【コラム】「練習しないと演奏できない」を打ち破る楽器、インスタコード
「ギターを弾くにはまず指にタコを作ってから」「上手くなりたいなら死物狂いで練習しろ!」
楽器を習ったことのある人なら、このような言葉をかけられたことがあるに違いない。私はボーカルや作曲の仕事をしているが、ギターもピアノもサックスも十分に練習をしなかったので、当然のことながらどれもまともに弾くことはできない。楽器を演奏できるようになるには、膨大な時間をかけて努力する必要があると、多くの人が口を揃えて言う。
しかし、努力をせずに演奏を楽しんではいけないのだろうか。私は「楽器は努力を経ないと楽しめない」という常識を打ち破りたいと考え、誰でもすぐに弾ける楽器「インスタコード」を開発した。インスタコードへの思いとその素晴らしさをひとりでも多くの方にお伝えしたく、開発に至った理由を語らせていただきたい。
▲指1~2本でボタンを押さえるだけでコードを演奏できる電子楽器インスタコード。
子どもの頃の遊びを思い出してほしい。鬼ごっこ、サッカー、トランプ、テレビゲーム…どんな遊びも得意不得意はあれ、多くの人がルールを覚えるだけで楽しんでいたはずだ。私はサッカーもテレビゲームも、ものすごく下手だったし練習もしなかったが、それはそれで楽しくプレーしていた記憶がある。
一方、楽器の場合はどうだろう。楽しむ前にまず努力することを求められ、楽しくプレーできるのは努力を重ねた人だけの特権だ。しかし、誰もがプロを目指すわけではない。ゲームやスポーツと同じように、ルールを覚えるだけでとりあえず楽しめる楽器があっても良いのではないだろうか。
▲サッカーはすぐに楽しめるのにギターは辛い練習をしないと楽しめない。
クラシック音楽の世界で楽器を演奏することは、音楽教育を受けた特別な人だけに許されたものだった。しかし20世紀初頭に誕生したジャズは、音楽教育を受けたこともなく楽譜も読めない人達の間で広まった。そこで活躍したのが「コード記号」だ。
五線譜は演奏内容を1音ずつ指定してあるのに対し、コード譜では演奏内容はプレイヤーに委ねられる。コードに基づいた演奏方法は楽譜を覚えるよりも敷居が低いので、楽器の演奏は音楽教育を受けた特別な人だけのものではなく、一般庶民でも気軽に取り組めるものになった。しかもプレイヤーの自由度が高いため、新たなフレーズや技法が次々に開発され、その後ロック、ポップス、ボサノバなど様々な音楽ジャンルの誕生に一役買った。コードの誕生で譜面は進化し、五線譜に音符を書かなくても、楽曲を伝えることが可能になったわけだ。
とは言え「コードって難しい」「コードはよく分からない」と思う人も少なくない。その理由のひとつは、ギターもピアノもコード記号が発明される以前に誕生した楽器だからだと考えられる。五線譜の場合、おたまじゃくしの位置が下から上に向かって音が高くなり、鍵盤やフレットは左から右に向かって音が高くなるので、「符号」と「音」と「操作」の関係性は直感的に理解しやすい。
▲五線譜は直感的に理解しやすい。
一方、コード記号の場合、CとかDmという文字の羅列を見ても「音」と「操作」が直感的にイメージできない。だからといって「Cの指使いはこう」「Dmの指使いはこう」という具合に、理論を理解しないまま指の形でコードを丸暗記してしまうと、コード進行の学習には遠回りになってしまう。ピアノの鍵盤もギターのフレットも非常に洗練された操作機構だが、コードの演奏に対して最適化されたインターフェイスではないからだ。
▲コードは符号と操作の関係性が理解しづらい。
コード進行の教科書では「IV-I-V-VImはおしゃれな進行」という具合に、コード進行をローマ数字で表現するのが一般的だ。「IV-I-V-VIm」とはキーがCの場合「F-C-G-Am」、キーがGの場合「C-G-D-Em」のことを指すのだが、この音の響きをイメージするには、そのコードを弾かないといけない。初心者の場合は「Fの指使いは…Cの指使いは…」とひとつひとつ確認する必要があり、音を鳴らす前に1ステップ余計な手間がかかる。
そこで私は、指使いを確認する必要なく一足飛びに演奏できる楽器「インスタコード」を開発した。
例えば上述の「IV-I-V-VIm」を演奏するには「4-1-5-6」の番号ボタンを順番に押すだけだ。キーをCに設定すれば「F-C-G-Am」、キーをGに設定すれば「C-G-D-Em」どちらも「4-1-5-6」で鳴らすことができる。
曲の終止でよく使われる「トゥーファイブワン」というコード進行は「2-5-1」で弾ける。基本的なコード以外も指使いを覚える必要なく、ボタンを2つ同時に押すことでほぼ網羅できる仕組みになっている。インスタコードは、コードの「符号」と「音」と「操作」を世界で初めて直感的に連動させた楽器インターフェイスなのだ。
▲インスタコードは直感的に理解しやすい。
インスタコードの試作機が完成して以来、幼稚園児から高齢者まで数百人の人に体験してもらったが、全くの初心者でもほとんど迷うことなく、コードを自らの手で演奏できている。コード記号の発明でミュージシャンの人口が増えたように、インスタコードの発明は、楽器演奏の敷居をさらに下げ、これまで埋もれていた才能を開花させる新たなアーティストを次々と生み出す起爆剤になると私は信じているし、その大きな手応えをひしひしと感じている。
大人のバンドに幼稚園児が加わってセッションしたり、カラオケ好きな人が弾き語りをマスターして多くのファンを魅了したり、老後の趣味としてYouTubeで演奏動画を世界に配信したり…。さらには、インスタコードで作曲理論を身につけたアーティストが、音楽の歴史を変えるような革新的な音楽を生んでいくかも知れない。インスタコードの誕生が音楽の新しい時代を切り開くことを期待したい。
寄稿:湯~イチ(永田雄一)
湯~イチ(永田雄一)
誰でも弾ける楽器「インスタコード」開発者、ミュージシャン
1975年広島県生まれ。広島大学附属中・高等学校在籍中はプログラミングに熱中するオタク生活を送る。広島大学大学院では地学を専攻するも教職には就かず、広告物制作会社、化学薬品ベンチャーなどで、販売促進や製品開発を担当。2001年から音楽活動を開始し、2人組ユニット「おふろdeアフロ」では年間出演本数が100本を越えることもある。ミュージシャンでありながら不器用なので楽器をほとんど弾けない。
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