【レポート】小指サイズの楽器たち。「キラメッキ楽器」の小さくて大きなこだわり
老若男女に愛され、近年はそのクオリティの高さから海外でも話題となっているカプセルトイ。毎年各メーカーが多種多様な新商品を発売する中、約15年間にもわたって管楽器奏者たちを魅了し続けているのが「キラメッキ楽器」シリーズだ。
「キラメッキ楽器」シリーズ最大の特徴は、本物の管楽器を細部まで再現した精巧なつくりと、本物そっくりに輝きを反射する美しいメッキ、そしてフルートからチューバまで取りそろえた豊富なラインナップである。吹奏楽経験者の中には、部活動の先輩や同級生に「キラメッキ楽器」を貰った方や、遠くの商業施設までカプセルの筐体を回しに行った方がいることだろう。
小さなロータリーチューバ。ベルに部屋の天井が写っているのがリアル。
今回、カプセルトイと管楽器を愛してやまないBARKS編集部は「キラメッキ楽器」を企画・製造するエポック社に向かい、この小さな楽器ができるまでのエピソードや苦労話を伺った。
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現在14シリーズが販売されている「キラメッキ楽器」は、全てエポック社のH氏が監修している。エポック社では当初、樹脂素材でできたミニチュア楽器のカプセルトイを販売していたが、質感がよりリアルで硬質な「キラメッキ楽器」へ変遷して行ったという。
次々登場するミニチュア楽器に編集部のテンションも上がる。
「最初は(原型を)海外の原型師さんにお願いしていたのですが、その時は資料も無く、丸投げに近い形だったんです」
そう語るH氏は、フィギュアの造形の元となった図面を取り出す。それはまるで、本物の楽器の設計図のような緻密さだ。
「樹脂素材では部品が曲がってしまうので、ブラスバンドをやっている方から『曲がってるのは嫌だ』と言わたりもして。その後、本物の楽器の写真を撮りに行って絵を描き、『この通りに作ってほしい』と頼みました」
「キラメッキ楽器」の設計図。まるで本物の楽器の設計図のよう
管楽器奏者にとっての「キラメッキ楽器」の大きな魅力は、木管楽器のリガチャーまで再現するこだわりようである。フィギュアの造形の元となる楽器のメーカーは固定されておらず、そのとき借りることができた楽器を元としている。そのため、ユーフォニウムが学校用楽器としては少ないサイドアクション式になっていたり、チューバの抜差し管がストレートになっていたりと、やや珍しい形状が採用されることもある。
「最初は会社の方の紹介で中学校に行って、そこにある楽器を撮影させてもらいました。その後はレンタルして撮影し、図面に起こしています」
樹脂製時代のミニチュア。楽器のラインナップが嬉しい。
また、カプセルトイには「ST基準」という安全基準があり、鋭利なパーツが付けられない。このST基準の関係で製品化できない楽器もあった。
「過去にはオーボエを企画したことがあるのですが、リード部分が尖っていると(購入者が)怪我してしまうな、と……リードを太くしてみたんですが、『オーボエに見えないな』『詳しく知らないけど、これは嫌だろうな』となりました」
ST基準を遵守するため、「キラメッキ楽器」では実際の楽器を単にミニチュア化するだけではなく、鋭利な部分などをデフォルメしている。これにより、製品化されたフィギュアはどのメーカーの楽器とも微妙に違った形状に仕上がる。
なお、「最も造形が簡単だった楽器」を伺ったところ、「シンバルですね。マルをふたつ描いただけです」と納得の回答を得られた。
「一番簡単だった」シンバル。とても可愛い。
今や世代を超えて愛される「キラメッキ楽器」シリーズだが、実は年々フィギュアのサイズが小さくなっている。これは「キラメッキ楽器」の価格が“税込み200円”に固定されているから。消費税が上がるたび、カプセルトイはコストカットが求められる。
初期の「キラメッキ楽器」。現行のものよりやや大きい。
「キラメッキ楽器」といえば、ミニチュアの楽器にミニチュアのケースが付属することも魅力のひとつ。本物をそのまま縮めたようなケースは実に可愛らしく、管楽器奏者としては思わず手が伸びてしまう。
ケースが付いたのは、開発当時は取引先として付き合いのあったN氏のアイデアからだというが、こちらはコストカットによって楽器本体のフィギュアが小さくなってしまったことの代わりとして生まれた側面もあるらしい。
メッキが無い(少ない)楽器のフィギュアも。
長年にわたって展開されている「キラメッキ楽器」シリーズだが、ここ数年でモデルチェンジを行ったフィギュアもあるという。
「これまでサックスは一種しか無かったんですが、つい最近やっと(アルトサックスとテナーサックスに)分かれたんですよ」
その言葉に導かれてアルトサックスとテナーサックスのフィギュアを見比べてみると、確かにネック部分の形状が変化している。吹奏楽経験者ですら言われなければ気付かないほど繊細な角度の違いだ。
「今まで出てたのはずっとテナーサックス(の形をしたフィギュア)だったんですけど、よく見るとココ(ネック部分の角度)違うじゃん!となったんです」
そう語るH氏とN氏は気まずそうにはにかんでいたが、「キラメッキ楽器」のサックスにおけるネックのサイズは僅か数ミリ。奏者であってもデフォルメの結果と思うような微細な差である。このミリ単位の調整に、「キラメッキ楽器」が愛される理由が詰まっている。
テナーサックス(左)とアルトサックス(右)。よく見るとネック部分の角度が違う。
また、「キラメッキ楽器」ではシーズンごとに楽器のラインナップを変え、吹奏楽を楽しむ学生に寄り添っていることも明かされた。
「2月、3月はトランペットやサックスをメインに入れてるんです。部活に入って皆さんが最初に行くのは、その二択が非常に多いので。この二つは“憧れ楽器”ですよね。その後、夏の吹奏楽の大会前には自分の楽器に思い入れが出る頃なので、他の楽器も揃えるようにしています」
今夏発売となるシリーズ第15弾で、吹奏楽などでよく使用される主な管楽器は出揃う。「メッキが施されたフィギュア」という商品の性質上、“キラキラしていない”コントラバスなどの楽器や、細々としたパーカッションは作りづらいそうで、製品を企画するH氏は「次の楽器」選びに悩んでいる。
「メインどころはもう作ってしまったので、割とニッチなものも入ってきています」
「『トライアングル入れる?』『それはあまりにも寂しい』となったこともありました」
バランスが良く、実物のように自立することも魅力。ベルには本物同様に撮影者のスマホが写り込んでいる。
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※令和3年7月より、エポック社のカプセルトイ事業は事業譲渡を受け、ターリン・インターナショナルに引き継がれました。
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