【インタビュー】原雅明「ジャズという括りが曖昧になってきた80年代〜90年代の他の音楽の動向も含めた視点から、ジャズを書いていく」
■さまざまな関係性の中で
■揺れ動いている音楽がまさにジャズ
──ジャズがガラッと変わった時ってありましたでしょうか?
原雅明 自分の関わりがあったところでしか言えないですけど、僕はずっとLOW END THEORYをやっていた関係で、LAのミュージシャンの動向はよく知る機会があったんです。それまではラップトップでライブをやるビートメイカーばかりだったのが、やっぱりサンダーキャットの存在が大きいのかな、彼とか、ピアニストのオースティン・ペラルタ(2012年逝去)とか……楽器を弾く人たちがBRAINFEEDERみたいなレーベルから出てきたのが2011年くらい。
──その辺りから急激に変わっていった?
原雅明 NYの動向も含めて、水面下では00年代前半から起こっていたのを後から知りましたが、リリースとして表面化したのはその頃かと。フライング・ロータスのアルバムに楽器プレイヤーが大挙して参加したり、ミゲル・アトウッド・ファーガソンが指揮してオーケストラでJディラのトリビュート演ったり。それがLAの局地的な話ではなくて、NYのジャズの本流でも、ビッグバンドのアンサンブルで新しい流れが目立ってきて、あとはポスト・クラシカルと呼ばれた音楽の中で斬新なオーケストラ・アレンジが出てきたのもこの頃からのように思います。
──今の音楽の“ジャズ化”は、以前のアシッドジャズとは違う盛り上がり方のように思います。『Jazz Thing ジャズという何か』に出てくる、“何か”は1ジャンルの話ではないですね。
原雅明 それにひとつの場所の話でもないんです。ジャズはNYが中心で、ジャズを学べる学校も多いし、ジャズクラブも多いので仕事もあるし、プロとして認められる確率も高い。例えばサッカーで、プロ・フットボーラーとして世界に出ていこうとしたら、まずはヨーロッパのリーグに行かないとスタート地点にすら立てないですよね。音楽の世界もジャンルで多少違いますが、出ていかないと、勝負しないといけない中心地というものはありますよね。で、それが良い悪いの話じゃなくて、どう相対化されていくのかな、ということに僕は興味があります。
ジャズはアメリカの音楽であると同時に、もうグローバルな言語にもなっていて、ネットであらゆる過去の音楽に触れることもできるし、多少乱暴に言えば何処にいても習得できる音楽になってもいます。NYのような教育システムなのか、LAのようなコミュニティなのか、はたまたネットなのか、さまざまな関係性の中で揺れ動いている音楽がまさにジャズで、僕がいまのジャズに興味を持っている一つの理由はそこです。
──日本に関してはどう見てますか?
原雅明 これまでの日本のジャズミュージシャンがどうアメリカと相対してきたのか、それだけで本が書けるテーマで。アメリカの話になるけど、日本も含めたアジア系の移民の二世、そもそもアメリカで生まれ育った人達がジャズだけではなく、他のジャンルでも活躍を始めてますよね。それにダイレクトに向こうに乗り込んで活躍できる人も出てきている。と同時に、さっきも言ったようにそうでない選択肢もあり得る。ますます一元的に見られないです。
──日本の若いプレイヤーの演奏はどうでしょう?
原雅明 語れるほどに若いプレイヤーを見ていないので、答える立場にないですね。ただ、例えば黒田卓也とceroが一緒にやって刺激を与え合ったように、ドメスティックな音楽のシーンでもプレイヤーが果たす役割が大きくなっていると思うので、そこにコミットできる人が出てくる期待はとてもあります。
──若手プレイヤーたちが出てくる一方で、沖野修也率いるKYOTO JAZZ SEXTET、松浦俊夫率いるTOSHIO MATSUURA GROUPと、プレイヤーじゃないアーティストが作るジャズアルバムも出てきています。
原雅明 松浦さん自身も言っていましたが、クラブジャズはジャズよりも世代交代ができていないかったんではないかと思います。だからこそ、いまどう次に繋げていくのか、そこを意識した作品が出てきているのだと捉えてます。
──今回の本はクラブミュージック目線ではないところが面白いと思いました。というのもレアグルーヴ的な「500円のレコードだけどかっこいい」と言ったような、ある意味ドラスティックな切り方もできるわけですが、本書はキチンと体系化されてミュージシャンが出てくる。クラブミュージックではなく、ジャズだからでしょうか?
原雅明 僕はクラブミュージックも、ジャズもある程度ずっと聴いてきた。でもどちらかにどっぶりでもなく、両方分かるし、また両方とも分からないところもある。そんなマージナルなところにずっといたんですが、そういう立場で例えば「ジャズの人が書くヒップホップ」を読んでも、いつもしっくりこない。ジャズの流れ、歴史を書いた本でも、最後に付け足したように、マイルス・デイヴィスのヒップホップ化が語られる。
一方でクラブジャズやヒップホップのDJが今まで全く評価されなかったジャズをレアグルーヴみたいに再評価することを面白いと、僕も当初思ったんです。でもそれは逆に特殊でオブスキュアなものに収斂しがちです。王道でも面白いものはあるし、可能性もある。クラブミュージック、ジャズの両方を見ていると“溝”を感じます。この本を書くときにその溝を埋めようなんてことはまったく考えなかった。違いは歴然とあるので。ただ、その上で、「ジャズという何か」としか言いようがないものを、双方にも伝わる言葉で書きたいとは思ったんです。
インタビュー:BARKS編集部
写真:Wataru Umehara
『Jazz Thing ジャズという何か』
原雅明 著
DU BOOKS
定価:本体2,200円+税
四六変形/仮フランス装
◆商品サイト
◆Rings オフィシャルサイト
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