MR.BIGと日本をめぐる、忘れてはならない現実の物語

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「テレビで伝えきれないことがある」…そんなキャッチコピーが冠せられた<TBSドキュメンタリー映画祭>が、いよいよ3月18日に開幕を迎える。さまざまな時代や出来事、人物などをめぐる現実が描かれた多様な作品が、同日から3月21日にかけ東京の渋谷・ユーロライブにて上映されることになるが、なかでも特に音楽ファンに注目して欲しいのが、『MR.BIG~3.11から10年 被災地と共に歩んだ外国人バンド』だ。その内容はタイトル自体からも明らかなように、2011年の東日本大震災の発生翌月にあたる同年4月、予定通りジャパン・ツアーを実施するのみならず、いち早く被災地での公演を実現させたMR.BIGの姿を追ったもの。そもそもはTV番組用に制作された約25分間のドキュメンタリー映像だが、今回の映画祭では60分ヴァージョンが公開されることになる。

それに先駆け、3月8日、この作品の先行上映会&トーク・イベントが渋谷・LOFT9にて開催された。この場で上映されたのは25分ヴァージョンのものだが、それでもコンパクトなサイズの中に、バンド側のみならず被災地で暮らすファンの想い、さらにはパーキンソン病との闘いを強いられることになったドラマーのパット・トーピー(残念ながら2018年に他界)の心情までもが凝縮されたその濃密な内容は、まさしく映像の向こう側にあるものについて考えさせられるものであり、60分版を観ずにおくわけにはいかない気持ちにさせるものだった。


先行上映に続いては、この作品の監督を務めた川西全氏、ナレーションを担当した音楽評論家・DJの伊藤政則氏が登壇し、TBSアナウンサーの初田啓介氏の司会によるトーク・ライヴが展開された。このイベントを実施できる喜びを川西氏がストレートに語ると、伊藤氏は「愛情が毛細血管のように張り巡らされた作品」と称賛。その言葉に、場内に集まっていたファン(当日は、ディスタンスを確保したうえでの満席状態)の誰もが頷いていたことだろう。


トーク・タイム中は、川西監督の取材・撮影を通じての想いや、バンドとファンの双方に対する印象などが熱っぽく語られたほか、伊藤氏の口からは、歴史的ともいうべき10年前のライヴに至るまでの経緯、阪神淡路大震災の時点から育まれてきたバンドとファンの絆、そして、それ以前にバンド側がサンフランシスコやロサンゼルスでの大地震を経ている事実との因果関係なども明かされた。また、イベントの半ばでは、ベーシストのビリー・シーンからのメッセージ映像も紹介。コロナ禍が続く現状を踏まえながら、彼は次のように語っていた。



「今の状況は多くのミュージシャンにとって厳しい状況だ。僕は幸運にもMR.BIGで成功することができたが、2022年までライヴができるかどうかが不確かな現状にある。こうした中でもPCを通じて世界中の人たちと連絡を取り合っていて、届いたメールは2万通にも達した。とにかく彼らに返信をして、前向きな言葉で励まして、練習して、曲を作り、レコーディングすること。これが今の自分にできることのすべてだ。世界中の人々が安全でいること、病気にかからずにいてくれることを望んでいるし、同時に、みんなが通常通りに働き、当たり前の日常生活を送ることができるよう願っているよ」──ビリー・シーン


トーク・イベントの終盤、話のテーマは当然のごとく〈MR.BIGの未来〉へと移行していく。新たな話題としては、オリジナルMR.BIGにとって最後のジャパン・ツアーとなった2017年の全9公演の模様が完全に網羅されたCD18枚からなるライヴ作品『ロウ・ライク・スシ リヴァイヴ2017~2017ジャパン・ツアー・オフィシャル・ブートレグ・ボックス』も近くリリースされる運びとなっており(3月24日発売予定)、6月には1991年発売の2ndアルバム『リーン・イントゥ・イット』の30周年記念盤、さらには同作に伴う『リーン・イントゥ・イット~ザ・シングルズ』(30周年記念限定7インチ・ボックスセット)も登場することになっている。ただ、パットの不在という現実を踏まえると、彼らの今後については不確かな状態にあると言わざるを得ないわけだが、彼らとその音楽により多くのものをもたらされてきた日本のファンこそが、彼らが未来へと向かう重要な動機のひとつになり得るのではないだろうか。そうした伊藤氏の叱咤激励の言葉を受けながら、川西監督自身も「(映画の)タイトルには“10年”とあるけれど、これはゴールではなく、ここからまだ未来のMR.BIGを見せてくれるはず。そして、それを追いかけたい」と決意を口にしていた。


この映画『MR.BIG~3.11から10年 被災地と共に歩んだ外国人バンド』は、4日間にわたり開催される映画祭の初日にあたる3月18日、渋谷・ユーロライブで上映されるほか、嬉しいことに配信上映も実施される。この機会に是非、〈日本を愛し続け、日本に愛され続けてきたバンド〉をとりまく現実の物語に触れて欲しい。

文◎増田勇一


<TBSドキュメンタリー映画祭>
2021年3月18日(木)~21日(日)
@ユーロライブにて開催
主催:TBSテレビ
共催:ユーロスペース

◆TBSドキュメンタリー映画祭オフィシャルサイト
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