【連載インタビュー #1】叶~Kanae~、パニック障害を持つシンガーソングライターが歌う理由「伝わるってこういうこと」
■想いに重なったら人の感情が動く
■それを目の当たりにして歌いたいって
──追い詰められている時期に、音楽はどう響きましたか?
叶~Kanae~:これも“あるある”ですけど、暗い部屋でカーテン締め切って聴いてたんですが。
──蛍光灯より間接照明のほうが落ち着くみたいな?
叶~Kanae~:そうですね。洋楽だし、英語の授業も出ていなかったから“この歌詞、どういう意味なんだろう?”って気になって、歌詞カードと照らし合わせながら聴いてました。その内、どんどん歌いたい気持ちが芽生えてきて。
叶~Kanae~:おそらく、あったと思います(笑)。耳も疲れてたんですかね。違う世界に行きたかったのかもしれない。
──現実と離れてれば離れてるほど、楽しめたのかもしれない?
叶~Kanae~:そうなんですよね。わかりやすい例えだと、旅行に行って帰ってくると元気になるみたいな。全然知らない土地に行くと、まわりの人が自分のことを知らないから、気持ち的にも羽を伸ばせるみたいな感覚ですね。
──高校生になっても、そういう時期が続いたんでしょうか?
叶~Kanae~:私立中学だったのでそのまま高校に進学できたんですけど、不登校になってからはフリースクールに行ったりしていたから、卒業式だけ出席して、高校は受験して都立に入学したんです。最初は友達ができなかったものの、1年生の後半にグループから外れている女のコを発見して、自分から声をかけたんですね。そうしたら住んでいる家が近くて、意気投合しちゃって。私は高校に入っても休みがちだったんですけど、そのコが毎朝、家まで迎えに来てくれて、母親に「◯◯ちゃん来たよ」って叩き起こされるみたいな。彼女がソフトボール部に入っていて、誘われて入部したらハマっちゃったり。
──高校で部活デビューですか? しかも運動部。
叶~Kanae~:はい(笑)。あと、彼女はピアノも歌も上手かったんです。休み時間になると音楽室で合唱曲を弾いてくれて、教えてもらったり。電車のホームで2人でハモったりしてましたね。
叶~Kanae~:そうですね。私が怠けていると見抜かれて、「できるんだからやろうよ」って電車の中で叱ってくれたりとか。彼女がいたから、自分の想いを少しずつ伝えられるようになったんです。
──なにを考えているかわからないから人が怖かったって話してくれましたけど、彼女は思ったことをストレートに言ってくれたんでしょうね。
叶~Kanae~:そうなんです。最初のうちはまだ怖かったけど、「なに怒ってるの?」って初めて聞けたし、なんでも話せる初めての友達だったんです。
──叶~Kanae~さんの人生にとって大きな存在ですね。
叶~Kanae~:本当にそうです。父のことも知っていたので「お父さんと1回話したほうがいいんじゃない?」って言われて、意を決して父に「忙しかったのはわかるけど、なんで家にいられなかったの?」って聞いたら「両立できなかった」っていう答えが返ってきたんです。けど、そのことで自分の中でひとつ決着がついたというか……。逃げてばかりじゃなく、自分からも歩み寄っていかないとって思えるようになりました。
──良かったですね。
叶~Kanae~:彼女とそこまで仲良くなれたのも音楽が繋いでくれたところが大きかったし、振り返ったらいつも音楽がそばにありましたね。
叶~Kanae~:はい。2年間、クラシックを勉強したんですが、将来の仕事を考えると歌う場も少ないと聞いて、音楽の専門学校に行ったんです。そこでポップスを勉強するようになって。
──専門学校のボーカリスト科ですか?
叶~Kanae~:音楽療法科です。音楽を通じて人の心のケアをするプログラムを作るとか、その学校で初めて自分がやりたいことが固まってきたんです。それまでは人前で歌うのは発表会ぐらいだったんですけど、初めて介護施設だったり、病院の精神科で歌う経験をして、ピアノを弾いて即興で曲を作るような授業もあったので、作曲の楽しさも知りました。
──オリジナル曲を作って、自分の想いを伝えられる楽しさを知ったりとか。
叶~Kanae~:そうですね。病院で歌ったときに、私の歌を聴いて涙を流してくれる方がいたんです。歌ったあとに「あの曲、好きなのよね。いろいろ思い出したわ」っておっしゃってくれて、「伝わるってこういうことなんだ」って思ったんですよね。自分の歌がどうとかじゃなく、曲を歌って思い出や想いに重なったら、人の感情が動くということを目の当たりにして、それがきっかけで“人前で歌いたい”って。原点ですね。
──歌うことで自分が誰かになにかできることがあるかもしれないって?
叶~Kanae~:思いました。中学のときに洋楽を聴いていた経験も活かせたし、ジャズクラブで歌って、英語の発音を褒めてくださる方がいるのも、あの頃に聴いて練習していたからかなって。いまも役立っていますね。
◆インタビュー【3】へ
◆インタビュー【1】へ戻る