【特集 インタビュー vol.2】植田真梨恵、音楽制作の源を語る「ひたすらたくさん曲が書きたい」
■歌さえ歌っていけたらと思っているんです
■それはめちゃくちゃラッキーなことで
──これはミニ・アルバム『F.A.R.』収録全曲を通して言えることですが、メロディ・ラインにアップダウンのある独特の植田節が抑えられた曲が多いように感じます。歌も抑えたヴォーカルが多くて。これまでとは手触りが違うミニ・アルバムになりましたが、メロディや歌に対して意識したことはありますか?
植田:そこは前シングル「勿忘にくちづけ」(2018年7月発表)の存在が大きいですね。あの歌は、“空気を気持ち良くしたい”とか、“夏の暑い日に涼しい風が吹くみたいに歌いたい”と思っていた曲で。音楽が流れていることによる心地よさや気持ちよさが、とても大切だなという気づきがあったんです。それまでは、私の感情とか、エネルギー、熱量みたいなもので音楽を発していたんですけど。「勿忘にくちづけ」ができたことで、10秒、20秒、1分……と連続して重なっていく気持ちよさの重大さを感じて。
▲植田真梨恵 画像ページ【2】へ (※画像6点) |
植田:そうですね。「苺の実」だけが6thシングル「夢のパレード」(2016年発表)のゴーストトラックのアレンジ・バージョンですが、それ以外の4曲は今回アルバムのために書いたものです。
──では、その「苺の実」ですが、なぜまた今回登場したんですか?
植田:ミニ・アルバムのテーマを決めて、その中でいろんな曲があっていいと思っていたんです。例えば、くすんだロマンティカを持って磨いていくような「ロマンティカ」みたいな旅に出る曲があって。しっとりとコーヒーを飲むような、少し寂しさがにじむ「プライベートタイム」があって。何かが変態していく「さなぎから蝶へ」があって。私の大切な猫のララさんに向けて書いた「softly」という曲があると考えたとき、“大人の成長”というテーマの中で、「苺の実」がとても合うと思ったんです。
──サウンド的に大きく成長した曲でもあります。
植田:「夢のパレード」に収録したのがデモバージョンで、“いつかちゃんとしたカタチになるまで待ってね”という気持ちもあったので(笑)、その完成形というか。
──アレンジ展開がマジカルですし、パイプオルガンやマーチング、ウッドベースやラジオボイスなど、目まぐるしい。
植田:編曲してくれたjoe daisqueくんも、ひたすら「よくしたい!」ってずっと言ってくれていたので(笑)。その気持ちが表れているような、とても素敵なアレンジにしてくれました。
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植田:「FAR」が狙わずに作ったものなので、他の曲もそのテンションと合わせたかったということが大きくて。ひたすら自分の中にある気持ちをなんのフックもなく描いていくことが、まずは自分にとってのハードルというか。このミニ・アルバムでは、それがひとつ大切な決まりであり、条件だったかなと思います。
──それがまた難しさでもある?
植田:気持ちがいいものに仕上がらない限りは聴いてもらえないと思っていたので、まず、ミックスができ上がるまでがとても心配でしたね。特にフックというか、面白いって思ってもらえる部分がないと、この音源は再生してもらえないのではないかって思っていたんです。最後のインスト「(EXIT)」も、もし他の曲たちがもっと気持ちいい仕上がりにならなくて、歌ってないような仕上がりだったら、しっかりとした歌を入れていたかもしれない。とにかくシンプルに、抱えている言葉で曲を書いて、耳がとても気持ちいいものを作っていきたかった。今、曲が出揃ってみて、“ちゃんと歌っているアルバムができたな”って自分では思えているところです。
──「ロマンティカ」では、“何をすべきかは台本にない ほんとに大丈夫?”と歌っていますが、今の植田さん自身の心境的にも、そういうところがあるんですか?
植田:これは、いつなんどき、誰にでも言えることだなと思うんです。今も何をすべきか台本にないし。私の場合はアップダウンがあるので、“絶対大丈夫!”っていうときと、“大丈夫かな……”っていうときの差が大きいんですけど。でも、どちらかというと私は台本がなくて大丈夫なタイプ(笑)。私は幸い、たまたま歌が好きで、歌さえ歌っていけたらこの命は大丈夫だって思っているんですけど、それはめちゃくちゃラッキーなことで。何をすべきか、本当にわからないほうが絶対に不安だなって思いますね。同年代の友だちや自分の両親とかが、今後どうしていくかを決めるタイミングで、かなり迷っている姿を見る機会も多かったので、出てきた歌詞だと思います。
──そうだったんですね。植田さんは早い段階から、自分自身の行く道に迷いがなく、その道を突き進んでいるんですね。
植田:はい、いいなづけがいたようなものですね(笑)。
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