【詳細レポート】HYDE、<黑ミサ TOKYO>に鳴り止まない拍手「歩みを止めるつもりはない」

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HYDEが12月23日および24日の2日間、千葉・幕張メッセ国際展示場4・5・6ホールにて<HYDE Christmas Concert 2017 - 黑ミサ TOKYO ->を開催した。同公演は冬の北海道・富良野で開催しているファンクラブイベント<黑ミサ>の特別編として行われたものだ。先ごろ公開したオフィシャルレポートに続いて、新たな写真を加えて詳細レポートをお届けしたい。

◆HYDE 画像

富良野開催の<黑ミサ>はキャパシティ200人程度の小規模イベントだが、<黑ミサ TOKYO>は大会場・幕張メッセ国際展示場4・5・6ホールでの初開催となる。事前情報として、ダブルカルテットやコーラスを含む19人編成でのステージとなること、スペシャルゲストとしてL'Arc-en-CielのギタリストKenが参加すること、L'Arc-en-Ciel、VAMPS、HYDEソロなど自身のキャリアからのナンバーやカヴァー曲がオリジナルアレンジで届けられることが明かされていた。

会場付近に到着すると、ジャケットやブレザーを着用した男性ほか、ワンピースやツーピース姿の女性など、同公演に設けられたドレスコード“スマートカジュアル”の装いのファンで溢れている。ちなみに初日23日は、HYDEファンには<HALLOWEEN PARTY>でお馴染みのMY FIRST STORYが幕張メッセ国際展示場9・10・11ホールにてツアーファイナルを開催しており、賑わう幕張メッセ周辺には“Tシャツ姿”のマイファスファンとHYDEファンの“スマートカジュアル”によるコントラストが色濃い。真冬の寒空の下、それぞれのライヴに向かう極上の熱気が辺りに充満していた。


入場ゲート前に飾り付けられた大きなクリスマスツリーに聖夜気分を盛り上げられて場内へ。ステージを起点として放射状に伸びる客席が圧巻だ。同公演は“着席してじっくり歌を聴いてもらいたい”という主旨で行われるものであり、そのため、全客席がステージへ向けられているという会場構成にHYDEの細やかな配慮がうかがい知れるというもの。レッドカーペットが敷き詰められた場内には聖歌が流れ、ステージ上に目を向ければ蝋燭台に光る無数の小さな明かり。その上には巨大な額縁のなかで深紅に輝く<黑ミサ TOKYO>ロゴが強烈な存在感を発している。厳かな雰囲気のなか、開演時刻を迎えた。

17時を少し過ぎたころにSEのボリュームが増加して徐々に場内が暗転。オーケストラ隊をはじめとするメンバーが着席し、スモークが焚かれたステージ上にHYDEが姿を現した。第一音はダブルカルテッドによるストリングスフレーズから。オープニングナンバーはアルバム『ROENTGEN』(2002年発表)収録曲「WHITE SONG」だ。弦楽器と管楽器の淡々しい音色が印象的なミディアムチューンながら、リズミカルでエネルギーを内包したサウンドに乗せて、バックライトに照らされたHYDEの儚く強い歌声が響き渡る。その伸びやかな歌唱がオーディエンスを一気に惹きつけた。

もの悲しいピアノの独奏がイントロに加えられた「SECRET LETTERS」も同じく『ROENTGEN』収録曲。ピアノの調べを引き裂くように一際大きなスネアドラムが楽曲の感情を物語り、HYDEの歌へ。前述したとおり、披露される楽曲たちは、この日のためにオリジナルアレンジが施されて表情豊か。サビのコーラスが楽曲本来の持つ切なさを増幅させる。わずか2曲でライヴの成功を確信させる、素晴らしいオープニングとなった。

「ようこそ、<黑ミサ>へ。<黑ミサ>は本来の悪魔の儀式とは違うので、血を飲んだりしないようにしてください(微笑)。元々は毎年12月に北海道の真ん中で、ひっそりと行なっていました。今回はせっかくの大きな会場ということで、オーケストラのみなさんと。音楽を中心に聴いてもらおうかなと思います。今日は日本中の映画館にも中継されているので、ひっそりという感じではないんですけど、リラックスして座ったまま、最後まで楽しんでいってください」──HYDE

「“クリスマスにこういう曲が聴きたい”と思って作ったナンバー」という曲紹介に導かれたのは「ANGEL'S TALE」。そのタイトルコールに客席から歓喜の声が上がった。ギターのYUKI (DUSTAR-3, Rayflower)によるアコースティックギターのアルペジオにHYDEの優しい歌声が絡み合って、冬の情景に柔らかい温もりを灯すよう。続く「THE CAPE OF STORMS」はオーケストレーションから幕を開ける壮大なナンバー。ドラマチックなスローバラードを盛り上げるピアノの旋律も音源にはないオリジナルアレンジだ。HYDEのヴォーカルが音楽の一部に同化し、大編成の楽器隊が奏でる音色を導くように、その歌声が心の起伏をなぞる。


楽曲紹介を兼ねて曲間に挿入されるHYDEの短いMCに、心が和んだり、歌詞に対する深い思いを知ることができたり。そういうステージ進行も<黑ミサ>ならではのものだろう。「EVERGREEN」の前には、「画家の金子國義先生がアトリエのラジオでこの曲を聴いて、“なんといい曲だろう”と録音して、毎日何回も何回も繰り返し聴いてくれていたそうです。長年交流があったんですが、先生は3年前に亡くなられてしまいました。本当に、人の死はつらいですね。いつまでも空いた穴が塞がらないというか。そういうことがどんどん増えていって……、でも、そういうものなんだろうなって、最近そう思います」と語って演奏された同曲は、ストリングスアレンジが施されて穏やかに、深い悲しみの先に光を照らすように、愛おしく響いた。

「SHALLOW SLEEP」も弦楽器と管楽器によるアレンジがイントロに据えられ、風を感じさせるような爽やかさすら滲んで細やか。上方からの温かな照明がステージを明るく染め上げた。しかし、この公演には色とりどりのライトも華やかな特効もない。ステージ上に蝋燭台と幾つかの照明があるだけ。楽曲そのものが演奏とHYDEの歌声だけで綴られていく。奏でられる個々の旋律がひとつとなって願いや希望を感じさせるような、自然体の歌。オーケストラ編成の演奏といえば緊張感があって格式高いものというイメージが先行するかもしれないが、<黑ミサ>はそれだけではない。柔らかく豊かな音色に心踊り、それだけで十分に幻想的なのだ。

「拍手していいですよ、遠慮無く(笑)。咳とかクシャミとかも自由にね。『ROENTGEN』リリースから15年が経ちました。当時は精も根も尽き果ててたので、そのころのインタビューで「もうこんなアルバムは10年は作れない」って言ってたみたいです。それから15年(笑)。でも、こうしてアコースティックライヴをするようになって、“曲が足りないな”と思うこともあるので、そろそろかな。最近はよく、それが頭をよぎるようになってきたので、あと5年以内にはできると思う……ので、気長に待っていてください」──HYDE

ここまで演奏された6曲は全てアルバム『ROENTGEN』からのナンバーだった。そして、ここからはカヴァーチューンを2曲。その1曲目の曲紹介では「『ROENTGEN』のもとになっていると言っても過言ではない曲」という枕詞が据えられた。

「10代のころ、僕はデビッド・シルビアンというイギリスのアーティストが大好きで。ハードロックを聴きながらも併行して、その人の暗くて耽美な音楽をずっと聴いてました。その彼が坂本龍一さんの曲に、メロディーと歌詞を付けて、それが“禁じられた色彩”というタイトルになって。その曲が僕のフェイバリットソングとなって、その後、何百回も聴き続けました。今回は『ROENTGEN』というアルバムの英訳をお願いしたLYNNE HOBDAYさんがコーラスとして参加してくれています。彼女も“禁じられた色彩”(「Forbidden Colours」)が大好きで、見事に同じ方向を向いて『ROENTGEN』が作れたんですね。とても幸運でした。今日は一緒に共演できて光栄です。聴いてください」──HYDE

坂本龍一の「戦場のメリー・クリスマス」にデビット・シルビアン(元JAPAN)がメロディと歌詞を乗せた同曲では、原曲よりもピアノ&ストリングスをフィーチャーしてテンポを落としたアレンジが、HYDEの持つ艶やかさと翳りを引き立てる。コーラスはLYNNE。彼女自身も楽曲に没頭していることが、その歌声から十分に伝わってくる。さらに、「去年、globeの20周年記念アルバムに参加した時の曲です。雪への憧れがとても表れている、僕好みのナンバーです。素敵なアレンジに仕上がったのでぜひ聴いてください」とのMCから、「DEPARTURES」へ。静かな中にも力強さを感じさせるスローナンバーが、ステージ上から発せられる青白く透明な光に儚く輝いた。ピアノの独演が導いたのはVAMPSの「VAMPIRE'S LOVE」だ。青の薔薇一輪を片手に歌い上げるHYDE。その壮大さと完成度の高さに、演奏が終わると大きな拍手が湧き上がった。この後のMCでは、HYDE自身からVAMPSについて語られる場面も。

「VAMPSの休止発表で驚かせてしまったところもあると思うんですけど。解散ではなく休止なのでね。そこを選んだところに未来を感じてもらって、そんなに寂しいと思わないでください。僕自身も、復活を楽しみにしているひとりです。もっとうまくいかないバンドがありましてね(笑)。そっちのほうは全く予定が立ってないです。でもね、今日はひとり連れて来ましたから(笑)。Kenさんを招いて、ラルクを少し。みんなに楽しんでもらおうと思います。Kenさん、どうぞ!」──HYDE


黒いジャケット姿のKenの登場に拍手喝采。「クリスマスはお好きですか?」というHYDEの問いかけに、「嫌いです。なんかしないとダメっていう空気が。HYDEがクリスマスとか雪とかが大好きで、ラルクに入ったときも移動の車のなかでその素敵さを説かれるんですよ(笑)。ただ僕は、“サンタクロースが居るってムリない?”みたいな(笑)。でもね、サンタクロースが居るような世界になりたいなと思うように変わってきましたよ」というKenの発言に、「いつもと違いますね、今日は(笑)」とHYDE。2人のやりとりに場内が笑顔に包まれる。さすがはKen。場内のムードを一変させてしまった。

さらには、「もう涙腺が緩くなってね。今も、後ろで聴いてたら、もう泣きそうで。何に泣いているのかわからないですよ? ステージに出てきて握手しただけで泣きそうで、“もうなにすんねん、ちょっとやめて”って。……あ、あんまりしゃべったらアカンやんな」とKen。「準備してください」とHYDEにうながされて着席したKenの姿を微笑ましく見守る場内の空気はほっこり。

「次の曲は「Hurry Xmas」です。手拍子とか、歌える人は歌ってください。ただ、手拍子はリズムの表で取ると演歌っぽくなっちゃうので、裏で」とのHYDEによるノリ方指南から、「Hurry Xmas」へ。煌びやかなオーケストラアレンジに乗せて披露された同曲では、それまでスツールに腰を掛けながら歌唱していたHYDEが立ち上がってのパフォーマンス。フェンダー製のペイズリー柄ストラトキャスターから奏でられるKenのジャジーなギターソロが、それまでの厳かなムードをパーティー会場へと変貌させ、HYDEの柔らかなシャウトも響き渡る。

「みなさん、だいぶ緊張が取れてきたみたいですね。……暑くない?」と手袋を外すシーンにはHYDE自身の高揚感も見て取れるようだ。タイトルコールに続いて「winter fall」。ピアノの澄んだ音色と透明感に満ちたコーラスが楽曲をドラマチックに引き立て、Kenのクランチーなギタートーンもエモーショナル。「MY HEART DREAWS A DREAM」の導入部では、ストリングスのロングトーンをバックにしたKenのギターソロを大フィーチャーし、より雄大に。さらに続けられた「叙情詩」はこの日のハイライトシーンのひとつだった。壮麗なオーケストレーションからのHYDEによる独唱は、美しく情熱的。そして全19名が生み出すハーモニーは見事のひとこと。ちなみに、ベースの砂山淳一はウッドベースとエレキベースを使い分けて楽曲達を彩り、ドラムの城戸紘志はオーケストラとロックドラムを絶妙にマッチングさせ、YUKIのアコースティックギターは軽やかさも重厚さも縦横無尽。それらが骨子となってL’Arc-en-Cielの楽曲を演出するビート感も抜群だ。


「悲しい感じの曲を聴いてください」というHYDEの曲紹介によって披露されたのは「a silent letter」。L'Arc-en-Cielのアルバム『REAL』(2000年発表)に収録された同曲がライヴで披露されるのは、実に久しぶりのこと。嘆きや痛みを感じさせるナンバーは、宙に舞い上がるようなKenの効果音的なフレーズが切なく響きわたり、静寂を貫きながらも強く深い。「forbidden lover」は、冥暗と願いをさらに強調するように、弦楽器と管楽器がダイナミックな景色を描く盛り上がり。額縁に飾られた巨大LEDがKenの姿をとらえると、あまりにも情熱的なKenのギターソロとHYDEの全身全霊の歌声を映し出した。果てしなく壮絶なサウンドに超満員の観客が息を飲んだ瞬間だ。

「忘れかけたところで、冬の曲に戻ります(笑)。次はKenさんの曲と僕の歌詞が、上手く化学反応していい曲になったと思います。そういうところが面白いですか、バンドっていうのは?」というHYDEの問いかけに、Kenが大きく頷いて手で丸印を。これには場内から拍手が起こった。そして再び、ここからHYDEとKenの掛け合いトークが。

「冬ってあたたかいなと思ってて。ふふふ。変な笑い方しないでくれる?(笑)」というHYDEに、Kenが「昔からそういうところがあって。これが気楽に曲が書ける素なんですよ。どんな曲を書いてもHYDEの目にはプリズムが入っているから」と切り返す。「歪んでいるっていうこと?(笑)」とHYDE。「いや、いい意味でね」という2人のやり取りには、笑いを交えながらも、楽曲づくりに対するお互いの信頼感が滲み出ていたようだ。しかし、爆笑トークはまだまだ続く。「もちろん外が寒いのは、子供でもわかるんですよ(笑)」と続けるHYDEに、「僕の知らないHYDEさん像があるんですね、みなさんにね、たぶん。今日はそれを受け入れる会です。寒いの暑いの、暑いの寒いの……」(Ken)といった具合に。「黙って聞きます」と告げたKenの言葉に続けて、「冬ってあたたかい」の真意をHYDEが語る。

「寒いと暖を取ろうとするじゃない? 人が集まったりとか、温かい食べ物をとったりする、そういうところがあたたかいなと思って。外が寒ければ寒いほど、そうやって暖まろうとする。そういう気持ちがあたたかいなと思います。次の曲も雪景色とあたたかさ。寒いから手をつなぐとか。そういう雰囲気がよく出ている曲です」──HYDE

そして演奏されたナンバーは「雪の足跡」だった。切ないメロディと希望のメッセージ、美しいウィスパーボイスも、透き通るようなロングトーンも秀逸。同曲もライヴで久しぶりに演奏されたナンバーだが、やはり今も色褪せない名曲だ。「次の曲で、全員での演奏は最後となってしまいました。クリスマスの素敵な夜だからこそ、平和と、大切な笑顔、その永遠を祈って歌いたいと思います」と披露された「星空」では、ステージ左右を覆っていた黒幕に、満天の星が浮かび上がった。ゆったりとしたテンポ、躍動的なリズム、高揚感あふれるメロディ。背後のLEDに映し出される星空もとても目映い。Kenの上昇していくドラマチックなギターソロが最高点に達し、HYDEのヴォーカルが天高く舞い上がる。HYDEが演奏を締めくくる合図を送ると、拍手と歓声が湧き上がった。


「オーケストラとKenさんに大きな拍手を。最後はバンマスのヒコニャン(堀向彦輝)と2人で1曲やりたいと思います。今日は、やってよかったなって思います。どういうことしようか悩んだんですけど、楽しんでくれたかな? みんなにも喜んでもらえたし、僕自身もね。楽しんで歌を歌うということを今まであまり……歌、しんどいなと思っていたんでね(笑)。今日は、楽しんで意思を伝えることって、すごく気持ちいい、いいことだなと思って。本当に今日、よかったと思います。来年はまだ白紙状態なんですけど、歩みを止めるつもりはないので。楽しみにしていてください。ありがとう。もっとやりたかったな。最後の曲はみんながいい夢を見られるように、子守歌を歌います」──HYDE

ピアノとHYDEの2人だけで披露された「未来世界」は、「きよしこの夜」の一節を冒頭に挿入して、ゆるやかに、想いを込めるように。そして、すべての演奏終了後、自然発生的に湧き上がったスタンディングオベーション。それに応えて何度も手を振るHYDEの笑顔も、充実感で輝いているようだ。

「メリークリスマス!」──HYDE

と投げキッスをしたHYDEがステージを去った後も拍手が鳴り止まない。約2時間20分の夢のような時間だった。HYDEの歌を中心に据えた<HYDE Christmas Concert 2017 - 黑ミサ TOKYO ->は、過去と現在と未来をつないで終了した。

取材・文◎梶原靖夫(BARKS)
撮影◎今元秀明/岡田貴之

■<HYDE Christmas Concert 2017 - 黑ミサ TOKYO ->12月23日(土)、24日(日)@千葉・幕張メッセ国際展示場4・5・6ホールSETLIST

1.WHITE SONG
2.SECRET LETTERS
3.ANGEL'S TALE
4.THE CAPE OF STORMS
5.EVERGREEN
6.SHALLOW SLEEP
7.Forbidden Colours
8.DEPARTURES
9.VAMPIRE'S LOVE
10.Hurry Xmas
11.winter fall
12.MY HEART DREAWS A DREAM
13.叙情詩
14.a silent letter
15.forbidden lover
16.雪の足跡
17.星空
18.未来世界

▼出演アーティスト
HYDE
Guest Guitarist:Ken (L’Arc~en~Ciel)
Piano:堀向彦輝
Guitar:YUKI (DUSTAR-3, Rayflower)
Bass:砂山淳一
Drums:城戸紘志
Percussion::野崎めぐみ
Flute:赤木香菜子
Clarinet:大橋裕子
1st Violin:納富彩歌、川口静華
2nd Violin:東山加奈子、亀田夏絵
Viola:山田那央、金孝珍
Cello:友納真緒、原口梓(23日)、今井香織(24日)
Chorus:LYNNE HOBDAY、竹本健一

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