【インタビュー】キング・クリムゾン、来日直前のバンドの姿をビル・リーフリンが激白
■セットリストが完璧で驚くほどスムーズに流れる日もあれば
■セットリストがやけに難しくてとてつもなく長く感じる日もある
──『ラディカル・アクション』のときとは違うアレンジが施された曲も多いですが、どれくらいの頻度でアレンジを変えるのでしょうか。アレンジの変更は譜面? それともミーティングなどで? またそのイニシアチブをとるのは誰?
ビル:これはケースバイケース。曲によるな。中には、プレイヤーが、何か新しいことをやりたくて変わる場合もある。例えば「Indiscipline」は、ロバートがこれまでやったことのないギター・ソロに挑戦したくて、そう、まさにメキシコで、だったんじゃないかな。僕はそれに凄く共感して、是非やるべきだと励ました。これは小さな一例にすぎないけど、誰かが何かを変えようとする時は、他の誰かがそれをサポートする。「Easy Money」は常に進化し続けているピースで、ミドル・パートは頻繁に変化する。これは僕とジェレミーの仕業だ。ごく自然に変化を遂げる曲も多い。一方「Radical Action」には譜面がある。もちろんパフォーマンス中に変化することもある。ミスを犯したら、そのミスが良いミスだった場合もある。「あれ? 今のミス、自分なら思いつかなかった」みたいな感じで、次からあえて使ってみたりする。利用価値の高いミスはありがたい。
──ポジティヴシンキングですね?
ビル:いつもそうとはかぎらないけどね。多くの間違いは悲劇だ(笑)。キング・クリムゾンは動的な存在だから、流れの中で物事が動くことが多い。必ずしも変化が正しいとは言えないけれど、何かが起きたら、みながすぐ反応する。それがキング・クリムゾンのダイナミズムなんだ。
──にしても、長いセットですよね。今回も曲数がものすごく多い。CDには39曲が収録されています。
ビル:多すぎ! ほんと大変(笑)
──でも、全曲素晴らしいし、特に後半の流れ、盛り上がりには感動します。プレイヤーとして、あのキング・クリムゾンで演奏するってどういう心境なのですか?
ビル:何と言っても集中力を要する。そのためには、常に体調と体力を維持していなければならない。休める時には休んでリラックスする。時には、セットリストが完璧で、驚くほどスムーズに流れる日もあれば、セットリストがやけに難しくて、とてつもなく長く感じる日もある。我々の場合、毎晩のように内容を変えるから、セットリストの構成は様々な違いを生む。でもそういう試行錯誤は大事だ。
──まったく気が抜けないですね。
ビル:そのとおり。それがキング・クリムゾンの一員であるという意味だ。まったく油断ならない。
──ちなみに、今演奏できるレパートリーは何曲くらいあると思いますか?
ビル:うーん、40曲強? 数えたことはないけど。入れ替えも激しいしね。
──リハはしたけど演奏したことのない曲はありますか?
ビル:そうだなあ……1曲思い浮かぶけど……何だかは教えない(笑)。いろんなことを試す中で、これは演奏向きじゃないという曲はある。
──ところで、細かい話なのですが「エピタフ」のメロトロンが入る瞬間。聴いているファンももう何十年も聴いていて、そのタイミングとかを体で覚えているわけです。あなたがメロトロン弾き出すタイミングってまさにジャスト。背中がチリチリする感覚を感じる。弾いている方も体に染み付いているんでしょうか?
ビル:そうだね、演奏する時は、キング・クリムゾンになりきると言うか、僕が知っているクリムゾンをそのまま演奏したいと思うから、あとはそれに伴うテクニックを身につける努力をしている。そう言ってもらえて嬉しいよ。努力が報われた。
──話しは外れますが、デヴィッド・ボウィのトリビュート曲「ヒーローズ」が収録されています。あなたもファンでしたか?
ビル:もちろん。彼のワークスはとても重要だし、アルバムはどれも素晴らしい。音楽へのアプローチはとても意義深く、それについては、僕以外の様々な人が言い尽くしているだろうからあえて言わないけど、それくらい大事な人だ。亡くなったのは残念だけど、人間にはサイクルがあって、高みを極めた人でも必ずいつかはいなくなる。それは人間なら避けられない。僕たちもいずれはデイヴィッドと同じ場所へ行くんだ。それがいつかわからないだけ。
──ジャッコのヴォーカル・スタイルと違うのでエイドリアン時代の歌入り曲は封印されたままかと思えば、2017年からNeuroticaがまさにロバートがいうRe-Imagineにふさわしい形で復活しました。あなたは80'sからダブル・トリオ、ダブル・デュオに至る時期の歌入り曲はどう思われますか?
ビル:80年代はじめに『ディシプリン』というアルバムが発売された。あれは、僕の意見では、この世で最もラジカル(革新的)でアイコニック(偶像的)な作品だ。それ以前、あんな作品はこの世に存在しなかった。音楽のボキャブラリーが、あのアルバムによって書き換えられたと言っても過言ではない。どんなに大げさに言っても言い尽くせない。それくらい、とてつもなく大きいのだけど、それを、ひとつのコマーシャルなロック・バンドがやってのけたことが本当に素晴らしい。“これまでと違うことをやる”のは可能でも、それを“人々が聴きたくなるような音楽”でやるのはとても難しいんだ。それを彼らはやってのけたし、このアルバムだけでなく、その時代には良い作品がたくさんある。個人的にはとても好きだし、おもしろいと思う。
──ところで、あなたがクリムゾンのライナップ研究家だったというのは本当ですか?
ビル:僕が? それは間違った情報だと思う。何も研究はしていないよ。僕はただの音楽リスナーだ(笑)
──わかりました! でも、先ほどの話しから、加入前からかなりのファンではあったんですね?
ビル:もちろんさ。ティーンエイジャーの頃からクリムゾンは聴いていた。たしか1stアルバムを聴いたのは15、6歳の時だったと思う。70年代に入ってちゃんと聴き始めた頃にはすでに最初の休止期間に入っていたけど、その後の活動はリアルタイムでフォローしてきた。初めて生で見たのは、1981年のDISCIPLINEバンドだった。
──そんなあなたから見て、キング・クリムゾンの意義というか、音楽業界における存在って何だと思いますか?
ビル:この手の質問には困ってしまう。僕は音楽をやる立場であって、分析とか得意じゃないからね。世界レベルの答えはよくわからない。ただ、このバンドが、コンテンポラリー音楽に与えた影響は果てしなく大きいことはわかっている。それは聴き手のみならず、音楽の作り手に与えた影響も。それが最大の意義なのかな。音楽の作者たちに与えたもの、その功績は偉大だ。
──そんな彼らも来年は結成50周年ですよ!
ビル:大したもんだよねえ。
──あなたもセレブレーションの輪に加われそうじゃないですか?
ビル:来年のことはまだ何とも(笑)。僕の一番の仕事は、パフォーマンスが無事遂行されるよう完璧に準備することなんだ。それはなかなか大変で、正直、オーディエンスでいた方がずっと楽しいしラクだよ!
──2015年の来日ではドラムを叩き、今回はキーボードを担当されます。これは大変珍しいことですが。
ビル:笑っちゃうよね。でもそれがキング・クリムゾンの運営の仕方であり、クリムゾンでなければありえない話しだと思う。僕が休みを取っている間に別のドラマーが来て、彼はそのままキープで僕をキーボードでカムバックさせるなんて、普通は考えつかないだろうけど、僕としてはまったく問題なしって感じだったよ。ドラミングが全然恋しくないんだ。
──ほんとですか?
ビル:ほんと。体力的に大変だからね。それにジェレミーはものすごく巧いし、彼がいてくれて嬉しい。
──クリムゾンのラインナップに関しては驚きの連続ですね。
ビル:これからも驚かせてくれるよ、きっと!
──先ほど、オーディエンスも国から国へ違いがあるとおっしゃってましたが、日本公演はどういうところが違いますか?
ビル:日本と言っても、町ごとに違いがあると思う。3年前高松で演奏した時、大都市とは違うと思った。もっと熱狂的だったし、とても良かった。全体的に日本人には集中力があって、ちゃんと耳を使ってくれる。礼儀も正しいし、とても良いオーディエンスだよ。
──今回は、北から南まで13公演ですね。
ビル:そうなんだ。東京はもちろん札幌も行くし、南は福岡まで。
──個人的に楽しみにしていることはありますか?
ビル:食! 特にラーメンが大好物で、今回も味噌ラーメンに豚骨ラーメンに……ああ楽しみ。北海道ではコーンも入っているよね? それも好きだし、豚骨にはがっつりニンニクを入れる! 東京では、楽器屋がたくさんある地区……
──御茶ノ水ですか?
ビル:そうそう、御茶ノ水にはだいたい行く。
──CDやレコードも買います?
ビル:タワーレコードはよく寄るよ。今度は中古盤屋にも行ってみたい。
──とにかく楽しみです! 最後にメッセージをお願いできますか?
ビル:もちろんさ。日本のみなさん、こんにちは! キング・クリムゾンのこと、今日初めて知った諸君も、ぜひコンサートに足を運んでみてください。美しい音楽ですべてのみなさんをハッピーにしてみせます。
訳:中村美夏
ライブ・イベント情報
東京 11月27日(火) Bunkamura オーチャードホール
東京 11月28日(水) Bunkamura オーチャードホール
東京 11月29日(木) Bunkamura オーチャードホール
札幌 12月2日(日) 札幌文化芸術劇場 hitaru
仙台 12月4日(火) 仙台サンプラザホール
金沢 12月7日(金) 本多の森ホール
大阪 12月9日(日) グランキューブ
大阪 12月10日(月) グランキューブ
福岡 12月12日(水) 福岡サンパレス
広島 12月14日(金) 広島文化学園 HBG ホール
東京 12月17日(月) Bunkamura オーチャードホール
東京 12月18日(火) Bunkamura オーチャードホール
名古屋 12月21日(金) 名古屋国際会議場センチュリーホール
リリース情報
2018.9.26発売 ¥7,500+税 Blu-ray+3HQCD
<国内盤特典>
・HQCD仕様
・初回特典:特製チケットホルダー
●Blu-Ray
1. Neurotica / ニューロティカ
2. Pictures of A City / 冷たい街の情景
3. Cirkus / サーカス
4. Dawn Song / 夜明けの歌
5. Last Skirmish / 最後の戦い
6. Prince Rupert’s Lament / ルパート王子の嘆き
7. Epitaph / エピタフ~墓碑銘
8. Devil Dogs Of Tassellation Row
デヴィル・ドッグズ・オブ・テセレーション・ロウ
9. Fracture / 突破口
10. Islands / アイランズ
11. Indiscipline / インディシプリン
12. Peace / 平和
13. Easy Money / イージー・マネー
14. Interlude / 間奏曲
15. The Letters / レターズ
16. Sailor’s Tale / 船乗りの話
17. CatalytiKc No9 / 触媒 No.9
18. Fallen Angel / 堕落天使
19. The Talking Drum / トーキング・ドラム
20. Larks’ Tongues In Aspic part II / 太陽と戦慄 パート2
21. Starless / スターレス
22. The Hell Hounds Of Krim / ザ・ヘル・ハウンズ・オブ・クリム
23. 21st Century Schizoid Man / 21 世紀のスキッツォイド・マン
Track 4,5,6=組曲リザード パートC「戦場のガラスの涙」より
●HQCD-1
1. Walk On / 入場
2. Larks’ Tongues In Aspic part 1 / 太陽と戦慄 パート1
3. Neurotica / ニューロティカ
4. Cirkus / サーカス
5. Dawn Song / 夜明けの歌
6. Last Skirmish / 最後の戦い
7. Prince Rupert’s Lament / ルパート王子の嘆き
8. The Hell Hounds Of Krim / ザ・ヘルハウンズ・オブ・クリム
9. Red / レッド
10. Fallen Angel / 堕落天使
11. Islands / アイランズ
12. The Talking Drum / トーキング・ドラム
13. Larks’ Tongues In Aspic part II / 太陽と戦慄 パート2
Track 5,6,7=組曲リザード パートC「戦場のガラスの涙」より
●HQCD-2
1. Indiscipline / インディシプリン
2. The ConstranKCtion Of Light
ザ・コンストラクション・オブ・ライト
3. Epitaph / エピタフ~墓碑銘
4. Banshee Legs Bell Hassle / バンシー・レッグス・ベル・ハッスル
5. Easy Money / イージー・マネー
6. Interlude / 間奏曲
7. The Letters / レターズ
8. Sailor’s Tale / 船乗りの話
9. CatalytiKc No.9 / 触媒 No.9
10. Meltdown / メルトダウン
11. Radical Action 2 / ラディカル・アクション 2
12. Level Five / レヴェル・ファイヴ
13. Starless / スターレス
●HQCD-3
1. Peace ? An End / 平和
2. Pictures of A City / 冷たい街の情景
3. Devil Dogs Of Tassellation Row
デヴィル・ドッグズ・オブ・テセレーション・ロウ
4. Fracture / 突破口
5. In The Court Of The Crimson King / クリムゾン・キングの宮殿
6. Heroes / ヒーローズ
7. 21st Century Schizoid Man / 21 世紀のスキッツォイド・マン
8. Discipline / ディシプリン
9. Moonchild / ムーンチャイルド
10. Tony’s Cadenza / トニーのカデンツァ
11. Jeremmy’s Cadenza / ジェレミーのカデンツァ
12. Breathless / ブレスレス
13. Cool Jam / クール・ジャム
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