【ライブレポート】植田真梨恵、ツアー< [F.A.R. / W.A.H.]>最終日「死ぬまで歌い続けられたらいいな」
2014年のメジャーデビューから、今年8月に5周年を迎える植田真梨恵。アニバーサル企画として精力的なリリースを展開している彼女が、2月にリリースした『F.A.R.』と、4月にリリースした『W.A.H.』という2枚のミニアルバムを携えた全国ツアー<植田真梨恵 LIVE TOUR 2019 [F.A.R. / W.A.H.]>のファイナル公演を恵比寿 ザ・ガーデンホールで開催した。
◆植田真梨恵 画像
5月から全国8ヵ所のライブハウスをまわって辿り着いたこの夜は、“5周年”という節目の年だからこそ、「死ぬまで歌い続けたい」という確固たる決意を伝えながらも、決して集大成的なものではなく、表現者として、ひとりの大人の女性として、さらに進化していこうとする植田真梨恵の現在地が強く浮き彫りになるライブだった。
「ただいま、食べる?」と自宅に帰り、すかさず愛猫ララ(飼い猫)にエサを与える日常の何気ないワンシーンを想像させるミニアルバム『F.A.R.』のエンディングSE「(EXIT.)」から『W.A.H.』のオープニングSE「(entrance)」へとつながり、それに続く「Bloomin’」からライブが始まった。上下とも赤で統一した膝丈のスカートという少し新鮮な衣装に身を包んだ植田が、歌に合わせて、ときに目を覆い、ときに何かを掴むように腕を前へと伸ばし、大きく身振り手振りも交えながら、くっきりとした輪郭を持つ力強い歌声を響かせていく。
カラフルな照明に彩られたポップなサウンドのなかで、心をヒリつかせるようなロックな歌唱を聴かせた「夢のパレード」から、渡邊剣太(G)、麻井寛史(B)、車谷啓介(Dr)、廣瀬武雄(Key)というバンドメンバーと共に、植田自身もエレキギターを掻き鳴らした「FRIDAY」へと、ライブ序盤からアグレッシブな楽曲で、広く天井の高い恵比寿ザ・ガーデンホールを植田真梨恵の色に染め上げていった。
「みなさん、こんばんはーーーー!」──最初のMCにて、肺活量の限界に挑むようなロングトーンで挨拶をしたあと、植田が奏でるアコースティックギターに会場のハンドクラップが重なった「さなぎから蝶へ」。“大人への成長”をテーマにしたミニアルバム『F.A.R.』のコンセプトにも通じるようなその楽曲には、自由な世界へと羽ばたいていく開放感と同時に、どこか寂しげな翳りがある。その場で足踏みをしながら、ビシッと敬礼をして歌った「ロマンティカ」では、植田が弾いたグロッケンのキラキラとした音色が楽曲に優しく寄り添った。
曲ごとに声色を変え、歌の主人公になり変わって物語を紡いでゆくような植田のボーカル。そんな植田のシンガーとしての唯一無二の個性が、ひときわ強く感じられたのは中盤、「“和”をテーマにしたミニアルバム『W.A.H』を作るきっかけになった曲」と説明した「勿忘にくちづけ」だった。艶やかなピアノの伴奏をメインに、4人のバンドサウンドが繊細に重なる。続く「花鬘」では、ステージの足元を灯火のような光が照らすなか、渡邊と植田のアコースティックギターが美しく絡み合う。ピンと緊張感が張りつめた静謐な音を感じながら、植田の歌もまた息を呑むほど、鋭く研ぎ澄まされていた。それは、「この年になって、日本に生まれてよかったと思う瞬間がある」と語った植田が、真心を込めて受け継がれる日本の職人の技に惹かれ、インスパイアされた楽曲たちであり、また、メジャーデビューから5年、インディーズ時代から10年以上の日々を積み重ね、自分だけの表現を模索し続けて辿り着いた植田真梨恵にしか表現できない、ひとつの境地だと思う。
ライブの折り返し地点に差しかかったころ、久々にバンド編成でまわった今回のツアーについて、「よく笑ったり、泣いたりしたツアーでした」と振り返った植田。「梅雨入りしましたので、この曲を心から感じてください」と伝えると、再び疾走感のあるバンドサウンドが炸裂した「悪い夢」へ。現実なのか、夢なのか、ファンタジーなのか、その垣根がどこか曖昧な植田の歌は、聴き手にいろいろな想像を掻き立ててくれる。
“この世界で私を動かすのは私だけ”という力強いフレーズを衝動的に歌い上げた「支配者」からはロックモードが加速。続く「ふれたら消えてしまう」でも、エレキギターをかき鳴らした植田は、ロングヘアが乱れるのも気にせず、激しく体を揺り動かしながら、音楽のなかでしか表現しえない刹那的な感情を叩きつけていく。「カルカテレパシー」では、フロアのお客さんと一緒になって、軽やかにジャンプ。アウトロでバンドメンバーを一人ひとり紹介した植田が全身を震わせて渾身のスキャットを見せると、会場の盛り上がりは最高潮へと達した。
今回のツアーでは、毎回喋りながら泣いてしまったという最後のMCでは、フロアから「泣いてー!」という声が上がると、「って言われると、泣けない(笑)」と、お客さんとのコミュニケーションを楽しみながら、今、感じていることを素直な言葉で届けた。かつて歌手になる以外に夢を描けなかったという自分自身を振り返り、メジャーデビュー5周年のタイミングでまわった今回のツアーについて、「なるべくいつもどおりの感じで、みんなに会いたいと思った」と語った。さらに、「大人になると、完璧になってしまうと思っていたけど、大切な人が増えたことで、すごく弱虫になりました」「今回のツアーで“大人の成長”をするつもりだったけど、イマイチです(笑)」と、言葉を重ねて笑いを誘った。子どもの頃に思い描く大人のイメージと言えば、凛として、包容力があり、強かった。だが、実際、そんな大人ばかりではないと知った今、「弱虫になった」と自分を曝け出せる植田は、とても素敵な年の重ね方をして、大人になっていると思う。
そんなことを考えているところに披露されたのは、ミニアルバム『F.A.R.』のリードトラックでもある「FAR」だった。ピアノが弾む軽やかなロックサウンドにのせて、自分自身の“これまで”と“これから”を、不安も絶望も包み隠さずに歌った楽曲を聴きながら、こうやって少しずつ大人になり、人としての年輪を太くしていく植田の音楽を、これからもずっと聴き続けたいと心から思った。そのままライブはクライマックスへ。愛猫ララへの想いを編み上げるように紡ぐ美しいバラード曲「softly」のあと、深遠なバンドサウンドのなかで届けた「ひねもす」では、いちばん最後のラインで“なんだっていいのさ”と歌う。投げやりでも、諦念でもなく、人間の弱さを知るからこそ、その人生を広い心で肯定するような、そんな優しいフレーズでそっと会場を包み込み、ライブ本編は幕を閉じた。
アンコールでは、ファンタジーの世界へと誘うような「苺の実」を届けたあと、床に頭がつくほど深々と頭を下げて、集まったお客さんに感謝を伝えた植田。バンドメンバーの紹介、そして11月1日にZepp DiverCity(TOKYO)で5周年のグランドフィナーレ<SPECIAL LIVE ”PALPABLE! BUBBLE! LIVE! -ANNIVERSARY 2019-”>を開催するという嬉しいお知らせを挟んで、最後の1曲を残したところで、「寂しいなあ……」と、ツアーの終わりを惜しむように言うと、お客さんからも「寂しい!」と声が湧く。そして、「死ぬまで歌い続けられたらいいなと思います!約束をしたいと思います」と、はっきりとした口調で宣言すると、ラストソングは5年前に植田真梨恵の音楽シーンへの登場を強く印象づけたメジャーデビューシングル「彼に守ってほしい10のこと」で終演。最後は「また笑顔で会いましょう!」と生声で叫んで、植田は軽やかにスキップしながら、ステージをあとにした。
取材・文◎秦 理絵
撮影◎竹谷さくら/小村まき
■<植田真梨恵 LIVE TOUR 2019 [F.A.R. / W.A.H.]>6月30日(日)@東京 恵比寿 ザ・ガーデンホールSETLIST
02. 夢のパレード
03. FRIDAY
04. さなぎから蝶へ
05. ザクロの実
06. hanamoge
07. ロマンティカ
08. 勿忘にくちづけ
09. 花鬘
10. プライベートタイム
11. 灯
12. 悪い夢
13. 支配者
14. ふれたら消えてしまう
15. カルカテレパシー
16. FAR
17. softly
18. ひねもす
encore
en1. 苺の実
en2. 彼に守ってほしい10のこと
■<植田真梨恵 presents Five FLOWERS anniversary>
2019年8月4日(日) 東京・赤羽ReNY alpha
open17:30 / start18:00
GUEST ARTIST 後日発表
2019年8月5日(月) 東京・赤羽ReNY alpha
open18:30 / start19:00
GUEST ARTIST 後日発表
2019年8月6日(火) 東京・赤羽ReNY alpha
open18:30 / start19:00
GUEST ARTIST 後日発表
【オフィシャル先行】
受付期間 7月1日(月)12:00~7日(火)23:59
受付URL https://l-tike.com/st1/uedamarie-fiveflowers
※チケット一般発売日 2019年7月20日(土)
■<植田真梨恵 SPECIAL LIVE "PALPABLE! MARBLE! LIVE! -ANNIVERSARY 2019-">
2019年11月1日(金) 東京・Zepp DiverCity(TOKYO)
open18:15 / start19:00
チケット一般発売日 2019年9月28日(土)
(問)H.I.P. 03-3475-9999
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