【レポート】コールドプレイ、ヨルダンから全世界へ生配信「誰にも訪れる1日と強烈なメッセージ」
コールドプレイが前作『A Head Full Of Dreams』から4年ぶりになる8thアルバム『Everyday Life』を完成させた。このリリースを記念して現地時間11月22日、ヨルダンの首都アンマンで開催するコンサートの模様がYouTubeで全世界に生配信された。
◆コールドプレイ 動画
当日はアルバムのコンセプトに倣い、“サンライズ”(アルバム1〜8曲目)、“サンセット”(9〜16曲目)の2セクションに分けて、グリニッジ標準時午前4時(日本時間13時)、午後2時(日本時間23時)というスケジュールでライヴを行った。コールドプレイは過去にアラブ首長国連邦の首都アブダビで3回の公演を行なっているが、アンマンでのパフォーマンスはこれが初。『Everyday Life』収録曲には「アラベスク」「バニ・アダム」などアラビア語や中東の要素が散りばめられており、アルバムカバーにもタイトルの“Everyday Life”を意味するアラビア語が書かれている。
生配信はまず、“サンライズ”から。現地映像に切り替わると、まだ楽屋らしき場所でメンバーがスタンバイしている様子が流れ、何とも臨場感たっぷりだ。クリス・マーティン(Vo / G / Pf)がシャツにジャケットを羽織る後ろ姿が映された。そこからメンバー全員で円陣を組んだ後、クリスはコーラス隊と発声練習に励んだりと、通常では観ることができない舞台裏までが放映される(※コールドプレイ公式YouTubeチャンネルでアーカイブがあるので視聴可能。ただしこの楽屋部分はカットされている)。
そして、クリス、ジョニー・バックランド(G)、ガイ・ベリーマン(B)、ウィル・チャンピオン(Dr)のメンバー4人が屋外の石畳に囲まれた遺跡のような舞台へ移動、アルバム収録曲順通りにストリングスを導入した冒頭曲「Sunrise」〜「Church」でコンサートがスタートした。暗闇の中に浮かび上がるメンバーの後景には明るい光りを放つ日の出が映され、まるで一本の完成されたミュージックビデオを眺めているかのような幻想的な風景に心を奪われてしまう。続いて「Trouble In Town」ではクリス本人がピアノ弾き語り形式で披露。落ち着いた歌声は実に味わい深く、それが徐々に明るさを帯びていくヨルダンの街並みと溶け合い、後半はドラマティックなパートへと雪崩れ込んでいく。その緊張感を帯びたサウンドスケープには背筋がゾクッとするほど。
驚いたのは次の展開だ。クリスが立ち上がると男女コーラス隊4人と横並びになり、ゴスペル調の「Broken」をアカペラで歌い上げるではないか。音源に忠実な再現と言えばいいだろうか。その流れからピアノ弾き語りで聴かせる「Daddy」にも心の琴線を激しく揺さぶられた。“僕は本当にあなたが必要なんだ”と父親を求める子供の心情を描いた歌詞も相まって哀切な旋律が胸に沁み入った。
「Wonder Of The World / Power Of The People」を挟み、アフロビートの創始者であるフェラ・クティの息子フェミ・クティを含む6人のホーン奏者を交えた「Arabesque」は圧巻のひと言に尽きる。明るくなった街並を背景に、フェミのサックス・ソロが楽曲を何倍にもゴージャスに彩った。このシーンは間違いなく“サンライズ”のハイライトのひとつ。「When I Need A Friend」をラストに“サンライズ”が終了した。
まだアルバムの半分ではあるものの、その世界観に魅せられて“サンセット”へ期待が膨らむばかり。「Guns」演奏シーンのいきなりのスタートには完全に不意を突かれた。続く「Orphans」は数十人のオーディエンスらしき観客に囲まれる中、クリスは最高の笑顔を浮かべて、至福の満ちたサウンドを高らかに響かせる。
クライマックスは女性ストリング奏者を招いた「Champion Of The World」〜「Everyday Live」の流れだろう。特に後者のアウトロには心が洗われるような気持ちになった。キリスト教で歓喜、感謝を意味する“ハレルヤ”でラストを荘厳に締め括り、全身が解放される不思議なエネルギーを感じたほどだ。こうして生配信による全曲再現は無事に幕を閉じた。
リリース当日に全世界が新曲ライヴを堪能できるなんて贅沢他ならない。発売日の午前0時にはサブスクリプションサービスも解禁されていたので、そちらを先に聴いた人もいたかもしれない。今回の生配信を観てから音源を入手した人も少なくないはず。しかし、やはり実際のライヴ映像は雄弁で、アルバムの本質をより深く理解できた気がした。前述したように、今回は“サンライズ”と“サンセット”の二部構成からなるもの。住んでいる国や使う言語、文化や宗教に違いはあれど、誰しもに等しく訪れる“1日=24時間”という普遍的なテーマを掲げたコンセプト作だ。さらにニュースでも話題になったが、彼らは今回のアルバムにおいて、環境面に配慮し、ツアーを行わないことを宣言した。その衝撃的なコメントもすべて本作の内容に通じるものだった。
コールドプレイは前作にて自身最大規模のワールドツアーを敢行、そこで見た世界の現実や、肌で感じた違和感が徐々に蓄積されていったのかもしれない。そのツアー中に今作の曲作りを行っていたこともあり、世の中が抱える様々な問題……たとえば、戦争や紛争、性差別、ハラスメント、銃規制、政治汚職などが作品テーマに深い影を落としている。ゆえに本作はポップでカラフルな楽曲を提示した前作とは一線を画した作風となった。もっと言えば、過去のどの作品とも趣が異なる新境地的なサウンドを開拓している。
アルバムを通して聴くと、雨の音や鳥の鳴き声、激しい剣幕を見せる男性のセリフなどが挿入されているなど、世界各地でフィールドレコーディングを行ったその特色が楽曲の隅々から浮かび上がってくる。身の周りの人間関係はもちろん、海を越えた世界の情勢を含めて、“もっと感じて考えてくれ”と聴き手に訴えかけてくるメッセージアルバムともなっている。けれど、息が詰まるような音色ではなく、世の中の光と闇をコールドプレイというフィルターを通して、美しいサウンドへ昇華している点が素晴しい。
“サンライズ”においては、「Church」後半に民族調のメロディを歌い上げる女性ヴォーカルをフィーチャーし、“傷つけば 僕はきみの教会へ向かう”と魂の救済とも取れる歌詞が鮮やかに浮かび上がる。また、ズールー語を用いた子供たちによるコーラスが印象的な「Trouble In Town」、心臓音のようなイントロから始まる静謐なピアノバラード「Daddy」は涙を誘う。さらに、前述のフェミ・クティを迎えた「Arabesque」のアレンジも溜息が漏れるほどゴージャスだ。しかも、“僕がきみでもおかしくはない きみが僕でもおかしくはない”、“そして僕らは同じ血を分かつ”といった歌詞には強烈なメッセージが宿っている。
一方の“サンセット”は銃社会を真正面から取り上げた「Guns」で幕を開ける。それから華やかなポップセンスで包み込む「Orphans」へ繋げ、「Eko」「Cry Cry Cry」「Old Friends」と2分台の楽曲を挟んでクライマックスへ。ラストを締め括る表題曲は歌詞冒頭から、“僕らは一体どうするつもりなのか”、“どんな世界にしたいんだ”と問いかけ、その後半は“日々の暮らしをしっかりと”と世界中の人に向けてメッセージを投げかけた。まさに『Everyday Life』を象徴する1曲と言っていいだろう。
同アルバムはひとつひとつの音色やそこに込められたメッセージに想像力を巡らせることで、深く何度も味わえるものに仕上がっている。“あなたの1日は、他者にとってどんな1日なのか”、“他者から見て、あなたの1日はどう映るのか”。コールドプレイが辿り着いた広壮な視野は、リスナーひとりひとりを音楽と思想の新たな旅へと誘うことだろう。コールドプレイの祈りにも似たメッセージに感動する一枚だ。
取材・文◎荒金良介
撮影◎Matt Miller
ニュー・アルバム『エヴリデイ・ライフ』|『Everyday Life』
WPCR-18287 ¥2,700+税
収録曲:
1. Sunrise / サンライズ
2. Church / チャーチ
3. Trouble In Town / トラブル・イン・タウン
4. BrokEn / ブロークン
5. Daddy / ダディ
6. Wonder Of The World / Power Of The PeopleArabesque / ワンダー・オブ・ザ・ワールド/パワー・オブ・ザ・ピープル
7. Arabesque / アラベスク
8. When I Need A Friend / ホウェン・アイ・ニード・ア・フレンド
9. Guns / ガンズ
10. Orphans / オーファンズ
11. Èkó / エコ
12. Cry Cry Cry / クライ・クライ・クライ
13. Old Friends / オールド・フレンズ
14. Bani Adam / バニ・アダム
15. Champion Of The World / チャンピオン・オブ・ザ・ワールド
16. Everyday Life / エヴリデイ・ライフ
17. Flags / フラッグス*
*日本盤ボーナス・トラック
ダウンロード / ストリーミング: https://Coldplay.lnk.to/EL_OPu
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