかった」
■良いものを作りたいし、作れなければ
■僕はいる意味がないと思っているので
──いかにその期間中に良い曲をいっぱい作っているかということですよね。その中から、その時のタイミングに一番合うものを出しているということでしょうから。「REGRET」もそのひとつだと思うんですが、歌詞は過去の別離を後悔しているような心情を歌っているものだと思います。サビは少し光が射すような、光と翳りが絶妙なバランスで表現されていることが印象的です。
TETSUYA:ふーん……。
──“ふーん”ですか(笑)? 特にそういうことを意識したわけではないという?
TETSUYA:いや、もちろん何も考えていないわけじゃなくて、いろいろなことを考えながら曲を作っていて、アレンジして、レコーディングして、少しでも良くなるように制作しているんです。3分そこそこの曲ですけど、何年も掛けてここまできているので。曲を作ったタイミング、最終的なアレンジを煮詰めたタイミング、歌詞を書いたタイミング、レコーディングをして音を刻んだタイミングというのが、それぞれ違うので。その時々に思うことを足して、足して、ブラッシュアップして、ここまできたという感じですかね。
──なるほど。「REGRET」で、もうひとつうかがいたいのは、Bメロやサビの独特なベースのトーンが良いアクセントになっているということなんです。
TETSUYA:Bメロとサビはシンセベースですね。Aメロだけが生のベース。ハイブリッドです。
──Bメロとサビのシンセベース、すごくカッコいいですよね。
TETSUYA:人の指の動きではできないフレーズで、シンベに切り替わってるんですけど。そのほうがいいというか、そうでないとシンベにする意味がないというか。
──そういう意図があったんですね。その部分ってフレットレスベースに歪みを足したのかなと思ったんです。だから、いわゆるシンセベースから連想するサウンドではなくて。そこにセンスの良さを感じました。
TETSUYA:音色に関してはこだわって。ミックス具合とかちょっとしたことで聴こえ方が変わりますし、マスタリングでも変わりますから。そこはもうリモートでミックス作業しましたよ(笑)。
──今回はリモートだったんですか?
TETSUYA:はい。アレンジャーの陶山(隼)さんとエンジニアの比留間(整)さんと僕でグループLINEを組んで(笑)。そこでああだこうだやりつつ。それでも伝わらないときは直接電話したり。で、シンベと生のベースを入れると、生のベースがシンベに負けてしまう部分があるんです。だけど、僕が弾いている生のベースは負けていないというか。最後に仕上がったときに“すごいな。この生のベース、めちゃくちゃカッコいいな”と思いましたね。
──「REGRET」のようにキャッチーな楽曲でマニアックなベースアプローチをしているというのは魅力的ですね。続いて4曲目の「誰がために鐘は鳴る」ですが、EDMの感覚を活かしつつも、1980年代のニューウェイヴの香りがしました。
TETSUYA:そうですね。ベーシックなメロディーだったりが’80sな感じですよね。ただ、音色的には現代のものですね。
──はい。間奏にはダブ的な要素も入っていますし、凝っていますよね。原曲作りの段階から'80sっぽい感じにしようと思ったのか、アレンジしていく中で'80sのニュアンスが入っていったのか、どちらでしょう。
TETSUYA:この曲は、海外のアレンジャーさんを含めて、何パターンか存在するんですね。最終的には良いとこ取りみたいな感じで(笑)。新しい風がほしくて。だから、アルバムの中では実験的な曲ですね。
──TETSUYAさんの歌には柔らかく包み込むようなイメージがあるんですけど、この曲は冷たいというかクールですね。
TETSUYA:そうですね。特にAメロとBメロは無表情で、音程的にもあまり動きがなくて。
──まさにヴォーカル面での新しさを感じましたし、聴いたときに衝撃が走りました。
TETSUYA:声の処理も他の曲と違うし。使ったマイクも普段使っているものとは違うし。この曲はブラウナーですね。
──ドイツ製の高級マイクですね。
TETSUYA:僕はマイクをいっぱい持ってるんですよ。
──それらの中から録るマイクを曲ごとにセレクトするということですか?
TETSUYA:そうですね。普段はわりとノイマンのU67っていうヴィンテージマイクを使うことが多いんです。僕はそんなに声が太くないので。ブラウナーはU67に比べると少し細目で、「誰がために鐘は鳴る」は曲調的にそっちのほうが合うなと思ったので。
──TETSUYAさんの声は細くはないと思いますが。
TETSUYA:太くありたいわけでもないですけどね。
──なるほど。低い成分をあまり出していないだけで、声自体は倍音が多いので細く感じないのかもしれません。
TETSUYA:僕は声がデカいんです。
──それはライヴを観るとよくわかります(笑)。では、5曲目の「白いチューリップ」ですが、楽曲自体は煌びやかなんですけど、心に染みるバラードになっていると感じました。
TETSUYA:ピアノのイントロで始まる曲を書きたいなと思って。サビのメロディーをピアノで奏でて始まるのがいいなと思って作った曲です。サビで転調するんですけど、その転調具合をいろいろと試行錯誤しながら作りましたね。
──歌詞は亡くなってしまった人への思いを歌っていますが、曲調は煌びやかで、その組み合わせが切なさを増幅させています。その辺りに関してはいかがですか?
TETSUYA:いや、そういうのはよくわからないです(笑)。
──狙ったわけではないということですよね。それがすごい。明るい曲調で悲しみを歌うことを意識して作ったという話はよく聞くんですが。それを自然体できるアーティストは意外と少ないと思うんです。
TETSUYA:僕はたぶん、アーティストというよりも作家なんですよ。作家なので、曲を書けと言われれば書きますし。当然、“なに、この曲?”とか言われたくないので、良いものを作りたいし。それが作れなきゃ、僕はいる意味がないと思っているので。僕の場合は100%先に曲から作るので、そのメロディを聴きながらハマる言葉を見つけていくんです。だから、テーマというか“この曲はなにについて歌えばいいかな”って、それが見つかるまでは結構時間がかかるんですよ。……もともと僕は言いたいことなんてないし(笑)。
──えっ(笑)?
TETSUYA:世の中に訴えかけたいこともないので。だからもう、なに書こうかなって(笑)。それが段々少しずつテーマ的なことが思い浮かんだら、そこからは一気に書けるんですけどね。「白いチューリップ」はタイトルが先にあったんですよ。その花言葉が“失われた愛”なんで、僕の経験したことを……。まぁ、ひとつの話ではないんですけど、今までの人生で経験したことをいろいろミックスして。ひとつの物語に、僕という人間を通して書いていくだけなんですけど。
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