【ライブレポート】アルカトラスで『Down to Earth』を完全再現

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グラハム・ボネット率いるアルカトラスの来日公演を見てきた。TSUTAYA O-EASTで行われたこの日(5月31日(金))の公演は、レインボーの歴史的名盤『Down to Earth』完全再現という、HR/HMファンにとっては夢のような内容。ほぼ定刻の19時、「Eyes of the World」のイントロが響き渡ると、場内からは割れんばかりの歓声が!って、ちょっと待ってくださいよ。『Down to Earth』完全再現ということは、1曲目は「All Night Long」ではないのでしょうか?


実は3日前に行われたアルカトラスの『No Parole from Rock 'n' Roll』完全再現の晩も、同様のことが起こっていた。当然「Island in the Sun」から始まるものと油断していたら、いきなり「Too Young to Die, Too Drunk to Live」のイントロが。「俺が知らない曲順違いバージョンでもあるのか?」と一瞬混乱してしまったが、終焉後、バンドのマネージャーに確認してみると、「完全再現というのは全曲演奏するということ。アルバムの曲順で演奏するということではないよ。チューニングの関係でアルバム通りには演奏できないんだ」とのお言葉が(「Incubus」やってないから全曲演奏でもなかったのですけど)。さらに、グラハムはもともと「Too Young~」をアルバムの冒頭に持ってこようと考えていたのだそう。「ポップな曲が1曲目じゃないとダメ」というレーベルに押し切られ、あの曲順にされてしまったのだ。なるほど、確かに1984年の来日公演でも1曲目は「Too Young~」だ。では、「Eyes of the World」を冒頭に持ってきた理由は何かとなると、イントロを流しながらメンバーがステージに出てくることができるからじゃないですかね。推測ですが。




とまあ、それはともかく、そんなことはお構いなしに満員の場内の盛り上がりは凄まじいもの。『No Parole from Rock 'n' Roll』の晩よりも、明らかにお客さんの数も多い。革ジャンにサングラス姿のグラハムがステージに登場すると、悲鳴にも似た歓声が上がる。「All Night Long」は2曲目に披露された。そもそもHR/HMファンならあのイントロだけで反応しないわけがないし、この会場内にあのイントロがわからない人間が一人とているはずもない。最高すぎる。その後も「Love's No Friend」、「Danger Zone」、「Makin' Love」と、アルバムの曲順とは無関係にショウは進んでいく。グラハムも、モニターやシールドにつまずいてみせたり(本当につまずいたのかジョークなのか判別不能)、大切なパートナー、ベス・エイミーとイチャついてみせたりと、実に楽しそう。続いては、出ました、「Since You Been Gone」。会場に居合わせた全員が大合唱。そして「No Time to Lose」を挟み、ラストはアルバム同様「Lost in Hollywood」。この曲では、DESTINIAなどで世界を股にかけ活躍する若井望が登場。ジョー・スタンプとソロ・バトルを繰り広げ、さらに会場をヒートアップさせた。それにしてもあっという間。やはり楽しい時間は過ぎるのがはやい。仮にこれで終わりだったとしても大満足。だが、もちろんショウはまだまだ続く。




「Night of the Shooting Star」のSEで一息ついたあと、『No Parole from Rock 'n' Roll』攻勢が始まる。当然一発目は「Too Young to Die~」。そして「Hiroshima Mon Amour」「Jet to Jet」と来るわけだから、アドレナリン噴き出しっぱなし。ジョー・スタンプはイタコのようなギタリストで、レインボー再現中はリッチーの、アルカトラス再現中はイングヴェイの生霊が憑依しているかのよう。「General Hospital」「Starr Carr Lane」「Kree Nakoorie」とアルカトラスの名曲6連発の大サービス(当初「Island in the Sun」もセットリストに載っていたのだが、残念ながらプレイされず。サウンドチェックではやっていたが)。





ジョーのミニ・ギター・ソロ・コーナーから、そのまま「Desert Song」へ。もちろんマイケル・シェンカー・グループ時代の名曲だ。続いての「Night Games」では、イントロから大歓声が。1983年、あの西城秀樹が「ナイト・ゲーム」のタイトルで歌い大ヒットさせたこの曲は、日本人にとって特別な意味を持つ。グラハムもMCで「この曲をカバーしたヒデキの人生を祝福する」と、その早すぎる死を悼んだ。続く『Assault Attack』からの「Rock You to the Ground」は、2018年のグラハム・ボネット・バンドとしてのツアーからセットリストに乗るようになった、あまりライヴでは聴けないレアな曲。その後「Stand in Line」「Leviathan」とインペリテリ2連発(ちなみに翌日東京公演を控えていたクリス・インペリテリも、会場に来ていた。ステージには上がらなかったが)。続いては、ブラックソーンの「We Won't Be Forgotten」。そして再びインペリテリの「Tonight I Fly」と来て、本編ラストはグラハム・ボネット・バンドの「Long Island Tea」で締め。



多少の間をおいてのアンコールは、これまたイントロだけで大興奮の「Assault Attack」。このイントロのカッコよさは、ヘヴィメタル史上ベスト3に入るのではないか。そしてグラハム・ボネット・バンドの「Into the Night」、またまたインペリテリの「Goodnight and Goodbye」で、2時間を超えるショウの幕は閉じた。もちろん「We Won't Be Forgotten」や「Long Island Tea」「Into the Night」が大合唱必至の哀愁あふれる名曲であることは間違いない。しかし、前半のレインボーやアルカトラスの曲は一般教養、つまりHR/HMファンならば誰でも知っているものであるのに対し、ブラックソーンやグラハム・ボネット・バンドの曲は、(コアな)グラハム・ファンなら知っているというもの。前半の異常なまでの熱気を思うと、もう少し曲順に工夫があっても良かったような気もするというのが正直なところ。ラストがインペリテリというのも微妙というか。しかしトータルで見れば、素晴らしすぎるライヴであったことに変わりはない。『Down to Earth』全曲、さらにアルカトラス、MSGの名曲まで聴けるなんて、HR/HMファンとしてはこれ以上の喜びはないでしょう?

今回のアルカトラス、ヴォーカルは(当然)グラハム・ボネット、キーボードはジミー・ウォルドー、ベースはゲイリー・シェアではなく、グラハムのパートナー、ベス・エイミーで、ドラムがマーク・ベンケチェア、ギターは新加入のジョー・スタンプという布陣。正直演奏としてはかなり荒々しい部分もあったが、そもそもアルカトラスはそういうバンドですからね。1984年の来日公演時の音源なんて、ほとんど崩壊寸前。でも、それこそがロックだし、そこがかっこいいわけだから。そういう意味で、実にアルカトラスらしいライヴであったと言える。そして何より「ファルセットで高い声を出すとみんなびっくりするけど、あんなのは簡単なんだよ。リアル・ヴォイスで高音域を歌うのが私のスタイルなのさ」というポリシー通り、70歳を超えていまだにあの声を張り上げるグラハムのカッコよさと言ったら。しばらくは『Down to Earth』と『No Parole from Rock 'n' Roll』ばかりを聴く日々が続きそうです。

文:川嶋未来
写真:yuki kuroyanagi

<Alcatrazz JAPAN TOUR 2019 5月31日 TSUTAYA O-EAST>
1.Eyes of the World
2.All Night Long
3.Love's No Friend
4.Danger Zone
5, Makin' Love
6.Since You Been Gone
7.No Time to Lose
8.Lost in Hollywood
9.Night of the Shooting Star
10.Too Young to Die, Too Drunk to Live
11.Hiroshima Mon Amour
12.Jet to Jet
13.General Hospital
14.Starcarr Lane
15.Kree Nakoorie
16.Guitar Solo
17.Desert Song
18.Night Games
19.Rock You to the Ground
20.Stand in Line
21.Leviathan
22.We Won't Be Forgotten
23.Tonight I Fly
24.Long Island Tea
25.Assault Attack
26.Into the Night
27.Goodnight and Goodbye
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