【ライブレポート】藤巻亮太主催<Mt.FUJIMAKI>富士山を背に数々の名場面
藤巻亮太が主催する野外フェス<Mt.FUJIMAKI>が10月7日(日)に山梨県・山中湖交流プラザ きららにて行われた。現地からのレポートをお届けしよう。
◆<Mt.FUJIMAKI> ライブ写真
藤巻亮太がオーガナイザーとなり、地元山梨で開催された音楽フェス<Mt.FUJIMAKI>。やりたいことよりも、やるべきことをまず優先したいと感じ始めた彼がまず登ろうと試みたのがこの大山だったのだ。しかし、ひょっとしたら台風が通過していたかも、とは思えないような天気だ。ステージの背後にそびえ立つのは山梨のシンボルである富士の山。青天の空を見上げながら、誰もがこのフェスを成功させたいという彼の想いの強さを悟ったことだろう。そしてフェス開幕時に降り注いだのは、暴風雨ではなく、藤巻がひとりで奏でる“粉雪”。しっとりとした歌声が暑い空気のなかに溶けていった。
今回出演したゲストの面々は藤巻自身が直接オファーを行って集めた信頼のおけるアーティストばかり。そんな出演者たちを支えるのが、この日のために集まった実力派揃いの藤巻バンド。彼らもまた藤巻が信頼を置くツワモノたちだ。
トップバッターを飾るのは、かつて藤巻がむちゃくちゃコピーしていたというTRICERATOPSのヴォーカルにしてギタリストである和田唱である。「みんなようこそ!」という叫びと共にスタートした“Raspberry”。16分刻みのダンス・ビートで一気に会場を沸かしてみせる。そしてレミオロメンのカヴァー“雨上がり”へ。和田と藤巻のふたりが奏でる虹色のハーモニーが晴れた空にスーッと伸びていくのが見えた。
MCのとき、富士山を眺めながら「大地のエネルギーが違う」と力説していた和田。「亮太君はその辺鈍感なのかも」と。もうじきリリースとなる和田の初ソロ・アルバムからの“1975”をはじめ、確かに彼のパフォーマンスはそこで得たイメージを体現するかのようにエネルギッシュで、いずれの場面においてもその歌声は開放感に溢れていた。ラストに披露されたのはキーボードの弾き語りによる“Home”。この日が本邦初披露となったこのハートフル・バラードは、自分が帰りたい場所がテーマとなっているとのこと。山梨に恩返しがしたという動機に突き動かされてこのフェスを始動させた藤巻にとっても曲が放つメッセージは、心にじわりと沁みるものがあったと思う。
2組目を任されたのは、デビュー前にいろんなアドヴァイスをもらったというFLYING KIDSの浜崎貴司。まずはFLYING KIDSの“♂+♀(ボーイミーツガール)”をギター弾き語りで披露、百戦錬磨のヴェテランらしい演奏で観客の心をガッチリと掴んでみせる。ところでFLYING KIDSは今年で30周年を迎えたわけだが、つねに風を読みながら未来に向かって前進していく彼やバンドの姿勢は藤巻の目にも力強く映っているに違いない。名曲“風の吹き抜ける場所へ”での強力なコラボを見ながらそう感じずにいられなかった。
続いての曲は、風つながりということでレミオロメンの“南風”へ。浜崎の言うとおり「風は大事だよね」と思わせてくれるようなさわやかに吹く快演だった。エンディングは、FLYING KIDSのファースト・シングルにしてジャパニーズ・ファンク・クラシック“幸せであるように”。ファンキーで味わい深い演奏が繰り広げられ、ハッピーなヴァイヴが会場いっぱいに広がっていく。
そして3組目としてフジファブリックの山内総一郎が登場。「いま輝いているからこんなイヴェントができるし、新曲も生まれる。ではいまを讃える曲を」というMCに乗せて披露されたのはギター1本による“Water Lily Flower”。不思議なメロディーと浮遊感溢れるギター・サウンドがこだまし、辺りに凛とした空気を感じる。
ところで、いつもはそーちゃん、りょーちゃんと呼び合うふたりは歳が近いということもあってとても仲が良く、ステージ上でも実に親しげ。フジファブリックの“電光石火”、レミオロメンの“電話”などにおいても信頼関係が結ばれた者同士にしか生み出し得ない呼吸が垣間見えたもの。ラストを飾ったのは、フジファブリックの最新曲“手紙”。故郷への思いをしたためたこの音楽の手紙を読みながら、どうしても考えてしまったのは山梨が故郷であった志村正彦のこと。天国からこのフェスを眺めながら楽しんでいるに違いないと思うとどうにも胸が熱くなって仕方なかった。
3組が終了したところで、スペシャル・ゲストであるアルピニスト・野口健とのトーク・タイムがスタート。彼と藤巻はヒマラヤ、アフリカ、南極と大自然を旅している仲間であり、人生のヒントを与えあう友である。話の内容は、富士山のゴミ拾い話から旅の修羅場話まで話題は多岐に渡ったが、たぶんきっといろんな秘境でも野口氏はこんなマシンガン・トークを繰り広げて藤巻を大いに笑わせているのだろうな、と即座に想像できてしまうところがとても愉快だった。
後半の幕開けを飾る4組目は、唯一のバンド出演となるASIAN KUNG-FU GENERATION。雲を切り裂くようなエモーショナルなギター、荒々しくも伸びやかなヴォーカルを駆使して“ソラニン”“Re:Re:”“リライト”と矢継ぎ早に繰り出していった彼ら。つねに藤巻を嫉妬させているというそのパフォーマンスはまさに疾風怒濤と呼ぶに相応しく、まさに彼ら以外何物でもなかった。2002年に下北沢シェルターでレミオロメンと対バンをしたときに“雨上がり”を聴いて音楽をやめたくなるほど感動したこと、すごいの出てきちゃったじゃん!と脅威をおぼえたことをMCで振り返っていた後藤。「今年は友だちのELLEGARDENも復活したし、レミオロメンもいつか見たい。這ってでも駆けつける。前座やるんでね」と力強い言葉も聞かれた。
これからも良きライヴァルであってほしいと藤巻にエールを送るように“今を生きて”をラストにかまし、ギターの残響音と共に去っていった彼ら。他の演者にはないような痛快な疾走感と高揚感はその場にいたすべての人に強烈な印象を残したはず。
5組目のゲスト・アーティスト、宮沢和史は、藤巻と同じく山梨にルーツを持つミュージシャン。フェスを開催するにあたって藤巻がいちばん最初に声掛けしたというぐらい、この場に無くてはならないVIPである。珠玉のラヴソング、THE BOOMの“星のラブレター”の途中では歌詞になぞらえて「会いに来たぜ!」と肩を組む感動的な場面も登場。彼に連絡を取るときどれほど緊張したのかを事細かに語っていた藤巻だが、そんな彼の切実な思いは宮沢の心を強く打ったらしく、力強い演奏を見せねばならぬ、という覚悟を生んだ模様。“世界でいちばん美しい島”などでは「ふたりの故郷でやれる喜び」が端々から感じられたものだ。
そして東京と山梨をつなぐ歌でもあった名バラード“中央線”が弾き語りで披露される。ギターのストロークがなにやら列車が走っていく様子をイメージさせ、こちらの意識を懐かしい景色のなかへと連れ立ってくれる。そんな素晴らしい演奏だった。「故郷の歌を故郷で歌えるなんてこんなに幸せなことはない」と宮沢は話していたが、藤巻にとっても、そんなあなたと故郷の空の下でいっしょに歌えることはなんて幸せだろうか、という思いを噛みしめていたはず。ラストを飾ったのは、地元のエイサーグループを呼び入れての大ヒット曲“島唄”。もうひとつの故郷である沖縄を思いながら歌う宮沢の背中には、確かに光りが差し込んでいるのが見えた。
そしてトリは、本日の主役である藤巻亮太と彼のBANDが担当。今日は本当にいい日になった、という思いが大きく花開いたような“日日是好日”でスタートし、彼のメロディーのなかに含まれている季節感が広がりを見せる“太陽の下”へ。すでにだいぶ日が暮れていたものの、会場中にカラフルな色合いが広がっていく感覚が得られた。骨太な歌声を聴かせる“マスターキー”のコーダで聴かれた、ピアノ担当の桑原あいの美しい音色が出現したことも忘れがたい。それが緩やかに“もっと遠くへ”のイントロへとスライドしていったのだが、意識がグイと音楽のなかに持っていかれずにはいられない素晴らしい構成であった。
そしてストリング・カルテットを迎えてヴァンフォーレ甲府の創立50周年アンセムとして書かれた“ゆらせ”から“花になれたら”へとアッパーな曲で畳みかけていく藤巻バンド。少年時代のキラキラ輝く想い出が散りばめられた“スタンドバイミー”が始まると会場のテンションはピークに。芝生の上では小さな子供たちもピョンピョンと跳ね始めるというあまりにピースフルな光景が展開する。そしてエンディングに選ばれたのは新曲“Summer Swing”。<Mt.FUJIMAKI>のテーマ曲という役割も担っているこの曲のセンチメンタルなメロディーによってセピア色に彩られた会場。夏の終りの記憶を封じ込めるのに、あまりに出来過ぎたシチュエーションじゃないかと感動させられてしまう。
大団円は、ステージに出演者が全員集合。ヴォーカルを分け合いながら“3月9日”が歌われる。この曲がもともと友人の結婚式をお祝いするために作られたことを思い出させる祝福感が辺りいっぱいに広がっていく。そして10月のカラッとした空気のなかでも鮮やかに映えることもよくわかった。
数々の名場面を生み出して幕を閉じた<Mt.FUJIMAKI>。主導者となってこの大きな行事を成功させた藤巻にとって、周りの人間との関わり合いの大切さを噛みしめる機会になったはず。来年はもっと大きな輪が観られるかもしれない。ステージを去る間際に発せられた「来年もできるようにがんばるから!」という藤巻の決意表明をしっかりと受け止めて会場を後にした。
<富士山世界文化遺産登録5周年記念 Mt.FUJIMAKI 2018>
出演者:藤巻亮太(レミオロメン)with BAND(Gt岡 聡志,Ba御供信弘,Dr河村吉宏,Key皆川真人,Pf桑原あい)、ASIAN KUNG-FU GENERATION、浜崎貴司(FLYING KIDS)、宮沢和史、山内総一郎(フジファブリック)、和田 唱(TRICERATOPS)
スペシャルサポーター:野口 健(アルピニスト)
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