【インタビュー】Mary's Blood、セルフタイトルの6thアルバム完成「原点回帰、メタルといったキーワードが自由度を拡げた」
■どの曲を1曲目に置いてもおかしくない
■冒頭に配置した曲によって違う物語が組める
──その「Without A Crown」の前に、オープニングSEにあたる「Last Daybreak」が収められています。荘厳な感じなのかと思いきや、ピアノの音色が素朴だったりもして、そのギャップもまた印象的です。
SAKI:あれはオルゴールの音なんです。オルゴールとピアノの音が両方入っていて。SEについては、私はホラー映画がすごく好きなんで、そういう映画のいちばん最後、エンドロールが始まるあたりの雰囲気をイメージして……。そこから一転して急にメタルコアみたいな曲が始まるというのは、ちょっとありがちな展開ではあるんですけど、メタルの名作とされるものには意外とそういうのが多いので、そんなところを意識して作りました。やっぱりこういう要素も、メタルアルバムにはあったほうがいいと思うし。久武さんも結構最初のうちから、このSE的な曲から「Without A Crown」へという流れがいいんじゃないか、と仰っていて。そこからドン!と始めるのがいいだろうって。
──確かに序盤の「Without A Crown」から「Blow Up Your Fire」へと雪崩れ込んでいくような展開は見事ですし、メタル愛好家たちのツボを突くものだと思います。ただ、アルバム中盤には実験的な曲も、少し毛色の違った曲もあります。実際、それに続く「Joker」で空気が変わりますよね。このアルバムを“メタルへの回帰”だと思って聴くと“違うじゃん!”と感じる人もいるかもしれませんが、こういう曲も普通に入ってくるのが“Mary's Bloodのメタルアルバム”ということなんだろうな、と僕は感じました。ちょっとアレンジが違っていたらマリリン・マンソン的にもなり得る曲というか。
EYE:あ、確かにそうですね。実はこの「Joker」の原型になるようなものが、結構昔に作ってあったんです。で、今回、作曲期間というのが2回に分けて設けられて、その一回目の段階で主に「Without A Crown」とか「Blow Up Your Fire」とか、アルバムの中でもメインどころになりそうな曲が選ばれて、二回目の時に“こんなのもあったらいいな”というのを足していこう、という流れだったんですね。その二回目の曲作りの時に、そういえば昔作ったやつがあったなと思い出して引っ張り出してみたのがこの曲で。その時、同時に思い出したんです。そういえばメジャーデビュー1作目の時に「Black★Cat」っていうシャッフルの曲を作って入れたことがあったな、と。で、今回は原点回帰みたいなキーワードも出てるし、1作目当時からあったそういう曲の重いヴァージョンみたいなのを入れてもいいんじゃないかな、と思い立って。それで実際に二回目の曲作りの時にこの曲を提出してみたら、久武さんも思いのほか気に入ってくださって。駄目だって言われるかな、とも思ってたんですけどね(笑)。そこでアレンジについても相談に乗っていただけたんで、そんなチャラチャラしてないギリギリのところをいい感じで狙えたかな、と思うんですけど。
──こういう曲をやっても軽くならないのがこのバンド、という言い方もできるはずです。
EYE:そう見てもらえるといいなあ、と思ってます(笑)。
──その次の「Be Myself」についてもそうですけど、軽快な仕上がりが正解とされるような楽曲でもヘヴィさが損なわれていない。それがこのバンドらしさでもあるし、メタルバンドである証明であるようにも思います。それは、単純にバラードとは呼びたくない「Umbrella」についても通ずるところで。
EYE:そうですね。あの曲をバラードという括りにしてしまうのは、ちょっと違和感があるというか。そういうポジションの曲にした、というところがありますね。
──そして「ignite」は、まさしくライヴをぐいぐい盛り上げていくための曲。
RIO:ライブ感は狙って作りました。なので、シンセなど入れずにバンドサウンドオンリーです。皆さま、気に入ってくださるといいんですけど(笑)。
──この曲では、EYEさんの歌いまわしの柔らかな箇所と力強いところのコントラストにも印象深いものがありました。
EYE:実は、この曲についてはRIOちゃんが歌詞と共に仮歌を送ってくれてたんですね。
RIO:地獄の音源ですよ(笑)!
EYE:全然、地獄じゃない(笑)! それがしかも結構、作り込まれたもので。ここに何を入れたいんだ、というのがちゃんと示されたんですよ。私はその通りに歌っただけみたいなところがあるんです、この「ignite」に関しては。
──RIOさんの仮歌による音源、いつか公開される可能性は?
RIO:いや、それはヤバいです(笑)。なにしろ私のうちって、すごい高級マンションとかじゃないので、部屋で仮歌を録るとなると……
EYE:漏れ聴こえちゃってるの(笑)?
RIO:ご近所的にね。しかも夜やりますからね。
EYE:爽やかな朝にメタルの仮歌は入れられないですね。でもまあ、その音源のデータは私が持ってるんで。
RIO:いやいやいや、駄目駄目(笑)。
──いつか何十周年記念のボックスセットか何かの中でそうした秘蔵音源も公開してください(笑)。そしてさらにアルバム後半の流れを追っていくと、「Hunger」はちょっと重い感じで、「Let Me Out」「Mad Lady」と続いていきます。キラキラ感のある前者に比べると、「Mad Lady」は、迫力のある巻き舌と、ちょっと怖い感じの歌詞が強烈で。
EYE:男性陣からしたら怖いだろうなと思います、あの歌詞は(笑)。
──女性の友情の怖さ、というか。
EYE:そういうことですね(笑)。いや、べつに何かがあってこれを書いたというわけじゃないんですけど、今回、アルバム全体を通じての歌詞のテーマというのはないわけですよね。あくまでメタルアルバムというだけで。そこで“メタルの曲に乗る、スカッとする歌詞ってどんなのだろうな?”といろいろ考えてみた時に、むしろ言葉を選ばないで現実をそのまま突きつける系のものにしたほうがカッコいいんじゃないかなと気付いて、だったら世の女性の皆さんがきっと一度は抱えたことがあるはずの感情をそのまんま書いてみよう、と。でもまあ、同時にこれは己に対して言ってるものでもあるんです。この歌詞を読んでもらえばわかると思いますけど、他人のことディスってるやつって、自分のことを棚に上げてるだけで、結局はどこかで自分もディスられてるものなんですよ。それを今一度思い返したほうがいいぞ、という教訓も含めて。
RIO:“こいつめちゃくちゃ楽しそうに他人の悪口喋ってんな”とか思わされること、あるじゃないですか。また言ってるよ、みたいな。
EYE:女子のほうが多いよね、それは。
──男女問わずありそうな話ですし、女性間の友情が本当に成立しないものなのかどうかはわかりませんが、とりあえずこの曲の後に「Starlight」が配置されていて良かったです(笑)。ドロドロした感情から一気に突き抜けていく感じ。実際、アルバムの最後に収められていることで、この曲についてはすごくアンコール的な手触りを感じます。それも含めてアルバム全体の流れがセットリスト的でもある。アルバム全体で1曲、物語のあるアルバム、といった発言も序盤にありましたけど、結局のところそれは流れが完璧なセットリストというのにも通ずるものなんじゃないかと思います。
EYE:そうですね。なんか、ライヴのセットリストを組んでる時も、どうしてもアルバムの流れに近くなるところがあるし、なかなか崩しにくい。ただ、全体で一括りの組曲的な感じがあると私自身も思ってるんですけど、逆に、どの曲を1曲目に置いてもおかしくないという部分もあると思っていて。冒頭にどの曲を配置するかによって違う物語が組めるんじゃないかなという気がするし、曲順を変えるだけでまたちょっと印象の違うアルバムがもう1枚作れるみたいなところがある気がしてます。実際にはまだ並べ替えてみたりはしてないですけどね(笑)。たぶん、アルバムの中に似た曲がないからだと思うんです。だから仮に最後の曲から逆の順に再生していったとしても“ああ、この曲の次にこれが来ちゃうのか”みたいな微妙な感覚にはならないはずだと思います。
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