【世界珍楽器さんぽ #19】“最も弦の数が多い弦楽器”を考える
ピアノを「弦楽器」ととらえたとき、内部にある弦の数は200本を超えると言います。とはいえピアノは鍵盤楽器。「最も弦の数が多い弦楽器は?」と問われたとき、解答欄に書くと正解にはならなそうです。
最も弦の数が多い弦楽器は何でしょう。パッと思い付くものは2本以上のネックを持つギターです。腕は2本しか無いんだからネックを増やしても……と思うのは素人考え。カナダのギター職人リンダ・マンザーはパット・メセニーのために42本もの弦を持つピカソ・ギターを制作しています。とんでもない形状です。
ただ、こういった多弦ギターは基本的に特注品であるため、「弦楽器の弦の数ランキング」に入れてしまうと、弦の数を幾らでも増やせてしまうという難点があります。ですので、「ギターという楽器」としての弦の数は「おおむね6~12本」とカウントしたほうが良いかと思います。
では、ハープ類はどうでしょう。現在クラシックのコンサート等でよく見る大きなハープは47本の弦を持ち、ペダルを使って半音上げ/半音下げをしています。優美な見た目に反し、奏者の足がせわしなくパタパタ動く様は「白鳥」に喩えられるそうです。
ペダルが一般化する以前は、半音(ピアノでいう黒鍵にあたるもの)も張られた100本ほどの弦を持つハープが制作されていたようですが、弾きにくいために衰退していきました。ハープ奏者を見ていると「よく指がこんがらがらないなあ」と思うものですが、ハープの弦は特定の音に色が塗られています。しかし100本にもなると、扱うのが難しいようです。
ちなみに、弦をX状に交差させたハープも制作されていた時代がありまして、こちらは一般的ではないものの、現在でも好んで使用している方がいます。
実用を考えない場合、弦の数は際限なく増やせそうですが、あまりに増やすと演奏が不可能になります。その中でも特に多い60本前後の弦が標準装備されている楽器が、ウクライナの民族楽器・バンドゥーラ。かなりミッチリしております。
日本の弦楽器で弦が多そうなものは箏ですが、13本か17本のものが一般的とやや少なめ。それ以上のものもありますが、30本にもなると楽器に覆いかぶさるように弾くことになります。1929年には80本の弦を持つ箏が制作されましたが、上手く扱えるものでもなく、終いには戦争で焼失してしまいました。ちなみにこの80本の弦の箏ですが、考案したのはお正月によく流れる「春の海」の作曲者・宮城道雄です。
それでは、逆に弦の数が少ない弦楽器は何でしょう。ご存知のように、三味線や三線はその名の通り3弦、二胡や馬頭琴は2弦です。これでもだいぶ少ないです。
1本しか弦を持たない弦楽器も結構あります。須磨琴、ダン・バウ、独弦琴……ゴピチャンと呼ばれる楽器は、特に変わった形状をしています。
では「0弦」は?と探してしまうと、オタマトーンやテルミンが浮かびますが、もはや「“弦”楽器とは何か?」という哲学の世界になりそうです。
(編集部 安藤)