【コラム】この春から吹奏楽を始めたキミに、ちょっと役立つかもしれない話

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新型コロナウイルスの影響で家に閉じこもっている間に桜の季節は過ぎ、大きすぎるランドセルを背負った子どもたちが階下を駆けて行くようになった。

日本の吹奏楽人口は100万人を超えるという。この春新たに“100万人”の中に加わった学生たちは、まだ着慣れない制服に身を包みながら、構え方すら覚束ない楽器をおっかなびっくり触っていることだろう。

確か私は11年前の今頃、椅子から落っことしたチューバのベルが脳天に直撃し、脳震盪を起こしていた。チューバ(金属)と人間がケンカしたらチューバが勝つので、皆さま仲良くしてほしい。

今回のコラムでは、中学1年生で吹奏楽を始めてから10年が経つ筆者が、「後から思えばこれが正解だったけど、中1のときに教えてほしかったor気付くべきだったなと思うこと」を書き連ねて行く。

あくまでこれは筆者の一意見ではあるが、参考になるところがあればぜひ練習に導入してほしい。


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■1.筋トレとか歌の練習とかって必要あるの?

吹奏楽部に入ってばかりの部員たちの中には、楽器を吹くため入部したのに、筋トレや走り込みを課されて戸惑っているひともたくさんいることだろう。

まず「筋トレが演奏に役立つか」だが、実はこれ、プロ奏者でも意見が分かれるところだったりする。私が出会って来たプロ奏者様がたは、ほぼ全員「楽器で使う筋肉は楽器を吹きながら鍛えられるから、通常の筋トレは役に立たない」と言っていた。

ただ、吹奏楽部は想像以上に体力を使う部である。演奏会の前には運搬作業などで筋肉痛になるくらいの運動をするし、練習では何時間も姿勢よく座っている必要があり、腹筋と背筋を使う。楽器を構えるのも腕が疲れる。なので、最も体力が無い低学年のうちに筋トレしておいて損は無い。音楽の知識には裏切られることもあるが、筋肉は裏切らない。

一方で、歌のトレーニングにはめちゃくちゃ意味がある。管楽器の音程を合わせるには、演奏者の音感と、唇や呼気のニュアンスが必要だ。歌はその感覚を掴むための訓練である。

今はまだ音を出すので精一杯かもしれないが、歌が上手いひとは管楽器の上達も早い。楽器が吹けないときは、音楽の授業などで貰う歌集を使って、歌と譜読みの練習をすると良い。


▲基礎練効果の個人的体感

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■2.楽譜を早く読めるようになるコツは?

楽譜が読めないけど吹奏楽部に入ったチャレンジャーなきみには、「貰った楽譜をドレミで音読する」というやり方をおすすめしたい。音符の下にドレミを書いて、最初はそれを音読し、次はドレミを隠して譜面だけを見て音読する。音程はつけてもつけなくても良い。

慣れてきたら「全部の音符にドレミを振る」のをやめて、「1小節に2音だけドレミを振る」のを試してみよう。たぶん3ヵ月もすれば何もなくても普通に読めるようになると思う。

「指番号が覚えられない」ときは、とにかく「指番号と音の連結」を意識して、覚えようと思いながら音階の練習をすると良い。音階練習は曲を吹くための基礎技術を身に着ける訓練、いわば“音楽の筋トレ”なので、サラっと流さず毎日10分だけでも集中して全ての長・短音階を余さず練習してほしい。

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■3.チューニングが苦手!どうしたらいいの?

チューニングに関することは、意外と詳しく教えてもらえない。木管楽器を吹いているなら、チューニングのときは楽器本体を弄って音程を合わせよう。ナチュラルに吹いたときにピッタリ合う状態がベストだ。

金管楽器の場合、チューニング音だけを合わせてもしょうがない部分もある。その楽器によって極端に合わない音があったりするので、「チューニングのときに音を合わせる」のではなく、事前に全音チューニングしておいたり、その音ごとに対応しよう。替え指をたくさん知っておくのも良い。

たまに「チューナーを使わないと合わせられない」と悩む人もいるが、何十年と楽器をやっている方の中にも、チューナーが手放せない方はいっぱいいる。使用をためらうことはない。


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■4.テンポが合わない!どうしよう?

テンポが走ってしまう場合、メトロノームをカチコチ鳴らして吹きまくるより、拍子感覚を鍛えたほうが良い。たとえば4拍子は「1-2-3-4、1-2-3-4」と均等ではなく、「1-・-・-・、1-・-・-・」と頭拍(1拍め)が重い。これを常に意識すれば、次第に走らなくなる……と思う。

テンポが遅れてしまう場合は、メトロノームを使って強制的に速度を上げ、スピードに慣れてみよう。音を聴いて合わせるのではなく、たとえば友達に背中を叩いてもらいなが吹いたりして、身体の感覚とノリで合わせるのがコツだ。

複雑なリズムの演奏については「口で歌えないリズムは吹くこともできない」という格言がある。吹く前に歌ってみると、自分がどこで詰まっているのかわかる。

ちなみに筆者は上記の訓練を繰り返した結果、音楽を聴くとBPMをドンピシャで当てられるという特技を身に着けたのだが、せいぜい音楽の授業で「すげえ!」って言われる程度しか役に立った試しが無い。

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■5.合奏中って何してればいいの?

合奏に対する向き合い方には様々なものがあるし、曲や楽器、楽団によっても違う。なのでこれは、あくまで“チューバ吹きの筆者”の一意見として読み流していただきたい。

私は合奏を「他のパートの演奏を聴く機会」だと思っていた。自分が吹いている時間も大事だが、それよりも「自分が吹いていない時間」に集中し、全パートの楽譜を覚える。そうして曲に秘められた意図や工夫を掴めば、自分の表現と技術は大きく成長する。

また、楽曲には大概どこかに“自分の吹くメロディに対応するメロディ”がある。それを耳で探して合わせるのも、合奏の時間にすることだ。

合奏練習のときには、間違えたって構わない。できれば上手く吹いて指揮者や先輩からポイント稼ぎしたいところだが、練習はあくまで練習だ。間違えるより、緊張して音を出せないほうが不味い。

最初は自分のことでいっぱいいっぱいだし、間違えることは多々あると思う。そういうときでも、「音を出すタイミング・音の終わるタイミング・テンポ」の3点を合わせられれば十分練習になる。合奏の第一段階は「音のアタマ」を合わせること。全然吹けなくても、とにかく小節のアタマや休符明けにしがみついていれば、合奏の効果はちゃんとある。


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■6.希望の楽器になれなかった。先が不安……。

私が中学1年生で吹奏楽部に入った時、13人の入部希望者のうち10人がサックスを希望していた。最終的にサックスに決まったのは3人なので、大半が希望外の楽器を吹いていたわけだ。

音大生や第一線で活躍するプロ奏者でも、最初は違う楽器を志望していたという方は多い。不人気楽器と言われがちなチューバなんて特に。まあ、つい2週間くらい前まで小学生だった中1くらいの子が、いきなり「あのでっかい楽器吹きたい!」とはなかなかならないよね。

希望の楽器につけなかったときは、誰だって不安になる。だが、希望の楽器をやったところでゼロからのスタートには違い無いし、むしろ希望の楽器をやって「なんか思ってたのと違う」となって辞めてしまう人だって多い。恋愛結婚でも離婚するのと同じことである。

管楽器は一つ習得すれば、そのノウハウを別の楽器にも転用できる。幾つも楽器を吹ける人は重宝されるし、活躍の場も広がる。希望していない楽器を吹くことは、マルチプレイヤーになれる大きな「チャンス」でもある。ここでしか出会えなかった楽器との縁は、どうか手放さないでほしい。

ところで、「体格が良いから」「身長が高いから」って理由でチューバに指名される風潮は正直どうなんだろうと思う。「太ってるからチューバに指名されてしまうのが怖い」「背が低いからチューバを吹かせてもらえなかった」って落ち込んでる思春期の少年少女を見るのは辛いのだ。

まあ確かにチューバ奏者には大柄な方が多い。だが、スリムで小柄なプロもたくさんいる。「大柄だからチューバが上手い」というのは、どう考えても因果関係が逆である。「身体が大きいほうが肺活量がある」と言うなら、もっと息を使うと言われるフルートのほうが、恵まれた体格の奏者が多くなるはず。この辺の価値観というか、そういうところは変革が必要だと思う。



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■7.部活を辞めたいとき

最後に、部活を辞めたくなったときに考えることを話したい。

辞めたい理由が「極端に上達できない」だった場合、それは楽器が合っていない可能性がある。楽器は「相性」なので、違う楽器に変えてみると超上達したりもする。幼少期からずっとピアノを習っていたのに、たった1年の練習でギターのプロになってしまう人もいるのだ。

「楽しくないから辞めたい」なら、一発逆転のチャンスはある。「この部活が楽しくない」のか、「吹奏楽そのものが楽しくない」のかを慎重に見極めよう。もし前者ならコッソリ好きなものを吹いてみたり、市民吹奏楽団なんかの扉を叩いてみると、「超楽しい!」になるかもしれない。

ちなみに私は「この部にチューバ吹きは私ひとり。つまり私がめちゃくちゃ上手くなってから突然辞めたら、部に対する最高の嫌がらせができる!」という極悪メンタルで卒業まで部活を続けた。我ながら最悪である。

部活を辞めるか続けるかは、青春の濃密な数年間をどう使うかの戦略だ。続けることにも辞めることにもメリットがあり、辞める思いきりがつかないまま卒業までズルズル続けたって、必ず「何か」にはなる。

辞めても、決してマイナスにはならない。何かに見切りをつけることは、ひとつの大きな人生経験である。辞めたあとの部を心配する気持ちは大切だが、きみの青春はきみだけのものだ。それを覚えていてほしい。

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■おわりに

吹奏楽は楽しい。だが、楽しいことの倍くらい辛いことがある。正直最初の半年間なんて、音を出すだけで精一杯、音階吹くのも一苦労だ。地味な基礎練習をしながら、友達が上手くなって行くのを見て焦るばっかり。チューバ吹きならスタートから数ヵ月は酸欠でぶっ倒れてる。音楽室前の廊下に転がってるヤツは大概チューバ吹き。

管楽器の練習に「効率や無駄の排除」はあっても「近道」は無い。面倒な基礎練習を嫌がって曲ばかり練習するのは、東京タワーの鉄骨をよじ登って展望台を目指しているようなもの。稀にそれでうまくいく超特殊な人がいるけれど、私たち一般人は階段を一歩ずつ登らなきゃいけない。

振り返れば、1年目は曲の練習なんて1日30分で良いから、残りの時間はロングトーンと基礎練習をするべきだったと思う。基礎練習を疎かにしていた人は、2年目くらいから基礎能力不足が音色に出てくる。だが、気づいた時には時すでに遅し。その頃には抱える曲が多くなっており、基礎練習の時間は削られていく。

「基礎練習をちゃんとやれ」という煩わしいお説教は、プロ奏者や筆者を含む先輩たちの「1年目の頃にもっと基礎練習をやっておけばよかった」という心の叫びである。大人になってからの勉強の伸び率が悪いのと同じで、基礎能力が求められる曲を吹く頃には、基礎能力の成長率は著しく低下しているのだ。

だから、この春から吹奏楽を始めた人は、成長率が高いビギナーのうちに本気で基礎練がんばってほしい。めっちゃ地味でつまんないとは思う。それでも、基礎練はステージ上で輝く未来の自分への投資だ。「量より質」を意識してやれば、その技術は一生活かせる。

さて、コロナ禍でこれまで通りの部活動ができない現状ではあるが、皆様に最高の青春が訪れることを祈っている。



文◎安藤さやか(BARKS編集部)
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