【インタビュー】ASKA、新章はプラン山積み「いい歯車が回り始めたなという感じです」
▲『SCENE -Remix ver.-』
ベストアルバム『Made in ASKA』、『We are the Fellows』を2枚同時リリースしたばかりのASKAが先日、ソロ活動初期に出した2枚のアルバム『SCENE』、『SCENEⅡ』にリミックスを施してジャケットも新装、リミックス盤として『SCENE-Remix ver.-』(「大人じゃなくていい」追加収録)、『SCENEⅡ-Remix ver.-』を2枚同時リリースした。
オーケストラを従え、11月からスタートしたコンサートツアー<billboard classics ASKA PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2018-THE PRIDEー>は、各地で完売が続くという大盛況ぶり。それを受けて、12月23日には静岡・グランシップ静岡大ホール・海にて<ASKA PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2018-THE PRIDE-LAST OF LAST IN SHIZUOKA>と題した追加公演を開催することも決定。さらに、2019年2月からはバンドを従えてのツアー<ASKA CONCERT TOUR 2019 Made in ASKA-40年のありったけ->を行ない、その先にはニューアルバムのリリース、アジアツアーなどまだ発表できないプランが山積みだという。
現在ツアー中のASKAに、5年7ヵ月ぶりに再びステージに立ったときの心境、さらにはライブにリリースラッシュと精力的に音楽活動を繰り広げる現状について訊いた。
◆ASKA『SCENE-Remix ver.-』、『SCENEⅡ-Remix ver.-』画像
■いろんなことがあったなかで(お客さんは)待っててくれた
──まずは、現在行われているツアーの手応えから聞かせてもらえますか?
ASKA:これまでに2本を終えた。ただ、それだけですよ(微笑)。僕は常々ツアー初日と最終日のステージは一緒じゃないとダメだということをいってきてるんですね。ツアー中にどんどんよくなっていくというのは、もちろんそうなんでしょうけど。
──そうおっしゃる方も多いですし。
ASKA:でも、それって一瞬聞こえはいいですけど、じゃあツアー前半に行ったお客さんはどうなの? ってことなる。だから、僕はツアーは最初からよくないとダメだという考えなんです。ライブという“もの”の商品価値としては。「初日はこんなもんだろう」っていうセリフは使っちゃいけないかな。これはあくまでも、自分に言い聞かせてることです。大規模なツアーをやっていた頃、エンタテインメントの世界にどっぷりつかっていた時代はリハーサルだけで3ヵ月はやってました。初日と最後が全然違っちゃダメ。これがテーマでした。今も変わりません。
──では、ここからは現在行われているツアーの初日公演についてお伺いしたいんですが。あの日は、5年7ヵ月ぶりにステージに戻ってきたASKAさんが最初に何を話すのか。場内はすごい緊張感に包まれていたんですね。
ASKA:ええ、そうなんですよ。
──そんななかで、カムバックの第一声がギャグって(笑)。
ASKA:ははっ(笑)。あれは最初から考えてたんですよ。なにかここで1回ボルテージを抑えなきゃいけないと。
──それはどういうことですか?
ASKA:歌で例えると、サビでバーンと始まった歌はAメロで1回落とせるんですよ。曲の構成上。でも、ライブで最初に盛り上がりがきてしまったとき、それを1回落ち着かせてそこから再スタートととらえるか、頭でっかちととらえるかというのがあって。頭でっかちととらえると、ライブ自体よくないんですよね。最初のインパクトだけで終わってしまうから。なので、ずっと緊張感を保ち続けるために、1回ボルテージを落としてから再度上がっていこうと、あの日は考えてたんです。
──あれは、ASKAさんなりのコンサート運びのテクニックだった訳ですね。
ASKA:テクニックというよりも、そうしないとダメだと思ってました。いろんなことがあったなかで(お客さんは)待っててくれたので。最初からハンカチで顔を押さえている方もたくさんいらっしゃいましたからね。それを「おい、いきなりそれかよ」っていう風にして緊張をほぐさなきゃいけないと思ってたんですよ。
──つまり、あれはお客様への配慮だったんですね。
ASKA:ええ。おもてなしです(微笑)。きっとね、長年僕のツアーを観てらっしゃる方はあそこで「やったよ」、「こうでなくっちゃ!」と思ってると思うんですよね。
──そうでしたか。セットリストを考えるのは大変でしたか? MCでも何度か考え直したとおっしゃってましたよね。
ASKA:考え直したのは1曲だけです。その楽曲もみなさんが愛してくれてる楽曲なんですが、ライブって生き物だから、道筋がある。その道筋はどれだけウケのいい楽曲を並べてもダメなんですよ。考え直した曲は「男と女」(CHAGE and ASKA)だったんですけど。リハーサル中に歌ってみたらどうしても気持ちを維持できなかったので、急遽外して「迷宮のReplicant」にしたんです。僕の集中とお客さんの集中が噛み合わないと、その瞬間にお客さんの気持ちは離れちゃうんですよね。ステージから。そうさせないために、曲順というのはすごく大切なんですよ。
──その曲順で、ライブの道筋が決まる。
ASKA:僕はよく「同じ出口に一緒に行こう」とステージでいってるんですが。お客さんをそこにナビゲートするのが僕の役目なんですよ。そこまでいくと、お客さんはドーンと突き抜けてくれるんです。そこにいくまで、暗がりのなかで道筋をうまく照らしてあげるのが僕の役目です。
──観客が迷子になったりしないように。
ASKA:そう。だから、ライブが全体で2時間あるとしたら、2時間を1曲として僕は考えるんですよ。そのとき、この1曲のサビはどこだろう、それを作る楽曲はどれだろうという考え方で曲順は考えていきますね。
──そういうものが根底にあるからなのか、ツアー初日を観ていて、場内の空気が凝縮して一つの塊になって動いていくような感覚を感じたんですよね。
ASKA:それはね、あの日はオーディエンスが作ってくれたんですよ。1曲終わるごとの拍手のきめ細やかさも凄かったですし、歌い終えた後の拍手の長さも凄かったですし。これには応えなきゃという気持ちによりなりましたよね。
──初日でも、客席の反響はきちんと把握なさってたんですね。
ASKA:もちろんもちろん。それは分かりますよ。なんなら顔まで見てますから。
──現在行われているツアーは、最後。クリスマスイブ前日に特別公演が用意されていますが。こちらはツアーとは異なった内容になるんでしょうか?
ASKA:クリスマス用に何かをやるということはないです。ただ、パリ木の十字架少年合唱団がちょうど来日してて。一緒に何かやってみないかというお話があったんですけど、スケジュールがどうしても合わなかった。今はまだ言えませんが、彼らとは当日共演します。
──おぉー。そんなスペシャルなものがあるんですね。どんな共演になるのか楽しみです。
ASKA:これにぴったんこはまる曲があるんですよ!!
──もしかして、新曲ですか?
ASKA:そうです。
──そうしてこのツアー開催中には、ASKAさんのソロの初期のアルバムをリミックスした作品も発売されました。ここで、すごく基本的な質問なんですが、ASKAさんが音楽を始めたきっかけはなんだったんですか?
ASKA:きっかけはですね、高校3年のとき。僕はそれまでずっと剣道をやっていたんですけど、それを止めて。なにもやることがなかったときに(井上)陽水さんの声が飛び込んできて。それは、いままで自分が聴いてきた音楽と明らかに違った訳ですよ。でも心地よくてしょうがない。で、当時ね、高校生がLPレコード買うのは大変だったから、ずっと友達から借りて聴いてて。それからですね。音楽をやるようになったのは。
──歌いたくなったんですか?
ASKA:そうですね。この人みたいに歌ってみたいと思いましたね。
──それまでも音楽には触れてたんですか?
ASKA:大好きだったんですけど、自分がやるとは考えてはなかったですね。だから、音楽やってる人のなかでも、僕は遅咲きなんですよ。高3のときにギターを憶えて、大学4年でデビュー。ちゃんと人前で歌うようになって3年でデビューしましたからね。本当にラッキーなんですよ。たまたまこういう人と知り合えて、たまたま呼ばれた。たまたまポプコン(※「ヤマハポピュラーソングコンテスト」日本を代表する数々のミュージシャンを輩出した)というのがあった。落ちても、僕は負けず嫌いだから何度も応募して。大学3年のとき、就職活動もあるしいい加減にしようと思って最後に出たら、賞をもらった。全部たまたまです。
──それでCHAGE and ASKAとしてデビューして。初日公演のMCでは、チャゲアスが売れたことについても、いい時代の波にのれてラッキーだったとおっしゃっていましたよね?
ASKA:日本の音楽産業において、あれほど音楽に世の中がお金を使って、その音源を自分のものにしようとした時代はないですから。この時代以外、後にも先にも。当時1990〜1993年、一番この国が音楽を楽しんでいた頃。次はどんなヒット曲が出るのか、誰が売れるのかってことにみんなが注目していた時代にヒットを出せたのは本当にラッキーだったんですよ。振り返ると、そう思いますね。
──売れてた当時はいろんな意味で大変でした?
ASKA:この間NHKの『ニュースウォッチ9』でもしゃべったんですけど、その当時は「30代前半に人生のピークを迎えようとしてる」って自分で思ってたので、今後の人生を考えたとき「この先どうなるんだろう?」って思ってましたね。ピークって、過ぎ去った後にあれがそうだったんだって分かるものじゃないですか? でも、僕はピークを迎えてる最中にこれがピークかもしれないと思ってたので。この後にどうすればいいんだと、一番不安を感じてたときでしたね。
──あんなに売れてても?
ASKA:そうそう。どうやって活動を維持していけばいいんだろうって考えてました。「SAY YES」の頃に。
──そんな不安と戦ってたんですか?
ASKA:恐怖はありました。でも、それは人生の恐怖。生きる上でいまがピークだって自分で知っちゃったから怖いんですよ。なんでもそうだけど、ブームってあるでしょ? それを本人がやりながら知っちゃってる訳だから。そりゃ怖いですよね。ここからどうなっちゃうんだろうって先のことを考えると。
──その時期は、並行してソロ活動もされてたんですよね?
ASKA:ちょうど『SCENEⅡ』を出した頃ですね。
──『SCENE』を出した頃は?
ASKA:まだそういう心境ではなかったです。
▲『SCENEⅡ-Remix ver.-』
──そもそもASKAさんがソロをやろうと思った動機ってなんだったんですか?
ASKA:もうね、デビューして3〜4年目ぐらいから「ソロアルバムを出したい」というのはいい続けてたんですよ。自分一人でやったときの世界観としてイメージしていたものが僕のなかにあったので、自分が描くその理想形に近づいてみたいという思いがあったんですよ。ソロをやる理由はみんなそこだと思ういます。だけど、CHAGE and ASKAでのリードボーカルは僕の割合が多かったから、ソロアルバムを出す意味がないということでずっと却下され続けてたんです。それで、ちょうど他人への提供曲がどんどん増えていった時期に「じゃあ提供した曲を“お帰りなさい”という気持ちで自分で歌うのはどうだ」と提案したら「それなら非常に企画性があるので、分かる」ということでやっとソロを出させてもらったんです。
──そうでしたか。念願のソロとして、『SCENE』を出したときはどんな心境だったんですか?
ASKA:制作が自分のイメージ通りに進んでいくというのかな。それをすごく感じましたね。
──『SCENEⅡ』は『SCENE』の延長線上として制作していったものなんですか?
ASKA:いえいえ。これは「はじまりはいつも雨」が予想を超える反響で。僕は毎回「これはいくぞ」と思って曲を書いてて、それを毎回達成できずにきてるんだけど。「はじまり〜」は蓋を開けたとたんに「なにが起こったの?」っていうぐらい一気に世の中がこの曲に目を向けてくれたので。それと同時に「じゃあアルバム出そう」というのはすぐ思いましたよね。
──その「なにが起こったの?」という感覚はいままで体感したことがないようなものだったんですか?
ASKA:そうですね。CHAGE and ASKAの「万里の河」のときも一応ヒット曲の仲間入りはさせてもらってます。「万里の河」はじわじわでしたが、「はじまりはいつも雨」はいきなりドンだったので。ショップの店頭で何カ月も品切れする訳ですよ。1週間分プレスして入れると、その日のうちに無くなって、また品切れ状態になるというのを繰り返して。日本の音楽史上で2位の記録はこの曲だと思います。ずっとプレスが追いつかなくて1位になれなかったんです。
──そうしてこの曲がASKAさんのその後の人生を大きく変える起点となった。
ASKA:そうですね。
──初めてお客さんに披露したときのこととか、憶えてらっしゃいますか?
ASKA:この曲は先にステージでオーディエンスに披露したんですよ。まず15秒のCMの話をして。「ということで、あの曲はCMで流れた部分しかありません」と。そのあとに「では次、新曲です」といって歌い始めました。みんなはまだ歌い出しは知らないんです。それが、15秒スポットで流したところになったら場内がどよめいた。そのどよめき方で、もしかしたら何か起こるかもしれないなとは思いましたね。
──今回はその当時発売した『SCENE』と『SCENEII』をリミックスし直してリリースされました。
ASKA:今回本当に嬉しかったのは、『SCENEII』のドラムサウンドというのが、80年代の終わりから94年ぐらいまでの音で“ビッグスネア”と呼ばれるドカーンという音がありますよね? あれがど真ん中のときにこのアルバムを作ってたんです。だから、あのときはデヴィッド・フォスターみたいでカッコよかったんです。
──シカゴのヒットで、やたらそういうサウンドがもてはやされてましたもんね?
ASKA:そうそう。当時はあれがお約束だったから。しかも、あのサウンドが当時は気持ちよかったんですよ。満足してたんです。でも、ブームが去ったあとにあのアルバムを聴くと、あまりにもあのスネアが音楽的じゃないというのがずーっと気になってて。もうやり直したくてやり直したくて仕方なかったんです。
──あのときは満足してたのに。
ASKA:そこに気づいてからは“後悔”に入っちゃって。ダブルミリオンいったアルバムが、自分が納得いってない音のままだったらつらいじゃないですか? 今回やり直すまで長〜い“航海”でしたよ。
──おっ! いま、うまいこと掛けましたね(笑)。ライブでもそうですけど、ASKAさんは一見すごく神経質そうに見えて、じつはこうやってちょっとしたところにお笑いをはさんでくるトークセンスとか、意外とチャーミングで。そういう部分に驚かされました。
ASKA:いえいえ(微笑)。ブログなんかもそういわれるんですが、あれは狙ってやってますから(笑)。一生懸命、渾身で狙ってますから。
──はははっ。リミックス盤の『SCENE-Remix ver.-』には、ボーナストラックとして「大人じゃなくていい」も収録されていましたが。
ASKA:この曲はCD化されていなかったのでボーナストラックとして入れました。『SCENEII-Remix ver.-』にはボーナストラックはないのかってことになると思うんですけど。なかった。残ってる曲が(笑)。
──残念(笑)。
◆インタビュー(2)へ
ベストアルバム『Made in ASKA』、『We are the Fellows』を2枚同時リリースしたばかりのASKAが先日、ソロ活動初期に出した2枚のアルバム『SCENE』、『SCENEⅡ』にリミックスを施してジャケットも新装、リミックス盤として『SCENE-Remix ver.-』(「大人じゃなくていい」追加収録)、『SCENEⅡ-Remix ver.-』を2枚同時リリースした。
オーケストラを従え、11月からスタートしたコンサートツアー<billboard classics ASKA PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2018-THE PRIDEー>は、各地で完売が続くという大盛況ぶり。それを受けて、12月23日には静岡・グランシップ静岡大ホール・海にて<ASKA PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2018-THE PRIDE-LAST OF LAST IN SHIZUOKA>と題した追加公演を開催することも決定。さらに、2019年2月からはバンドを従えてのツアー<ASKA CONCERT TOUR 2019 Made in ASKA-40年のありったけ->を行ない、その先にはニューアルバムのリリース、アジアツアーなどまだ発表できないプランが山積みだという。
現在ツアー中のASKAに、5年7ヵ月ぶりに再びステージに立ったときの心境、さらにはライブにリリースラッシュと精力的に音楽活動を繰り広げる現状について訊いた。
◆ASKA『SCENE-Remix ver.-』、『SCENEⅡ-Remix ver.-』画像
■いろんなことがあったなかで(お客さんは)待っててくれた
──まずは、現在行われているツアーの手応えから聞かせてもらえますか?
ASKA:これまでに2本を終えた。ただ、それだけですよ(微笑)。僕は常々ツアー初日と最終日のステージは一緒じゃないとダメだということをいってきてるんですね。ツアー中にどんどんよくなっていくというのは、もちろんそうなんでしょうけど。
──そうおっしゃる方も多いですし。
ASKA:でも、それって一瞬聞こえはいいですけど、じゃあツアー前半に行ったお客さんはどうなの? ってことなる。だから、僕はツアーは最初からよくないとダメだという考えなんです。ライブという“もの”の商品価値としては。「初日はこんなもんだろう」っていうセリフは使っちゃいけないかな。これはあくまでも、自分に言い聞かせてることです。大規模なツアーをやっていた頃、エンタテインメントの世界にどっぷりつかっていた時代はリハーサルだけで3ヵ月はやってました。初日と最後が全然違っちゃダメ。これがテーマでした。今も変わりません。
──では、ここからは現在行われているツアーの初日公演についてお伺いしたいんですが。あの日は、5年7ヵ月ぶりにステージに戻ってきたASKAさんが最初に何を話すのか。場内はすごい緊張感に包まれていたんですね。
ASKA:ええ、そうなんですよ。
──そんななかで、カムバックの第一声がギャグって(笑)。
ASKA:ははっ(笑)。あれは最初から考えてたんですよ。なにかここで1回ボルテージを抑えなきゃいけないと。
──それはどういうことですか?
ASKA:歌で例えると、サビでバーンと始まった歌はAメロで1回落とせるんですよ。曲の構成上。でも、ライブで最初に盛り上がりがきてしまったとき、それを1回落ち着かせてそこから再スタートととらえるか、頭でっかちととらえるかというのがあって。頭でっかちととらえると、ライブ自体よくないんですよね。最初のインパクトだけで終わってしまうから。なので、ずっと緊張感を保ち続けるために、1回ボルテージを落としてから再度上がっていこうと、あの日は考えてたんです。
──あれは、ASKAさんなりのコンサート運びのテクニックだった訳ですね。
ASKA:テクニックというよりも、そうしないとダメだと思ってました。いろんなことがあったなかで(お客さんは)待っててくれたので。最初からハンカチで顔を押さえている方もたくさんいらっしゃいましたからね。それを「おい、いきなりそれかよ」っていう風にして緊張をほぐさなきゃいけないと思ってたんですよ。
──つまり、あれはお客様への配慮だったんですね。
ASKA:ええ。おもてなしです(微笑)。きっとね、長年僕のツアーを観てらっしゃる方はあそこで「やったよ」、「こうでなくっちゃ!」と思ってると思うんですよね。
──そうでしたか。セットリストを考えるのは大変でしたか? MCでも何度か考え直したとおっしゃってましたよね。
ASKA:考え直したのは1曲だけです。その楽曲もみなさんが愛してくれてる楽曲なんですが、ライブって生き物だから、道筋がある。その道筋はどれだけウケのいい楽曲を並べてもダメなんですよ。考え直した曲は「男と女」(CHAGE and ASKA)だったんですけど。リハーサル中に歌ってみたらどうしても気持ちを維持できなかったので、急遽外して「迷宮のReplicant」にしたんです。僕の集中とお客さんの集中が噛み合わないと、その瞬間にお客さんの気持ちは離れちゃうんですよね。ステージから。そうさせないために、曲順というのはすごく大切なんですよ。
──その曲順で、ライブの道筋が決まる。
ASKA:僕はよく「同じ出口に一緒に行こう」とステージでいってるんですが。お客さんをそこにナビゲートするのが僕の役目なんですよ。そこまでいくと、お客さんはドーンと突き抜けてくれるんです。そこにいくまで、暗がりのなかで道筋をうまく照らしてあげるのが僕の役目です。
──観客が迷子になったりしないように。
ASKA:そう。だから、ライブが全体で2時間あるとしたら、2時間を1曲として僕は考えるんですよ。そのとき、この1曲のサビはどこだろう、それを作る楽曲はどれだろうという考え方で曲順は考えていきますね。
──そういうものが根底にあるからなのか、ツアー初日を観ていて、場内の空気が凝縮して一つの塊になって動いていくような感覚を感じたんですよね。
ASKA:それはね、あの日はオーディエンスが作ってくれたんですよ。1曲終わるごとの拍手のきめ細やかさも凄かったですし、歌い終えた後の拍手の長さも凄かったですし。これには応えなきゃという気持ちによりなりましたよね。
──初日でも、客席の反響はきちんと把握なさってたんですね。
ASKA:もちろんもちろん。それは分かりますよ。なんなら顔まで見てますから。
──現在行われているツアーは、最後。クリスマスイブ前日に特別公演が用意されていますが。こちらはツアーとは異なった内容になるんでしょうか?
ASKA:クリスマス用に何かをやるということはないです。ただ、パリ木の十字架少年合唱団がちょうど来日してて。一緒に何かやってみないかというお話があったんですけど、スケジュールがどうしても合わなかった。今はまだ言えませんが、彼らとは当日共演します。
──おぉー。そんなスペシャルなものがあるんですね。どんな共演になるのか楽しみです。
ASKA:これにぴったんこはまる曲があるんですよ!!
──もしかして、新曲ですか?
ASKA:そうです。
──そうしてこのツアー開催中には、ASKAさんのソロの初期のアルバムをリミックスした作品も発売されました。ここで、すごく基本的な質問なんですが、ASKAさんが音楽を始めたきっかけはなんだったんですか?
ASKA:きっかけはですね、高校3年のとき。僕はそれまでずっと剣道をやっていたんですけど、それを止めて。なにもやることがなかったときに(井上)陽水さんの声が飛び込んできて。それは、いままで自分が聴いてきた音楽と明らかに違った訳ですよ。でも心地よくてしょうがない。で、当時ね、高校生がLPレコード買うのは大変だったから、ずっと友達から借りて聴いてて。それからですね。音楽をやるようになったのは。
──歌いたくなったんですか?
ASKA:そうですね。この人みたいに歌ってみたいと思いましたね。
──それまでも音楽には触れてたんですか?
ASKA:大好きだったんですけど、自分がやるとは考えてはなかったですね。だから、音楽やってる人のなかでも、僕は遅咲きなんですよ。高3のときにギターを憶えて、大学4年でデビュー。ちゃんと人前で歌うようになって3年でデビューしましたからね。本当にラッキーなんですよ。たまたまこういう人と知り合えて、たまたま呼ばれた。たまたまポプコン(※「ヤマハポピュラーソングコンテスト」日本を代表する数々のミュージシャンを輩出した)というのがあった。落ちても、僕は負けず嫌いだから何度も応募して。大学3年のとき、就職活動もあるしいい加減にしようと思って最後に出たら、賞をもらった。全部たまたまです。
──それでCHAGE and ASKAとしてデビューして。初日公演のMCでは、チャゲアスが売れたことについても、いい時代の波にのれてラッキーだったとおっしゃっていましたよね?
ASKA:日本の音楽産業において、あれほど音楽に世の中がお金を使って、その音源を自分のものにしようとした時代はないですから。この時代以外、後にも先にも。当時1990〜1993年、一番この国が音楽を楽しんでいた頃。次はどんなヒット曲が出るのか、誰が売れるのかってことにみんなが注目していた時代にヒットを出せたのは本当にラッキーだったんですよ。振り返ると、そう思いますね。
──売れてた当時はいろんな意味で大変でした?
ASKA:この間NHKの『ニュースウォッチ9』でもしゃべったんですけど、その当時は「30代前半に人生のピークを迎えようとしてる」って自分で思ってたので、今後の人生を考えたとき「この先どうなるんだろう?」って思ってましたね。ピークって、過ぎ去った後にあれがそうだったんだって分かるものじゃないですか? でも、僕はピークを迎えてる最中にこれがピークかもしれないと思ってたので。この後にどうすればいいんだと、一番不安を感じてたときでしたね。
──あんなに売れてても?
ASKA:そうそう。どうやって活動を維持していけばいいんだろうって考えてました。「SAY YES」の頃に。
──そんな不安と戦ってたんですか?
ASKA:恐怖はありました。でも、それは人生の恐怖。生きる上でいまがピークだって自分で知っちゃったから怖いんですよ。なんでもそうだけど、ブームってあるでしょ? それを本人がやりながら知っちゃってる訳だから。そりゃ怖いですよね。ここからどうなっちゃうんだろうって先のことを考えると。
──その時期は、並行してソロ活動もされてたんですよね?
ASKA:ちょうど『SCENEⅡ』を出した頃ですね。
──『SCENE』を出した頃は?
ASKA:まだそういう心境ではなかったです。
▲『SCENEⅡ-Remix ver.-』
──そもそもASKAさんがソロをやろうと思った動機ってなんだったんですか?
ASKA:もうね、デビューして3〜4年目ぐらいから「ソロアルバムを出したい」というのはいい続けてたんですよ。自分一人でやったときの世界観としてイメージしていたものが僕のなかにあったので、自分が描くその理想形に近づいてみたいという思いがあったんですよ。ソロをやる理由はみんなそこだと思ういます。だけど、CHAGE and ASKAでのリードボーカルは僕の割合が多かったから、ソロアルバムを出す意味がないということでずっと却下され続けてたんです。それで、ちょうど他人への提供曲がどんどん増えていった時期に「じゃあ提供した曲を“お帰りなさい”という気持ちで自分で歌うのはどうだ」と提案したら「それなら非常に企画性があるので、分かる」ということでやっとソロを出させてもらったんです。
──そうでしたか。念願のソロとして、『SCENE』を出したときはどんな心境だったんですか?
ASKA:制作が自分のイメージ通りに進んでいくというのかな。それをすごく感じましたね。
──『SCENEⅡ』は『SCENE』の延長線上として制作していったものなんですか?
ASKA:いえいえ。これは「はじまりはいつも雨」が予想を超える反響で。僕は毎回「これはいくぞ」と思って曲を書いてて、それを毎回達成できずにきてるんだけど。「はじまり〜」は蓋を開けたとたんに「なにが起こったの?」っていうぐらい一気に世の中がこの曲に目を向けてくれたので。それと同時に「じゃあアルバム出そう」というのはすぐ思いましたよね。
──その「なにが起こったの?」という感覚はいままで体感したことがないようなものだったんですか?
ASKA:そうですね。CHAGE and ASKAの「万里の河」のときも一応ヒット曲の仲間入りはさせてもらってます。「万里の河」はじわじわでしたが、「はじまりはいつも雨」はいきなりドンだったので。ショップの店頭で何カ月も品切れする訳ですよ。1週間分プレスして入れると、その日のうちに無くなって、また品切れ状態になるというのを繰り返して。日本の音楽史上で2位の記録はこの曲だと思います。ずっとプレスが追いつかなくて1位になれなかったんです。
──そうしてこの曲がASKAさんのその後の人生を大きく変える起点となった。
ASKA:そうですね。
──初めてお客さんに披露したときのこととか、憶えてらっしゃいますか?
ASKA:この曲は先にステージでオーディエンスに披露したんですよ。まず15秒のCMの話をして。「ということで、あの曲はCMで流れた部分しかありません」と。そのあとに「では次、新曲です」といって歌い始めました。みんなはまだ歌い出しは知らないんです。それが、15秒スポットで流したところになったら場内がどよめいた。そのどよめき方で、もしかしたら何か起こるかもしれないなとは思いましたね。
──今回はその当時発売した『SCENE』と『SCENEII』をリミックスし直してリリースされました。
ASKA:今回本当に嬉しかったのは、『SCENEII』のドラムサウンドというのが、80年代の終わりから94年ぐらいまでの音で“ビッグスネア”と呼ばれるドカーンという音がありますよね? あれがど真ん中のときにこのアルバムを作ってたんです。だから、あのときはデヴィッド・フォスターみたいでカッコよかったんです。
──シカゴのヒットで、やたらそういうサウンドがもてはやされてましたもんね?
ASKA:そうそう。当時はあれがお約束だったから。しかも、あのサウンドが当時は気持ちよかったんですよ。満足してたんです。でも、ブームが去ったあとにあのアルバムを聴くと、あまりにもあのスネアが音楽的じゃないというのがずーっと気になってて。もうやり直したくてやり直したくて仕方なかったんです。
──あのときは満足してたのに。
ASKA:そこに気づいてからは“後悔”に入っちゃって。ダブルミリオンいったアルバムが、自分が納得いってない音のままだったらつらいじゃないですか? 今回やり直すまで長〜い“航海”でしたよ。
──おっ! いま、うまいこと掛けましたね(笑)。ライブでもそうですけど、ASKAさんは一見すごく神経質そうに見えて、じつはこうやってちょっとしたところにお笑いをはさんでくるトークセンスとか、意外とチャーミングで。そういう部分に驚かされました。
ASKA:いえいえ(微笑)。ブログなんかもそういわれるんですが、あれは狙ってやってますから(笑)。一生懸命、渾身で狙ってますから。
──はははっ。リミックス盤の『SCENE-Remix ver.-』には、ボーナストラックとして「大人じゃなくていい」も収録されていましたが。
ASKA:この曲はCD化されていなかったのでボーナストラックとして入れました。『SCENEII-Remix ver.-』にはボーナストラックはないのかってことになると思うんですけど。なかった。残ってる曲が(笑)。
──残念(笑)。
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