【インタビュー 前編】清春、『夜、カルメンの詩集』完成「僕しか作ってはいけないアルバム」

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■爆音に包まれながら車を走らせる2時間
■その夜の体験が僕にとって救いだった

──『夜、カルメンの詩集』の収録曲の多くはすでにライヴ披露されていますが、この作品を手にとって初めて聴ける曲もいくつかありますね。

清春:3曲しかないよね(笑)。「悲歌」「TWILIGHT」「三日月」。

──『SOLOIST』リリース時同様、いつも通りというか(笑)。

清春:最新作収録曲の大半をすでにみんなが聴いてる状態っていう。最近そういうのが多いね。ほとんどの曲をライヴで、結構な勢いでやっちゃってるもんね。

──ツアーのなかでファンとともに磨き上げていった楽曲が揃っています。いざスタジオ盤を聴いた時に、聴き手としては、さらに感動が増すというか。心の深いところまで刺さるような感覚になります。

清春:このスタンスって、アルバムレコーディングする頃には、曲を作ってから長く時間が経ってる状態ってことなんですね。ライヴで何回もプレイして、ツアーが終わってしばらくしてからレコーディングに入るので、かなり原型と変わってきちゃう。変えたつもりはないんだけど、自然にね。久しぶりに自分のパソコンでデモテープを聴いてみたら“全然違う”みたいな(笑)。もちろんライヴアレンジをしてるし、レコーディングでも僕と三代堅さんが一緒に作業するなかで、「こういうのやりたい」とか会話を交わして原曲をアルバム用にアレンジしていくから、だいぶ変わっちゃってる曲もある。

──リスナーとしては、ライヴで口ずさめるようになっている曲をスタジオ盤で答え合わせするような楽しみもあるんです。歌詞やメロディやアレンジの面白さをさらに深く味わえる。各楽曲についても、いろいろとお訊きしたいことがあるんです。1曲目の「悲歌」ですけれども、最初に聴いた時に──。

清春:こう来ると思いました? 「赤の永遠」から始まると思ったでしょ?

──ええ、こう来るとは思わなかったです。“旅先の村の宴に招かれたような感じ”を思い浮かべました。

清春:はは、珍しい感想だね。まあ、そうかもしれない。1曲目は、聴いた時のイマジネーションをかなり大事にしていますね。華やかさじゃなくて、夜から始まるっていうふうにしたかったんです。『夜、カルメンの詩集』ってタイトルの通り。

──そんな夜の様子が2曲目の「赤の永遠」でさらに深まります。幕開けの次にまた幕開けが来るような構成が面白いと思いました。夜は絶望の代名詞のように扱われがちだと思うんですが、清春さんの歌う夜には、希望や救いがありますよね。

清春:闇のなかで光を感じさせるみたいなところかな。僕自身がホント、夜にしか起きてないので(笑)。僕しか作ってはいけないアルバムなのかなと。

──夜を知り尽くした人だからこそ作れるものなのかもしれません(笑)。

清春:知り尽くしてはいないけど(笑)。僕が音楽に救いを求めるのは、夜に一人で聴いたりするとき。高校を出て、2年間ぐらい就職してた時期があったんだけど。実家から車で2時間ぐらいの町に会社があってさ、バンド仲間とか高校の友達と会うために、毎週末、実家に帰ってたんですよ。18時か19時ぐらいまで仕事して、会社の人とご飯食べて、その後実家に向かって車を走らせる。好きな音楽を爆音で流しながら高速を走って、1週間のストレスを発散させる。現実から楽しい場所への橋渡しとなる2時間。そこで流れてた音楽。月曜日の8時から仕事だから、日曜日の夜まで遊んで、その夜のうちにまた爆音に包まれながら車を走らせる。あれを2年間繰り返してた体験が僕にとって救いだった。

──だから、夜なんですね。

清春:勝手に想定してる、ファンの人が僕の音楽を聴いているシチュエーションは夜なの。もう10年経つか20年経つか忘れちゃったけど、夜しか起きてない生活を繰り返しつつ(笑)。

──ははは。『エレジー』リリース時のインタビューでお話を伺った時に、“孤独であることの強さ”について説かれていました。

清春:普通に考えて、一人で音楽を聴いてる時間が長い人のほうがミュージシャンになりやすいよ(笑)。仲間が多すぎると、バンドはできるかもしれないけど、飲んだり遊んだりで音楽を聴く暇はあまりないからね。どっちかっていうと悪いことしちゃいますよ……まぁそれもしたけど(笑)。やっぱり、あの車内での毎週孤独な4時間、爆音で音楽が聴けるってなかなかないことで、僕にとって大きな体験だったと思います。

──清春さんが当時得られたものの大きさを感じます。このアルバムで非常に印象的だったのが、「TWILIGHT」という曲です。とても心に響きました。

清春:この曲、何か想像しました?

──“「瑠璃色」の親戚”かと思ったんですが。

清春:あ~、“親戚”ね(笑)、そういうニューミュージック的な。僕のライヴ終演後のBGMで、ヴァネッサ・パラディの「ナチュラル・ハイ」が必ず流れるんだけど、「TWILIGHT」はあれのオマージュ。

──そうだったんですか!

清春:「ナチュラル・ハイ」って大好きな曲だから、ソロのライヴではずっと流してるんです。近いところまであの感じを引用してるんだけど、もちろんメロディもコード進行も違う。だから、雰囲気だけオマージュ。いつかやりたかったんだよね。10枚目だと思ってたから、こんな曲を作ったんだけど、実は違ったっていう(笑)。

──ははは。でも、素晴らしい曲です。

清春:うん。確かに「瑠璃色」っぽくもあるよね。鍵盤の感じとかはそれっぽい。今回のアルバムのなかでも「TWILIGHT」は僕の好きな曲のベスト3に入りますね。

──こういう曲が今後のライヴでファンの皆さんにとっても愛着の湧くものとなるはずです。

清春:そうですね。この曲は歌詞も気に入ってますね。

──夜のなかにいろんな時間の流れがあるんだなと考えさせられます。

清春:夕暮れもあり、真夜中もあり、明け方もあり。

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