「出演者ラインナップの理想と現実」フジロックのブッキング論

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今年の<FUJI ROCK FESTIVAL '17>は、7月28日(土)〜30(日)に開催となる。2017年もゴリラズ/エイフェックス・ツイン/ビヨークという、感動のフェス空間を解き放つであろうヘッドライナーが軒を並べているが、フジロックの魅力のひとつには、メインのグリーンステージから小さなステージまで、様々な雰囲気と色を持つ大小の会場で折々の音楽体験が堪能できる懐の深さがある。

音楽趣味は十人十色ゆえ、参加者全員が満足するラインアップというのはありえないものだが、多くのフジロック参加者が笑顔で会場を後にする例年の光景を思えば、結果として、10万人を超えるコアな音楽ファンが納得の充実感と感動を覚える魅力的なラインナップが、毎年きっちりと実現されていることに気付く。さらに言うと、早々にチケットが発売されラインナップが発表される前に売れていく様を見れば、フジロックへの信頼は厚い。

正解のない茫洋とした出演ラインアップの“理想形”は、どのように形成されどうやって実現されていくのか? 果てしないパズルのような難しさを抱え、フジロックはどうやってラインナップを決めているのだろう。フジロックを主催するSMASHから、フェスの運営担当である石飛智紹氏と、ブッキング担当のジェームス・スミス氏を迎えて話を訊いた。

   ◆   ◆   ◆

■現代では、アーティストを紹介してブレイクさせる力を一番持っているのがフェス

──今やフジロックは、世界中のアーティストが出たい世界有数のフェスですから、出演者ブッキングは比較的容易なのでしょうか。

ジェームス・スミス:いや、ブッキングにかかる時間は長いですよ。こちらに想いがあっても出演が実現できないアーティストもいますし、先方のスケジュールと合わなければ無理ですからね。終わったらすぐ翌年のブッキングが始まるので、プロセスとしては1年以上かかっています。

──どんなラインナップでも楽しめるのがフジロックだと思っているんですが、やはりヘッドライナーの顔ぶれでチケットの売れ行きは変わるんですか?

石飛智紹:ヘッドライナーに依らないお客さんはたくさんいますが、チケットが売り切れるかどうかはラインナップの要素が大きいです。

ジェームス:世界のフェスの中で、まったくラインナップが発表されていないうちにチケットが売り切れるのは<グラストンベリー・フェスティバル>だけだと思いますね。

──それはどうしてですか?

ジェームス:いやぁ、あれは特別ですからね。ステージも全部で100くらいあって規模もどのフェスより大きいですし、他とは比べられない総合芸術とも言えるイベントになったと思います。

──僕にとってフジロックはまさにそういう存在なんですが、フジロックのブッキングはどういうプロセスを踏むんですか?

ジェームス:私は、日本のレコード会社からの情報だけではなく世界中の動きを気にします。「あ、このアーティストは新しいアルバム出すな」とか。たとえば、エイフェックス・ツインは僕も大好きなんですけど、去年の冬に数年ぶりにアメリカのフェス(<デイ・フォー・ナイト・フェスティバル>@ヒューストン)に出ていましたよね。それを見て「もしかしたら可能性あるかな」と思ってエージェントに連絡したんです。久しぶりに出したアルバム(『Syro』/2014年9月発売)も凄く評判がよかったし、そうやって何が起こってるのかを早い段階で頭に入れて、みんなで情報をシェアするんです。

──アンテナの感度を目一杯高めているんですね。

ジェームス:そうです、大切なのはアンテナです。

▲APHEX TWIN

──人気が出る前に動き出さないと、ブレイクしてからのオファーではもう遅い。

ジェームス:はい。だから頻繁に海外に行ってます。直接各エージェントに会って、来年何がどう動くのかを聞きます。その時点ではあくまでカジュアルな話なので「じゃぁ決まり!」とはならないんですけど、早い段階から話を始めることが大事。それを踏まえて社内で意見のやりとりをして、あとは日本のマーケットも考慮した上で検討を重ねます。

石飛:タイミングやお金の問題(ギャランティや必要経費)もあるからね(笑)。

──理想と現実のギャップは大きいですか?

ジェームス:それはその年の運によります(笑)。

石飛:結果的には、毎年ブッキングは上手くいったなと思っているんですけど、お客さんがどう反応するかはまた別……ですよね。

ジェームス:我々はこれがベストと思っていろいろ企画するわけですが、お客さんがどう反応するかは発表するまでわからないので、そこは緊張してしまいます(笑)。

▲BJÖRK

──オーディエンスから、意見やアンケートをもらうという発想は?

ジェームス:フジロックは、「自分達がいいと思ったアーティストを、僕らが情熱を持って出す」というスタンスだと思うんです。フジロックのお客さんの好みのテイスト/マーケットを踏まえた上で、素晴らしいと思ったアーティストを、ですね。

──確かにフジロックから立ち上がってきたムーブメントもたくさんあるし、意図しないアーティストとの偶発的な出会いこそフジロックの魅力でもあるので、来場者側の要望がすべて汲み上げられることが正解かどうかは分からないですね。

ジェームス:それはフジロックだけではないですよ。現代では、アーティストを紹介してブレイクさせる力を一番持っているのがフェスですから。

──ジェームスさんが、この仕事に就いたきっかけは?

ジェームス:ティーン・エイジャーの頃から音楽の大ファンで、音楽のことしか考えられないくらいマニアックでした(笑)。ロンドンで生まれ育ったんですが、イギリスには「Working Experience」というプログラムがあって、こういう仕事をしたいと思う会社で1〜2週間インターンとして働けるんです。それで16歳の夏休みに2週間ほどレコード会社に行き、大学に進んでからは自分でイベントを主催したりして「これは確かに楽しいなぁ」っていう経験をしました。僕の場合は、とにかく音楽に対する大きな情熱と興味がずっとあったんです。ティーン・エイジャーの頃からライブという直接の経験が好きだったから、ジャーナリストになったりレコード会社に入るより、ライブ音楽の世界に入りたかった。

──ジェームスさんから見たフジロックの魅力とは?

ジェームス:やっぱり特別ですよ。山の中という環境が素晴らしい。海外のバンドにもいつも褒められるので、世界の中でも比べられないものだと思っています。あんな大自然の中、素晴らしいオーディエンスを前に出演できるのはすごいと言ってくれるんです。「わぁ、すごいですねー!」って。

──オーディエンスも素晴らしい、と。

ジェームス:凄くいい、と言われます。ジェイムス・ブレイクは「静かな部分でオーディエンスも静かになってくれるのが特別だ」と言っていました。アメリカではとにかくうるさくて「自分の声が聞こえないよ」ってステージから言っていましたけど(笑)、フジロックの会場にかぎらず日本のオーディエンスには特別な魅力があるなって痛感します。

──ブッキングは複数のスタッフで行うチーム作業ということですが、個人の好みがバラバラで意見が一致しないことはないんですか?

ジェームス:いや、結構ありますよ(笑)。

石飛:そこのぶつかり合いばっかりです(笑)。結果的には、そこも踏まえてステージがいくつかある、多様な音楽性があるということなんです。各ステージごとに真逆の世界観を出すというコントラストも一緒に作っているわけで、たとえチーム内で趣味が合わなくても、上手く配分されればOKという。

▲GREEN STAGE

▲WHITE STAGE

▲FIELD OF HEAVEN

──グリーンステージっぽいとかホワイトステージっぽいという、カラーがそれぞれにあるんですね?

ジェームス:はい。僕らの中には人それぞれあります。

──お客さんの中にも、きっとありますよね。

石飛:過去の出演者の印象によるところもあるでしょうね。でも3日間あれば金土日でそれぞれカラーは違ったりもしますし、出演者数が多いので、多面体のように全体で表現できるように考えています。

──全体のバランスはどのように決めているんですか? 洋楽と邦楽、ハードなものソフトなもの、ハッピーかダークか…とか。

ジェームス:正直な意見をやりとりしながら、ですね。いろんな意見があるから「このステージはこういう進化を遂げなければならない」と意見する人もいれば、「マーケティング的にはこうだ」「今の客層はこうだ」という意見も出る。「それは違うぞ!」とか言って、自分の立場を守りながらぶっちゃけトークをします(笑)。それぞれに好みと得意な分野があるから、それを全部合わせて。

──そしてチームワークで整えていく。

石飛:そうですね。こちらがいくら言ってもアーティスト側が「ノー」と言えば架空の話で終わっちゃうわけですから(笑)、チームワークによって、外との交渉結果が出る。

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